第二十話『金腕のニナ その⑫』
その日、第一〇〇八番新兵訓練キャンプ内は、いつもとは一風違う緊張感に満たされていた。
正門から中央棟までの通りの両岸に各期の訓練生と多目的支援課の作業員が整列し、絶え間ない拍手で黒光りする高級車両を迎えていた。複数台のリムジン車両が列をなして徐行し、会合を控えた中央棟を目指している。その中でも最初に門をくぐった車両は、鏡のように陽光を照り返す漆黒のオープンカー。なめした若牛の皮のシートに腰掛けて、ゆったりと拍手で迎えていたのは、外部監査を取り仕切る監査団長エイブラハム・ポートマン、訓練キャンプの最高責任者オスカル・ウィンストン施設長、そしてその補佐役のアラン・コナー連隊長だった。
「例年通り、すごい活気ですな。施設長。」
「ええ。皆エネルギッシュな若者ばかりですから。我がキャンプの誇りですよ。」
後部座席に座ったポートマン監査団長が、隣にいるウィンストン施設長に言う。すると施設長は嬉しそうに向き直りながら返答した。
更に、前列の助手席に座ったコナー連隊長も、身を捻りながら付け加える。
「施設長の言う通り。高い志を持って、清く正しくのびのびと成長している訓練生ばかりですよ。」
運転手を除いた以上の三名は、訓練生たちに手を振ったり、時折互いに何かを耳打ちし合いながら中央棟の車両用エントランスへと消えていく。そして、それを追うように、残りの監査団員や同盟軍の使者を乗せた車両が訓練生の眼前を通り過ぎて行った。
監査は滞り無く執り行われた。各期訓練生たちの待遇や訓練状況の調査では、全ての訓練生が軍で定めた規定通りの状況にあると、監査員らは太鼓判を押した。残飯を食し、まともな衛生環境も享受できない劣等訓練生の存在は、例年通り今回も無事に『なかった事』として処理された。
理念通りの監査であれば真っ先に摘発対象となるはずの『贖罪の柱』も、当然一切のお咎めなしだった。
「これが例の・・・壮観ですな。」
今回初めてこの訓練キャンプの監査に同行した監査員が、贖罪の柱を見上げながら言った。すると、同行していたキャンプの教官が解説する。
「そうですね。許しがたい罪を犯した訓練生が、このように折檻を受けるのです。ほら、大戦前ならよくあったでしょう?最近は減ったと聞きますが、当キャンプは個々の規律と責任感を育てたいと考えているのです。」
「なるほど、なるほど。古き良き伝統、というわけですな。」
頷きながらコメントする監査員。そこに疑問や驚きはなく、やり取りは単純な事実確認に留まるのだった。
兵士育成プログラムの監査は、ごくシンプルな書類検査のみに留まっていた。GS操縦士課程を除いた、比較的重要度の低い兵科に関しては書類不備の確認のみで監査が終了する。
総合士官課程の監査は書類検査と簡単な質疑応答のみだったので、わずか数時間以内に全監査工程が終了した。実態の如何にかかわらず、問題なしと太鼓判を押す事で既に話がついていたからだ。
衛生士課程も同様に行われた。違いと言えば、特別な管理を要する医薬品や機材の管理状況を別途で調査しなければならなかった事のみ。本キャンプが気候変動の激しい山岳地に横たわっているだけに、他の土地よりも厳しい管理状況が問われる分野だ。しかし、その点に関しては軍医のノルトン大佐がよく管理していた。大戦時代を覚えているからこそ、薬品の価値と管理には人一倍厳しい性格なのである。
反対に、GS関連の監査項目は非常に多岐に渡っていた。機体そのものの管理体制、訓練状況、模擬訓練用具、模擬訓練では使用されない実弾の数や状態までもが厳しく検査されるのだ。
