表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機甲大戦記VOLT  作者: 無銘
金腕のニナ編
27/31

第二十七話 『金腕のニナ その⑲』






 横殴りの雨が、頬を殴り付ける。雨粒を針のように感じるのは、吹き荒れる暴風のせいか。分厚い黒雲は土砂降りの雨に飽き足らず、怒り狂う稲妻までもを引き連れていた。

 服も髪も、一糸足りとも乾いた部分は残っていない。患者衣は身体にぴったりと張り付いていて、多くの雨水を吸って重くなっている。春が明けて、夏を迎えるまでの過渡期の雨。生温い梅雨の雨が、高山地帯特有の暴風に煽られて、刃物のように冷やされていた。

 こんな環境では、ろくに目を開けて居られない。だから瞼を閉じたまま、ニナ・ゲッペルは静かに、嵐が過ぎ去るのを待っていた。


「・・・うるさいなぁ。」


 身体はまだまだ、本調子とは程遠い。疲労も当然残っている。しかし目を閉じても、身体の力を抜いても、どうにも眠りに就く事は出来なかった。打ち付ける冷たい雨粒は気付けになり、豪雨と雷鳴の騒音が鼓膜を打ち続ける。そうしてニナは、不快感とも苛立ちとも知れない声を喉から絞り出していた。


———奇跡だ。


その傷で。

その体調で。

この環境で。


『少女』という脆弱な身体で、生きていられる事は奇跡に等しい。


多くの奇跡に救われて、少女は今ここにいる。

 負けたくないからと、我儘を張り続けた。実のところ、自分がしてきた事はたったそれだけ。あとは成り行き。死ぬ前に奇跡的に軍医が気付いてくれたから、奇跡的に死なずに済んだ。

 否。奇跡を論じるなら、それ以前の問題か。


例えば、———雷。


 雨季の山岳地。場所は、開けた中央広場。こんなに高い一本柱に縛り付けられていて、荒れ狂う雷の直下にあって、ただの一度も雷に撃たれなかったという僥倖。確率を計算してみれば、それがどれほど『奇跡的』か分かるだろう。


あるいは、———運命か。


「気取りすぎかな。」


そんな事を考えて、自嘲気味に首を振る。

 長く。辛く。そして、少し退屈な夜。明日の朝の事を考えてみる。


驚かれる、かな———?


中央広場、贖罪の柱。

ズブ濡れの女。

繋がれてないクセに、柱に寄りかかっている。


———我ながら、頭の方を心配してしまうだろう。


 夜が明けて欲しいような。そうでもないような。そんな気持ちで、一時間。更に一時間、そして二時間。雨に打たれながら日付を跨ぎ、更に数時間。いつの間にか、息を切らしながら。微熱を発症した頭は朦朧として。

 それでも、そろそろかと。身体が夜明けを直感していた。日が昇るより先に。その前に、空が白らめくよりもっと先に。雨は降り続けているというのに、細胞が何かを理解していたのだ。


 明るくない、朝。光を遮る曇天が、今朝の空を支配していた。かと言って、真っ暗でもない。曇天はくすんだ鉛色で、夜の帷は吹き消されていた。そんな中途半端な朝には誂向きの、中途半端な雨が今も降っている。


吹き付ける暴風は無く、

雨粒が殴りつけるでも無く。

しかし、きっぱりと降り止むでも無く。





そんな空を、呆っと眺めていると・・・


ドカンッ———と、


どこかで大きな音がした。






サイレンが鳴る。


その前に、———爆発が二つ。三つ。


 第一〇〇八番新兵訓練キャンプの正門にして唯一の玄関口、南門。高さ二十メートルにも及ぶ鉄筋コンクリートの長壁は、出入り口の一点のみが弱点だ。ダム技術を応用した昇降開閉扉の部分だけは、コンクリート壁の内部を一巡するように張り巡らされた鉄筋が途切れている。


