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機甲大戦記VOLT  作者: 無銘
赤銀の死神編
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第五話『赤銀の死神 その①』




 アントニー中尉は、空に広がる巨大な黒雲を複雑な気持ちで見上げていた。彼はまだ若かったが、自分の選択や行いは常に正しいと自負していた。親の反対を押し切って同盟軍の一般公募に志願した時も、訓練兵時代に上官の勧めで士官課程に進んだ時も、それを修めてこれから順当に将校課程のステップを駆け上がろうと決めた時も、自分の選択は正しいという自信があった。

 レジスタンスという連中の言い分が完全に理解できないわけではないのだ。この土地に大昔から存在した三国、イグラ、アイラ、スコラが合併して同盟国を名乗りだしたのはほんの十六年前の話だ。それが事実上イグラによる他二カ国の併合だったのは間違いないが、第一次三国大戦、第二次三国大戦、機神戦争とも呼ばれる第三次三国大戦という三度の世界大戦を経てようやく辿り着いた戦争なき時代が現在なのだ。過去の時代を知る世代であればあるほど納得しかねる事もあるだろう。恨みつらみの数々もあるだろう。アントニー中尉はそれを否定しない。しかしその上でなお、相争い続けた三国が手を取り合う現在の平和の方が尊いと思うのだ。

 だからこそ中尉はレジスタンスのような輩が許せない。過去に縛られ、今と未来をまるで見ていない。過去の出来事に折り合いをつける事もなく、おかしな陰謀論ばかり真に受けて、平和な世界に戦争の火種を撒き続ける連中。そんなテロリストどもがいるから、軍隊はまだ廃業しないのだ・・・と彼は本気で信じていた。

 中尉の目から見ても、今度の作戦はやり過ぎだった。この工業都市のどこかの民間ドックがレジスタンスに協力している疑惑があるからと、同盟軍は街そのものを消し去る選択をした。ラブリュス級巡洋艦五隻に、ナイト三十機、センチネルは十五機も随行した。その時点でおかしいと気付くべきだったが、同盟軍の権威を見せつけてテロリストどもを牽制する意図でもあるのだろうと、勝手に脳内で補完していた。しかし事実は違った。今回の作戦は完全な焦土作戦だった。


誰も生かしておかない。

何も残してはならない。

『ソレ』の痕跡さえ継承させない。


こんな事が許されて良いのだろうか。中尉は疑問に思う。

しかし、同盟国という絶対的な正義を許さないのは―――中尉は、これ以上考えてはいけないと首を振った。




―――――――


―――――

―――




 全方位から全身を覆う爆炎と黒煙の分厚い雲を抜けると、そこではじめて自分が落下している事を理解する。


定義する: ―――重力が引く方が下、ならばその反対が上。

推測する: ―――頭が下なら、これは逆さま。

結論する: ―――今自分は、真っ逆さまに墜ちている。


「これは、まずいな・・・」


全備重量六十五トンの鉄塊が、時速五百キロメートル以上の速度で落下する。人型で、頭から真っ逆さまに。これは良くないと直感すると、ジョーはせめて姿勢の上下だけでも反転しようと試みる。

 VOLTの操縦システムは拍子抜けするほどシンプルだ。それはアインハルト博士が、脳波コントロールパイロットシステム(BCP=Biological Control Pilot system)と名付けた次世代の人型兵器操縦システム。VOLTの機械の身体とパイロットの脳を『ビジュアルコネクトヘルメット』を通じて接続することで、パイロットは自分自身の身体を操るのと同じ要領でVOLTを操縦する事が出来る。ヘルメットを被る事でパイロットの脳と機体を接続し、パイロットが『グリップタイプコントローラー』を握った時に意思を操縦として出力する。VOLTの操縦は事実上これだけで完結するが、補助的にコントローラーには武装制御のスイッチや射撃用のトリガー、出力管理のための『コントロールペダル』、そしてその他の詳細設定を担う『コントロールパネル』が存在する。パイロットの脳への負荷さえ考慮しなければ実にシンプルで実用的なシステムなのだ。