人型兵器は戦場の主役だ。僅かでも訓練環境に不備があっては、軍全体にとっての損失が他の兵科とは比べ物にならない。ここのような辺境の訓練キャンプの場合、資金繰りの都合でGSが取り引きに出されるケースもある。滅多に中央の目が届かない事、また施設長をはじめとした幹部組の権力が強すぎるので、私欲に目がくらんでしまう事が理由だ。正規軍標準規格のGSであれば、ナイトの腕一本であっても、闇に流せば充分に魅力的な値がつくものだ。そればかりは、この茶番じみた監査でもお目溢しの対象にはならない。
そんな厳しいGS関連の監査項目を一通り調査し終えると、日はとうに沈んで夜が耽っていた。ひと仕事終えた監査団。可能な限り根回ししたとは言え、気を抜けない監査をなんとか無事に通過した訓練キャンプ運営。そのどちらも、ようやく一息つける時間がやってくる。
———監査団を労う為の、秘密のパーティーである。
初めて踏み入る、『司令官官舎区画』という場所。正門からではなく、地下の通路を使ってその領域に足を踏み入れる。招待状と名を冠した紙切れは、事実上の召集令状のようなものだった。それを拒否する事など出来ないと、ニナはよく知っていた。
「こんな場所があったなんて知らなかったよ。」
気品と扇情を両立したドレスを身にまとい、少女は着付けを手伝うアガルタに言った。
実物を見る事さえ初めてで、どのようにして着ればいいか分からないという事もあるが、そもそもこういった衣装は本人の独力では着る事も脱ぐ事も難しいように作られている。
「何処にだってあるものよ・・・こういう場所はね。」
真っ赤な絨毯は綿毛のように柔らかく、暖色の壁一面に描かれた麦の意匠は見る者の心に安らぎを与える。美しく揺らめく明かりは二人のシルエットだけを壁に投影し、半開きの衣装棚やクローゼットからは似たような衣装が見え隠れしていた。
右の肩を裸けさせ、大きく胸元を開いた緑色の絹のライン、腰にきつく巻き付いた帯で身体に密着される。反対の肩には帯を巻いてバラを模した大きな飾りがアシンメトリーなデザインのアクセントになり、帯の一端は首に巻き付いてチョーカーのように、反対側は背中の方に流してスカーフのようになびいていた。背中は腰の位置まで大胆に素肌を露出し、腰帯は幾重にも重なった豪華な蝶結びを成していた。そんなドレスの裾はいくつものヒダが重なり合っており、穏やかな海の波打ち際を思わせる。しかし生地の穏やかさとは打って変わり、デザインはやはり大胆なもの。大きな切れ目から左足を露出させ、太ももから指先までの白く美しい肌色を強調する。
そんなニナは裸足で絨毯に立っており、眼前には見た事ないほど頼りない、針金で出来ているのではないかと思うほどに、細くて鋭角なハイヒールの靴がワンセット並んでいた。
「あなた、その歳で大変な思いをしてきたんでしょ?」
アガルタがニナの背後から紐を力強く引くと、ギュッと腰が締め付けられてニナは思わず背筋をピンと伸ばした。
「上手に生きる事も覚えなさいな。あなたには、その素質があるんだもの。」
言いながらアガルタの指先が優しくニナの顔に触れ、その輪郭を滑るようになぞった。縛って整えた髪にきらめくティアラの装飾が揺れる。日頃のニナの顔はアガルタの目から見ても可憐そのものではあるが、ドレスに合わせたメイクアップを済ませたこちらは幼さを気品で彩る美しさに満ち溢れていた。
「ありがとう、アガルタ。でも私、あんたみたいに出来る気しないよ。」
「『あんた』じゃなくて、『あなた』。・・・大丈夫よ、あなたは賢いもの。段取りも所作も教えてあげる。こんなところにいつまでもいられないでしょ?」
ニナから少し離れると、アガルタは優美に手を翻してハイヒールを履くように促した。アガルタ流の特訓は既に始まっている。ニナは震える素足を靴の方に伸ばしてみるが、これがなかなか上手くいかない。針金のような靴はあまりにも頼りなく、もたつくほどに動きは優美さを失っていった。焦りながら無理に足を押し込もうとすればするほど、靴は不安定に形を変え、ドレスの裾は下品に乱れてしまう。
