発表フェイズ2:『9』賢者1
……ということで、パズルを解き始めて、1分。
「できた」
「はやっ!?」
デュオと海斗がぎょっとする傍ら、燕がとんでもないスピードでパズルを解き終えてしまったのである!あっという間!あっという間すぎて、盛り上がるタイミングを逃したバカ達オーディエンスは、ぽかんとするしかなかったのであった!
……何はともあれ、パズルを解くのが一番早かったのは、燕!燕が優勝である!おめでとう!
「燕……早いねえ。昔からこういうの、得意だもんねえ……」
「うん……まあ」
真理奈に何とも言えない顔で褒められた燕は、やはり何とも言えない顔で曖昧に頷いた。
「いや……早いね。流石、つぐみの弟、というか……本当に大したものだね」
更に、ものすごく頭がいいはずのデュオまでそんなことを言うものだから、燕は『……どうも』と、ちょっと恥ずかしそうに、ぺこ、とちょこっとだけお辞儀した。
「その……教えて欲しいんだが、どうやって解いた?やはり、この右上の……」
「いや、全体見たら、こことここは分かるから……」
「分からない……僕には分からない……」
一方、海斗は燕の言葉を聞いて頭を抱えている!
それを見て燕は、ちょっと申し訳なくなったのか、『あの、こっちとこっち両方に当てはまるものを探すと、それだけで答えが7通りまでに絞れるから……』などと言い出し、海斗は益々頭を抱えた。
デュオも、燕の説明を聞いて『あー……成程、そういう……うーん、理屈は分かるけど、その演算能力は俺には無いな……』などとぼやいている。
……つまり、どうやら……燕は、とんでもなく頭がいい、ということらしい。バカには分からないが!バカにとっては全員、頭がいい人達なのである!
ということで、カードがまた無事に1枚、入手できた。速かった。とんでもなく、速かった!
「……海斗、元気出せよぉ」
だが……この競争で、海斗はしょんぼりしてしまったのである!
「うん……いや、分かってはいたさ。僕の完全上位互換は幾らでも居る、とな……。僕は惨めたらしく努力してなんとかこの水準まで来ただけの凡才だが、彼らは紛れもなく、天才の部類だろう。もう、嫉妬する気にもならない……」
海斗が言っていることは難しくてよく分からないバカであるが、なんとなく、海斗が自分に自信を持てなくなっていることだけはぼんやりと分かった。
「あの、でも、燕が小説書けるかは分かんないぞ……。デュオは分かんないけど、陽は小説、書けないって言ってたぞ……」
「……多分、彼らはやらないだけだ。やったら僕以上のものを作れる」
海斗はすっかりいじけモードになってしまったようで、ちょっとしぶとい。しぶとくいじけている。海斗にしては珍しいことである!
「そうでもないと思うぞ……。あ、あと、デュオも燕も、多分、俺が何考えてるのかはよく分かんないぞ!」
「安心しろ。僕もよく分からないことが多い。……いや、まあ、その、彼らよりは僕の方が、お前のことは分かるだろうが……うん……」
海斗が珍しいことになっているので、バカは海斗の相棒として、真摯に向き合いたいところである。普段、バカがバカやってるのに付き合ってもらっているので、そのお返しだ。
「海斗は、俺がバカなの、ちゃんと分かってるもんなあ。その……海斗は嬉しくないかもしれないけど、海斗は、俺がバカだからちょっと嫌なことあったり、俺がバカだから申し訳ないなあ、って思ってたりするの、分かってくれるよな。誰かがしんどいの、陽よりも海斗の方が、分かるの上手だぞ。多分」
バカは海斗のいいところを沢山知っている。海斗のいいところは、頭脳派であるところのみに非ず。まあ、海斗はそのあたりを、あんまり自覚していないようであるが……。
「それで、ええと、俺と一緒に遊びに行ってくれるのは、やっぱり海斗なんだけど……」
「……まあ、そうだな」
それでもバカが一生懸命にアピールしていると、海斗は深々とため息を吐いて、それから、ぽふん、とバカの背を叩いた。多分これは、『ありがとうな』の意味である!
「その……分かっては、いるさ。完全上位互換は幾らでも居る、とは言っても、僕と同じ経験を持っていて、僕と同じ感性を持っている人は居ない。……僕に強みがあるとしたらきっと、天才達よりも地上に近い位置で苦悩した経験が多い、ということだろうな」
「うん……?うん、多分そうだな!」
「僕の経験や感性に価値がある、とも思えないが……まあ、お前にとっては価値がある、ということなら……それでいいか」
バカはよく分からないが……ひとまず、海斗は『やれやれ』と言いつつ、ちょっと元気になった様子である!