狙われるのは、———必定。


爆音と閃光を伴って。

悍ましい黒雲を膨らませて。

瓦礫の雨を、空襲のように降らせて。


閉じたはずの小世界を、『外』の地獄が食い破る。


 演習ではない。訓練でもない。聞き慣れたはずのサイレンの音が、未知の恐怖を呼び起こす。向こうから唐突にやって来た『本番』が、銃声と爆発を振りまきながら、夢見心地の訓練生たちを叩き起こした。


「レジスタンス・・・!?」


自然と、声を上げていた。

 ニナもまた、震え上がったその一人。疲労も不調も吹き飛んだ。柱の裏に素早く身を隠し、受け止めきれない現実を咀嚼する。巨大な足音は人型兵器のもの。立て続けに響く爆音は、GS用の大型バズーカ。音で分かる、機種はジャゴだ。

 いくら閉鎖的な訓練キャンプとは言え、外の情報から完全に隔離されているわけでは無い。ニナとて、レジスタンスのテロ活動については、極一般的なニュースの範囲のことぐらいは聞き及んでいる。彼らの最近の活動も。それ以前の活動も。


同盟軍の施設ばかりを狙う、———狂気の集団。


 ニナは複雑な気分だった。同盟軍を憎み、憤る心はきっと同じだ。彼らもまた何かを奪われ、壊され、絶望したのだろう。復讐を誓ったのだろう。なりふり構わず拳を振り上げるほどには、怒り狂っているのだろう。

 しかし、ニナが全てを奪われたのは、元はと言えば彼らのせいだ。


『あの日』の景色を、思い出す———。


町工場を踏み荒らす、同盟軍の兵士たち。


『お前たちがレジスタンスの兵器を整備していると通報が来てるんだ。調べもついている。家族五人、全部いるな?』


脳内で、ヤツの声が反響する。

 未だかつてないほど、鮮明に。


『おっ、これだ!ここに空白があるぞ!何かを隠蔽してる証拠に違いない!』


捜査という名の、揚げ足取り。


『我々は親レジスタンス派の工房で隠蔽工作の証拠を突き止めた。そこで逆上した戦争主義者の激しい抵抗に遭い、やむなく!あくまでも、やむなく!これを鎮圧する運びとなった。』


兄を工具で滅多打ちにし、

無抵抗の両親を射殺した。


———ニナは決して、同盟軍を許さない。

———ニナは決して、同盟国を許さない。


許さない、が———


———元はと言えば、レジスタンスのせいだ。

 

 政治問題やら歴史問題やら、わけが分からないものを拗らせて、同盟軍に喧嘩を売ったとんでもない集団だ。そんな連中がいるから民間に出回った人型兵器を取り巻く法律は複雑化の一途を辿り、ニナの家族はあらぬ疑いをかけられた。そして、無惨にも鏖殺されたのだ。


同盟軍を憎む気持ちは、きっと同じ。


こんなキャンプはぶっ壊れてしまえと。

そう思う気持ちは、きっと・・・


しかしニナは、———レジスタンスだって許せない。





——————


—————

———





 鉄筋コンクリートが、音を立てて破裂する。それは景色であり、支えであり、大地であり。砕けるなんて、想像した事もなかった。乗っても、蹴っても叩いても平気な、灰色ののっぺりした物体が、今はギザギザのズタズタ。そこかしこに振り巻かれた炎を纏わりつかせ、曇天に爆煙が吸い込まれる。


