ゲームフェイズ3:『0』バカ
そうして。
「……成程な。『最初に入った奴が思い描いていた部屋』か」
「そういうこと」
海斗と燕が頷き合い、デュオが『成程ね』と苦笑し……そして、タヌキと真理奈がはしゃぎ、ヤエが瞳を輝かせ、五右衛門が口笛を吹き、四郎が『これは……いや、何も言わねえ方がいいか……』と思い、七香がタヌキを撫でる。
……部屋の中は、花でいっぱいだった。
チューリップだ。チューリップが、沢山咲いている。
「ん!?海斗ぉ!燕ぇ!なんか言ったかー!?」
「いや、なんでもない。気にせず探索してくれ」
海斗が苦笑する一方、バカは『そうかぁ?』と首を傾げつつ、『じゃあいいかあ!』と、また元気に駆け回るのであった!
「すごい……チューリップがいっぱい……」
「うん!確か、真理奈はチューリップ好きなんだろ?」
バカが首を傾げていると、真理奈は『うん』と頷いて、にっこり笑った。
「可愛いよねえ、チューリップ。私にとっては、思い出の花でもあるし……」
「うん。燕との思い出の花、だよな?」
「うん。そうそう」
チューリップが沢山揺れている様子を眺めて、真理奈は、ちら、と後ろを振り返る。するとそこには、バカと真里奈が話しているのを遠巻きながら眺めている燕が居るのだ。
「ね、そうだよねー!燕ー!」
「……まあ、うん」
燕は『なんでここに俺が居るって分かった……?』というような顔をしているが、真理奈は『やっぱり燕は私のことを背後から見てるんだよなあ』とにこにこである。完全に行動を読まれている燕なのであった!燕の方が頭はいいはずなのに!
「……あのさあ、樺島さん」
「ん?」
そんな折、真理奈が、こしょこしょ、とバカの耳元で内緒話を始めた。なのでバカは、よいしょ、と身を屈めて、真里奈の身長に合わせる。
「チューリップ、蕾が開く前に折れちゃった、って、話、したじゃん」
「うん……」
バカは、ちょっとしょんぼりしながら頷いた。……理不尽、の代表であろう。大事に育てていたチューリップが……それも、大事な友達が、自分のためにじゃんけん大会に参加して勝ち取ってくれた球根から大事に育てたチューリップが……花開く前に折れてしまう、など。
とても悲しい話だ。バカはバカだが、その悲しみは分かる。
……だが。
「あの話、続きがあってね……燕、チューリップについて、ものすごく調べてくれて……」
真理奈は、ほんのりと嬉しそうに、こしょこしょ、と話す。
「チューリップって、球根じゃん。じゃあ、もっかい球根植えておいたら花が付くんじゃないか、って……」
「うん……うん?」
「それでね……あの時咲かなかったチューリップなんだけど、今は球根が増えに増えて、うちの花壇がいっぱいになってるの!」
……それを聞いたバカは、だんだん気持ちがふわふわになっていく。悲しいこと、理不尽なことにしょんぼりしていた心は、今やすっかり、お日様の下でしっかり干したふかふかお布団のような軽やかさ!
「……わああー!」
「すごいでしょ!?すごいでしょ!?」
「うん!すごい!すごいし……嬉しい!」
「えへへ、ありがと!嬉しいって言ってくれる人が居るの、嬉しいなあー!」
バカは嬉しくなって、同じく嬉しいらしい真理奈と手を取り合って、ぴょこぴょこ跳ねる。嬉しさを表現するダンスである。というよりは、感情がすぐ体に出てきちゃうタイプ2人の会話はコレなのである。
「……燕はその時からね、『理不尽なこと全てが取り返しがつけばいいのに』って、言ってた」
一頻り踊った後、真理奈はそう言って、ちょっと寂しそうな顔をした。
……バカは、ちょっと驚いた。バカもよく思っているようなことを、燕も思っている、というのはなんだか不思議なかんじがしたのだ。
「でも、燕は頭がいいからさ、多分、そんなの無理だって、分かってたんだよ」
真理奈はそう言って、それからまた、ちら、と燕の方を見る。燕はさっきから、バカと真理奈が内緒話したり手を取り合って謎のダンスを踊ったりしているので、ちょっと気が気でない様子である。
「……だから燕は、悪魔になったんだと思う。チューリップをどうにかできたって、人間の首だったらどうしようもない、って……どんなに頑張ったって、どうしようもないことはあるんだって、分かっちゃってたから」
「そっかぁ……」
バカは、真理奈と一緒に燕を、ちらっ、とみる。……燕は、『な、なんだよ』という顔をしていたが、バカはにっこり、満面の笑みである。
「燕って、いい奴だなあ」
「うん。いい奴なんだよ」
ということで、バカと真里奈はまた、こしょこしょ、とそんな話をして、燕は『一体何の話をしているんだろう……』と、ちょっと訝し気にこちらを見ていて……バカはまた、にっこりした。
……いい奴が多いというのは、よいことである。何故なら、友達が増えるからである!そして友達が増えると、できることが増えるし……何より、楽しい!
