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王都を追い出されたので山奥カフェ始めます!〜ようこそ、全ての人の夢を叶える小さなカフェへ〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!


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4.クビ、ですか?

「クビ……?」


 クロエが問い返すと、ライナーは小気味良く肩をゆすって笑った。


「ああ、そうだ。ちょうどよかった。従業員を一人減らそうと思っていたところだったからな」


 クロエは一瞬で察した。


(……見せしめだ)


 クロエは、逆らった見せしめにクビにされたのだ。


 他の従業員も、物申せなくなるように──


 案の定、三人の従業員は青くなってうつむいてしまった。


 無理もない。


 全員が住み込みで働く孤児なのだ。


(ここを追い出されたら、職どころか、住まいまで失ってしまう)


 ライナーにとって、従業員は仲間ではなかった。


 駒だ。


 そして、クロエは──彼らを脅す道具として、ここで使い捨てにされたのだった。


 ライナーが、ざまあないというように笑ってこちらに顔を近づけて来る。


「俺の方針に従えないなら出て行け。女だから、若いからって容赦しない」

「……」


 クロエは顔を上げると、負けじとライナーを睨み上げた。


 ライナーの表情が、少し警戒の色に変わる。どうやらこのひとまわり小さく大人しそうな小娘が、反抗心をむき出しにして来るとは思いもしなかったらしい。


 クロエは言った。


「ふん、違うわ。あなたは、私が女で、若いから追い出すのよ。力でどうにでも出来る女だから。反抗して来ない小娘だから。男の力には負けるから!」


 少女の中に、かつてごみ漁りまでしていた、大人に「死にぞこない」と蹴られ揶揄されてきた不屈の孤児の血が再び湧き上がった。


「ライナー、いつかあなたを絶対後悔させてやるわ。人をみじめにさせようとした人間は、いつかみじめにされるってことを──最期に必ず人生の採算がとれるっていうことを──骨の髄まで思い知らせてあげる!」


 ライナーは、あえて余裕の表情を浮かべて見せた。


「ほざいてろよ。おまえはもう、うちの店とは関係ない」

「……」

「荷物をまとめて出て行け。まあ、孤児だったお前の行く場所など、どこにもないがな」

「……」


 クロエは三人の従業員に頭を下げた。


「今まで、お世話になりました」


 三人は、何か許しを請うように少女を見上げる。


「……またいつかどこかで会おうね、みんな」


 しかし今は誰も、彼女を引き止める勇気を持ち合わせていないようだった。


 クロエは震える唇を噛みしめながら、厨房を出て行く。


(……こうなったからには、仕方ない……)


 部屋に戻ったクロエは少ない荷物をまとめながら、腹を決めた。


(生き残ってやるわ。またどこかの店に雇ってもらって──それが叶わなければ最悪、ごみでも何でも漁って生きてやる)


 そう思う一方で、


(こんな店で働くのは、無理よ。私やっぱり、王様や貴族よりも、お菓子作りで街の人に街の一員として認めてもらいたかったから……)


 ということにも気づき始めた。


(辞めさせられたのは確かに不幸だったけど、残された三人はあの最低男を主としてこれから働いていかなくてはならない。そっちの方が、きっと辛いわ)


 これはクロエの偽らざる本心で、決して負け惜しみではなかった。


 クロエはひっそりと〝ラベイユ〟を去る。


 誰も、彼女を追いかけてはくれなかった。




 そんなクロエが足を向けた先は、聖母教会だった。


 日が落ちた教会は、ぴたりと扉が閉められている。


 ノックをすると、予想通りエメが出て来た。


「あら、クロエ。どうしたの?こんな時間に」


 クロエは、エメの顔を見るとほろりと涙を流した。


「ううっ。エメ先生ぇ……!」

「あら、荷物まで持って……ただごとじゃないわね、入りなさい」


 クロエは応接間に通された。


 修道長と並んでソファに座る。


「ねえ、何があったか教えてちょうだい」

「うっ……」


 クロエは涙を拭いながら、ライナーから受けた仕打ちを洗いざらい話した。全てを聞き終えると、エメは目を見開く。


「そんなことになっちゃったのね?でも大丈夫よ。だってあなたは、ウェディングケーキまで作れるような一人前の職人になったんですもの」


 エメはクロエに、失ったものではなく、持っているものに対して目を向けさせるべく説いた。


「得意なことがちゃんとあるんだもの、何の心配も要らないわ。しばらく教会に寝泊まりしてていいから、次の仕事を探しなさい」


 クロエは何度も頷いた。


(そうだ……何もかも失ったわけではない)


 技術は、誰にも盗まれないものなのだ。生きている限り──


「ありがとうございます、エメ先生。ちょっと元気出ました」

「そうよそうよ、その意気よ。で、お暇な時でいいんだけど……たまに孤児院のためにお菓子を作ってくれると助かるわ」


 クロエは肩をすくめて笑う。


「……先生が食べたいだけでは?」

「ふふっ、バレた?」


 クロエは冗談を言い合える場所がまだあったことを思い出し、ほっと肩の力が抜けた。


 二人は応接間を出る。


「空き部屋に案内するわね」


 エメは屋根裏部屋にクロエを案内した。


「ちょっと今は物置になっちゃってるけど、ベッドはきれいだから」


 クロエはどさりと荷物を置いた。


「すみません、しばらくお世話になります」

「いいのよ。とりあえず、次のお仕事を見つけられるように頑張ってね」

「はい!」


 エメが部屋を出て行く。クロエは屋根裏の小さな窓から星空を見上げた。


「そうだわ。私……こんなところで心折れるわけには行かないのよ」

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― 新着の感想 ―
ふふふ…ざまぁの香りが仄かに漂ってきましたな!
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