ゲームフェイズ3:『19』お花見第二会場
「夏だー!」
「太陽だー!」
「でも、海じゃないですねえー!」
「ヒマワリの海、って言ってもいいかも、だけど……」
……そうしてバカ達は、全員で『19』の部屋へとやってきた。
この部屋は『太陽』のアルカナの部屋であるらしく、実に日差しが眩しい。ちょっと暑いくらいの日差しだが……それも風情があっていいな、と思えるくらいに、ヒマワリが見事なのである!
「へー、見事なモンねえ……。いいじゃなーい、こういう景色も」
「いいですよねえ!私もヒマワリ、大好き!私、全てのお花を愛しておりますので!きゃっほー!ヒマワリー!ヒマワリー!」
五右衛門は嬉しそうに『いい色だわぁー』とヒマワリを愛で、タヌキはヒマワリに喜び駆け回っている。花の前のこのタヌキは、雪が降った時の犬みたいなものなのである。
「ヒマワリ……綺麗」
そして、ヤエも嬉しそうにヒマワリを見つめている。……ヤエは桜が好きなようだが、ヒマワリだって好きなのだろう。のびのびと大輪の花を咲かせるヒマワリは、ヤエによく似合うのだ!
「あー、ヒマワリ、かあ……」
……そして四郎は、『娘が好きだったな』と、ぽつ、と零して、ちょっと愛おしげにヒマワリの花をつついた。それを見て戦車も、『そうなんですか』というかのように頷いていた。
そして更にその横では骸骨の騎士とテュポンの分身はうっとりとヒマワリ畑を見つめ、馬も『ひひん』と喜び、皇帝は『黄金のようだな』と頷き、女教皇は『綺麗ですねえ!なんだか開放的で!とっても素敵!』とはしゃぎ、そして女帝は『日傘を出すか……』と、どこからともなく、ぽふん、と日傘を差した。
「暑いねえ……うーん、綺麗だけど、すごい熱気。夏!ってかんじだねぇ」
女帝の気持ちもよく分かる。真理奈も、『暑い!』とにこにこしながら、セーターの襟をぱたぱたやっている。この気温の中、セーターだとちょっと暑すぎることだろう。
「すぐ出よう。カードはヒマワリが向いてる方にあるんだろ、これ」
そんな真理奈を見て、燕はヒマワリ畑を見つめ、大凡の目的地を探し……。
「上空から見ればすぐだよなあー!」
……そんな燕の横では、『飛べば早い!』と空を飛ぶバカが居た。
「あっ!カード見っけ!」
「えっ」
「ああ、樺島は視力が20ぐらいあるんだ。あれくらいは朝飯前だぞ」
「えっ……」
……空飛ぶバカによって、カードは即時発見された。そしてバカは、『今回は!ヒマワリを!折らない!』としっかり気を付けて着地し、そしてカードを拾ったらそっと飛び立ち……無事、ヒマワリを傷つけることなくカードを回収することに成功したのであった!
さて。
そうしてバカが皆の元へ戻ってくると……なんと!
「ああーッ!皆、いいことしてるーっ!いいなあ!いいなあ!」
「おう。お前も食え食え。俺の異能の使いどころだからな!」
……四郎が自分の異能を使って、かき氷を作っているところであった!
四郎は氷を生み出す異能の持ち主である。
そして、その氷の品質は、非常に緻密であるらしい。まあ、脆い氷では武器にならないのだろうから、当然と言えば当然であるが。
しかし、武器に向いている氷というものは、薄く儚くふんわりと削り出すことによって、最高の食感の氷へと変貌を遂げる。そうして生まれるのが……至高のかき氷だ!
四郎が出した氷の塊を削っているのは、五右衛門である。その手を鋏にすると、鋏の刃を使って、『これ、氷も削れるのねえ……。やだー、便利じゃなーい』などと言いつつ、シャリシャリやって氷を削っているのだ!