無言で靴と格闘するニナを見て、アガルタの顔には自然と笑みが浮かんでいた。
「ふふ、可愛らしいけど———違うわ。私の動きをよく見て。」
靴の位置を戻し、裾を整えてから再挑戦する。
くるぶしや足指の角度から、独特な膝のしなり方、屈み方や、手の置き方、そして視線の使い方まで。ぎこちない動きではあるが、今度の再挑戦では上手く足を滑り込ませる事に成功する。同じ要領で反対の足も試してみると、先程よりも更に手際よく履く事が出来た。
「やった、履けた!」
「ええ、おめでとう。思ったとおりね、あなたって『見て、真似る』のが本当に上手なのよ。だからもっと自信を持って。」
当然である。
ニナの半生は、『見て、真似る』事に集約されるのだ。わずか五歳の頃から、あるいはそれより遥か以前から、少女は偉大な先達を目に焼き付け真似ていた。父フベルトがどのように溶接機を滑らせるのか、兄エーミールはどういう段取りでペンを走らせ、機械の設計図を書き上げていたのか。職人技術の真髄は、どうしても言語化できない部分に集約されてしまう。しかし、それこそが機械的な大量生産とは一線を画する、人の手の絶対的優位性でもあるのだ。
だからこそ、幼い時から少女はよく見て、よく真似た。あらゆる技術を目で見て吸収し、即座にその両手から出力するのだ。それに長けていなければ『金腕のニナ』が誕生する事はあり得なかった。
パーティー会場への入場までには、今暫く時間がある。パーティーを彩る選りすぐりの美女たちの入場は、それ自体が一種のスペクタクルとして機能しているのだ。
パーティーの来賓はその時に好みの女を品定めし、会話相手やダンスの相手、場合によってはその先の、よりディープな関係を築きたい相手を選別するのだ。そして、それは女たちにも言える事だ。入場の瞬間から女たちはパーティーに参加したメンバーを品定めし、このキャンプに来た本来の目的である『未来の将校』に狙いを定める。当然、将校でなくとも、有望な監査員でも良い。訓練キャンプの幹部の愛人でも良い。二度と無いかもしれない千載一遇のチャンスを最大限に活かすために、女たちもまた必死である。
そんな欲や野心がニナには無い事を、知らないアガルタではない。如何に魅力的な少女とは言え、このままでは飢えた獣たちの荒波に飲まれてしまうだろう。そうならないように、アガルタは実演しながら所作を解説する。
「入場と言ってもね、ただ歩けば良いわけじゃないの。こうやって足をクロスして、踏み出す時に・・・ふんって腰を上げる。」
「クロスして、こう!」
アガルタの動きを真似るニナ。しかしその動きがあまりにもぎこちなく、アガルタは再び笑ってしまう。
「笑わないでよっ!」
「ふふ・・・ごめんなさい・・・ふふふ、でも今の、鶏みたいで・・・」
頬を膨らませるニナに少し悪いと思いながらも、笑いを抑えようとすればするほど笑いがこぼれるアガルタ。その姿を見たニナは拗ねたように顔をそらし、歩き方の練習を再開する。
「ふふ。そうじゃないのよ。順番はそれで良いんだけど、もっと腰と足先の動きを一つの流れにするの。」
そうしてアドバイスを受けては吸収し、急造の所作にしては充分マシなフォームに整っていく。ドレスに着られていたような雰囲気を纏っていたニナも、いつしか生地から溢れ出すエレガントさを着こなすようになっていた。
立ち姿や歩き方の指導はこんなところだろうと見切りをつけ、アガルタは姿見の前でポーズを取るニナに向き直る。
「ニナ、次はお辞儀の練習をしましょう?ちょっと難しくなるわよ。」
「充分難しいよ・・・」
四の五の言いながらも、ニナはポージングの練習を切り上げてアガルタの方へ移動する。そして二人は向かい合わせに立った。
