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機甲大戦記VOLT  作者: 無銘
決別のシルバーバレット編
37/42

第三十七話『決別のシルバーバレット その⑥』





 ポケットの中の通信デバイスが、激しく振動して低音を上げる。衣服の布に包まれていながら、機器が肌に密着しているかのような感覚。そんな刺激が、否応無く少女の疲労を吹き飛ばした。


画面、———見るまでもない。


「緊急救援要請・・・!」


ベッドの上に座り直し、通知の内容を確認する。

 真っ赤なフォントは、緊急連絡のそれ。特に宛先などは無く、要請内容だけが淡々と記されたメッセージ。ある程度発信者の近くにいる友軍に向けた、特殊な緊急要請である。ニナは画面に指先を触れ、詳細を確認した。





”第三〇七番遊撃隊より受信圏内の友軍に救援を要請。


本艦は現在、同盟軍の戦隊と交戦中。


敵機編成は駆逐艦三隻及びナイトタイプ多数。センチネルタイプ三機確認。

本艦は被弾により座礁。身動きが取れない状態である。


友軍の急行および奮戦を乞う。”





「場所は・・・東街道の外れ。今から行けば間に合う距離か。」


 添付された位置情報を元に、マップで場所を確認する。トレーラーで行けばすぐの距離。こちらにはジョーもVOLTもいる。要請に応じない理由は無い。少女はカードキーを取り、部屋の扉が開き切る事も待たず廊下に飛び出した。


そんなニナを、一喝が迎える———。


「遅いぞッ!」


 ジョーの声が、無人の廊下を駆け抜けた。それを聞いて振り向くと、ジョーとアントニーは既にエレベータホールでニナを待っている。鋼の箱に乗り込んだまま、ジョーは閉まろうとする扉を片足で押し留めていた。


「ごめん・・・!」


言いながらニナもエレベータに駆け込むと、重厚なドアが彼女の背後で閉鎖される。そして三人を乗せた乗り物は、地下の駐車場へと直行した。

 階を示す液晶の数字が繰り下がり、降下を示している。もどかしい、数十秒。ニナはジョーに向き直った。


「白兵戦の準備は?」


「小物は運転席の収納に入れたままだ。」


淡々と、ジョーは返答した。

 二人の間で言う小物とは、標準規格の九ミリ弾を用いる携行火器の事を言う。拳銃類と、その弾薬類。いつ必要が生じるか分からないものなので、手が届く範囲に常備しているのである。

 ジョーは更に、用意した武装を列挙した。


「あとは二八式小銃が二丁と、対物が一丁。」


「対物・・・タイタン五〇か。そっちのが役に立つかも。」


ジョーが挙げた武装を、ニナは即座に思い浮かべる。


 二八式小銃は局地防衛を想定して設計された自動小銃だ。高い精度の防水・防塵性能を有し、カスタマイズ性に優れている。攻撃力そのものは並の域を出ない代物だが、汎用性と耐久性を兼ね備えた堅実な逸品。

 ニナの体格では少々身に余るものの、如何なる戦況にも柔軟に対応出来る装備と言えるだろう。


しかし、少女の気を引いたのはむしろ後者だ。


———対物ライフル、タイタン五〇。


 ボルトアクション方式、二十・五ミリ弾を採用した、タイタン(巨人)の名に相応しい大口径ライフル。ブレない強固な構造と、激しい振動下でも照準を修正出来るアシストシステムを備えた、強力な狙撃銃としても知られている。

 GSと地上戦艦の混成部隊が相手なら、対人兵器の出番はあまり多くない。支援目的であっても、タイタン五〇の火力と命中精度こそが求められるのだ。


 降下するエレベータは、終点に近づいている。それを示す液晶の数字を見ながら、今度はジョーがニナに問いかけた。


「VOLTの準備は?」


ニナは不満そうに腕を組み、首を振った。


「準備も何も、あんなの整備不能だよ。弾倉だけ外して、後はそのまま。」


それを聞いて、ジョーは眉を顰めた。


「外してどうする、弾は消耗品だ。」


「使ってどうすんの!代わりはないんだよ?」


負けじと、ニナは声を上げた。

 彼女の言う通り、VOLT独自の射撃兵装『レールキャノン』に用いられる特殊弾は、使ってしまえばそれっきり。構造も材質も分からず、新たに作り出す事も出来ない。そればかりか、類似の物で代用する事もままならない。

