表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム<Ⅱ>  作者: もちもち物質
第六章:覆水を盆に返すバカ
138/139

ゲームフェイズ2:『12』吊るされ、埋もれるタヌキ

 さて。リベンジとなると、バカも流石に緊張するものである。

 特に、『8』の部屋には嫌な思い出しか無い。……ということで、バカにしては珍しく、情報収集と作戦会議から入るのだった!


「『8』の部屋は『最初に入ってきた奴の異能と身体能力をコピーして使う』部屋だ」

 ということで、皆で燕の説明を聞くことになった。バカはちゃんと正座している。燕は『なんで正座してるんだ……?』と訝しげであったが、バカとしては『ちゃんとしたい時は正座!』と刷り込まれているので、正座なのである。どうしようもないのである。

「だから、最初に入った奴が誰かによって攻略難易度は大きく変わる。例えば、俺が1人で入った場合、『模写』が出来る奴同士で戦うだけだから……生身の人間2人が殺し合いするのと変わらない、つまらないことになる」

「わ、わああ……」

 燕が心底嫌そうにそんな話をするのを聞いて、バカは『大変だあ……』とあわあわした。生身の人間2人の殺し合い、というものは、生身の天使2人の殺し合いよりも陰惨なことになりがちなのである。

「え、燕って悪魔になったんじゃないの?普通の人間と同じ身体能力なの?」

 が、そこで真理奈がそんなことを言い出した!なので、燕は益々嫌そうな顔になってしまった!

「……そこにコストを割かなかったから」

「えっ、なんで!?」

「効率が悪い。フィジカルに特化した結果、できるようになることが増えるかっていうと、そうでもない。あと、単純に人間に混ざってデスゲームに勝利するのが一番、昇格に早かったけれど、この昇格試験に挑戦できる条件がフィジカルの強化が一定以下であることだったから」

 燕の冷静な解説を聞いて、真理奈は『うわあ……難しそう……』と慄いた。バカも『俺、全然わかんない……』と慄いた!

「あー、一応、フィジカルの強化に特化した悪魔も多いぞ。こいつが特殊なケースなだけだ。ほら、生命力とか、回復能力とか……。悪魔だと、頭吹っ飛ばされても死なねえのが当たり前みてえなとこあるだろ」

 ……そして、四郎からのフォローもあって、バカは『そういえば、悪魔って頭吹っ飛んでも大丈夫な奴多いよなあ』と思い出した。……一方で、燕はそうではない、ということだろう。燕は大事に扱わなければ、とバカは心に決めた!


「だが、『8』の部屋がコピーしてくるのは、あくまでも異能と身体能力だけで……だから、それ以外に戦力が変わるような何かがあれば、話は変わってくる」

 バカが『燕を大事にしなければ……』とやっている横で、燕の説明は続く。

「例えば……一番簡単なのは、武器か。俺が包丁を持った状態で『8』の部屋に入っても、包丁はコピーされないから……丸腰の俺と、包丁を持った俺が戦うことになる」

「ああー、そういう……ということは、私が一番強いです?」

「……まあ、それは1つあり得ると思う。物品の持ち込みに制限がほぼ無いなら、例えば、戦車を持ち込むこともできるわけだし……」

 バカの脳内では、戦車に乗ったタヌキが勇ましく突き進んでいる。とても強そうである。

「或いは……その、ヤエ、さんの異能は……持ち込んだものによって強化される振れ幅が大きい……よね?」

 また、燕はちょっと躊躇いがちに、ヤエに話を振った。

「え……?あ、そう、なんですか……?」

「……植物を生成、もしくは再生させる異能で、生成より再生の方がコストが低いはずだ。だから、植物の破片1つでも持って入れば、有利に動ける、と思う」

 バカは、また思い出す。

 ……ヤエが、『8』の部屋に入った時……ヒマワリがたくさん咲いていたことがあったが……アレは、そういうことだったらしい。

「燕、ヤエちゃんの異能に詳しいんだねえ……」

 が、そこで真理奈が、ちょっぴり複雑そうな目で燕を見た!が、燕はその視線の意味にはまるで気づいていない!

「……何人かの異能は知った状態でスタートしてる。別に、彼女の異能についてだけ詳しいわけじゃない」

「でも私の異能は知らなかったよねえ……」

 燕は全く!気づいていないのだ!……否、もしかしたら、真理奈自身も、自分のじっとりした目に気づいていないかもしれないが!