 加速度的に地面が近づく。激突するより先に身体を屈んで丸くなり、足を振り子のように使って体勢を入れ替える。しかしそれだけではない。全身に配置された衝撃波発生装置『ショックポイント』がタイミング良く起動し、空中で瞬間的に体勢を変える。


「うっ、これは・・・!」


これだけでも、凄まじい負荷が身体にかかる。ジャゴのような機体を限界以上のスペックで使い潰すジョーでさえ、この怪物のスペックは持て余していた。姿勢変化でさえこの重圧だ。着地した時の衝撃を考えただけで、ジョーでさえ生唾を飲み下さずにはいられなかった。


「ッ―――!!!!」


分かっていたつもりだった。凄まじい衝撃と、それ以上の重圧は避けられないと。それは着地と同時に襲いかかる狂気で、さながら巨大な悪魔の手の中で握りつぶされるような重圧だった。途切れそうな意識をなんとか繋ぎ止め、力の限り歯を食いしばって耐える。


 地上戦艦の艦橋からは、巨大な黒い髑髏が赤い巨人を産み落とす様子が良く見えた。巨人は吸い込まれるように大地に消え、轟音とともに何もかも薙ぎ払う衝撃が僅かに残存した建物や、その足元の瓦礫を吹き飛ばした。砂塵に阻まれ、目視は不可能。計測器の類は著しく乱れ、モニター映像も度重なるノイズに切り刻まれる。


「なんだ、ありゃ・・・」


同盟軍のGSたちはシールドを構えてなんとか踏ん張り、地上戦艦は艦橋保護のシャッターを下ろして衝撃に耐える。その場に集った戦艦の乗組員も、随行するGSのパイロットたちも、置かれた状況を理解しきれないままひたすらに衝撃にだけ耐えていた。

 アントニー中尉のような考えを抱いて作戦に参加した同盟軍兵士は決して少なくない。この作戦は本当にただの牽制なのか。牽制で無ければやはり街一つを巻き込んだ掃討作戦なのか。そこまでして歴史の勝者が恐れるものは、一体何なのか。この戦いに正義はあったのだろうか。


・・・衝撃が、そんな疑問を希釈していく。目の前の現実にはそれだけの説得力があった。


しかしアントニー中尉は食い下がる。揺れる艦橋で計測装置のインターフェースを掴んでバランスを取りながら、今一度立ち上がって振り返る。


「艦長!『VOLT』とは一体何なんですか!あの爆発が『VOLT』なんですか!説明してください!」


 黙って見ているだけの、他の乗組員たちも同じ気持ちだった。人はどこまで『正体不明』についていけるだろう。状況を注視しながら目を逸らす。そんな士官たちと、啖呵を切る若い中尉を鋭い視線で艦長が流し見る。

 やがて自分の席から立ち上がった艦長は、揺れる艦内でも驚くほど安定した足取りで中尉に近づいていく。


「艦長・・・!」


中尉がそれ以上何かを言う前に、静かな仏頂面の艦長が鬼の形相に変貌しながら中尉の顔面を殴った。拳打は中尉の前歯を叩き折り、揺れと衝撃でコントロールを失った顎が勢い良く閉じて犬歯で舌を貫いた。

 殴られた衝撃か、艦内の揺れか、あるいはその両方か。中尉は後頭部から計器に強打して身体の力が抜ける。パチパチとノイズが走る視界に、ぼやけながらも飛び込んでくる艦長をぼうっとした頭で眺める。他人事のように。

 艦長は中尉の胸ぐらを掴み、自分の顔の高さまで引きずり上げながら怒鳴りつける。


「半年以上前だ!同盟軍の大隊が未開拓領域に資源採集へ行って、帰って来なかった!その後向かった救護班も!調査班も!誰も!事件から実に四ヶ月、ようやく回収出来たボロボロの友軍機から復元できた情報がV-O-L-Tの四文字!そして今度はここの民間ドックがVOLTに関わってると来た。どうだ、これで満足かッ!」