 そして、それはVOLT本体についても同じである。あの赤銀の巨人は、解体も解析も出来ない完全なブラックボックス。無敵の兵器は、その実、整備さえままならない代物なのだ。


そんな二人の間に、アントニーが割り込んだ。


「ニナ、パイロットはジョーなんですよ?」


痛いところを突くと、———ニナは顔を顰めた。


 整備士の仕事の本懐は、パイロットの乗機を最高の状態に仕上げておく事だ。故障したり、劣化したパーツを入れ替えるなど当然の話。故障原因を先読みして、予め対処しておくのも整備のうちだ。ネジの一つ、配線の一束に至るまで、全てにおいて完璧に仕上げる。


しかし、それだけではない。


 乗機を完璧に仕上げる事とは、機器そのものの状態に留まる話ではない。専属パイロットのクセと性能を理解し、その要求に完璧に応える事。つまるところ、乗機をパイロットの手足として遜色ない状態にしておく事、それこそが整備士の役割のはずだ。


アントニーの理屈、———軍の基本原則。


それはニナも承知している。

 しかしそうではないと、少女は溜息をついた。


「・・・二人とも甘いよ。解体も解析も出来ないって事はさ、整備も修理も出来ないんだよ?本来なら、出撃させるのだってあり得ない。VOLTは良く分からない物なんだから、もっと慎重に使わなきゃ。」


結論は宙吊りのまま。

 エレベータは地下駐車場階に到着し、ベルを模した明るい高音で扉の開放を知らせる。


「極端な話、ある日突然動かなくなったっておかしくないんだから・・・」


語気を弱めながら付け加えたニナは、足元に視線を落としていた。

 そんな彼女の言葉を聞きながら、ジョーは一足先に歩き出す。エレベータの鉄枠を抜けて、薄暗い明かりと灰色のコンクリートの天井の方へ。駐車場を横切ってGS用トレーラーの方へと向かうジョーはふと頭上を仰ぎ、足を止めてまだエレベータの中にいる二人に振り向いた。


———ある日突然、動かなくなる。


それは———、


「まるで人間だな。」


それだけ言うと、ジョーは再び歩き出した。

 トレーラーに辿り着くまで、二度と止まらず。


そんな背中を追いかけるように、アントニーとニナの二人も小走りで車両に向かった。


 先行してトレーラーまで辿り着いていたジョーはボディ側面のハンドルに手を掛け、収納スペースを解放する。そしてガラクタの山を掻き分けると、中から二着の上着を取り出した。


「ほら。」


言いながら、追いついてきたニナとアントニーに投げて寄越す。


片や、ニナの防弾ベスト。

片や、アントニーのコート。


———同盟軍将校のコートである。


 防弾ベストと同じ、特殊合金繊維を編んで作られたコート。防弾ベストのようなインナープレートを備えていない分防御力は劣るものの、装備の上から羽織る外套としては充分に堅牢な鎧と言える。その代わり、肩部には階級章を兼ねた、丸みを帯びた跳弾形状のアーマーを装着。長い袖と裾は、防弾ベストより広い保護面積を保証している。

 どちらの装備も、一長一短。そして、これから挑む多勢に無勢の戦いへの備えとしては、決して充分とは言い難いものだ。


受け取った瞬間、慣れた動きでベストを羽織るニナ。彼女に迷いは一切ない。


 反対に、アントニーは複雑な気分だった。『中尉』を示す両肩の階級章と、背中に描かれた大きな同盟国の国章。そういうものが、青年に問いかけている。


———裏切るのか。


先送りにした問いが、遂に追いついて来た。


同盟軍の証を身に纏い———、

同盟軍の敵と肩を並べ———、


これから、———同盟軍を殺しに行く。


同盟軍の一員である、ロベルタの街の外れで。


 どれほど心中で迷おうとも、ここには迷う猶予などない。ニナを真似て、受け取ったコートをアントニーも羽織る。そして三人は音を立てて、乗り込んだトレーラーの戸を閉めた。


