ラストフェイズ:ダァトの部屋2
……さて。
「じゃあ早速だが……人間の体の材料を一式出せ。当然幻影で誤魔化してなんかない、純度の高い素材で」
「うう……まあ、その程度なら……」
そうして、燕のお願いラッシュが始まった。
とはいえ、ある程度は皆で考えて決めたものである。色々と相談して決めた内容なので、安心安全!そして皆が笑顔になれること請け合い!バカも既に、にっこにこ!
……そうして、ちっちゃい悪魔は、何やら不思議な物体を出してくれた。それを見て、燕は『よし』と頷いた。これが人間の体の材料、であるらしいが……。
「……こうやって人間の体って、造るんだね……あははは……」
「うん」
燕は、それをこねこねやりながらデュオそっくりの体を作り上げていく。まあ、つまり……健康な『洞田貫彰』の体である!
「ええー……これ、得意不得意、出ません?私がやったら多分キュビズムみたいな顔になりますよぉ……」
「なる。俺は得意だったから、苦手な悪魔の代わりに人体形成を請け負って得点稼ぎしてたこともある」
「そっかぁ。燕、班の子が苦手で食べられない給食、代わりに食べてあげてたこともあったもんねえ」
「そういう話?ねえ、そういう話なのぉ?これぇ……」
まあ、何はともあれ……こうして、人間の体が1つ、できた。デュオは『体がある……』と複雑そうな顔をしているし、タヌキは『私の死体があるみたいですねえ……』と複雑そうな顔をしているし、七香は七香でやっぱり複雑そうな顔をしている!皆、複雑な気持ち!
「それから、宇佐美光の体も出せ」
「えっ……ああー、ううー……し、仕方ないな……」
更に、『宇佐美光』のボディも出してもらう。これについては、悪魔側でももう準備してあったのだろう。何せ、このゲーム、本来ならばデュオの1人勝ちであったはずなので。
ということで、ぽん、と、ちょっと見覚えのあるボディが出てくる。
……バカは、『わあ、ちょっと天城になりかけの陽だあ……』と、何とも感慨深くそのボディを見つめた。デュオは『あの、あんまり見つめないでくれるかな……』と、ちょっと恥ずかしそうにしていた。でも見ちゃう。気になるのだ!
「で、魂の入れ替えは俺の得意分野だから俺がやる」
「えっ!?自前でやるのか!?い、いいのか!?我がやってもよいのだぞ!?」
「自分で簡単にやれることにカードは使わない」
……そして、いよいよ、魂の入れ替えが行われる。
タヌキの魂がタヌキボディから抜き出されて、新たに作られた新しい人間ボディに。
デュオの魂は元々の、『宇佐美光』のボディに。
「生きてる人間からも魂って抜けんのねえ……」
「合意や契約があればな。今回は合意があるから楽だ。抵抗も無いし」
燕は『よいしょ』と、それぞれの魂をそれぞれのあるべきボディへ突っ込み……そして。
「あー……この感覚、慣れないな」
やがて、むくり、と、『宇佐美光』が起き上がる。
……それを見て、バカは『わあ!天城になりかけの、陽だ!』とまた強く思う。ボディ単品で見てもそうだったが……中に魂が入って、そしてそれが動くことによって、いよいよそのかんじが強くなったのである!
「うおおおおおお!デュオぉおおおお!……ん!?陽って呼んだ方がいいのか!?」
「いや、あー……『デュオ』でいいよ。じゃないと樺島君、混乱しそうだし。俺は『陽』とも『天城』とも違うってことで理解してもらった方がいいだろうし」
「そっかあ!じゃあデュオ!おめでとう!おめでとう!」
「あー、うん、ありがとう……でいいのかな?あははは……」
デュオは苦笑しながら、バカが差し出した手を握り、振った。バカはちょっぴりこれを嬉しく思う!デュオが元の体に戻って最初に握手したのは、バカなのだ!
……そして。
「……で、タヌキはどうなんだろう。体に不具合とか、無いといいんだけれど」
デュオがちょっと心配そうに覗き込むと……さっきまで『デュオ』の体だったのとそっくりそのまんまなそれが、もぞっ、と動いた。
「ああー……人間ボディだぁー……ううーん、なんだかものすごく久しぶりで、ものすごく変なかんじですねえ……」
……そして、さっきまでの『デュオ』であれば絶対に言わないようなことを言い、『デュオ』であれば絶対にやらないような仕草で手を握ってみたり、首を回してみたり、立ち上がってその場でぴょこぴょこやったりしている!
これを見て、バカは大いに『ぽかん!』としてしまった!だって……あまりにも、違和感が、すごい!
「あー、でも健康だぁ……健康な、人間の体……やったー!私!久しぶりに!健康な人間になれましたー!やったー!」
タヌキはそれはそれはもう、嬉しそうに飛んだり跳ねたり、軽快に喜んでいるのだが……忘れてはならない!これが、デュオの見た目であることを!
「わ、わああ……デュオさんの体が『やったー!』とか言ってる……」
「す、すごいね、真理奈ちゃん……違和感が、すごいね……」
「すごいよね、ヤエちゃん、これ、ほんと、なんか、すごいね……」
女子2人が、慄いている。その後ろでは五右衛門も『やだぁー……』と言っている。四郎は『こういうのに慣れちゃあいるが、それでもすげえなこりゃ』と感心している!