「良い?お辞儀は挨拶、そして挨拶はチームワークよ。相手ありきだもの。」
「挨拶は、チームワーク・・・」
復唱するニナ。頷きながら、アガルタは先を続けた。
「ただ頷くだけの行為とは思わないで。大事なのは視線よ、自分と相手の視線。視線を支配する事が、相手も、場さえも支配する事になるわ。」
空恐ろしい話だと、生唾を飲み下すニナ。
「動きの基本は歩く時と同じ。足をクロスして、今度は左右ではなく、後ろの方にお尻を突き出すの。そうすれば自然と身体が前かがみになるわ。あとは、ちょっとだけドレスを持ち上げるのがコツよ。」
「基本は同じで・・・あれ、こんなモンで良いの?もっと頭下げた方が・・・」
動きを真似てみるニナ。立ち姿と歩き方の基本を考えれば、それほど難しい動きではなかった。しかし、実際にやってみて初めて気付く疑問に突き当たる。
それを聞いて感心したアガルタは、嬉しくなって自然と手を叩いた。
「良いところに気付くわね。拍子抜けだろうけど、こんなもので良いのよ。視線が大事と言ったでしょ?顔が見えなくては話にならないわ。」
「・・・確かにこれなら、アガルタの顔見て話が出来る!」
ハッとして目を丸くするニナ。豊かな表情変化がまた、アガルタにとっては愛しい。
「そうね。でも視線は私じゃなくて、もうちょっと下の方。それで相手の視線を誘導するの。」
言われるがままに、誘導された方へと視線を移してみるニナ。すると、アガルタの豊満な胸の、暗く深い谷底に視線と意識が吸い込まれる。
そうして暫くじっとそこを見ていると、重要な事に気付くニナ。乱暴にドレスの裾を手放し、両手で上半身を覆い隠した。
「おっぱい見られるの?やだよっ!」
初々しい姿が愛しくて、アガルタはまた小さく笑ってしまった。しかしその笑みには、目の前の妖精をからかってやろうという、小悪魔的な毒も見え隠れしていた。
「でも、みんなおっぱい好きよ?」
「知らないよ、そんなの・・・」
頬を紅潮させながら目をそらすニナ。アガルタは更に畳み掛ける。
「あんなにじっくり見たのに?」
「それは、その・・・『視線誘導』!あんたに『視線誘導』ってやつされた・・・だけだから・・・!」
顔を真っ赤にして、身振り手振りで必死に訴えるニナ。からかうのは楽しいが、そろそろ練習に戻さなければ、とアガルタは脳内のスイッチを切り替える。
「私のおっぱい、嫌だった?」
「嫌では・・・ないけど・・・」
耳まで真っ赤になって答えるニナ。
「殿方の皆さんだってそうよ?ううん・・・『嫌じゃない』なんてもんじゃない。どんな堅物でも、みんな大好きなんだから。」
ニナは尚も俯いたまま。再び拗ねたように目を合わせようとしない。
「そりゃさ、アガルタみたいなスタイルだったら恥ずかしくないかもだけどさ。私は・・・」
アガルタより頭一つ分背が低いニナ。小柄で華奢な少女は、アガルタに比べて二回りほど小さな自分の胸を、両手で隠しながら言った。
「ダメよ。そういう事は、思っても言っちゃダメ。」
ここへ来て、初めてアガルタの口から聞いた厳しい言葉。自然とニナはアガルタを見上げていた。
「良いかしら?美とは、胸の大きさや身体のスタイルでも、顔でも、声のトーンでもないわ。『自信』よ。『自信』こそが、見る者を魅了するの。自信を持ちなさい、ニナ。あなたには、それだけの価値があるわ。」
それを聞いて、強く頷くニナ。恥ずかしがっている場合ではないと、両頬をバチンッと叩いて気持ちを切り替える。その音はあまりにも大きく、自分はそんな真似出来ないとばかりに、アガルタは片目を閉じて顔を反らした。
