66.家系図の謎
「あら、タルナートの家系図じゃない。これが、どうかしたの?」
どうかしたのかと問われても、クロエにもその辺りの事情はよく分からないのだった。
アルベールが大事にしていた様子を見るに、平民にはうかがいしれない解決策がこの家系図にある可能性が高い。
「あの、隅々まで見て下さい。何かお気づきになりませんか?」
アデリナはじっくりと家系図を読み込んだ。
「こっちにネマラートの家系図があるわね。で、こっちには……タルナート国王の家系図があるわね」
クロエはどきどきしながらアデリナの気づきを待つ。
「複雑な家系図ね……なんでこんなものを平民のクロエが持っているの?」
「あのう……その家系図に、アルベール王太子の名がありますよね」
アデリナは頷いた。
「ああ、あった。それに……私の名前もあるわよ」
「ということは、お二人にはどこかで血の繋がりがあると思われるのですが……」
アデリナは、あみだくじのように家系図を遡る。
「あっ。アルベールのひいおじいさんが、前タルナート国王のいとこだったのね。知らなかったぁ」
「その当時は、敵国ではなかったのですか?」
「そうみたいね。100年以上前の話だから。で、これがどうかしたの?」
「分かりません。でも、これはアルベールが大事に……あっ」
クロエが慌てて口をつぐむと、アデリナは全てを察した。
「やっぱり、クロエはアルベールに恋をしていたのね」
「……!」
「そこで彼が囚われたのでケーキ作りを頑張って、王宮に入り込んだのね……」
それは時系列が違うが、ケーキ作りを頑張ったのは確かなのでそう思って貰っても間違いではないだろう。
「なんて健気なの……悲恋だわ」
アデリナはそう呟くと、泣きべそをかいて悲劇のヒロインに肩入れした。クロエは事態がどう転がるのかを注意深く見つめる。
「家系図……うん、そっか、確かにね……」
アデリナは更に注意深く家系図を眺めた。
「あなたたち平民には分からないかもしれないけど、王侯貴族っていうのはとても〝血〟を大事にするのね。弱小王家や貴族こそ、そうなの。だからアルベール王太子は〝血筋〟を証明できるようにこれを持っていたのよ。そしてどの血筋も、お家断絶を避けようと頑張っている。逆を言うと、つまり血筋のない成り上がり王侯貴族は討伐されやすいの。だから貴族は婚姻関係を結ぶことに躍起になるわけ」
クロエは、うんうんと頷きながら話を聞いた。
「ここで重要なのは……家系図を見て初めて知ったけど、アルベールだけ他のご兄弟との母親が違うってことなのよ。アルベールの他の兄弟は、ネマラート出身の母君なのね。で……アルベールのお母様だけは、タルナートと繋がりがあるっていうことが分かるの。アルベールのお母様の血筋を辿って行くと……アルベールのひいおじいさまがタルナート出身だったけど、ネマラートの王女に婿入りして、その王女はネマラートの前王を産んだみたいね。私ったら、全く存じ上げなかったわ」
クロエは不思議に思った。
「あの……王族は家系を大切にされるのですよね?ということは……アルベールはアデリナ様の遠い親戚ということになりませんか?」
アデリナはきょとんとした。
「ええ、まあ確かに……そうとも言えるわね」
「わっ、私……!」
クロエはアデリナに縋った。
「アルベールを助けたいんです!彼の命を救うために、協力していただけませんか!?私も、できることは何でもやります!どんな汚いことだってやります!」
アデリナは息を呑んでいる。
「落ち着いてクロエ。私も、どうやったらアルベールを救えるか分からないのよ」
「……!」
「そうねえ。死罪を免れるだけでいいのであれば、方法がないわけではないわ」
平民のクロエには何も分からないが、アデリナの頭にはいつくか方法があるらしい。
「方法……」
「長い時間をかけて、彼に罪を償わせるのよ。まあ、彼の戦時の年齢からして罪なんか犯してないんだけど……私の親族だということが分かった今なら、ひとつだけ方法がある」
クロエは頷いた。
「それは、どのような……」
「一生、幽閉よ。これならば、あるいは……」
クロエはぽかんと口を開けた。