火災の黒煙と、砂塵の白煙が交差する———。


真っ赤な水たまりを、踏み散らして。

救いを求める腕を、振り払って。

理性もないまま、大声で叫ぶ。


それは、———あまりにも唐突に。


朝食前の、ランニング三キロも。

来週に控えた、座学の試験も。

半年後に訪れるはずだった、移行や卒業も。


全て、———嘘。

 訪れるはずの退屈な朝の代わりに、緻密に計画されたカリキュラムの代わりに、阿鼻叫喚が全てを押し流していった。


しかし———、


如何に、未熟でも。

如何に、不心得でも。

如何に、凡俗でも。


———ここに集まっているのは、未来の『兵士』である。


蹂躙は、———永遠には続かない。

 牙を抜かれた劣等訓練生は、絶望する他ない。牙を持たない多目的支援課は、逃げ惑う他ない。牙を忘れた幹部たちは、もう既に避難した頃だろう。


残されたのは、———『兵士』たちだ。


 人混みをかき分け、我先に整備ドックを目指すのはパイロット候補生たち。早朝の奇襲で運よく死ななかったものだけが、操縦桿を握る権利を勝ち取るのだ。いずれ訪れると覚悟していた瞬間が、物事の順序が、少々前後しただけの事。

 集中的にバズーカによって砲撃されたドックの中は乱雑に倒れ伏したナイトたちで埋まっていたが、どれも故障しているわけでは無い。パイロット候補生たちは早い者勝ちと言わんばかりにコクピットハッチまでよじ登り、転がり込むようにして操縦席に滑り込む。


 他のパイロット候補生の例に漏れず、一直線にナイトのコクピットを目指していたウルスス・ヤスタル訓練生。彼もまた、他の訓練生たちのようにGSのコクピットを目指して瓦礫の中を走っていた。

 突然の襲撃に叩き起こされたのは彼も同じ。昨日まで当たり前に挨拶を交わしていたニンゲンの死体・・・などという異常な物体を見たのも、これが初めて。にも関わらず、青年はいとも容易く、この状況を飲み込んでいた。もう随分前から、こんな光景を必然の未来と覚悟していたからだ。

 そんな青年を、よく知った声が引き止めた。


「おお、ウルスス君!良かった、無事だったか!」


後方から追いついてきた先輩、アルベルト・フーバー訓練生である。

 彼もまた、ウルススと同じ。誰に習うでもなく、この未来を予感していた。訓練施設でなければ、配属先の砦かどこかで。そうでなければ市街地だったり、何かの輸送任務中だったり。必ず見るであろうと予感していた景色。必ず体験するだろうと覚悟していた状況。ただそれが『今日』だっただけの事。


「先輩!死ぬわけないじゃないですか、あなたと決着をつけるまでは・・・!」


振り向きながら。しかし、走る事はやめず。

 僅かに息を切らし、額の汗を拭いながらウルススは大きく声を張った。


「まあ、心配してはいないよ。君と僕、どちらが多く狩れるか勝負だ!」


 ウルススに追いつき、並走するアルベルト。こんな事態に陥っているというのに、いつも通りの糸目が、いつになく楽しそうだ。

 そんな二人に、もう二人の訓練生が合流した。ウルススとは同期の一〇四期生。公開模擬戦では、ウルススと最後まで『特殊戦』で覇を競い合ったティモン訓練生とスティーブ訓練生である。


「御一緒します、アルベルトさん!」


叫ぶティモンに、スティーブも同調する。


「返り討ちにしてやりましょうや!あのポンコツども!」


俄然やる気が湧いて来たと、口元を吊り上げるアルベルト。

 反対に、ウルススは表情を曇らせる。嫌な予感が、脳裏を過ぎってしまったのだ。


「お前ら・・・アルスの奴はどうしたんだ?」


 三対一で戦う特殊戦。公開模擬戦の時は、ティモンとスティーブ、そしてアルス訓練生の三人チームを相手取った試合だった。前期の頃から同じ部屋だった三人組は、息もぴったりだ。一〇四期生としては、最高峰のチームとして評判なのだ。

 ティモンは、舌打ちしながら吐き捨てるように答えた。


「潰れちまったよ。あいつドジだから。」


その映像を、二人は走りながら幻視する。

 最初の爆発で、爆ぜた壁。たまたま三人組の部屋で、たまたま壁際のベッドに寝ていた者がいた。理由などない。あるいはティモンだったかも知れないし、スティーブだった可能性もあるだろう。


