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赤の姫と風の精霊の詩  作者: 羽紗子


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29.鏡

本日二話目の投稿です

 湖月が魔人に襲われ、生け贄にされかけたと聞いた。今は第三神殿で魔力切れのため静養しているという。お見舞いに行きたいが、『今は危険なのでダメです』と、外出を禁じられてしまった。

 ガラスの鳩は魔力を込めないと伝言を聞けないし声を入れられないし、そもそも飛ばない。魔力を限界まで使ってしまった人にそんな魔法道具を送っても、迷惑なだけだろう。

 そこで、もう一つの魔法道具のことを思い出した。

 宝箱の蓋を開け、鳩の隣に置かれている銅鏡を取り出すと、映したい人の姿を思い浮かべる。


「……! 映ったわ!」


 以前試したときサフィは映らなかったが、同じ国にいるシルフィならと、思った通りに成功した。


「でも、なんで猫の姿なのかしら?」


 魔力切れなのに、変身したままということはありえるのだろうか。そもそも、このような姿かたちを変える魔法は前例がないので、こういうこともありうるのかもしれない。


「魔力が戻れば、元の姿に戻れるわよね……?」


 少し不安な気持ちが過りつつ、鏡に向かい話しかけた。


「シルフィ」


 掛布の下に丸まっていた猫は、ぴくりと耳を立てて掛布から頭を出し、キョロキョロと辺りを見回した。


「ネリー?」


「シルフィ、近くに水の入った器が置いてあるでしょう。その水面を覗いてみて」


 猫は言われた通りに寝台の側の小テーブルに置かれている、清い水の注がれた深皿を覗き込んだ。水面に映ったのはシルフィの顔でも、猫の顔でもなく、ネリーの顔だった。


「ネリー。これは、またサフィさまの魔法道具だね」


「離れたところにいる人と、顔を見ながら話ができる鏡なのよ。ガラスの鳩と違って、相手が魔法を使えなくても大丈夫なの」


「へえ、便利だね」

 

「魔物に襲われたと聞いて、とても心配したわ。体調はどう?」


「体調は順調に回復していて、魔力が戻るのはあともう暫くかかりそうだ。あと、なぜか猫の姿から元の姿に戻れない……でも、多分、魔力が戻れば姿も戻れるはず。それでも駄目だったら、その時考えるよ。まさか、一生このままなんてことはないだろうし――」


 自分の言葉にずーんと打ち沈むシルフィ。  


「だ、大丈夫よ。きっと、なんとかなるわ。元気を出して。前例がなくとも、きっと解決法はあるはずよ。一緒に探すから、ね?」


「すまない、弱気になったりして。私は大丈夫だ」


 あまり大丈夫そうではないが、あまりその事について言っても魔力が戻らない限りどうにもならないし、余計に落ち込むばかりだと思い、話を変えた。


「昨日の夕方、ジェイド神官が知らせに来たの。行方不明の女の子が生きていたことと、新しく精霊樹の巫女になったこと、そして、魔界の扉の話を」


「その話を、私も聞いていたよ。魔界の扉の話は衝撃だった」


「そうね、それが本当の話なら、とんでもないことだわ。それで、今日は朝から会議が行われているの。魔界の扉や精霊樹についてと、神殿のこれからの在り方についてなど。会議にはジェイド神官も出席しているわ」


「ああ、だから帰って来ないんだ」


「会議はまだ終わっていないみたい。ジルコンも出席しているから、後で内容を聞けるわ。会議が終わったら、また鏡を繋げるわね」


「頼みます」


「ええ。それでね、エルミアという子が生きていたと知ったとき、オニキス神官はとてもほっとした様子だったって、へリアが言っていたわ。彼は、エルミアが拐われた当初、血眼になって探していたらしいの」


 オニキス神官は、彼女の失踪を自分のせいだと思っていたかもしれない。そして、探しても見つからず、死んだと思われてからは、人知れずずっとそのことを背負っていた。けれど、生きていたと知らせがきて、彼の肩の荷はようやく下ろされたのだ。


「エルミアが生きていて、本当に良かった」


「ええ、本当に。そういえば、エルミアは私とそっくりと聞いたけれど、どのくらい? サフィと同じくらいかしら」


「サフィさんに会ったことはないから分からないけれど、姿はよく似ていたよ。でも、雰囲気はちょっと違った」


「ふーん、私も、会ってみたかったな。もしかしたら、友達になれたかもしれない。でも、彼女は今は精霊樹の元にいて、近づくことも出来ないのね」


「この国の精霊樹は、魔の森という深い森に囲まれていて、入ったら出られず、精霊樹の元へ辿り着ける者はいないと聞いたけれど、エルミアだけは辿り着けたんだね」


「きっと、精霊樹に呼ばれたんだわ。そんな気がする」


「樹に巫女として選ばれたのか」


「彼女なら、きっと治してくれるって樹が思ったのに違いないわ。単なる想像だけど」


「実際、そうかもしれないよ。樹が、彼女に助けを求めていたんだ」


「きっと、そうね」


 二人は笑い合ったが、猫は口元は変わらず、目元が細まった。


「そういえば、町で森に関する噂があったわね」


「最近、魔の森の手前に、舟形の木に乗せられて放置されている遭難者がいることがよくあるって話?」


「そう。それをしたのがエルミアなのではないかと思ったの。彼女なら、森に迷い込んだ遭難者を助けることが出来たんじゃないかって」


「彼女以外に考えられないな」


「もし、森へ行ったとしたら、エルミアに会えるかしら」


「まさか、そんな危ないことするつもりじゃ」


「うふふ、冗談よ。そんな一か八かみたいな賭けには出ません。それに今は、外出を禁止されていて、近くの町にすらも行けないのだもの。森なんてとても行けないわ」


「……心臓に悪い冗談はやめてよ」


「ごめんなさい。そろそろ、通信を切るわね。あまり長く話していると、シルフィに負担でしょうから」


「あ、ちょっと待って。調べてほしいことがあるんだ。といっても、簡単には知り得ない情報だから、答えが見つからないのが当たり前みたいなことなんだけど。でもどうしても気になって仕方なくて」


「それで眠れなくなったらますます元に戻るのが遅くなってしまうわね。いいわ、どんなこと? ダメ元で調べてみる」


「それは――」


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