……そして、七香は。
「あっ!七香さーん!私、戻りました!人間ボディに戻りましたよー!」
非常に嬉しそうにはしゃぐタヌキを見て……。
「……少し、ちゃんとしていてくれるかしら」
「エッ!?あっ、はい!」
ちょっと冷たい声を浴びて、タヌキは『ぴゃっ!』と姿勢を正した。……そんなタヌキを、七香はじっと見つめる。本当に、じっ、と、見つめている!
タヌキは『な、なんで私、そんなに凝視されてるんです!?やっぱり、デュオさんが中に入っていた印象が強いからです!?アッ!そのデュオさんが入ってるボディと七香さんは恋人同士だったんでしたっけ!?だとしたら私って、一体、何!?』と冷や汗をだらだら流し始め……。
「……あなたと『再会』した時には、ああ、随分変わってしまったのね、と思ったけれど……」
ぽろ、と、七香は零して……笑った。
「……『あなた』は、何も変わってないのね!」
ころころと笑う七香を見て、タヌキは『あ、はい。まあ、私はあんまり変わりなく……あっ、もしかして、成長が無い、みたいな話だったりします……?あ、そういうかんじでもない……?』と困惑しているが、七香は只々楽しそうにころころ笑っているばかりだ。
……結局、タヌキは『まあ、七香さんがいいなら、それでいいかぁ!』と、納得した様子であった。デュオは『それでいいんだ……』と零していたが。海斗も、『それでいいのか……』とぼやいていたが。燕も、なんか複雑そうな顔をしていたが!でもタヌキは笑顔なので!ヨシ!
ということで、無事、バカ達は『色々解決した!』という気分になっているところなのだが……。
「それから3つ目の願いだけど」
「えっまだ叶えるのか……?」
「当たり前だろ。カードはまだ20枚ある」
まだ、終わらない。むしろ、ここからが本番なのだ。何せ……。
「……やっと、叶えられる」
燕は、ほ、と息を吐いて、ちょっと笑った。
「駒井つぐみの体と、駒井つぐみの魂を出せ」
……そう。
これで、燕は燕がやりたかったことを叶えることができるのである。
「……ただ、ボディに魂を入れるだけだとダメなんだ。姉さんは一度死んだ人間だから」
燕はそんなことを言いながら、ちっちゃい悪魔が『はいどうぞ……』としょんぼり差し出してきたランタンに手を突っ込み、中から燃え盛る炎……に見えるが、たまの魂なのであろうそれを、もち、と掴んだ。
……多分、やわっこいのであろう。バカは、『たまの魂、絶対にもっちもちでふっかふかなんだろうなあ……』と、ちょっと触りたくなってきた!
「でも、悪魔なら、眠ってしまった魂を起こして体になじませることができる」
燕はそんなことを言いながら、魂を『もすん』とつついた。つつきながら、何やらぶつぶつ言っていると……。
「……あっ!動いた!」
もそもそ、と、たまの魂が動いた。たまの魂は、きょろ、と辺りを見回し……そして、自分が燕の手の上に居るのを見て、驚いたようにぴょこん、と跳ねた!
更に……デュオが覗き込んでいるのを見ると、もっと活力を取り戻して、ぴょこぴょこ飛び跳ねるのである!かわいい!
「はいはい。じゃ、体戻すから」
そんなたまの魂を、『はいはい分かった分かった』と上からちょっと押さえつけて『むぎゅっ!』とした燕は、そのまま色々とやって……たまの魂を、たまのボディに入れてやるのだった!
……ということで。
「うおおおおお、よかったですねえ、よかったですねえ!私、事情はよく分かりませんが!でも!こういうのに弱くってえ!」
タヌキが情緒豊かに祝福する中、駒井つぐみが宇佐美光に抱きしめられている!
……ハッピーエンドだ!おめでとう!
とはいえ、たまはあんまりお喋りできないまま、寝てしまった。
……というのも、燕曰く、『10年近く寝てた魂だから、まだ体に馴染み切らないんだろ。起きるまでに丸一日は見ておいた方がいい』とのことであった。まあ、そういうことなら大丈夫である。今も、デュオはたまをしっかり抱えて離す気配が無い!多分アレは、たまを自力で運ぶつもりだ!
「全く……駒井つぐみの魂は、今回の賞品にするつもりはなかったのに……」
「用意はしてただろ」
「うむ……一旦は渡して、しかし、ただ魂を体に戻すだけでは動かない、ということを知って絶望する宇佐美光を眺める予定だったのだぞ……」
ちっちゃな悪魔は、『大損だ、大損だ』としょんぼりしている。大変そうだ。だがバカは『そういう意地悪しようとするからこうなるんだぞ……』という気持ちでいっぱいである!
「さて、これで大雑把に、今回、俺達がこのデスゲームに参加して手に入れたかったものは手に入れ終わったか」
そうして燕が改めて確認したが、皆、『まあ、そんなかんじ』と頷き合う。唯一、五右衛門だけは『ヤエちゃんの脚、いいの……?』とヤエをつついていたが、ヤエは『あ、とりあえず、いいです』と言うばかりである。
「そうか、これで終わりか……うん、出口は21番アルカナルームの奥にあるからな。分かったらさっさと出ていく準備をするがよい……」
ちっちゃい悪魔はしょんぼりしながらそんなことを言う。
……だが、ここで話は終わらない。
「いや、まだカードは18枚あるから」
……燕を見て、ちっちゃい悪魔は『まだやるのか……!?』と慄いているが、当然である。まだやるのである。
甘く見てはいけない。
燕は……上位の、悪魔だ!