しかし、———運命は違った。


あの爆発によって叩き起こされた二人が最初に見たものは、部屋中にバラ撒かれた友人だったのだから。

 呆気に取られて目を丸くするウルススを『こちら側』に引き戻そうと、スティーブが力強く背中を叩いた。


「あん時と同じだ。うっかり死んじまうような奴は、遅かれ早かれ死んじまうんだよ!」


公開模擬戦の試合で、最初に脱落したのはアルス訓練生だった。


『うっかり死んじまう』とは、———言いえて妙。


彼は、本当にうっかり、あっさりとウルススに敗れてしまった。仲間と連携を見せる暇もなく。試合開始早々に、誰の印象にも残らずに、早々に敗退してしまったのだ。


そういう決着もある。

そういう運命もある。


それが、———戦いである。


 爆音と轟音の中を掻き分けて走る四人の訓練生。遂に若きパイロットたちは、目当てのナイトの元にまで辿り着いた。本来ならドックの整備ハンガーに固定され、直立して整列しているはずの白銀の騎士たち。それが今は、スタンドごと倒された空の鎧兜のよう。

 そんな騎士たちの前に立ち止まり、アルベルトは思い立ったように人差し指を上げる。


「そうだ、あれをやろう。」


先輩に習って、立ち止まる後輩三人。


「・・・そんな暇は、」



苦言を呈したのはウルススだった。その行動がどういうものか、知識の上ではよく知っていたからだ。

 そんな後輩の言葉に何も答えず、アルベルトは右腕を横一文字に、胸の前に倒して拳を握る。そしてその腕と交差するように、その前に左拳を立てた。ポイントは、両腕の交差点と心臓の位置が重なる事だ。


『誓いの十字拳』———、大戦の頃から兵士たちの間で行われていた、一種の願掛けである。


「せっかくの実戦。せっかくの四人組。やらなきゃ嘘だろ?」


それだけ言うとアルベルトはその十字を解き、立てた左拳を真正面に突き出した。


「僕らの、勝利の為に。」


それを聞いて、次に十字を作ったのはスティーブだった。


「乗った!それじゃあ俺は、同盟軍の為に・・・とか?」


コツン、と。スティーブの拳が、アルベルトの拳を軽く叩いた。

 やれやれと頭を掻きむしり、髪を乱しながらティモンも加わる。


「そうだな・・・じゃあ、ドジ野郎の冥福の為に!」


そして、最後に残った穴をウルススが埋めた。


「俺は・・・俺は、兵士の務めを果たす為に。」


四方から拳を合わせて、四人の兵士が誓いを立てる。

 バカげているかも知れない。遺言になるかも知れない。それでも、必ず貫き通すと決めた信念を表明する儀式。気休めであっても冒し難く。拳を介して思いを繋いだ若者たちの間には、確かな戦場の絆が育まれ始めていた。


 やがてその四人も、目指したナイトのコクピットに飛び込んだ。横転した巨人の中の操縦席は、やはり全てが横転してしまっている。シートも、ベルトも、操縦桿も。無理な姿勢のままパイロットたちは素早くベルトを装着し、手元のキーパッドで在籍番号を入力する。


それが合図だ———。


死に体で伏していた巨人たちのハラワタが、魂の明かりで満たされる。

 まず、起動するのは周囲のモニター類とコントロールパネル。それは、コクピットハッチの閉鎖と同時に。そして巨人自身が立ち上がるより先に、無理な体勢に傾いたコクピットそのものの角度が修正された。これは人型兵器共通の特殊なコクピットモジュール、球体コクピットの成せる技だ。