「あのな、そもそも俺は真理奈が参加することを知らなかった。知ってたら止めてる」

「えっ……そ、そっかぁ……いや、あの、燕は私の事、大事にしすぎだと思うよ」

「そんなことはない」

 ……が、そうして両者共になんとなく色々気づかないまま、話は終わった。この様子を、デュオはなんとなくにこにこと見守り、海斗はちょっと恥ずかしそうに顔を背け、そしてタヌキは……タヌキは、光り輝かんばかりのキラッキラの笑顔で踊っていた!とても顔に出やすいタヌキである!




 ということで。

「まあ、そう考えると七香さんが先頭になるのがいいかもね」

 デュオが、そう結論を出した。

「……私、ですか」

「うん。俺への怒りとかを思い出してもらって、なんとか異能の強化をしてもらえないかな、って。……コピーできるのは異能と身体能力だけ、っていうことなら、感情の強さによって異能が強化される七香さんは確実にアドバンテージを取れる。それでいて、樺島君が居れば七香さんは完封できそうだから保険も効くし……」

 デュオの意見は至極尤もなのだが、七香は『怒り……』と何とも言えない顔をしている。怒る対象から『じゃあ怒ってもらって……』と言われても、怒るに怒れない気分であろう。

「いや!そんなの流石にちょっとどうかと思いますよ、デュオさん!」

 ということで、そこへ颯爽とポンポコやってきたのはタヌキである。タヌキは『そんなの七香さんに失礼です!』とポンポコポンポコ、デュオへ抗議した!

「でも、それが一番安全だと思う。例えば、樺島君をコピーされてしまったら俺達は一巻の終わりなわけだし……」

「しかしですよ!七香さんに一番槍をお願いするにしても、せめて、なんかもうちょっと無いんですか!ねえ!あなたねえ!自分が騙していた女性に対して『じゃあ俺に対して怒ってもらって』っていうのはちょっとねえ!どうかと思いますよ!」

 タヌキの怒りはご尤もである。デュオは『それもそうだ。ごめん』と七香に謝った。七香は何とも言えない顔をしている!

「あの、七香さんって、怒りの感情で異能を使う人なの?」

 ところがそこに、更に真理奈がやってきた。唐突な質問に、七香はちょっと首を傾げて、それから答える。

「感情が強ければ異能も強まる、とは書いてあったけれど」

「そっかー……あの、じゃあ、もしかして、怒り以外でも、異能って強化できるんじゃないかな……」

 ……そして、真理奈は、何やら『私、気づいちゃったかもしれない……』というような顔で、言った。


「七香さんが爆笑してたら、それでも強くならない?」

「……え」

 ……七香が固まってしまった!




 ということで。

『七香さんを大笑い……は難しいにしても、喜怒哀楽の喜はいけそうな気がする。じゃあ、タヌキかな』『タヌちゃんよねえ』『よし、タヌキ。気張ってこい』と満場一致であったため、タヌキが七香を喜ばせる係になった。タヌキは『私!?私!?私!?』とびっくりしていたが、既に七香はちょっと面白そうにこれを見ていた!

 ……そうして、そんなタヌキと共に、バカは『12』の部屋へ向かった。五右衛門、そして『色々と心配だ!僕も行く!』という海斗も一緒である。

 何故この部屋か、というと……タヌキが七香を笑顔にするために必要なものがこの部屋にあるからだ!

「ここに可愛いまんまるローズがあるというのは本当ですか!本当ですね!?」

「うん!確かにあるぞ!それで、タヌキはここに入るといっつもその薔薇で巻かれちゃうんだ!」

「私が巻かれるんですかあ!?エッ!?なんで!?」

「タヌちゃん、ここ、『吊るされた男』の部屋よぉ……?だからアタシが来たんでしょぉ……」

 ……バカもよく知る通り、この部屋はありとあらゆる紐状のもので縛り上げられて吊るされてしまう部屋である。ということで、『じゃあ物を切ることが一番得意な五右衛門が一緒だと強い!』となり、五右衛門にも付いてきてもらった次第である。