さて。バカがあんまり真理奈を占有していると、燕がまたやきもきしてしまってかわいそうなのである。……ということを、バカは、『ほら行くぞ』とバカを引っ張っていった海斗に教えてもらった。
……教えてもらっちゃったので、バカはなんだかちょっと、恥ずかしいような、もじもじした気分である!『そうか!燕は!真理奈のことが好き!』……と気づいてしまったら、なんだかもじもじしてしまうバカなのであった!
「ん……?本棚が沢山あるが……」
そうして海斗に引っ張って行かれつつ、この部屋の探索をしていたバカであったが……部屋の片隅に、小さいながら、びっしりと本棚で埋め尽くされた図書スペースを発見した。
「うん!いいものが沢山ある、ってことは、多分、本がいっぱいあるんだろうと思ったんだ!」
バカは『あると思った!』とにこにこだが、海斗は不思議そうな顔をしている。
「……ま、まあ、本はよいものだが、一体何故……?」
「ん?だって、海斗は本、好きだろ?」
……が、バカからしてみれば、当たり前のことである。
この部屋は、『なんかいいもの』でいっぱいの部屋であると聞いた。ということは当然、海斗が好きなものもいっぱいあるのだろうと思っていたのだ!
「タヌキも七香も本、好きみたいだし!ってことは、多分、本はいっぱいあると思った!」
「……そうか」
海斗は部屋の中を見回して、『ああ、いいチョイスだな……』などと言いつつ、ちょっとじんわり、嬉しそうな顔をした。
「……僕は、お前が友達で本当によかったと思ってるよ」
「えっ!?ありがとな!俺も!俺も海斗が友達でよかった!」
バカは『でもなんで唐突に?』と頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべていたが、海斗は只々、嬉しそうにしているのだった!
「……ピアノがあるわ」
「あっ!そうだよなあ!タヌキと七香はピアノ好きなんだろ!?じゃあピアノもあるよなあ!」
一方、図書スペースから少し離れたところには、ピアノもあった。
七香がピアノの蓋を開けると、綺麗な白黒の鍵盤が整然と並んでいる。
「七香さん!是非一曲いかがですか!こう、弾けない私の代わりに!敵討ちだと思って!」
そこへやってきたタヌキは、それはそれはもう悔しそうに、『ああーん!私も弾きたい!でも弾けない!』と嘆いている。それをちら、と見て、七香はちょっと考えて……。
「……なら、少し弾こうかしら」
どうやら、ピアノを弾いてみるらしい!そう!タヌキはタヌキボディなのでピアノは弾けないが、七香は人間ボディなので弾けるのだ!
……ということで、七香は綺麗な所作でピアノの椅子を引いてそこに座ると、鍵盤の上に指を置き……。
「……七香っぽい」
「……そうだな。苛烈だ」
途中までは、綺麗で静かな曲だなあ、というかんじであった。
が、途中から、なんだか音数が増え、躓きながらも何かに急き立てられるように走っているかのような、そんな曲調へと変わり……そして今は、めっちゃ速い。指がよく見えない。
速いのに音数が多く、海斗に言わせれば『苛烈』ということであるらしい。バカには難しくてよく分からないが、とりあえず『七香っぽい!』とは思う。
バカは、珍しくもピアノの生演奏を聴いたわけであるが……思った。
『ピアノって、俺が思ってたよりも体力勝負なんだなあ……』と。同時に、『七香ってやっぱり、めっちゃ筋肉と体力あるんじゃねえかなあ……』とも。
そうして七香の演奏は、時に苛烈に、そして時に穏やかに上品に曲調を変えながら進行し、演奏が終わると同時……タヌキが、ぽぬぽぬぽぬぽぬ!と盛大に拍手をした!
