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18/30

18.クロエの即席喫茶店

 クロエは、宿屋に足を運ぶ。


(確かコレットさんが、お菓子が欲しいって言ってたはず)


 給仕を続けているコレットが手隙になったのを見計らって、クロエは尋ねた。


「すみません、今お時間よろしいですか?」

「あら!?クロエじゃない」

「早速ギヴァルシュを作ったので、持って来たんです」


 クロエは籠の中に入っているお菓子を取り出し、開けて見せた。


「どうぞ、おひとつ食べてみてください」

「えっ、いいの~?」


 コレットは早速ひとかけらを口に含んだ。


「わっ、美味しい!それに懐かしい。これひとつおいくら?」

「ひとつ100デニーです」

「えっ。高っ」


 先ほどの女性たちと、全く同じ反応だった。

 

「やっぱり、価格を下げないと駄目なんでしょうか……」

「あー……砂糖も蜂蜜も高いから、ひとつ100デニーじゃ採算取れないわよねぇ」


 クロエが肩を落としていると、ふとコレットが言う。


「ちょっと相談なんだけど、クロエはこれ以外にもお菓子を作れるかしら」


 クロエは首を傾げた。


「は、はい。私は何でも作れます。ただ、今は材料を買うお金がなくて……」

「私が思うに、やっぱりこれを単体で売るのは難しいと思う。でも、他の何かと組み合わせたら、売れそうじゃない?」

「えっ……?」


 首を傾げるクロエに、コレットは商人の顔をして言った。


「例えば、紅茶やコーヒーと抱き合わせて売る……」


 クロエは、どきりとした。


「飲料と、抱き合わせで?」

「つまり──うちの食堂で、セットメニューとして販売しないかって言ってるの。どう?」


 確かに、セットメニューで100デニーなら割高に感じないかもしれない。クロエはみるみる顔色を取り戻した。


 コレットはウインクして見せる。


「いいアイデアでしょう?」

「でも、私は紅茶もコーヒーも持っていなくて……」

「あー、それならうちで出すよ。もちろん無料」

「!!」


 クロエは天にも舞い昇る気持ちになった。しかし、コレットは話を封じるように人差し指をずいと前に出す。


「ただし、条件がある」


 クロエはごくりと唾を飲み込んだ。


「条件……?」

「ああ。協力する代わりに、うちでパウンドケーキを焼いて行ってくれよ。材料は揃ってる」

「えっ……!」


 思わず(そんなことでいいの?)と口に出かかったが、クロエは飲み込んだ。


「協力します、助かります!」

「じゃあ、交渉成立。お菓子を売る時に、うちの宿で紅茶かコーヒーが一杯無料で飲めるって言っておいて」

「ありがとうございます!」


 クロエは勢い勇んで、再び町の大通りに出た。


 今度は雑貨店のまえでたむろしている四人の若い女子に話しかける。


「ギヴァルシュはいかがですか?ひと袋100デニーです」


 少女たちは顔を見合わせた。


「ナッツのお菓子ね。食べてみたいけど、高いわ」

「半額にならない?」

「あ、あの……」


 クロエは勇気を出した。


「今こちらのギヴァルシュを買うと、宿屋で紅茶かコーヒーを無料でご注文いただけます」


 少女たちは再び顔を見合わせた。


「確かに、喋って喉が渇いたわね」

「紅茶とコーヒーがタダ?すごいね。どっちを宿屋で頼んでも30デニーするもの」

「場所代と考えれば、お得かもね」


 女子達は顔を突き合わせてきゃっきゃとはしゃいだ。


「じゃあ、行ってみようかな」

「ありがとうございます!」


 クロエは四人を宿屋へ連れて行った。


(は~、良かった)


 四人は食堂へ腰掛けると、コレットを呼ぶ。


 紅茶とギヴァルシュのお菓子で、少女たちは再び話に花を咲かせ始めた。


 コレットが、クロエの脇を小突く。


「……やるじゃん」

「えへへ。また、呼び込みして来ますね!」


 クロエは再び町の大通りに出ると、再び女性を中心に声をかけまくった。





 コレットの協力があって、一日で10個が売れた。


 まずまずの出だしだが、思ったより売れ行きは悪い。


 気落ちしているクロエに、コレットが声をかけた。


「お客さん、みんな喜んでたよ!やっぱり味は間違いなさそうだね」


 王都の店で行列のできるお菓子を作り続けていたクロエには、ちょっと予想が外れて悲しかったが──


「美味しいって言って貰えたなら、よかった」


と気を取り直した。


「さてと。じゃあ早速、パウンドケーキ作りを頼んでもいいかな?」


 コレットの手招きにつられるように、クロエは厨房へと入って行った。


 そこには既に、調理器具と材料が置いてある。小麦粉、常温のバター、卵。しかし、それに対し砂糖はほんの少ししかない。


「これがパウンドケーキの材料ですね?」

「そう。でも、砂糖がほとんどないんだよ。あんまり甘くないケーキになっちゃうかな」


 クロエはうーんと首をひねって考える。


 確か、ここのメニューにあったフルーツサラダの中に、いいものが入っていたはずだ。


「コレットさん。……レーズンってありますか?」


 コレットは頷いた。


「あっ、それならある!」

「レーズンを入れると、自然な甘みがつきますね。あともう少し甘味を足したいなら、甘いお酒などを少量混ぜてもいいかもしれません」

「あ、いいね、それ!」


 コレットは奥から色んな酒を持って来た。


「ほら、酒ならあるよ。ラム酒にブランデー、カルヴァドス」


 クロエはくんくんと匂いを嗅いだ。


「今回はラム酒で行きましょう」


 クロエは、久々に握った調理器具に心が踊る。


 材料を正確に計る。ここを間違えると、全てがおしまいだ。


 バターと砂糖と卵をボウルの中で混ぜ合わせる。更に小麦粉をふるいにかけて入れると、へらでさっくりと混ぜ合わせた。あまり練ってしまうと、固くなるので手早く混ぜる。


 レーズンとラム酒も投入し、混ぜ合わせる。


 長方形のケーキ型四個に生地を流し込み、オーブンに入れる。


 あとは、焼き上がりを待つだけだ。


 コレットが興奮気味に声を上げた。


「焼き上がりが楽しみ!」

「パウンドケーキを焼くの、久しぶりなんです。上手く出来るかな……」


 などと話し合っていると、奥から店員が声をかけて来た。


「猟師さんが、そろそろ帰るって迎えに来てますよ」


 クロエはコレットと顔を見合わせた。コレットは、ウィンクしながら言う。


「クロエ。まだ焼き上がらないみたいだし、今日はここに泊まって行ったら?」

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