発表フェイズ2:『9』賢者2
「えっ!?」
バカは、ぽかん、とした。それこそ、心底、ぽかん、とした!
「……うーん」
そして考える。バカはバカだが、考えるバカである。考えてもバカだが、考えないバカよりは考えるバカの方が善いバカであろうという良識は持っているバカであるので、ちゃんと考える。
「うーん……うーん……」
……が、考えても考えても、上手いこと纏まらない。それはそうだ!バカなので!
「俺……その、バカだからさあ。海斗が居ないと、多分、上手くやれないんだよ」
纏まらないので、バカは、考えたことをそのまま垂れ流すことにする。話すバカより、それを聞く人達の方が賢いので、バカは自分でまとめずに、考えたことをひたすら話して、聞いた人自身にまとめて貰った方がよいのである!
「そ、そうか?いや、僕はそうは思わない。お前は多分、僕無しでもそれなりに上手くやれると思うぞ……?」
「でも、海斗は今回、俺にとっての『1周目』で……死んじゃった、から……もし俺が『やり直し』できなかったら、駄目だったから……」
「うん、まあ、そう、か……」
海斗は何とも言えない顔で何やら考えていたが、バカは、思う。
……バカは、もし『やり直し』できないなら、海斗を連れてきちゃ駄目なのだ。
バカだって、一度は失敗している。海斗をみすみす死なせてしまった。あれが『やり直しのできない回』だったら……と思うと、背筋が凍るようである。
だが。
「そうだな……その、僕自身は、お前と一緒に行きたい、と言うだろうな。お前が『やり直し』をできないとしたら」
「えっ」
海斗はそんなことを言って、苦笑した。
苦笑して……はっ、と何かに気づいたようになって、ちょっと頭の痛そうな顔で『やっぱりちょっと待った』という身振りをしてみせる。
「……いや、やっぱり分からない。僕は……その、臆病で卑怯だからな。樺島が1人でデスゲームに向かう、となっても、自分の命惜しさにしり込みすることは間違いないから……」
海斗がもごもごとそんなことを言うのを聞いて、バカは『そんなこと無いと思うけどなあ……』と思った。『臆病で卑怯でしり込みしちゃう奴』は、バカを庇って刺されて死なないのである!
いっそ、海斗が本当に憶病で卑怯でしり込みするのなら、バカは海斗を連れていけるかもしれないのだが!
「……まあ、ひとまず、僕の度胸については、もう、理想論で語らせてもらうが……その、理想で言うならば、僕は、樺島と一緒に行きたい、と言うだろうな。僕自身が足手まといになることもあるだろうが、それ以上に、樺島はあまりにバカだから……僕が力になることで樺島が選べる道が増えることは間違いない」
海斗はそんなことを言って、そして、燕にちょっと、笑いかけた。
「だから、少し後悔があるというのなら、真理奈さんに直接聞いてみてもいいんじゃないか」
……燕は、黙っていた。黙って、ちょっと考えていた。
「君が真理奈さんを大切に思うのと同じように、真理奈さんも、君の事を大切に思っているんだろう。だから彼女は、君を追いかけてここまで来てしまった」
「……うん」
「それは、認めるべきだ。君はとてつもなく賢くて、そして真理奈さんはそうでもないんだろうし、真理奈さんは樺島のようなフィジカルを持ち合わせているわけでもないだろうが……それでも、彼女が君の隣に立ちたいと思っていることについては、認めるべきだ」
海斗の言葉を聞いて、燕は一つ、確かに頷いた。海斗は笑って、自分よりちょっぴり年下の奴の肩を叩く。
「その上で下した判断なら、そんなに後悔しないと思う。……まあ、その時になってみないと、何とも言えないか。だが、多分、君の後悔は『相談してから決めればよかった』ということじゃないか?結果じゃなくて、過程に後悔があったんじゃないか?」
「過程……」
燕はまたちょっと考えて……そして。
「……ちょっと、話してくる。あ、鐘が鳴るまでには」
「いや、鐘が鳴ってもしばらくはゆっくりしてから行こう。僕達は待ってるから、気にせず話してくるといい」
「ありがとう」
……燕は、硬い表情ながらちょっと笑ってみせて、お礼を言うとすぐ、真理奈の方へ足早に歩いていった。
「燕、いい奴だなあ」
バカはなんだかじんわり嬉しくなりつつ、燕と真理奈が何やら話し始めたのを遠くから見守ることにした。
「そうだな……良い人だと思う。不器用なようだが……それは僕も人のことを言えた立場じゃないからな」
海斗がちょっとわざとらしく『やれやれ』をやって見せるのを見て、バカはまた、ちょっと嬉しくなった。
「それで、海斗はやっぱりすげえなあ」
「……なんでそうなる?」
「うん。なんでも」
「そうか?まあ……素直に称賛として受け取っておこう」
ちょっと嬉しそうに笑う海斗の横で、バカもにっこにこの笑顔になった。バカは、自分の相棒を誇らしく思う!
そうして。
リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴り、発表フェイズが終了した。
のだが、燕はまだ真理奈と話している様子だったし、バカ達はその間、のんびり待つことにした。
尚、待ち時間はタヌキが1人で『それでは……ガーシュウィン作曲、ラプソディ・イン・ブルーです!お聞きください!……てーれれれれれれれれ……れれれれれれれれれれろーん!てれらりらりれってってってーん、てってってー、てっとっとー、とっとっとーん……!』と歌うのを皆で眺めた。
海斗が『タヌキ、歌が上手いな……』と、ちょっと複雑そうな顔をしていた!