「えーと、部屋の中入るとすぐ……あっ!来たぞ!」

「えっ!?うわっ!?ええええっ!?」

「お、おい!樺島!そういうことは部屋に入る前に言ってくれ!僕はてっきり、部屋の中に入って何かするまでは吊るされないものだと思っていたんだが!?」

 そうしてバカ達は早速、部屋の中に入って、早速吊るされた。

 バカは自分の足首にしゅるんと巻き付いた鉄の鎖を『バキイ!』と引き千切り、自由の身となった。

 そして、自分の隣では海斗が、綺麗なおリボンで胴をぐるぐる巻かれて吊るされてしまったので、おリボンに『ごめんよぉ……』と謝りつつ、できるだけ上の方で、ぶちっ、と引き千切った。綺麗なものは引き千切っちゃうのがちょっと申し訳ない気分になるバカなのであった。

 そうしてバカが、巻かれっぱなしの海斗を抱きかかえて安全地帯へと運んでいると……。

「ああーん!吊るされてる!私、吊るされてますー!ああーん!助けてー!助けてぇー!」

 案の定、タヌキは可愛いピンクのまんまるの薔薇が沢山咲いた薔薇の蔓でぐるぐる巻かれて、吊るされタヌキになっていた!

 一方の五右衛門は、パラシュートコードをジョキンと手の鋏で切ってさっさと自由になっており、タヌキの救出に向かっている。

「助けてー!吊るされてる!このまま囲炉裏に運ばれてタヌキ鍋にされるやつですか!?これ、そういうやつですか!?ああーん!」

「はいはい、落ち着いて。ちょっと待っててね……あ、これ、薔薇の茎だけど切っちゃっていいのぉ?」

「あ、はい。ローブ・リッターは挿し木でも増やせるので大丈夫です!切り口は斜めになるようにお願いします!」

「いきなり冷静になんないでよびっくりするじゃないのよぉ……」

 ……そうして、ひと悶着……否、0.3悶着ぐらいあった後、無事、タヌキを吊るしていた薔薇の茎がチョキンと切られ、タヌキも自由の身となった!

 そうこうしている間に、バカはなんとか、海斗をぐるぐるまきまきしていたおリボンを解き終えた。尚、途中から手を動かせるようになった海斗がほとんど自分で解いていた。こういう細かい作業はバカより海斗の方が得意である。

 また、タヌキの方は、『薔薇に傷をつけないようにお願いします!アッ、私にも傷をつけないようにお願いしますね!ありがとうございます!』『だったらこのまま持って行った方が早くない?』『アッ!?それもそうですね!じゃあこのままいきます!やったー!ローブリッターだー!』とやりつつ、タヌキの動きの邪魔になる部分だけ、薔薇の蔓を解いてもらっていた。


 ……ということで。

「やったー!ローブ・リッターだー!ほーら見てください、このまんまるピンクのかわいいローズ!これが嫌いな人なんていませんよ!これが嫌いな人は人間じゃない!」

 タヌキは喜びのあまり、その場でぽんぽこ跳ね回り始めた。バカはそれを見て、『俺も!』と一緒に跳ね回った。バカの跳ね回り方はダイナミックなので、途中で海斗に『やめろ』と言われてしまった!

「タヌちゃん、薔薇好きなのねえ」

「はい!ピアノのレッスン料の代わりにピアノの先生のお家のお庭の薔薇のお手入れをさせていただく程度には薔薇好きです!いやー、もうねー、このローブ・リッターのかわいいところは、花の形が特徴的なところや花付きがいいところもそうなんですけれど、あんまり手がかからない丈夫な子っていうところもそうでしてぇ」

「それ、戻ってからにしましょ。あんまり長くここに居たくないし、皆、待たせちゃってるし」

 何はともあれ、薔薇を手に入れて大喜びのタヌキを連れて、バカ達はまた大広間へ……そしてお花見会場へと戻るのであった。




「七香さーん!」

 そうしてタヌキは、ぽてぽてぽて!と一生懸命短い脚を動かして、七香の下へと駆け戻った。

「さあ!ご覧ください!薔薇です!ローブ・リッターです!」

 七香は、タヌキの胴体に巻き付いたままの可愛らしい薔薇を見て、『あら』と表情を綻ばせた。

「……どうです!?七香さん、これでなんだか嬉しくなってくれましたか!?」

 ということで、タヌキは嬉々として七香を見上げたのだが……。

「……そうね」

「ああああああ!?あんまり嬉しそうじゃない!少なくとも、表情がほとんど変わってない!あああああ!ああああああ!」

 七香は相変わらずの鉄面皮!タヌキは『アテが外れた!』と大いに嘆いた!