なのでバカは、『よかった!』とにっこりした!やっぱり海斗は、いい奴である!
「……じゃあ、次の部屋に行こうか。次は『9』かな」
さて。
何はともあれ、パズルも解き終わったことなので、さっさと次の部屋へ向かう。
バカ達はエレベーターに乗って大広間へ戻り、その道中、『ところで5番の部屋のおっさん、連れてこなかったんだけどいいかなあ……仲間外れにされたみたいで悲しいかなあ……』『いや、あいつはほっといていい』『誰よぉ、5番の部屋のおっさんって……』などという会話をしつつ……無事、大広間へ到着する。
そしてそのまま、『9』の部屋に向かうべくエレベーターにまた乗り込み、うぃんうぃんと地下へ向かっていって……。
「あっ」
……リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴る。
どうやら、ゲームフェイズ2が終了して、発表フェイズに入ったらしい。
「……これ、エレベーターが途中で止まる、っていうことは……無い、よな……?」
海斗の心配そうな呟きに、エレベーター内の全員が戦々恐々としたが、エレベーターは止まることなく、ふぃーん、と動き続け……そして。
「……無事に到着はしてくれたみたいだな」
「よ、よかったぁ……途中で止まっちゃったらどうしようかと思った……」
無事、エレベーターは『9』の部屋の前に止まってくれたのであった!よかった!
「とはいえ、ここから10分はこのエレベーターを使うことができないんだな。まあ、10分くらいは、すぐか……ああ、樺島。この部屋の仕掛けはどういうものだ?」
「えっ?覚えてねえ……ちょっと覗いてくる!コンコン!失礼しまーす!ガチャ!あっ!ここかあ!」
「『ガチャ』をわざわざ声で言わなくていいぞ、樺島……」
……ということで、バカは『9』のドアの中を覗いて、『ああ、ここだ!』とすぐ理解した。
「真っ暗の迷路!落っこちるやつ!」
「真っ暗の……迷路!?落っこちる!?ど、どういうことだ!?」
「えっと、ランタンが1つだけ置いてあってぇ……それ以外は真っ暗でぇ……足踏み外したら落っこちちゃうタイプの迷路がある!」
「……つまり、視界が悪い中で、落とし穴だらけの部屋を進む、というような具合か……?嫌だな……」
この部屋は、真理奈の魂のランタンが置いてあった部屋である。同時に、ヤエと海斗がお喋りしていた部屋でもあるし……まあ、何かと思い出深い場所であった。
「そういうことなら、ランタンの光を見つめながら皆でお喋りする、っていうのも悪くないかもしれませんねえ!ロマンチック!」
「ロマンチックかぁ……?まあ、壁がねえんなら、樺島が飛んだら秒で済むだろ。よし。やっちまえ」
「うん!すぐカードとランタン持ってくるからなー!」
まあ、何はともあれ、今はカードだ。バカは四郎に言われた通り、羽を『もふん!』と出して、早速ぱたぱた飛んでいった。ランタンの光を目印にすればいいので、とっても簡単である!
「ランタンとカード、ヨシ!」
しっかり指差し確認も行って、バカは元気にまたパタパタと飛んで戻る。その様子を眺めていた面々は、『わあ……本当に飛んでる……』というような顔をしていたのだが、バカは嬉しそうに誇らしげに、羽をパタパタさせて戻ってきた!ただいま!
「……まあ、この部屋は比較的簡単で安全、っていうことかな」
「だな。樺島と燕は飛べるんだろ?俺は氷で床全部凍らせちまえば、まあ、穴も塞げるし……」
今回もスピード解決であったが、四郎からしてみると、『まあ、そういう部屋だよな』という感想であるらしい。バカとしてもそう思うところなので、うんうんと頷いてバカは羽をぱたぱたさせた。燕は『俺をそこに入れないでほしい……』というような顔をしていたが!
「あのーう、逆に言うと、それ以外の人達には結構怖い部屋じゃないですか?そもそも暗いし……」
が、タヌキはなんだかぶるぶるしながら、縮みあがっている!