 唸るエンジン。巨大な鉄塊が、無機質なコンクリートの坂道を駆け上がる。三人を乗せて地下駐車場から、地上の方へ。街外れの戦場へ。


 ルンデンベッケンは、奥が深く入り組んだ商業都市である。そんな街模様に反して、出入りするだけなら交通網は驚くほど単純だ。都市に無数に張り巡らされた多種多様な道路は、最外部の巨大な壁と繋がった長い橋に収束している。

 出入りするだけなら、外壁と街を繋ぐ経路はほとんど一本道。中心街から車輪のように伸びた『大通り』の先は、巨大で堅牢な橋になっている。その橋に規模様々な道路が合流し、外壁に空いたいくつもの出入り口とまっすぐに繋がっている。

 これもまた、この街の膨大な物流を成り立たせる『合理の形』なのだ。


 ニナが運転席でハンドルを取り、ジョーは助手席で車輪に揺られている。呆気ないほどの速度で過ぎ去った不夜城の夜景は、遠く背後。運転席と助手席の裏の、収納スペースで揺られるアントニーもまた、過ぎゆく景色をぼんやりと眺めていた。

 腕を組んだまま、まっすぐに橋の先を見据えていたジョー。刻一刻と外壁が近づいてくる中、思い立ったように腕を解く。そしてアントニーの方に首だけを捻って振り向いた。


「アントニー、昼間に貰ったアレ、九ミリ弾か?」


ポケットにしまい込んだシルバーバレットを取り出し、アントニーは規格を確認する。


「あ、はい。それが何か・・・?」


 アントニーは、ロベルタにシルバーバレットを渡された時の事を思い出していた。その時のジョーの態度は、ニナとは対照的だった。無反応というか、興味がない様子。ロベルタの事も、シルバーバレットの事も、彼には関わりのない事だと言うように。

 それなのに、銃弾の規格はしっかりと見ているし、覚えている。不思議というべきか、ジョーらしいと言うべきか。


アントニーの返事を聞くと、ジョーは足元の収納から拳銃を一丁取り出した。


そして、肩越しに投げて寄越す———、


「あの・・・!?」


———手の中に収まった凶器が、アントニーの思考を打ち切った。


「やる。今のうちに籠めておけ。」


 それだけ言うと、ジョーは姿勢を元に戻す。腕を組み、視線は真正面。見据える先には、何処までも続くかのようなルンデンベッケンの外壁と、街の最果てを示す門が映っていた。


渡されるがままに銃を受け取ったアントニーは固まっている。


弾を籠めるでも、

突き返すでもなく。


銀色の銃弾と、漆黒の銃身を、暫く見つめていた。


 呆れたように溜め息をつくニナ。少女は真正面を向いてハンドルを切りながらも、横目で様子を確認していた。そしてバックミラーに映るアントニーを見ながら、ジョーに先程の事を指摘する。


「ジョー・・・シルバーバレットはお守りだって、ロベルタさんが言ってたでしょ?」


「弾丸が銃なしに、どうやって人を守るって言うんだ。」


時折、ジョーは妙に核心を突いた事を言う。


その通りだ、———と。

 アントニーは弾丸を強く握って、目を閉じた。


銃とは、———武器。

銃とは、———道具。

銃とは、———手段。

銃とは、———合理。


そして、———道理。


願掛けのお守り、


———銀色の弾丸。


シルバーバレットが如何なる『理』で人を守るかなど、分かりきった事なのに———。


 一段と深いニナの溜め息。少女は片方の手をハンドルに残し、もう片方で眉間をつまむ。そして困ったように頭を振った。


「あんたさぁ、情緒が無いよ。もう。」


 三人を乗せたトレーラーは、遂に外壁の門を潜り抜ける。そして車輪の勢いをそのままに駆けると、いつの間にかルンデンベッケンの境界を踏み越えていた。

 その先は、何もない荒野と街道のみ。真っ暗闇の中を、トレーラーのヘッドライトだけが切り裂いている。ニナはマップの表示と周囲の様子を見比べながら、慎重にハンドルを切っていた。


