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16.砂糖は高級品

 二人が食事を終えると、コレットが食器を下げに来る。


 クロエは彼女に言った。


「ごちそうさまでした!お肉、とっても美味しかったです」

「ふふっ。実は今日のお肉はね、昨日猟師さんから買い付けたものなの」

「!そうだったんですか?」


 クロエが水を向けると、猟師は満足そうに頷いた。


「ああ」

「だからわざわざここに誘ったんですね……」

「まあね」

「でも、こんな美味しいお店を知れたから良かったです」


 コレットは猟師をつついた。


「あんた、女の子を誘えるようになったの?やるじゃん」

「違う。そんなんじゃなくて、この人はカルルの乗客」

「ふん。どうだか……」

「猟師さん、時間大丈夫ですか?」

「ああ、そろそろ行かないとな」


 彼は何かを誤魔化すようにそう言って、テーブル上で代金を支払った。


 コレットがクロエに話しかける。


「お菓子、期待してるよ。持って来てくれたら今度はお昼ご飯おごってあげる」

「本当ですか!?」

「みんなお菓子を食べたがってるけど、蜂蜜も砂糖も、物価が高騰しておちおち一般家庭で買える値段じゃなくなってるの。この片田舎では、お菓子はこのランチよりも貴重なのよ」

「……え?」


 クロエはそれで気がついた。


 王都と田舎町ブレニッツでは、物価に二倍以上の開きがあったのだ。


(ここのランチが格安なのは、住民が出せる限界がこれぐらいだからなんだ)


 王都で200デニーの砂糖なら安く感じるが、田舎の一般家庭でその値段を捻出するのは非常に難しいのだ。


 田舎ならではの困難がそこにある。


「そうだったんですね」

「本当に、ブレニッツでお菓子を食べられるのは結婚式ぐらいになっちまったよ」

「……」

「だから田舎の甘味はほとんどフルーツ頼みさ。今、ブレニッツではオレンジの収穫が始まってるんだよ」

「へー、オレンジ……」


 今回は砂糖と蜂蜜を購入したが、次はフルーツを探してみてもいいかもしれない、とクロエは思った。


「オレンジのドレッシング、おいしかったです」

「気にいってくれた?良かった~」

「またうかがいます」


 二人は外に出た。


「さあて、帰るかぁ」


 係留の縄を外し、カルルの背に乗り込む。


「よし、行くぞ」


 竜は、ふわりと一番高い太陽を目指すように飛び上がった。


 


 クロエは廃屋に戻った。猟師は忙しそうに、再び空を飛んで行く。


 彼の背中が見えなくなるまで手を振ると、クロエは静かな廃屋の中で台所に向かい合った。


「……よしっ」


 まず、鍋に砂糖と蜂蜜を入れて熱し、ねっとり飴色になるまで混ぜる。


 隠し味に、塩を少々。


 ミックスナッツを投入する。気が済むまでからめると、甘い香りが部屋中に充満した。


 オーブンの板の上に乗せて行く。


 あとは冷やし固めるだけだ。


 それにしても。


「これ……本当に素朴なお菓子ね」


 この山ではこれを配る祭りがあったらしいが、王都では見たことがないのでよく分からない。


「どんな風に配っていたのかな」


 クロエは想像してみる。


「きっと、子どもたちはこの日を楽しみにしていたに違いないわ」


 保存がきくお菓子だから、一気に食べずに隠し持ったりしたかもしれない。もっと特別な友達にあげてしまったかもしれない。


「そしてその味が、いい思い出と結びついて……大人になっても思い出すの」


 一通り妄想を終えて、クロエは急に力が湧き上がるのを感じた。


「これを、みんなに売らなきゃ。でもどうやって売ろうかなぁ……」


 パティシエールの仕事は、お菓子を作って終わりではない。


 どのようにディスプレイして、どのようにラッピングして売るのかまで考えなければならない。


「箱とか……包み紙とか……そういうのは、ここにはないし……」


 クロエは、これがお祭りで売られているところを想像した。


「あるとすれば、アレかしら」


 クロエは外へ出ると、何やら草むらを探し始めた。


「あったあった」


 千切ったのは、ほおの葉っぱだった。


「これなら包装紙の代わりに出来る」


 ほおの葉を洗って、乾かす。葉っぱに切れ込みを入れると、ギヴァルシュを数個入れ、折りたたんで葉柄の部分を切れ込みに入れ込んで留めた。


 これで簡易的な包装の代わりだ。


 王都のきらびやかな包装には程遠いが、もち運びと衛生面からこれぐらいが限界だろう。


 クロエは夢中で葉を折った。


「よし、20包ぐらい出来た」


 町の面々に顔を覚えて貰っている内に、町へ売りに行きたい。


「また猟師さんに話しかけなきゃ……出世払い……出世払いで……はぁ」

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