そうしてふんわりと削られた氷は、四郎が出した氷の器や、タヌキがお腹の謎収納から出した黄金の器に盛りつけられ、そして、タヌキが1台だけ確保していたらしいご飯テーブルから出てくるフルーツのジャムやシロップを掛け、そこにフルーツをたっぷりと盛り合わせて……素敵な夏のデザートが完成していた!
「ああー!おいしいー!暑いとこういうのが本当に美味しいー!」
真理奈はもう、大喜びである。ヤエと一緒に、『美味しいねえ!』『うん。すっごく美味しい……』とにこにこしながらかき氷を食べている!
また、この間、一同は氷で作った屋根の下に居る。表面を霜で覆った氷の屋根は、まずそれ自体がひんやりするし、光も遮ってくれるので、とても涼しいのだ!
「四郎ちゃん、大活躍じゃないの」
「お前もな」
四郎は氷を出しつつ、氷を削る五右衛門とちょっとにこにこし合っている。それを見てバカもにこにこしてしまいつつ、『おかわり!』と器を持って行くのであった!
そうして、暑さとヒマワリとかき氷を存分に楽しんだところで……。
「じゃ、なんも無い部屋行くかぁ……」
「なんも無い部屋……?なんも無い部屋なんかあるんです……?」
「うん、なんも無ければなんも無い部屋……」
「なんも無ければなんも無い部屋……?」
……タヌキを混乱させつつ、バカ達は大広間へ戻り、そして、『20』の部屋を目指す。
なんも無ければなんも無い部屋……ここまでに死者が居なければ、誰も出てこない部屋である。
つまり……今回は、なんも無いはずの部屋である!
これまたどうせなんも無いのだから大人数で行く必要もないだろう、ということで、バカと海斗とデュオと燕だけが集まっていくことになった。
「燕、まだポッケ入るか?」
「……まあ、なんとか」
エレベーターの中で、燕にカードの受け渡しを行うが……燕のポッケは、割とパンパンである。今、既に20枚のカードが燕のポッケに入っていることになるのだから!
とはいえ、まあ、右のポッケがいっぱいになったら左のポッケを使えばよろしい。そういうことなので、まあ、大丈夫であろう。
「ところで、燕。さっきは真理奈さんと話せたか」
「……まあ、一応は」
そんなポッケパンパンの燕であるが、海斗に聞かれて、ちょっと気まずそうに答えた。
「……さっき、ありがとうございました」
「いや、礼を言われるようなことはしてない。だが、まあ……もし、僕や樺島が役に立ったということなら、嬉しい」
「役に立った」
「そうか。よかったな、樺島。僕達はどうやら、役に立ったらしいぞ」
燕はほんのり嬉しそうにしているし、海斗に『僕らは役に立ったらしいぞ』と教えてもらえて、バカはひとまず『そっか!それは嬉しい!』とにこにこした。バカは人の役に立つのが大好きなバカである!
「いつの間にか仲良くなってるね、君達」
そこへ、『俺だけちょっと蚊帳の外だな……』と苦笑しながら割り込んできたのがデュオである。彼としても、愛する恋人の弟である燕のことは気になるのだろう。もしかしたら、自分より先にバカや海斗が燕と仲良くなってしまって、ちょっぴりいじけているのかもしれない!
「まあ……俺とも仲良くしてくれると嬉しいな。多分、君は俺の弟になるから」
が、ここで腐らないのがデュオのすごいところである。割と大胆に切り込んできつつ、燕との距離を縮めてきたが……。
「あ、そうなんだ……そっか。じゃあ……気が早いけど、よろしく。義兄さん」
燕は燕で、『そういうものか』と思ったらそうなっちゃうタイプであるらしい。差し出されたデュオの手を握って、『まあ、姉さんが好きになった人ってことは、そういう人なんだろ』とあっけらかんとしている。デュオは一周回って、なんだか戸惑ったような顔をして……。
「……思ってたより嬉しいね、これ」
……そんなことを零したのだった。バカは周回遅れの単純な奴なので、『うん!誰かと仲良くなれるのって、嬉しいよなあ!』とにこにこした!