 目的の東街道に車輪を乗せたトレーラーは、風のようにアスファルトを駆け抜ける。遠く、視界の隅に追いやられたルンデンベッケンはミニチュアのよう。

 一行は振り返らず、先を急ぐ。救援要請を発した、まだ見ぬ友軍の元へ。






———————


—————

———






座礁した艦、———ストーム・レイジ号。


 ホバー式輸送機を改造して、戦闘向けに作り変えた地上戦艦である。幾重にも装甲板を張り直して補強した鉛色の外装には、防衛用の多砲身連射砲がずらりと並んでいる。向けられた砲撃やミサイルを撃ち落とす為の、対空防御システムである。

 甲板には二連式砲身の主砲が、正面に二台。副主砲が背面に一台。都合、艦橋塔を三方向から挟み込むように設置されている。そして真正面には、虎の子のプラズマ粒子加速砲。ジェネレータ直結式で大型のエネルギー兵器である。様々な武装で継ぎ接いだストーム・レイジ号は、ともすればキメラか、フランケンシュタインの怪物を思わせるだろう。

 様々な新武装や新コンセプトを、実に多様な状況下で試す事。第三〇七番遊撃隊のようなレジスタンスの遊撃部隊には、そういう役割も課せられている。


 大岩の裏に隠れる事が出来たのが、不幸中の幸いだった。ホバー装置を破壊され、足を失った地上戦艦は格好の的だ。そんな第三〇七番遊撃隊の隊員たちは大自然の盾を背にして、手負いの艦で反撃の機を伺っている。

 そんな母艦の周りに散らばって、レジスタンスのGS部隊が防衛陣形を組んでいた。


地形を上手く使い、並み居る同盟軍のGSを迎え撃つ。


 敵戦力は、まさに無限。次から次へと増援のGSがやって来て、気がつけば地平線は敵機で埋め尽くされていた。反対に、第三〇七番遊撃隊のGSパイロットたちは刻一刻と疲弊する一方だ。そんな劣勢の中、じわりじわりとレジスタンス側は防衛戦の後退を余儀なくされていた。


「クソ、グレネードが尽きやがった!」


 悪態をつく、レジスタンスのパイロット。慣れた手つきでパネルを操作すると、鋼の巨人の腕部からグレネードランチャーが音を立てて滑落した。


機種はジャゴ2タイプ———。


 薄鉛色のボディに、パイロットのパーソナルカラーを示したストライプが走った外観。前モデルから基本構造は踏襲しつつ、細部を洗練・最適化した機神戦争後期の機体。今となっては、旧式機の烙印を押された機体である。

 それでも、第三〇七番遊撃隊にとっては主戦力の機種。砂塵を払いながら振り返り、即座に腰部の九十ミリマシンガンに手をかける。そうして掴んだ凶器を胸に抱え、巨人は並み居る敵機に銃口を向けた。


「こっちも弾切れだ。近接に移行する!」


もう一機のジャゴ2。

 こちらはマシンガンもグレネードも撃ち尽くし、残された武装はアックスの一本のみ。覚悟を決めて銃器を投げ捨てると、巨人は斧を担いで岩陰から飛び出した。


凶器を振り上げ、疾走する鋼の巨人。


「待て!ナイト相手じゃ分が悪い・・・!」


 その姿をモニターの端に捉え、咄嗟に若い女のパイロットが叫んだ。駆る機体は、次世代モデルのジャルゴタイプ。人型兵器という分野にとっては未だに未開拓領域の『空』を制する為のバックパックアタッチメント、———フライトパックを装備している。


