ゲームフェイズ1:『16』平和な塔
ということで。
「うおおおおおおお!やるぜぇー!うおおおおおお!」
「気合いたっぷりだな、樺島……あの、すまない。その、樺島はさっきからずっとこの調子か」
「ずっとこの調子だ」
「……そうか。すまない。ええと……本当に、すまない」
バカと燕と真理奈、そして海斗も一緒にやってきた『16』の部屋である。
ここは塔があって、てっぺんのカードを取ると塔が崩れる。つまり……空を飛べるバカからしてみると、全く、何の障害でもない部屋である!
「じゃ!行ってくる!俺戻ってきたらすぐエレベーターな!」
「ああ分かった。さっさと行ってこい。ほら」
「うん!さっさと行ってくる!さっさ!さっさ!」
バカは翼を広げて飛び立った。今回は羽を隠す必要もないので、思いっきり飛ぶ。壁を走って登ってもいいが、やっぱり飛ぶ方が速いし楽なのである!
「よーし!カード見っけ!じゃ、取るぞー!崩れるから気を付けろよー!」
そうしてバカはほんの数秒で塔のてっぺんまで到達すると、そこでカードを拾い上げ……途端にがたがたと騒ぎ出した塔から、ぴょい、と飛び降りた。
飛び降りて加速してから、ばっ、と翼を広げ、一気に水平方向に進む。尚、この間、塔はまだがたがたやっているだけで、崩れてはいない。
「じゃ、帰ろ!」
「……この後、あの塔が崩れるのか?」
「うん!……あ、そろそろ崩れ始めるか?」
……そうして、バカが燕に『はい!』とカードを手渡し、エレベーターへ向かうべく退室したあたりでようやく、塔が崩れ始めた。
が……バカ達が、『ぱたふんっ』とドアを閉めて行ってしまったのを見送った塔は、『あ、これもう崩れなくてもいいやつかあ』と思い直して、そっと、崩れるのを止めた。
ついでに、『じゃあもうこれはいらないなあ』と、塔の内部に用意してあったトラップを、ふるふる、と体からふるい落として……塔は『すっきり!』とにこにこした。
……そうして後には、ただ日向ぼっこしつつ、『もう仕事上がりだあ!おやすみ!』とお昼寝し始める平和な塔だけが残ったのであった!おめでとう!
「5分とかからなかったな……」
「うん!あの部屋、めっちゃ早いんだよなあ!」
「いいか?樺島。それは単に、お前が規格外なだけだからな!」
ということで。
バカ達は再び大広間へ戻ってきた。あまりのスピード帰宅に、お留守番していた皆が『アレッ!?早くないか!?』という顔をしていたが、実際早かったので何も言えることが無い。
「あ、ところで樺島君。はい、これ」
そんな中、デュオが『はい』と手渡してきたのは、『2』のカードである。……ふと見れば、女教皇が大広間の片隅に座り込んでぴーぴー泣いており、ヤエと七香とタヌキが慰めているところであった!
「彼女が持っていたみたいだから、もらっておいたよ」
「そっかぁ!ありがと!じゃあ燕!はい!」
ということで、『2』のカードも無事、燕の手に渡った。
……というところで。
「……あの、俺にカードを集中させることに何の疑問も抱かないのか」
「へ?」
燕の問いに、バカは頭の上の『?』マークを増やしつつ首を傾げた。すると燕は『ああ、やっぱり……』という顔をしながら、ちら、と、海斗の方を見る。バカの通訳であり、もうちょっとまともに話ができそうな奴、という認識なのであろう。大体合ってる。
「あー……その、僕自身、未だにこの状況に何と言っていいのかは分からないが……まあ、僕と樺島の目的は、君の救助だ。君が生きてこのデスゲームを脱出する方法が『上級の悪魔になる』ことだというのなら、それを手伝うしかない」
「俺が裏切ったら、あんた達は全員、出られなくなる」
「ああ、それは大丈夫なんだ。この会場はゲーム終了後、樺島が務めている建設会社が解体する予定だから……」
「は?」
……そして、燕の心配は、バカと海斗にとっては取るに足らないことである。
何せ、この会場はキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部によって解体される運命にある!そこらへんは先輩や親方が上手くやってくれるので、ここに居る人達が閉じ込められてそれっきり、ということにはなりようがないのだ!
