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26.幸運のライナー

 一方その頃、ライナーは〝ラベイユ〟で使用する食材を捜し回っていた。


 あろうことか、父エルマーは仕入れ先を誰にも明かしていなかった。かろうじて仕入れ値だけは把握できたものの、結局材料は全て王都で購入することを余儀なくされた。


 王都で買う材料は今までより高くついたが、今までの貯蓄のお陰で何とか仕入れ先の確保は叶った。


 今日もライナーは事業に邁進する。従業員は言うことをよく聞いたし、レシピ通りに全てを作った。ケーキの見た目も変わらない……はずだ。


 それなのに──


「……おかしい」


 ライナーは頭を抱えた。


「どういうことだ?日に日に注文が減っている……」


 単価を上げ、王侯貴族向けに作ったはずの菓子類が、売れていないのだ。


「レシピ通りに作っているはずなのに」


 エルマーが残したレシピは、恐らく自分がいなくなっても困らないように書き残してあった。この通りに作ったのに、なぜ売り上げが下がるのだろう。


「一般販売を再開するか……?しかし、従業員の前で一般販売の停止をぶちあげた手前、すぐに方針を撤回するのはいかにも〝負けた〟感じがして気が進まないし……」


 その時だった。


「失礼いたします。ライナー様は本日御在宅でしょうか?」


 事務室に、妙に華美な服装の御者がやって来たのだ。


「……私だが?」

「陛下から手紙を預かっております」

「……陛下から!?」


 ライナーは震える手で手紙を受け取ると、封を開けた。


 王族の、美麗な字を読み下す。


 ライナーは勢いよく立ち上がった。


「……よしっ。神はまだ俺を見捨ててはいないぞ……!」




 いつもの作業が終わると従業員たちは事務室の前を素通りし、二階へ戻って行った。


 ローズ、ブリス、ドミニクの三人は、ひとつの部屋に集まって、膝を突き合わせて話す。


「結局、ライナーが跡を継いでから売り上げは下降線だな」

「やっぱりクロエを解雇したせい?」

「いや、違うな……」


 ブリスは言った。


「過去のケーキと比べ、今のケーキは明らかに味が落ちている。ライナーが、エルマーさんの懇意にしていた仕入れ先を全部変更したようなんだ」


 ローズはやれやれと首を振った。


「どういうこと?以前の仕入れ先から全部断られたってわけ?」

「それが、違うらしい。前の仕入れ先がエルマーさんによって秘匿されていたらしく、まるで見つからないというんだ」


 ドミニクはそれを鼻で笑った。


「ふん。秘匿されていたなんて、自分の非を誤魔化すための嘘に違いない。きっと〝ラベイユ〟の名を笠に着て、取引先に横暴をはたらいたんだろう。クロエを一方的に解雇したようにな」


 ローズがその名を聞いて眉を曇らせた。


「あれからクロエはどうなったのかしら?全く噂を聞かないわ」

「俺も忙しくて、最近外に出ていないからな。元気でいてくれればいいけど」


 四人で働いていたあの楽しかった時期を、三人は懐かしく思い出す。


「跡継ぎがライナーでさえなけりゃな……」


 すると、ローズが急にこんなことを言った。


「二人には悪いけど、私、そろそろ転職しようかと考えているの」


 男性二人は顔を見合わせた。


「え……マジで……?」

「だって、ライナーが来てからこの店は明らかに先細りしてるじゃない。〝ラベイユ〟はいつか格落ちする。私の人生は誰かのものじゃないし、納得の行くお菓子を作るパティシエール人生を送りたいのよ」


 ブリスは頷いた。


「確かに、俺たちはライナーには何の義理もないしな……」

「でしょう?みんなで足並み揃えて、辞表を叩きつけてやりましょうよ。そのためにも、全員すぐに転職活動を始めるべきだわ」


 などとこそこそ話し合っていると──


 コンコン。


 戸が叩かれたので、全員慌てて口を塞いだ。


 ライナーが入って来たのだ。


「おい、みんな。朗報だ」


 三人は互いに目配せし合う。


「今日、なんと陛下から手紙が届いた。来週の舞踏会に、参列者へ我々のケーキを振る舞いたいそうだ」


 三人は目を見開いた。王から直々に呼ばれたのは、これが初めてのことだ。


「そして──なんと、陛下は私たちを王宮へ招待してくれるとのことだ!特に王妃陛下は、うちの蜂蜜ケーキが大好物らしい」


 それを聞いて、三人は思う。


(確かに光栄なことだが、陛下。代替わりした今になって言うのかよ……)


 ライナーより、エルマーを王宮へ連れて行ってあげたかった。が、今更そんなことを言っても仕方がない。


「そうですか……」

「これできっと、また売り上げは上がるぞ。何せ、舞踏会には各地域の貴族たちが呼ばれるのだからな!」

「……」

「ぬかりなく準備しておけ!」


 扉が勢いよく閉められる。


 三人は、どこか白けた表情のまま目配せし合った。

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