しかし、———その声は届かない。


———通信を繋ぐ暇さえない。


ならばと、女のパイロットは急降下した。


 バックパックのブースター出力を限界まで絞って、青銅色のボディが煌めいた。風切る流線型は暴風を纏い、「間に合えッ!」と願いを籠めて鋼鉄の腕を伸ばす。


 ジャルゴの頭部カメラが捉える先には、大地を駆ける鋼の巨人。向かう先には、銀色の甲冑姿。プレートアーマーを模した巨人たちは、同盟軍の正式量産機———ナイトシリーズである。

 騎士たちは上半身を覆い隠す程の大盾を構えて整列し、無謀な特攻兵を粉砕しようと照準を合わせた。


状況は、———最悪。


 ひっきりなしにアラートが鳴り響くのは、第三〇七番遊撃隊の母艦、ストーム・レイジ号の艦橋である。天井の半分近くを占める半天球スクリーンには、無数のポイントマーカーが表示され、絶えず信号や表記を変えながら明滅していた。途切れる事のない振動と、数秒置きに艦を揺さぶる大衝撃。そんな死神の足音が、クルーら一人ひとりの精神をも着実に蝕んでいた。


 艦長席に浅く座り、神経質に指を組んでは組み替えているのは艦長、テオドール・レシツキ。若輩の身でありながら、前艦長からストーム・レイジを任された青年である。鋭い目つきで立体映像のマップを睨めつけ、厳しい戦況に歯噛みする。

 そして敵と味方を示すポイントマーカーを目で追っていながら、生存の一手を模索していた。


「テオ艦長・・・今回ばかりは腹くくった方が良いですぜ?」


 長く、そして濃い顎髭を蓄えた中年の隊員、観測班長。憎々しげにマップを一瞥してから、艦長席に鎮座したテオドール艦長を見上げて指摘した。艦長にとっては、自分より十歳以上も年上の部下だ。僅かに気圧されながらも、顔の汗を平手で拭って観測班長を見やる。


「分かってる・・・」


それだけ言うと、艦長はマップに視線を戻した。


「よりによって、ライン川の『こちら側』ですからな。救援信号を送ったのは良いが、果たして友軍に届いたものか。」


 更に指摘を重ねたのは、艦長の副官。前艦長の時代から艦長補佐を務めていた人物だ。そんな副官の指摘も、テオドール艦長は重々承知している。このエリアでルンデンベッケンも位置するライン川の西側と言えば、圧倒的に同盟軍勢力が優勢の領域だ。


緊急救援要請は、———元より『賭け』だ。


友軍が増援に来る保証なんて、どこにもない。

こんな敵地のド真ん中であれば、尚更ない。




鳴り響くアラートは、やはり無慈悲だ———。




十二機もいたGS部隊、———七機に半減。

対空防御弾幕、———残り僅か。


それでも———、


「増援はきっと来る。皆、耐えて欲しい。」


艦長席から立ち上がり、一歩前へ。

 一人ひとりに語りかけるように見回して、艦長は言葉の先を続けた。


「知っての通り、ここは敵地だ。そして、我々は窮地に立たされている。艦やGSを放棄して撤退する事も、一つの戦略だろう。だが、それは無意味だ!逃げたところで・・・追手が待ち構えているのは分かりきっている。」


進むも地獄、

退くも地獄。


この行き詰まりの状況にメスを入れられるのは、何らかの第三者を置いて他にない。艦長は拳を握り、更に声を張り上げた。


「だからこそなんだ!今だけは、戦う事をやめちゃいけない!勝利のチャンスを掴み取る為には、我々は健在だと態度で示さなければッ!」


要は、———「手詰まりだ」と。


 そんな分かりきった話を、よくも勇ましく言い換えたものだと。部下の面々は半ば同情し、半ば呆れていた。


敵地の只中で、尚且つ絶望的な戦況。

そこへ飛び込んでくる、———友軍という『奇跡』。


そんなものはないと誰もが冷静に蓋をした時———、


一報の通信が艦橋に舞い込んだ。




「レジスタンス所属、潜伏部隊、ニナ・ゲッペルより第三〇七番遊撃隊へ入電。そちらの救援要請を受諾した。当方、既に戦闘区域圏内につき、こちらの裁量で戦闘行為を開始する。」