入場時間まで、残り僅か。立ち姿、歩き方の所作、お辞儀のしかたと視線の使い方。短時間で教えられる事はこんなところだ。あとは時間いっぱいに反復練習を繰り返すのみ。今宵のニナは、欲と打算と陰謀が渦巻く大人たちのドブ沼に咲く一輪の花になるのだから。
等身大の下町小娘も、
恐ろしい目つきの怪物も、
今宵のパーティーだけは、おやすみなさい。
ニナは誰もが振り返る、最高のレディーになる。少女にはそれだけの素質と価値がある。こんな煉獄のような場所で、一生を棒に振るなんてあり得ない。
———脳裏に浮かぶのは、ファリア神父。
アガルタはいつだって、神父の影を追っている。
もはや変わり果てた自分ではあるけれど。真似る事ぐらいは、出来るから。
時間ぎりぎりまで指導しながらアガルタは、不定形な輪郭の、猫背に曲がった老人の背中を幻視していた。
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パーティー会場にはすでに、来賓を迎えるホストのウィンストン施設長、補佐役のコナー連隊長、そしてその二人とともに管理運営を任されている幹部組や教官組が待機していた。
宴の準備は、滞りなく。高い天井からは美しいシャンデリアがいくつも吊り下がり、大理石の柱には何人もの天使が天井を支えている装飾が施されている。真っ赤な絨毯には無数のテーブルと椅子が並び、その反対のエリアにはいくつもの長テーブルに色とりどりな前菜が何種類も並んでいた。奇妙奇天烈な風貌をしていながら、どの料理もエレガントな高級感を醸し出す。光り輝く宝石のようなそれは、皿の上でフォークダンスに酔いしれる妖精たちのよう。
各テーブルにも、そして長テーブルにも、種類様々なボトルの酒が用意されていた。冷やすべきものは、黄金の容器を氷で満たしたものに。常温でこそ真価を発揮するものは、その傍らに。未だ空の酒器のセットたちは、その瞬間を今か今かと待ちわびている。
そしてついに、パーティー会場の西口と東口が開放された。西口からは選りすぐりのエリート訓練生たちが、東口からは来賓として招かれた監査団や軍の使者らが入場する。ホストである幹部組が会場の北側の席に並んで拍手で歓迎する中、ふた方向から入場した来賓らが列を成していた。
これは意図的にエリート訓練生たちと来賓たちを鉢合わせる構図である。
「監査団長殿。本日はご来訪いただき、誠にありがとうございます。ごゆるりとお楽しみください。」
「うむ。そうさせてもらうよ。」
入場したポートマン監査団長の手を取り、固く握手をして訓練生が歓迎の言葉を述べる。すると監査団長は簡単な挨拶を済ませ、施設長らが座る北側の来賓席の方へ向かった。
同じ要領で何人もの来賓が歓迎され、じわりじわりと来賓席が人で満たされていく。その間、施設長らホストと既に着席した来賓たち、そして入場セレモニーの自分の役割を終えた訓練生たちは絶え間ない拍手を続けていた。
「何度見ても圧倒されますな、このセレモニーは!」
拍手の音に負けないように大きな声で言うポートマン監査団長。同じく負けないような声量で、ウィンストン施設長も返答する。
「そうでしょうとも!やるなら徹底的に!それが我々のモットーです!」
満足そうに入場セレモニーを楽しむ監査団長だが、彼とてこのような行事は初めてではない。本番は『この後』だと知っている。
未だ締め切った南扉。両腕を広げた女神の彫刻が目印の、ひときわ大きな扉が、まだ閉じたままなのだ。その扉からは、北側の来賓席まで一直線に花道の絨毯が伸びている。文字通りの『花』を迎える為の道である。招待された全ての訓練生、全ての来賓が着席した時、初めてその扉は開け放たれるのだ。
見目麗しい妖精たち、光り輝く天使たち、そして美の源泉とも見紛うべき女神たちの来場を期待して、パーティー会場は溢れんばかりの拍手で満たされるのだった。
つづく