……そうしてタヌキがしっかり歌い終わったあたりで、燕と真理奈も戻ってきた。『お待たせしました……』と真理奈はちょっと申し訳なさそうだったが、皆で『タヌキが歌っていたので特に待っていません!』とにこにこ出迎えた。
燕は、ちょっと海斗とバカの方を見て、ぺこ、とお辞儀した。……真理奈も燕もなんとなくすっきりした顔をしているので、多分、話し合いは上手くいったのだろう。
バカは、『よかったなあ!』という気持ちを込めて、燕にガッツポーズしてみせた!
「さて。順番に行くなら、次は『10』だけど……」
そうして、全員でまた大広間に戻ったところで……デュオが、何とも言えない顔で燕を見つめた。
「……ええと、何があるのかな、この部屋」
「俺が作ってから改造されたらしいから知らない」
そう!次は『10』の部屋だが……2人とも、この部屋の中身の想像がつかないらしい!
「そっか。……えーと、樺島君。この部屋は」
「なんか、ルーレット回したら、よく分かんねえ生き物が出てきてな?それで、なんかタックルでなんとかなりそうだったんだけど、四郎のおっさんがまずは正攻法だ、って言って……それで、なぞなぞ解いた!」
「成程ね。じゃあ大丈夫か。……何があるのかはよく分からないけれど……」
そして、バカの説明はまあ当然の如くバカクオリティなので、あんまり伝わらない!
とはいえ、バカからしてみれば、『とりあえず、いざとなったら多分タックルで解決できる部屋!』と思っているし、それで十分なので……問題無し!ヨシ!
まあ、タックルでなんとかなるのでいけるだろう、ということで、バカ達は『10』の部屋へと向かった。
とはいえ、流石に全員では行かない。今回はバカと海斗とデュオ、そして四郎の4人に加えて骸骨の騎士と戦車が一緒にやってきている。他の皆はお留守番だ!多分、女子達は五右衛門から美容について色々とレクチャーを受けているところである!バカには分からない内容である!
「で、この回ってんのを止めるんだな?」
「念のため聞くけど……樺島君、前回はどうやって止めた?」
「ん?こう、ガシッ、てやった!」
バカが『こう!』とジェスチャーで見せると、デュオは『わー』と何とも言えない感想を漏らした。なのでバカは、『四郎のおっさんが凍らせて止めたこともあったらしいぞ!』と補足した。四郎は『まあ、俺がやるならそうだろうなあ』と頷いた。
「それで、なんか、こう、ピラミッドのなぞなぞのやつ……あいつの絵のところで止めた!」
「ピラミッドのなぞなぞ……ああ、スフィンクスかな。そうか、スフィンクスが出てくるのか。となると、残りはアヌビスとテュポンかな?」
「あぬぽん……?」
「略すな。アヌビスは冥界の神で、テュポーンは最大最強の怪物であり神だ」
バカは頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべた。バカに神話は難しい。……だが。
「最強の怪物かぁ……すごいなあ……」
バカにも分かる単語がある。『最強』だ。
「戦ってみてえなあ……。多分、勝てねえけど……先輩の胸を借りる、っていうの、やってみたいなあ……最強の怪物って、どんなんだろうなあ……」
「おいバカやめろ」
バカが目をキラキラさせて『すごいんだろうなあ……』とやっていたら、海斗にすぱしん、と後頭部を叩かれてしまった。
「いいか?僕らは、とにかく安全にこのデスゲームを解体するべきなんだ。さっきの『11』の部屋では付き合ったが、流石にテュポーンが出てくるかもしれないとなったら、僕は降りるぞ!」
「あ、うん、やらない。やらないよぉ……」
バカはバカだが、節度あるバカである。バカにとって一番大事なのは海斗の身の安全であるので……何が出てくるか分からないものに手を出しはしないのだ。
と、思っていたのだが。
「……ん?戦車と骸骨、どしたんだ?」
何やら、戦車と骸骨の騎士、そして騎士の黒馬が、一台と一人と一頭で、からからカタカタひひんぶるるん、と何やら相談中である。
これを、バカ達が不思議に思いつつ見守っていると……。
……骸骨の騎士が動く。てくてく、と特に急ぐでもなく歩いて、例のものすごく回っているルーレットが如きそれに近付いていって……。
「ああああああああ刺しちゃったあああああ!」
なんと!骸骨の騎士は、持っていた槍でルーレットを刺しちゃったのである!
当然、ルーレットは止まり……そして。
「あっ……これは……あー……まずい、かな……?」
「おい樺島ァ!逃げるか!?逃げた方がいいのかこれは!?」
「お、おい、落ち着け落ち着け。流石に、ほぼ運で決まるような即死トラップはデスゲームには置かねえだろ……置かねえよな……?」
そうして、デュオと海斗、更に四郎までもが慌てる中、『蛇』を示して止まったルーレットを隠すように、もくもくと煙が噴き上がり……。
「我を呼んだのはお主らか……?」
……そして、下半身が蛇、上半身がムキムキのあんちゃんである生き物が現れたかと思うと。
「……んっ!?死神!死神ではないか!いやー久しいなあ!元気してたか!うん!うん!そうかぁ!お前は相変わらずだなあ!」
にっこにこの笑顔で、骸骨の騎士と陽気に肩を組み始めた!
……お知り合いらしい!