 身を翻し、両手足をつき、ゆっくりと駆動音を上げながら、白銀の騎士が状態を起こした。


「よしよし。思った通り、ぶっ倒れてるだけでどこにも異常はない。」


 モニター映像と、そして身体を通り抜ける浮遊感で、ウルススはナイトが問題なく立ち上がった事を確認する。その傍らで、コントロールパネルを操作。流れる動きでタッチパネルを操作すると、モニターに映る景色に、複数のマーカーが表示された。


「シールドに、メイス。ネメシスボウもあるのか。よりどりみどりだな。」


ナイトのセンサーがモニター映像をスキャンし、足元の瓦礫に埋もれた武装を検知する。

 シールドは必要だろう。この際、ナイト・ウォーリアー仕様の大型シールドでも、ナイト・アーチャー仕様の小型でも良いが、ウルスス機が掘り当てたのは大型シールドだった。少し歩いて、メイスも拾い上げる。ナイト・ウォーリアーとしては、これで最低限の装備は揃ったも同然。欲を言うなら牽制用のマシンガンも欲しいところだが、そんな贅沢を言っていられる状況ではない。

 ネメシスボウ———矢筒と弩が一体になった射撃兵装———は後続のアーチャーに残しておこう。ウルスス機が持つより、幾分有用に扱えるはずだ。ネメシスボウの矢は特異な射撃兵装だ。螺旋形状の矢がジャイロ構造のバレル内で最大限にまで加速され、回転しながら空を裂く。そして、激突した地点を掘削する。盾を構えれば食い破り、装甲で受ければ内部を抉る。射撃に特化した機種が手にすれば、一矢必殺の武装なのだ。


「・・・それじゃあ、行くか。」


 バックパックのブースターを景気よく起動する。拾い上げたメイスは、振り上げたまま。崩れかけたドックの亀裂へと、一直線に。壁の向こうで、既に戦闘を開始している友軍機の元へ。


「友軍に告ぐ。一◯四機訓練生ウルスス・ヤスタル、そちらに合流します・・・!」


言い終えるのが僅かに先か。メイスを振り抜き、ドックの壁を内側から打ち壊す。

 シールドを構えたまま砂煙の中に突っ込むと、モニター映像は一面真っ白な霧の中。敵機と友軍機がマークされた簡易的なマップだけが頼りだ。


遠くの射撃———、


しかし、錯覚。


「近いッ!そっちか・・・!」


砂埃の霧を抜けるまでは、立ち止まる事は許されない。

 遠くの方の射撃音とは、コクピットの中ですら聞こえるほど近くから放たれる銃声の事である。模擬戦に使用される、塗料をバラ撒くマーカー弾では発生し得ない現象だ。座学の講義で聞いた時には今ひとつイメージ出来なかった現象だが、今ではそれこそが、『これは本番だ』と声高らかに訴えてくる。

 そんな実戦の空気に圧倒される暇もなく、ウルススの通信デバイスから見知った教官の怒声が爆裂するように放たれた。


「聞こえるかッ、ウジ虫どもッ!!」


罵倒されているというのに、今はこの声さえ頼もしく感じる。

 ウルススも。それ以外の、この戦場に転がり込んできた訓練生たちも。一人、また一人と通信に参加して返事をする。それはあたかも、訓練前に出席確認を取るように。


「七人か・・・充分だ。」


返事を受け止め、静かに言う教官。


「身を守りながら聞け!これは訓練ではない、『死ねば死ぬ』実戦だ。だが、それは相手も同じだ!『殺せば死ぬ』、それがルールだ!」


シールドで射撃を受け止め、瞬時に飛び退いて反撃する教官。

 ナイトの操縦補助システム、APS(Automatic Pilot System)が弾道と弾圧から敵の大まかな位置を予測し、砂埃で霧が掛かったモニター映像に射撃推奨ポイントを表示する。そのポイント目掛けて、教官はナイトのマシンガンを撃ち放った。


そこに、本当に敵はいるのか?

その弾は、敵の命に届くのか?


