ラストフェイズ:ダァトの部屋1
ということで。
「あっ、樺島さーん!こっちこっち!」
「やっほー!追い付いたぞー!」
バカはぱたぱた飛んで、ここまで戻ってきた。
……そう。天井裏である。
「いよいよゴールなんですねえ。なんだか感慨深いなあ。いやー、思い返せば色々なことがありました」
「そうね。樺島君が突入してきたと思ったらみょうちきりんな話が始まって、そんなんやってたらデスゲーム会場でご飯食べてたりお花見てたり……」
「……色々なことがあったね。本当に。ははは……」
皆が『感慨深いねえ』などと言いつつも『でもよくよく考えるとあんまりデスゲームっぽいことやってない気がする……』と思い返す中、この中で恐らく最も『感慨深い』のは、バカと真理奈なのだ。
「……長かったねえ、樺島さん」
「うん……長かった!」
「私にとっても長かったんだから、樺島さんは、もっともっとだよねえ」
「うん。もっともっとだったぞ!」
……バカは、ここまで来るのにかかった時間を、やり直した時間を、そっと思い出す。
本当に、色々なことがあった。悲しいことも、嬉しいことも。色々。……だが、今はそれら全てが過去のものとなり、今は只々、明るい未来に向けて楽しく駆けていくだけの、そんな時なのである!
「よし、行こうぜ!燕の昇格だ!」
「燕ー!GOGO!」
「いや、あの」
そうしてバカと真理奈が両脇から燕の肩に腕を回して『いざ昇格!』とやっていると、燕は『ちょっと待って』と2人を止めた。止められたら止まるタイプの2人なので、止まった。
「……いいの?俺、悪魔として昇格するけど」
そうして、燕は『本当に良いのか』と確認してくる、のだが……。
「それが一番いいって結論だったろうが。ほら行ってこい」
「それで私のボディをよろしくお願いします!」
「俺も元の体に戻してもらうからよろしく」
「あとヤエちゃんの脚、治してくれる?」
……まあ、全員、この調子である。『別にいいよねえ』『出世だもんね。いいよね』と真理奈とヤエが話しているのを見て、燕はいよいよ、『本当にいいのか……』と、呆れたような顔になってしまった。
「ま、悪魔ってモン自体には色々思うところはあるがよ。……そうはいっても、お前はお前だしな。いいんじゃねえのか。お前なら悪魔の力を利用してやれるだろ」
だが結局のところ、四郎が燕の背をぽふんと叩いて笑いかけてしまえば、燕もいよいよ、覚悟が決まったようであった。
「じゃあ……行こうか」
悪魔として生きていくのだ、と決意を新たにした燕と、そんな決意はどうでもよいとばかり『昇格!』『出世!めでたい!』とやっているバカ達の間には大きなギャップがあるのだが……しかし、どのみち、結果は変わらない。
「……それで、なんで肩を組むんだ」
「気分!」
「気分!」
燕は両脇を真理奈とバカに固められつつ、『ああ、真理奈が2倍……』という顔になってしまった!だがバカも真理奈も、只々ご機嫌なだけである!
何せ……友達が悪魔だろうが天使だろうが、特に気にしない奴らが、ここに集まってしまっているので!
そして。
「あー……カード、22枚、持ってきた、んだけど……」
……『ダァト』の部屋の中。階段を上がっていった先で……燕は、目の前の悪魔を相手に、何とも言えない顔をしていた。
「……それどころじゃないか」
「ああ!それどころではない!それどころではない!大変なことをしてくれたな、燕!」
その祭壇の上に居た悪魔は……随分と小さくなってしまって、めそめそ泣いていた!
「悪魔がちっちゃくなっちゃった……」
「鶏ぐらいの大きさだねえ」
「ちょっとかわいい、かも……」
バカ達が覗き込むと、祭壇の上の悪魔はまた『ちっちゃいって言われた!』とめそめそし始めた!
とはいえ……本当に、ちっちゃくなっちゃっているのだ。以前、バカが見た時……そう、七香がここへ来て、デュオを手に入れた、あの時。あの時は……ここの悪魔はもっと大きくて、もっと偉大なかんじであったのに!
「なんか、親しみが湧くサイズだね」
「ああ……悪魔が居ると聞いていたから緊張していたが、これなら、まあ……」
……今はもう、デュオにも海斗にも、優しい目で見つめられるくらいのサイズ感の、ちっちゃな悪魔になってしまっているのであった!
「ええい!うるさいぞ!」
が、ちっちゃくなっちゃった悪魔は、ぷんぷん怒って腕を振り回す。振り回されてもリーチがめっちゃ短いので何も怖くない。ただ、ちょっとかわいいので、真理奈とヤエには『かわいいね……』『かわいい……』と好評だが。
「我がここまで弱ったのは、そこの燕と……そこの天使のせいだ!」
「えっ!?俺ぇ!?」
だがここで名指しされてしまって、バカは『俺、なんかした!?』と大いに驚いた!その横で海斗は、『なんかしたも何も、やったことしか無いだろう!?』と逆に驚いていた!