「えっ……あの、七香さん……お好きなものでいっぱいだったら、大笑いとはいかずとも、くすっ、くらいはなりません……?」

 が、諦めの悪いタヌキは、そっ、と七香の様子を伺う。

「……なるけれど、それって『強い感情』ではないと思うわ」

「ええっ!?七香さんは、薔薇を見ても強く心揺さぶられることは無いんですか!?」

「……穏やかな気持ちになるだけよ」

「そうなんですかぁ!?嘘ぉ!?」

 タヌキはショックを受けて尻尾を膨らませている!……が、そんなタヌキを、じっ、と見つめて、七香は小首を傾げた。

「あなたは、違うのね?」

「あ、はい!薔薇を見るともうね、興奮しちゃって大喜びですね!さっきもこのローブ・リッターを見つけた喜びで跳ね回ってたくらいなんですけどもぉ!」

「……そう」

 タヌキは『ああああん!誤算!これはかんっぺきに、誤算!』とモダモダワタワタしていた。七香はそれを見てちょっと面白そうに、くす、と笑った。




「いや!まだです!まだ終わりませんよ!」

 が、ここでタヌキが立ち上がる。否、元々立っていたが、気分が立ち上がったのだ。スタンディングタヌキである。

「思えば、七香さんが『綺麗ね』って言ってくださった時のローブ・リッターは!確か、生垣になってる大規模な奴だったはず!先生のお宅のお庭の4分の1を占める大物に育っちゃったローブ・リッターだったからこそ、七香さんは心動かしてくださったのかも!」

 タヌキの演説を、全員が『そうかぁ、多分なんか違うと思うよ』という気持ちで見つめていた。唯一、戦車だけが『そうかもしれない!』とうんうん頷いていた。戦車はいい子なのである。

「一枝の薔薇は!心を穏やかにしてくれることでしょう!しかし!見事な薔薇の生垣ともなれば!流石に七香さんでも興奮するはず!大きさって大事ですよね!規模って大事ですよねえ!」

「……そうかもしれないわね」

 七香は既になんだかちょっと面白そうにしていたが、タヌキはそれに気づかず……くるん!とターンを決めて、ヤエに向き直った。

「ということで!ヤエさん!」

「あ、うん……?」

「さあ!この薔薇を!思いっきり育ててください!」

 ヤエは指名されて、そして、タヌキの胴体の薔薇を見て……ちょっと、首を傾げた。

「え、いい、んですか……?」

「はい!このお花見会場の一部を桜じゃなくて薔薇にしましょう!そういうことで!景気よく!お願いします!」

 タヌキは堂々としていたが、ヤエは尚も戸惑っている。……すると。

「ヤエちゃん。遠慮は要らないわ。でもまあ、タヌちゃんに優しくお願いね」

 五右衛門が、ちょっとにまにましながらそう言った。にまにま、とした五右衛門を見たヤエは、きょとん、としてから……ちょっとだけ、にこ、と口元を綻ばせた。

「あ、はい……じゃあ、そういうことなら……うん」

 ヤエは、にこ、にこ、としながら、タヌキに向かって集中し……。




「私って、バカです?なんで胴体に巻いたまま、成長させてもらっちゃったんです?」

 そうして、タヌキはローブ・リッターの生垣の中に埋もれた!




 ピンクのまんまるローズが鈴なりに沢山咲き誇る中から顔だけ出している状態のタヌキは、手足が地面に付かず、只々、薔薇の花でもっふんもっふんになっているばかりであった。

「大丈夫だぞ、タヌキ!俺の方がバカだぞ!」

「あ、それはどうも……ああーん!なんで私ってこうなんです!?ああーん!格好良く決めたかったのにぃー!」

 ……タヌキは『ああーん!』と嘆いていたが……薔薇に埋もれてじたばたするタヌキを見ていた七香は、手を叩いてころころと笑っているのであった!

 貴重な七香の爆笑シーンである!タヌキは一周回って、この偉業を成し遂げたのだった!本人は全く気付いていないが!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
可愛すぎるだろうこのタヌキ(成人男性)
いやもうたぬきさんがね、ほんと可愛いよね! 七香さんの気持ちわかるー! それにしても、前話を遅れて読んだために、もちもち先生の死神君は、誘われたら大体どこにでも行くタイプの顔の広い奴です。皇帝とサシ…
タヌキは尊い生贄(生垣?)になったのであった……w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