「……タヌキさんは、暗いところは苦手かしら?」
「そりゃあ勿論!だって暗いし!何も見えないし!それに、足を滑らせたら落っこちちゃう、ってことは……つまり、高所ですよね!?私、軽度とはいえ、高所恐怖症でしてえ!なんか、お尻がもぞもぞするっていうかぁ!」
七香が尋ねると、タヌキは『もぞもぞ!』とやりながら力説してくれた。七香は『もぞもぞ!』のタヌキを見て、ちょっと楽しそうであった。
「あ、でもでも、場合にもよります!暗い部屋で蝋燭の灯りだけを眺めながら食事をするのは割と好きでしたよ!」
「そう」
……タヌキの話を聞く七香の頭の中には、高級レストランでキャンドルの灯りと共に食事を楽しむタヌキの図があったのかもしれない。だが。
「はい!まあ、その食事の内容は主にパンの耳時々カップラーメン、そしてご近所で恵んで頂いたお惣菜とかだったんですけども!」
「……そう」
実際のところ……タヌキの言う『蝋燭の灯りで食事』は、ラグジュアリーなやつではなく、侘しいやつなのである!
タヌキが『蝋燭はですね!最近、仏壇の蝋燭をリアル蝋燭から電子式の蝋燭に変えたおばあちゃんからごっそりいただきましてぇ!それで、電気代節約のため、そして日々を楽しく彩るために、蝋燭の灯りで生活することがありましてぇ!』と解説するのを、七香は異世界の出来事を聞くかのような顔で聞いている。
……両者のギャップが、大きい!
「ところでこのランタン、今は普通の火が入ってるんだなあ」
さて。タヌキの貧乏話はさておき、バカとしてはこっちが気になる。
そう。バカがカードと一緒に拾って帰ってきたランタンだが……前の周では、ここに真理奈の魂が入っていたのだ。
「……まあ、本来はただのランタンでしかないから」
「でも、これに魂入れておけるようにしたんだよな?それで、真理奈をしまっておいたんだもんなあ」
バカが『へー』と漏らしながらしげしげとランタンを見ていると、燕はちょっと、気まずそうな顔で言った。
「……俺は、真理奈がこのゲームに参加することを知らなかった」
「ん?うん」
「だから、咄嗟に真理奈の魂だけは保護しようと思って……このランタンを使うことを思いついた」
燕の話は、バカに向けられたものではないのかもしれない。ちょっと独り言じみたそれを、でも、バカは真摯に聞いて、うんうん、と頷いた。
「体はいくらでも替えが効く。でも、魂はそうじゃない。だから……真理奈の魂は、隠しておきたかった。真理奈の体を俺が使えば、俺自身を警戒するはずの『宇佐美光』の目を誤魔化すこともできるから、有利に動ける。丁度いいと、思った」
バカは、『燕はやっぱり頭いいんだろうなあ』と思った。……今回のゲームは、あまりにも燕にとって分が悪かった。デスゲーム5連勝中の光は居るし、悪魔の事情に詳しくて、悪魔を殺そうとしている四郎も居るし。更に、真理奈まで参加させられていたのだから。
そりゃ、立てていた計画という計画が全て破綻しちゃうだろう。だから燕は、付け焼刃で色々と動かざるを得なくなったのだろうなあ、と、バカは思う。
……同時に、もし、念入りに燕が準備していたら……もしかしたら、バカはずっと、燕のことを見つけられずにデスゲームを終えていたかもしれない。
「……でも、俺は失敗したんだよな」
とはいえ、今回の燕は、真理奈の魂をランタンに入れっぱなしにしておいて助ける、というやり方で一度、失敗している……らしい。バカはそれを、知らないが……。
「え?うーん……うん?そうなのか?」
「……ああ、そこらへん、詳しく説明しちゃいけないのか……」
そう。バカは、マイナス1周目以前のことは、イマイチ理解できていないのである!
一応、『燕は真理奈をランタンに入れておくという基本方針を経て、最終的にマイナス1周目にあったように、真理奈をそのままにしておくやり方に変えた、らしい!』ということは分かってはいるのだが……分かってはいるが、イマイチではある!
そして燕も、『まあ、ここは説明しなくてもいいか……』と割り切ったらしい。1つため息を吐いて、話を戻した。
「俺が……真理奈の魂だけを隠しておこう、としたから、失敗した。最初から、もっと上手くやる方法を、見つけるべきだった。でも……いや」
「うん?うん」
バカが首を傾げていると、燕はちょっと迷いながら……ちら、と、バカの隣に居る海斗のことを見て、それから、バカの目をじっと見つめて、尋ねてきた。
「あんたは……その、『やり直し』の異能が無かったら、海斗さんを連れてきたか?」




