67.危機一髪
アデリナは続ける。
「王族は血を大事にするの。だから完全なる異民族は排斥するけど、少しでも血が近いなら親戚筋の面子を保つため、守るものなの。どうなるかは分からないけど、処刑停止を直談判してみる理由にはなるはずよ」
クロエはおうむ返しした。
「幽閉って、どのようなことになるんですか?」
「要は、終身刑よ。王宮に閉じ込めたりもあるけれど、僻地に島流しをするケースもある。一生監視され、城とその敷地内でしか暮らせないようになるわ。でも、命は助かる」
それでは、もう二度と会えなくなるかもしれない。クロエは落ち込んだが──それでも、と顔を上げた。
「それでもいいです。アルベールが生き永らえられるなら……」
「そうと決まれば、すぐにでもオディロンを捕まえて話をしなければならないわ」
アデリナはすっくと立ちあがった。
「時間がない。すぐに行くわよ……!」
クロエとアデリナは部屋を出て、王族のいる三階へ上がる。
王の部屋を開けたが、オディロンはいなかった。
「……ここにはいない……」
部屋を出て周囲を見渡すと、心なしか城の中の衛兵が忙しそうに行き来している。
アデリナは衛兵のひとりに声をかけた。
「ねえ、オディロンを知らない?」
「オディロン様なら、地下三階に行かれましたよ」
クロエはぞっとする。
地下墓地だ。
アデリナは舌打ちをする。
「……処刑場ね」
クロエは気を失いそうになったが、何とか耐えた。
「アデリナ様、処刑って……」
「ヴァルテルミの処刑は、薬殺よ。王族の場合は牢屋を密閉して、地下三階から毒煙を焚くの。遺体は数日後に回収され、地下墓地に埋められるわ」
天使のラッパは、地下牢の空気口に繋がっていた。あれが毒を牢に送り込むのだ。
二人は速足で地下へと歩き出す。
すると、地下から怒号が聞こえて来た。
「てめえ!どういうことだ!!」
声は、地下三階からする。既に地下墓地には、煌々としたランプの集団がいた。
クロエが掻き分けて行くと、そこには顔面を殴られ床に転がっているライナーがいた。
「ずっとここを掃除していたお前が犯人だろ!毒薬庫の鍵を寄越せ!!」
別の衛兵がライナーを蹴っている。暴力で吐かせようとしているようだ。
ライナーが叫ぶ。
「だーかーらー、俺じゃねえ!さっきあんたら俺の身ぐるみ剥いだけど、持ってなかっただろ!」
「白々しい、どこへ隠したか言え!」
「おい、一般市民をこれ以上ひどい目に遭わせたら、新聞屋にタレ込むぞ!」
それを聞いた衛兵たちが一瞬怯んだ隙を見て、ライナーはすっくと立ち上がった。力だけでねじふせようとしても、彼ほどの口達者相手だと一介の衛兵では下手に強く出られないようだった。
すると、近くでオディロンの声がした。
「こやつのことはもういい。城中ひっくり返して毒薬庫の鍵を探せ!」
「はっ」
「はー……毒薬がないと本日中の処刑は出来ないか……」
クロエは自分のポケットにまだ鍵が入っているのでどきどきした。が、すぐさまアデリナが王の前に進み出る。
「……陛下」
「お?何でアデリナがこんな所に」
「お話があります、陛下。今お時間よろしいですか?」
「毒薬庫も開けられないことだし、いいだろう。手短に話してくれ」
「実は……アルベール王太子が、私の親戚筋であることが判明しました」
オディロンは目を丸くした。
「えっ!?」
「アルベールのひいおじいさんが、前タルナート国王のいとこだったんです。つまり、私の遠い親戚ということになります」
「おいおい……急に何だ。初めて聞いたぞ?」
「そういうわけで、いったん処刑は中止にしていただけないでしょうか?」
オディロンはため息を吐いた。
「本当なのかそれは……」
「繋がりがあるのは、アルベールの母君の血筋だけです。こちらを辿って行くと、我がタルナートから婿入りした王族がいることが判明しました」
「……証拠は?」
「あります……明るいところでご確認していただいてもよろしいでしょうか?」
オディロンは落ち着かない様子でランタンに照らされるアデリナの肩を抱いた。
「分かった、行こうか……」
クロエはライナーの前にしゃがむと、小さく呟いた。
「……ありがとう」
ライナーは腫れた顔で笑う。
「これでラベイユに戻って来てくれるよな!」
クロエは無表情で、ライナーにデコピンする。
「いてっ」
クロエは立ち上がると、ライナーを置いてアデリナの後ろを追って行った。