「ああ……お前らときたら!ドアは壊すわ、床は壊すわ!食べ物はやたらめったら食べていくわ!宝物庫は空にするわ!」
「あっ、ごめんよぉ……」
ちっちゃな悪魔に言われて、バカはようやく『そっかぁ、俺、いっぱいやっちゃってたなあ』と思い出した。特に、ドアの破壊はバカにとっては平常運転であるので、それがまずいことだという認識すら抜け落ちかけていた!危なかった!バカは悪魔のおかげで常識を一部、取り戻した!
「何より!全く絶望しない!」
しかし、バカが常識を取り戻しても、ちっちゃな悪魔はまだまだ怒っている!
「お前達!何故こんなにも絶望しないのだ!挙句、誰も死なん!おかげで全く採算が取れん!どうしてくれる!」
「あー……成程ね。魂自体を取れなくても、人間が絶望したらそれだけで多少は利益になるのか」
「ああ。だから各アルカナルームには人間を怖がらせたり悩ませたりする仕掛けがあるんだ。まあ、上手く死んでくれたら万々歳だし、そうでなくても、人間の絶望は悪魔の餌だから」
「……そう考えると、俺達、結構酷い客だったみたいだね。あはは……」
……そう。
どうやらバカ達は……この悪魔に大損させてしまったらしい!
バカは、『そっかぁ、ごめんなあ……』と言いつつ、『でも、燕に酷いことしようとしたんだからその分はちゃんとお支払いしなきゃダメだぞ!』とちっちゃな悪魔を叱った。ちっちゃな悪魔は、泣いた!
……ということで。
「じゃ、22枚。これで俺の昇格の条件は揃った」
「……なんでこんなことに」
ちっちゃな悪魔がしょんぼりしている前で、燕はカードを22枚しっかり並べて見せつけた。
「じゃ、俺のことは昇格してもらう。これであんたとは同格だな」
「ああ、うん……昇格です、おめでとう……」
ちっちゃな悪魔はいよいよしおしおになりながら、ぱちぱち……と力無く拍手した。
と同時に、燕の頭上に、黒い輪が生まれる。ただ、フラットでシンプルな形の輪っかは、黒く燻した鉄でてきているような質感であったが……燕の頭の上に浮かんだそれをちらりと見て、燕は『ああ、はい。確かに』と言ってちょっと笑うと、輪の上でちょっと手を振った。
……すると。
「わあ!輪っかが消えた!」
すうっ、と、まるで空気に溶けるように、燕の頭上の輪っかが消えてしまったのである!バカはびっくりした!
「姿を変えるのは悪魔の得意技だから……まあ、これくらいは元々できる」
燕はそんなことを言うと、手を握ったり開いたりして、感触を確かめている様子だった。……そして。
「……で。カード22枚分、願いは叶えてもらう」
「……えっ」
燕はこともなげに、ごくごく当たり前のことを言うようにそう言った。これにちっちゃな悪魔は狼狽していたが……燕は、まるで容赦が無い!一歩、ちっちゃな悪魔に詰め寄って、にや、と笑った。
「当然、やってくれるよな?僕とあんたは同格になった。今の俺の命令を一方的に断れる権利は、今のあんたには無い。そして俺は、あんたのデスゲームのルールに則ってやってる。きっちりカード22枚分、願いを叶えてもらうだけの正当な権利がある」
「い、いや、しかし……」
「ついでに、実質的な立場は既に俺の方が上だ。あんた、大損したんだからな」
「ひぃん……」
ちっちゃな悪魔はめそめそ泣きながら燕にいじめられている。バカは、『ちょっとかわいそうだよぉ……』という気分になってきたのだが、デュオが『まあ、悪魔らしいことをしていた悪魔の末路としては妥当じゃないかな』と言うので、『そっか、そういうもんかぁ……』という気分にもなってきた。
そして海斗が、『弱肉強食、という奴だな。同じ悪魔を陥れようとした以上、その悪魔に裏切られても文句は言えないだろう。それが嫌なら、最初から手を取り合って協力していればよかったんじゃないか?』と言ってくれたので、バカは『成程なあ』と納得した。
このちっちゃな悪魔は、燕を陥れて、殺そうとしていたのだ。だから、燕にいじめられてしまうのだ。これが『因果応報』ということなのかもしれない!
バカは、『頑張れよ!』とちっちゃい悪魔を応援した。ちっちゃい悪魔は、より一層襲い掛かってくること間違いなしの負債の気配に怯えて、めそめそ泣いていた!