「いやあー!『厳格な変奏曲』をここまで正確に弾ける人はもうプロのピアニストでは!?やっぱり七香さん、お上手ですねえ!」
「お褒めに与り光栄ね」
タヌキに褒められると、七香は嬉しいらしい。ちょっと微笑んで、タヌキを抱き上げて撫でている。タヌキはいい加減撫でられまくった後で、『ところでなんで私は撫でられてるんですかね?』という顔になった。遅い。気づくのが遅い。
「……あなたの演奏も聴きたいわね」
「あ、ほんとです?私もお聞かせしたいですねえ。いやー、もう、タヌキボディだと食べ物のことと、ピアノ弾けないことが本当にストレスでぇ……。燕さんによくよくお願いしておかなければ!」
七香とタヌキは楽しそうに、『体が戻ったら真っ先に弾きたいのはやっぱりドビュッシーですねえ!』『ああ、あなた、時々弾いてらしたわね』なんて話をしている。
彼らが楽しそうで、本当によかった!とにこにこのバカなのであった!
一方、五右衛門とヤエは……大変なことになっていた。
「え、ええーと……これ、どーお……?」
「……ちょっとかっこいいかも……」
五右衛門とヤエがひたすら見ているそれ。それは……義足である。
そう。バカは、『ヤエ、もっとガシガシ動くタイプの義足とか、あったらいいのかもなあ……』と、ちょっと思っちゃったのである。そして、思っちゃった以上は、そういうものがこの部屋に並ぶことになっちゃった。そういうことなのだ。
勿論、ヤエは『スポーツ用の義足とか要らない』と、言っていたのを、バカは覚えている。よって、義足は全部、スポーツ用ではない。ごくごく自然に、そのままの脚に見えるようなものもあれば、義足だと分かるものながら、高性能なものなどもある。
……ただし!
「……でもビームは出なくていいです」
「そうよねえ……あの、これ、樺島君目線で『いいもの』が大量にある、ってことなのね……?」
バカがバカだから、こういうことになるのであった!
ヤエが、足の先からレーザービームを発射して、困惑している!
しかしバカからしてみたら、レーザービームが出てきたらカッコいいし、変形するロボだってカッコいいのだ!
よって、義足は悉く、ビームが出てきたり、ミサイルが搭載されていたり、変形してキャタピラが出てきて自走したり、なんかもう、とんでもない代物ばかりなのであった!
バカがバカなばっかりに!
……だが。
「……でも、こういうのもアリ、なのかな」
ヤエは、ビームソードが出てくる義足を装着して、そんなことを言い出した。
「……私、なんか、もう何もできないみたいな、そんな気分だったんですけど……」
そんなことを言って、ヤエはちょっと考えて、笑う。
「なんだろ……その、今は、何にでもなれる、みたいな、そんな気が、してきちゃって……」
それは、随分と前向きな顔であった。目指すものが見つかったわけではなくとも、前を向いて、飛び立つ勇気を得た顔だ。
そんなヤエを見て、五右衛門は嬉しそうにしていた。
……そして、そんなヤエと五右衛門を遠巻きに見て、バカは、『うん!なんかカッコいい義足がいっぱいで、ヤエも五右衛門も嬉しそう!』と盛大に勘違いしつつ……まあ、2人が幸せそうなのを、心から喜ぶのであった!
一周回って、ヨシ!
……そして。
皇帝が女教皇の愚痴を聞いてやりながらお茶を飲んでいたり。
女帝がテュポーンの化身相手にチェスを楽しんでいたり。
戦車が四郎を乗っけて、丁度いい具合にあった運動場をくるくる走り回っていたり。
骸骨の騎士が、見事にピアノを演奏してみせてくれたり!
色々とやって、『なんかいいものがある部屋』を大いに満喫し……大いに満喫する一方、デュオと燕は、ちょっと緊張していた。
……そう。
カードが、無いのである。