 未開拓領域とは、この東西八千キロメートル・南北五千キロメートルにも及ぶアルビオンと呼ばれる大陸の北東部を占める高山地帯と、そこにある無数の高原や大地を広くアバウトに指し示した言葉である。厳密には未開拓ではなく、定住や開発に向かないので捨て置かれた土地であり、地政学的には充分解明済み。文明から隔絶された少数民族の存在も確認されている。

 この地形はアルビオン大陸における戦いが延々と終わらない一因でもある。人々は悠久の時から限られた住みやすい土地を奪い合って戦い、戦いの怨恨を精算するために戦う。文明は戦いに勝つために進化をやめず、進化すればするほどに戦いは激化していく。

 言うだけ言って、艦長はアントニー中尉を放り出す。


「ライトウッド少尉、中尉を懲罰房に連れて行け。命令無視は三日間の拘束と決まっている。その他客員は引き続き戦闘態勢維持。VOLTがなんであれ、我々兵士にはそれを打倒する義務がある。艦長として、諸君らの奮戦を期待する。」


 視界は晴れ、徐々に粉塵が降りて街の全体像が浮かび上がる。すり鉢状にえぐれた大地と、ビルだったものの土台の残骸がまばらに確認できる。そしてその中心部には、赤銀の戦士がたった一人、無傷の外装を輝かせながら立っていた。

 ライトウッド少尉が意識朦朧のアントニー中尉の腕を取って肩に担ぐと、中尉がうわ言のように「ずびまぜんでした・・・ずびまぜんでした・・・」と謝り続けるのを聞いた。冷静沈着な艦長の取り乱しようも信じられなかったが、少尉には尊敬していた先輩のこの姿も信じられなかった。懲罰房に一歩近付く度に、少尉が積み上げてきた現実が一欠片ずつ崩れていく、そんな焦燥感が胸を支配した。


 砂塵の霧が晴れると、ジョーは置かれた状況を確認する。無数の銃口が自分に向いている。VOLTの目はとても良いので、ジョーは各戦艦の主砲から、ナイトやセンチネルの射撃兵装から、何から何まで大小様々な銃口を一つ一つ舐めるように観察する事が出来た。


・・・それはなんて、見慣れた光景か。


慣れないコクピットで、ようやく慣れたシチュエーションに一息つく。これならいくらでも見てきた光景だ。最初は戸惑ったVOLTの視界だが、慣れてしまえば悪くない。撃ってくるなら迎え撃つまで。


「ジジイの置き土産か、お手並み拝見と行こうかな。」


ポキポキと指を鳴らすと、胸中の高揚感を隠しきれないままグリップタイプコントローラーを握る。それでVOLTはジョーの意図を反映し、仁王立ちの姿勢を解いた。腕がだらりと脱力して垂れ下がり、姿勢は少々猫背気味。膝関節は伸び切らずに余白を残し、人面を模した鉄面皮の表情が先程よりも明らかに鋭く、冷たい殺意の視線を真正面に投げかける。

 その動きが決定打だった。VOLTを取り囲む戦艦が一斉に主砲を解放し、弾幕のドームがVOLTに襲いかかる。だが、そんなものは障害にさえならない。己の身体のように巨体を動かせるなら、なおさら。素早い身のこなしで弾幕に突進し、無数の凶弾を最小限の動きで受け流す。それを可能にしているのはVOLT特有の圧倒的な出力と運動性能、そして強制的に慣性を殺すショックポイントの反作用だ。ゆえにVOLTは、ただ動くだけでパイロットを容赦無く食らう。


「ぐう・・・うう・・・!」


その身を潰しかねない重圧と、引き裂く程のエネルギー。それを歯ぎしりと根性でねじ伏せながら、ジョーは分厚い弾幕を無傷で抜ける。

 ここまで動かしていれば分かる事だが、恐らく命中してもVOLTは平然と戦い続けられるのだろう。しかし、それでは乗りこなしたとは到底言えない。いち早くこのじゃじゃ馬に慣れ、乗りこなす。その為には率先してより険しい道を選ぶ。それが唯一の生存と勝利の道だと、ジョーは良く知っている。