冷やかしかと思うほど、子供じみた高い声。

にわかには信じがたい、少女の言葉。


しかし、———通信は確かにレジスタンス固有のもの。


部下たちは一様に目を見開き、あんぐりと口を開ける。


 しかし、これこそテオドール艦長が求めていたシナリオだった。クルーの誰よりも若そうな少女の助力とまでは考えていなかったが、艦長は必ず助けが来ると信じていた。その甲斐あってかいち早く反応し、手を座席の肘掛けに伸ばす。

 そしてコントロールパネルを操作し、ニナとの通信を開始した。


「艦長だ、まずは感謝を。早速ですまないが、そちらの編成を教えてくれ!」


前のめりのまま声を張る艦長。部下たちも固唾を飲む。


「編成は、GSが一機、車両が一台。車両は支援任務に徹する。」


 その答えを聞いて、ひたいに青筋を浮き上がらせたのは観測班長だった。力任せに計器を殴ると、大きな拳が眼前のパネルの、銀色の金属枠を僅かに歪める。そして怒声とともに席から立ち上がり、頭上の半天球に向かって声を荒げた。


「ふざけるな!今更GSが一機増えたところで何になるッ!」


観測班長は、怒りとやるせなさに満ちた声を上げた。


 周囲の隊員もまた、心は同じ。ある者は、黙して頷いていた。また別の者は、腕を組んで艦長を見上げていた。しかし通信越しのニナの声も、まだ見ぬ観測班長に負けじと言い返していた。


「ふざけてるもんか!実力だけなら折り紙付きだよ!」


「バカなッ!だったら機種は?機種は何だ!」


尚も声を上げる観測班長。もはやガキの喧嘩だと心中で己を嗤い、しかし振り上げた拳を降ろす事も出来ず。大きく腕を広げて、観測班長は今一度声を張っていた。





———ところ変わって、GS用トレーラーの車中。運転席。


 ニナは指で軽く顎を撫でて、数瞬考える。そして努めて冷静に、こればかりは説明のしようがないと首を振った。


「言ってもわかんないよ・・・見ればわかる、赤い変なの!」


それだけ言い終えると、少女は一方的に通信を切ってしまった。


 ジョーは既にコンテナの方に移動し、VOLTのコクピットに登場して起動の準備に取り掛かっている。そしてニナの傍ら、空いた助手席には代わりにアントニーが座っていた。大型車両は、減速せずに走らせたまま。ニナはハンドルからほど近いレバーに手を掛け、勢い良く引いた。コンテナのメインハッチを開くためのレバーである。

 一連の話を傍らで聞いていたアントニーは、不満そうに腕を組んだ。


「まったく。これから助けに行くってのに、酷い言い草ですよ。」


ハンドルを握ったまま、ニナは小さく苦笑した。


「まあね・・・でも、私だってあっちの立場ならキレたかも。」


言っている間にも、背後では大きな物音。


 鋼の巨大な長方形、GS用コンテナ。その上部のハッチがゆっくり開く。唐竹割りに断ち切るように、縦一直線の影を残して、天井が左右に分かれた。末端が蛇腹に屈しては荷台側面の内壁に収納され、格納されたものが少しずつ姿を顕わにしていく。多種多様、無数のジャンクパーツの山に埋もれていながら、それでも存在感を隠しきれない赤銀の戦士の似姿である。

 棺にも似た、鋼のコンテナ。その開放とともに、薄緑色の相貌が煌めいた。


赤銀の巨人、———VOLT。


 無数のジャンクを引き剥がし、吹き飛ばしながら上体を起こす。片膝立ちで、コンテナの縁に手をかけて、———彼方の敵機を睨めつけて。

 







つづく


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