そんな葛藤を抱く余裕はどこにもない。

 ただ、撃つ。それだけが生き残る道だと、教官は身を持って教え子たちに示していた。


「あんな骨董品の弾に当たる間抜けはいないと思うが、用心しろ!全身に目をつけるんだ!そして自分はウジ虫ではないと、必要な人間だと、『兵士』だと!己の価値を示して見せろッ!」


コクピットに響き渡る、教官の指示。訓練生たちは一斉に「はい!」と返事をし、教官の戦い方を真似た。

 砂埃の裂け目から。建物と建物の間の、僅かな隙間から。見え隠れする敵影を追って射撃する。射撃兵装がなければ、盾を構えて突進する。兵士として成すべき事はそれだけだ。


たまたま居合わせた、上官。

たまたま居合わせた、兵士たち。

たまたま拾った、使えそうな武器。


陣形も、連携も、作戦もあったものではない。


———そういう『小隊』もある。

———そういう『戦い』もある。


九十ミリ口径の鉛玉を大盾で受け止める。

 咆哮を上げて、マシンガン掃射の濁流を押しのけるウルスス。全速力で突撃し、一気に敵機との間合いを詰める。レジスタンスのジャゴである。


「うおおおおッ———!」


 大振りにシールドを振り抜くウルスス機。大型シールドならではのリーチもあって、盾がジャゴのマシンガンに激突した。打ち上げられた銃は腕ごと上方へと押し上げられ、銃口は無為に空を乱射する。


「そこだッ!」


身を翻すウルスス機。左腕と右腕が、シールドとメイスが入れ替わる。

 それもまた大振りの一撃ながら、速度と遠心力を兼ね備えたメイスの一撃は必殺そのもの。ジャゴのコクピットを、そして中のパイロットをも叩き潰そうと、弧を描いた凶器が振るわれる。


しかし、———不発。


弧を描くのは、ジャゴも同じ。半歩下がり、身を捻る。

 レジスタンスのパイロットは、己の機体の大きさを感覚で理解しているのだ。それは、モニターで確認する映像よりも鮮明に。


どこまで離れれば、当たらないのか。

どこまで近づけば、当たらないのか。


そればかりは、実戦経験で場数を踏まなければ身につかない感覚だ。

 かくしてナイトのメイスは空を裂き、ジャゴの胸部装甲はギリギリで凶器とすれ違った。


「しまッ・・・!?」


ウルスス機は未だ、前傾姿勢のまま。

 崩れた姿勢に合わせるようにして、ジャゴは強烈な前蹴りを放った。本命は胸部コクピットハッチだが、当たればひとまずどこでも良い。敵機を吹き飛ばせれば、どこでも。


「ぐぁッ・・・!」


衝撃はナイトの胸部を貫き、ナイトの身体を大きく後方に吹き飛ばした。コクピットブロックこそ無事だが、パイロットへの衝撃は殺しきれない。

 脳震盪を起こして、グニャリと歪む視界。モニター映像はおろか、操縦桿も、シートも、目の前にかざした腕さえも。ウルススの目には、全てがドロドロに溶けて見えた。完全なノックアウト状態だ。

 機体もまた、ノックアウト。胸部を真正面にさらけ出して、大の字に。シールドもメイスも握り続けているというのに、防御も攻撃もままならない。観念したように、トドメを待っているかのように、微動だにせず倒れてしまった。


 しかし、レジスタンスのジャゴはトドメを刺さない。

むしろ、背後に飛び退く———


閃光が二つ。

 銃弾が照り返す、閃光の帯が。


ひとつ、———ウルスス機の真上を横切るように。

ひとつ、———ジャゴが居た場所を貫くように。


その頃には、ウルススの視界も回復しつつあった。

 もう二度と不覚は取らない。そう誓いながらパイロットは操縦桿を取り、鋼の騎士は上体を起こした。援護する味方も、襲いかかる敵も、いずれも健在。寝転んでいる暇はないと、若者は己に喝を入れた。








つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