「敵GS、防衛ライン突破!第二波、間に合いません!」


焦った兵士の声が艦橋に響き、時を同じくして護衛のナイトやセンチネルたちが一斉に飛び立った。

 ジョーの少々強引な慣らし運転の甲斐あってか、大出力で弾幕を突破したVOLTは既に戦艦の目と鼻の先まで来ていたのだ。それ自体が巨大なサイズで、大出力の武装を扱える地上戦艦は強力な兵器だが、それ故に艦上から狙える射角には限度がある。それは大型艦であればあるほど顕著で、この全長二百メートルのラブリュス級巡洋艦も例外ではない。だからこそ、近接戦闘は護衛の騎士たちが受け持つ体勢を取っている。

 三機のセンチネルと四機のナイトで全七機。センチネルは全バリエーション揃ってひとチームを組み、ナイトはウォーリアーとアーチャーがそれぞれ二機ずつでバディをふた組み編成していた。これほどのVOLTの性能を見せられては、もはや誰も過剰戦力だとは思わなかった。戦艦五隻の艦載砲一斉掃射を避けきる以上、弾幕は完全に無意味。そうと即座に判断したナイト・ウォーリアー二機はシールドとメイスを構え、身を守りながら突撃する。近接戦闘で動きを止めてから、ナイト・アーチャーかセンチネル・スナイパーに狙い撃ちさせるためだ。

 駆け抜けるウォーリアーたちを追い抜くようにストライククロスを構えたセンチネル・ソルジャーも加わり、同盟軍GSの第一陣とVOLTが遂に激突する。


「・・・まずは、あいつから。」


ジョーはセンチネル・ソルジャーに狙いを定めると、互いの間合いが重なるより先に跳躍した。そしてソルジャーのシールドに向かって急降下しながら飛び蹴りを放つ。

 それは敵からの射撃を警戒しつつソルジャーの体勢を崩す為の一手だったが、VOLTの蹴りがセンチネルシールドに激突すると足裏のショックポイントが起動してシールドを破壊。そのまま貫通した蹴りが正確にソルジャーの胸部を捉えて蹴飛ばした。背後へ飛ばされたセンチネルは何度かバウンドし、その度に地面との接触で腕や足がもげながら内部構造も粉砕される。そして爆散しながら騎士だったものが大地に散らばった。


「すごいな。」


思わず感嘆の声が漏れるジョー。想定以上の威力に驚きを隠せない。しかし同盟軍の兵士は待ってはくれない。

 爆炎を切り裂いてアーチャーの矢が放たれる。動きが止まった瞬間に撃つ、ただそれだけに集中していた弓兵達が引き金を引いていた。ドリル状の特殊な矢が回転しながら直進し、螺旋状に空気を押しのけていく。それに煽られた黒煙もとぐろを巻きながら散っていく。

 VOLTはひらりと身を躱して矢を一つ避けると、もう一つの矢は素手で捕まえた。握りこぶしの中で回転して暴れる矢がやがて観念したように動きを止める。するとVOLTは拳で握り込んだ矢を手の中で回転させながら親指と人差し指で持ち直し、ダーツのように構えて近くのウォーリアーに投げ放つ。

 状況を受け止めきれないウォーリアーのパイロットはこれに全く反応できなかった。腰と肩の回転を効果的に活かし、腕の振りと手首のスナップを加えた投擲はさながら野球選手の投球フォームを思わせる。大胆な身体の動きに反して、指先の挙動は異常なほど繊細だった。僅かな狂いもなく想定通りのコースを進んだ矢はウォーリアーの眉間を貫き、カメラユニットを完全に破壊して沈黙させる。


「・・・こんな事も出来るのか。」


ジョーは他人事のように言いながら、動かないウォーリアーからシールドを取り上げる。そして取り上げたシールドでウォーリアーを張り倒すと、少し距離が離れたもう一機のウォーリアーに盾を投げつける。