さて。
「じゃあ……誰も死んでいないから誰も居ないはずの部屋、だけど。何も無い……よね?」
ということで、『20』の部屋の前に立つバカ達は、ちょっとドキドキしていた。
というのも……何かありそうで怖いからだ!
「なんも無いよなあ……」
「何も無いといいね……ははは……」
バカはドキドキしながら、『開けるぞ!』と声をかけ……そして、ドアを開けた!もし万一何かあったら、自分が皆の盾となるのだ、という強い意思を以てして、先陣を切って!
……が、まあ、バカの覚悟が吹っ飛ぶほどに、部屋の中は何も無かった。
なんも無い部屋である。
……つまり、なんも無かったことの、証明である。
「……な、何も無い?何も無いよな?大丈夫なんだよな?これ、いいんだよな?」
「ああ。大丈夫そうだ」
おろおろするバカの横で燕があちこちチェックしてくれるが……まあ、本当に『なんも無い部屋』であるらしい。ただ、床の上にカードが落ちていて、それだけだ。
何も無い。……何も無かったから、何も無い。
バカが頑張って、皆が協力してくれて……そうしてここまで来られたから、ここには何も無い。
悲しいことなんて、何も無い!
「やったああああああああああ!」
バカは大きな声で叫び、はしゃぎ、跳び回り、海斗に『大人しくしていろ!』と怒られて正座した。でも嬉しくて、正座したまま羽をぱたぱたやって飛んでしまったため、また海斗に怒られた!
「嬉しそうだな、樺島……」
「うん!嬉しい!だって、誰も死ななかったからここにはなんも無いんだろ?そういうことだろ?」
バカがその場でころんころんと控えめに転がっていると、海斗は『そんなに嬉しいのか……』と何とも言えない顔をした。
「ここは『敗者復活』の部屋だから……死者が蘇る部屋だ。体は作り物だけれど、魂はそのままで出す設計になってる」
「へえー!すげえな!」
燕の説明を聞いて、『そっかぁ、そういう風になってたんだなあ』とバカは感心して……それから、ふと、思った。
「なー、この部屋が『敗者復活の部屋』なんだったらさあ……ここで誰も復活しないってことはさあ……誰も、『敗者』じゃないってことだよなあ……?」
「……まあ、そうなんだろうな」
海斗は『何を言い出すんだこいつは』という顔をしていたが……バカは、ぱやっ!と表情を明るくして、喜んだ。
「つまり全員優勝だ!やったー!」
「それは優勝っていうのか……」
「まあ、いいんじゃないかな。それくらい気楽なかんじでも。あはは……」
……燕とデュオにもなんとなく呆れられてしまっている気がするが……だが、バカは嬉しいので、そんなことは気にならないのであった!
だって……全員優勝!これは嬉しいことなのである!バカは心の底から、この偉業を喜んだ!
ということで、バカが一頻り喜び終わったところで。
「じゃあ、いよいよ最後の部屋だ。『0』の部屋……そこに何があるのかは、樺島君は直接見てないんだったね?」
「うん。デュオが1人で入って報告してくれたんだけどぉ……俺も、あんま覚えてなくってぇ……」
いよいよ、このゲーム最後の部屋に突入することになる。が……バカは、イマイチ、あの部屋が何の部屋なのかを覚えていないのだ!
「『愚者』の部屋か。……燕は何か、知ってるかな」
「ああ……うん」
デュオが尋ねると、燕はちょっと考えて……それから、言った。
「……なんか、いいものがいっぱいある部屋」
「いいものが、いっぱいある部屋……!?」
バカは目を輝かせて復唱した。そんなバカの後ろでは、海斗とデュオが『いやいやそんなわけないだろう』という顔をしていたが、バカには見えていない!
「部屋に最初に入るのは、樺島さんに頼みたい」
「えっ!?あ、うん!分かった!わあー……いいものいっぱいあるのかぁ!楽しみだなあ!」
バカが元気に『楽しみ!楽しみ!』とやるのを見ながら……デュオと海斗は、燕に『そういうこと?』とジェスチャーや口の動きだけで尋ねた。すると、燕はこくん、と頷いた。
まあ、つまり……そういうことである!