 シールドが激突したウォーリアーは大きく体勢を崩すが、VOLTが近づこうとするとアーチャーたちが矢で阻む。もとい、アーチャーたちはウォーリアーを囮にして今度こそ命中させるつもりだったが、死角から射たはずの矢を立て続けにVOLTに避けられてしまったのだ。そして、この一瞬の隙を利用してセンチネル・ヒーローが一気に間合いを詰める。

 ヒーローは背部ブースターを全力で吹かしながら最高速で接近すると、身の丈程もある巨大なシールドソードを振りかぶる。


「くっ、何か武器は・・・」


ヒーローを見て悪態をつくジョー。その意思に呼応して、ジョーの脳内に背部のディスク式マウントラックのイメージと、そこに収納された刀、サムライソードのイメージが流れ込む。


「後ろか。」


VOLTが背後に手を回すと、その手のひらに受け渡すようにディスクが回転して刀の柄を握らせる。手のひらに硬い実感を得たジョーはそのまま引き抜く動作をし、刀を袈裟懸けに振るった。

 勢いよく大剣を振り下ろすヒーローと、刀を振り抜くVOLT。二機が金属音を鳴らしてすれ違う。それは日本刀に似た形状の近接武器。高速振動する刃が容易にGSを両断できる脅威の切断力を有する。盾を構えれば盾ごと両断し、鍔迫り合いさえ成立させない。VOLTシリーズに備わった驚異的な運動性能と合わせることで近接戦闘においてほぼ無敵の攻撃性能を誇る。

 大剣はその中腹から一直線の断面が輝いて分離し、誘われるようにヒーローの右腕も上腕辺りから分離した。そして露わになったヒーローの胴には、一筋の分割線が増えていた。線はヒーローの胸部を斜めに駆け抜け、脇腹を通じて同じ線が背部にも浮かんでいた。それはサムライソードがプレートアーマーを袈裟懸けに切り裂いて侵入し、コクピットを切り裂き、中のパイロットをも切り捨てながら内部フレームを両断し、最奥のマイクロ原子炉S型さえも真っ二つにし、最後は背部のアーマーを内側から切り裂いて抜けた証拠である。

 ヒーローは糸の切れた人形のように慣性に従って反転すると、そのまま大の字に倒れ伏した。その衝撃によって寸断された内部組織がドミノ倒しのように次々とズレては壊れ、原子炉が暴走して大爆発を起こす。VOLTは背後からの激しい爆炎に飲まれるが、なお無傷。燃え盛る火炎を逆光に、漆黒の巨人が浮かび上がる。


「すごい・・・けど、変な剣だ。刃が片方にしかない。じゃあ、こんな感じか。」


炎を照り返して激しく輝く刀を物珍しそうに眺めると、右手は鍔に設置するように握り、左手は柄頭の方に添えて手をクロスする。刃は上を向き、刀の側面がVOLTの頬を鏡のように映した。身体は半身に引き絞り、足は肩幅よりもやや開いて安定感と瞬発力を両立する。

 それはどこかの国、どこかの世界で『霞の構え』と呼ばれる立ち方だった。背に炎を纏い、刃先を敵兵の喉元に向けた赤銀の巨人が、次の標的に狙いを定める。


「だんだんこいつのクセにも慣れてきたな。さあ、行くぞ・・・」


 そう言って操縦桿を握り直すと、脚部に点在する複数のショックポイントと背部の大型のショックポイント、ショックブースターを全く同時に起動する。その瞬間に発生する推進力は今までの比ではなく、瞬間移動とさえ見紛う速度に到達していた。殴りつけるような衝撃がコクピットを駆け抜けるが、ジョーの身体は既にその威力に慣れつつあった。

 アーチャーとすれ違い、刀は電撃のように振り抜かれる。遅れて駆け抜けた衝撃波が胴の位置で両断されたアーチャーの上半身と下半身、そして携行していた数々の武装を四方に撒き散らす。その動きは上空を旋回するセンチネル・スナイパーにも追う事が出来ず、狙いを定めようとするうちに地上の残存したウォーリアーやアーチャーを一機、また一機と撃破される。


「あれでラストッ!」


スナイパーが攻めあぐねている内に立て続けに三機のナイトたちを片付けると、スナイパーの方へサムライソードを雑に投げる。すると刀は回転しながら放物線を描き、スナイパーをも切り裂いてしまった。

 スナイパーは上空で爆発を起こし、その爆炎から姿を表した巨大な刀が地上戦艦の甲板に深々と突き刺さってそそり立つ。


「バ、バカな・・・」


艦長は言葉を失っていた。『VOLT』と呼ばれる何かが同盟軍上層部も恐れる脅威だとは知っていたが、それがこれほどの怪物だとは思いもしなかった。戦艦五隻による飽和攻撃も、ナイトとセンチネルによる一糸乱れぬ陣形を組んだ戦術も、このたった一機のGS相手には通用しない。

 先程刀が刺さった時よりも一回り大きな衝撃がホバークラフトで浮くラブリュス級巡洋艦を揺らした。VOLTが甲板に飛び乗り、主砲を目の前にして悠然と刺さった刀を抜いている。


「はッ・・・!砲手は何をしている!これはチャンスだッ!今のうちに・・・」


腰を抜かし、戦意喪失しかけている部下たちを鼓舞しようと指示を出す。しかし、艦長が命令を言い終えるより先にVOLTはサムライソードを横薙ぎに一閃して第一砲塔を斬り飛ばす。それは刀で樹齢百年を超える木を切り倒すような横暴だ。ジョーは構わず、切り株同然になった第一砲塔の残骸に足を掛けると、今度は第二砲塔を斬り飛ばそうと刀を振りかぶる。

 

「ジョー・・・ザ・スクラッパー・・・か。」


艦長がうわ言のように小さな声で呟いた。

 それは戦場にはびこる数々の根も葉もない噂話、あるいは都市伝説の類い。曰く、それは制御不能な怪物、冷酷な殺戮マシーン、死体の丘で嗤うもの、立ち塞がるもの全てをスクラップに変えるもの・・・およそ信じるには値しない作り話として艦長は認識していた。『ラインヘッセの要塞陥落』も『デカール坑道の屈辱』も、一人の英雄が戦況をひっくり返すなどありえないと。それは軍人なら誰もが見るユメであり、ユメのまま終わる御伽噺だと。

 同じ『戦う者』として、艦長の胸中には色々なものが込み上げてくる。VOLTの力に対する恐怖、憧れ、嫉妬・・・そして、自分はここで終わるという冷たい現実。導くべき部下たちを道連れにするという、無責任。艦橋越しにVOLTの巨大な鉄面皮と向き合って、その全てを容赦無く突きつけられる。

 艦長は一人席を立つと、何も言わずにVOLTを睨みつけた。VOLTは第一砲塔の時と同じように斬り飛ばした第二砲塔の残骸を足場に艦橋に肉薄すると、大上段に刀を構えて振り下ろす。部下たちが我先に艦橋から逃げようとする中、艦長だけは拳銃で艦橋の窓を撃ち続けた。その窓の強化硝子さえ貫通出来ない銃弾が、一発、また一発と硝子にめり込んで止まる。艦橋の天井が潰れながら裂け、窓硝子が無数の破片に割れて爆ぜる。それは巨獣が脳天を砕かれて血飛沫を上げるように。

 頭脳を失った戦艦はホバーの制御が乱れ、VOLTの一刀で斬り伏せられると同時に大地へ沈む。落下して勢いよく地面と激突したホバー装置が戦艦の自重で潰れ、細かい爆発を繰り返しながら沈黙する。ジョーは残り四隻の戦艦を見据えながら、勢いよく刀を艦橋から抜き放った。



つづく


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― 新着の感想 ―
5話まで一気に読ませていただきました。まず戦闘の熱量がすごいです。旧式のジャゴで最新鋭機を食っていくジョーの戦い方が、ただ強いだけじゃなく執念と技量でねじ伏せている感じで痺れました。ニナとのやり取りが…
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