「いや……他に望みがある人だって、居るだろ。何のためにデスゲームに参加したんだ、あんた達」
とはいえ、燕の言う通り、『願い』の方はどうしようもない。こればっかりは、バカとしても『だよなあ、どうしようかなあ……』と思うのだが……。
「それなんですが!ひとつよろしいでしょうか!」
そこへタヌキが、意を決したように声を上げた。
「あのですね、燕さん」
タヌキは真剣な顔で燕の足元までぽてぽてと歩いていき……そこで、ぽふん!と尻尾を立てつつ、主張した。
「燕さんが上級の悪魔になって、人間の魂を自由に動かせるようになったら!私とデュオさんの魂を!元の体に戻していただきたいんです!」
「えっ」
「可能ですよね!?そういうことですよね!?私の願いは『元の体に戻ること』と、『元の体の健康を取り戻すこと』なんですがぁ!後者はもう諦めるとしても、前者については、燕さんが悪魔として大成してこそ、叶えられる望みなんじゃないかと思いましてぇ!」
タヌキのしっぽが、ぷおんぷおんと元気に振り回される。その真剣な様子に、燕は何も言えない顔になってしまった!
「あっ!だったらタヌキ、うちの会社来いよぉ!タヌキロボ作ってもらって、一旦はそこに入ればいいよぉ!」
「タヌキロボ!?タヌキロボですか!?エッ!?樺島さん……あの、一つお伺いしたいんですが……とっても、大事なことなんですが……そのロボは、合体、しますか……!?」
「するようにできるかもしれねえ!先輩達、すげえから!」
「えええええええ!どうしよぉおおお!ちょっと胸躍るこのかんじぃ!きゃーっ!合体ロボに!私が!きゃーっ!」
更に、タヌキの願いはキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部である程度解決できそうである!すばらしい!
「……ちなみに合体するとしたら何と合体するかんじですかね」
「蟹!」
「かに!?」
タヌキは、『蟹とタヌキの合体……たぬかに!?』と混乱していたが、まあ、それはさておき。
「俺の望みについても、どうにかなると思うよ。君が悪魔として、上手くやってくれればね」
デュオもまた、そう言って燕の肩を叩いた。
「君のお姉さん……駒井つぐみの魂の解放。それも、上級の悪魔になれば可能だと思うけれど」
「勿論」
燕は、すぐさまデュオの言葉に頷いた。
「……自分の始末は、自分でやる」
……燕自身、自分の姉が自分を追いかけてきてデスゲームに参加してしまったことを悔やんでいるらしい。ついでに幼馴染まで同じことになろうとしていたのだから、彼の心中は如何ばかりか。
「そうか。……まあ、俺にできることがあれば俺もやるよ。そのためにここまで来たんだから」
とはいえ、そんな燕には頼れる兄貴分……本当に『義兄』になるかもしれない、デュオがついている!これならば大抵のことはなんとでもなるだろう。バカは『こいつはすげえ!』とにっこにこである!
「とはいえ……えーと、七香さんは、どうかな」
が、にこにこしてばかりも居られない。だって、七香は七香で、考えがあるはずなのだから。
……だが。
「私も同じ考えです」
七香は、ひょい、とタヌキをまた抱き上げた。
「彰さんは元の体に戻るべきでしょう。癌の治療については、私が出資します。そして、それでも不可能な点については……」
七香は、ゆったりとタヌキの毛並みを撫でながら……その目に、冷たくすら見える程に強く固い意志を宿して、燕をじっと見つめた。
「……悪魔の力に頼るしか、ないでしょうから」
「……なら、よかった」
燕はちょっと笑って、それから、言った。
「実のところ、悪魔ならそれができる」
「エッ!?癌、治せるんですか!?」
バカも『ええっ!?マジかぁ!?』とびっくりしたが……燕は、『そうじゃない』と首を横に振った。
「いや、健康な体……というよりは、限りなく人体に近い人形を別で生み出して、そこに魂を移すことができる。……俺は、自分の体を1つ作ったことがあるから」
「エッ!?何のために!?」
「葬式」
……バカは、『えっ!?』とまたびっくりしたが……。
「……死体が見つからなかったら、永遠に探すだろうと思って」
「ああー……そ、そういう……成程ですね、ふーん、ふん……ぬああーん……なんか悲しい話ぃ……」
タヌキが何とも言えない奇声を発し始めたのを聞きながらバカは意味を考えて……そして、すとん、と理解した。
燕は、一応、ちゃんと『死ぬ』つもりだったのだなあ、と。
だが、そんな燕の横で、ぷく、と頬を膨らませた真理奈が、もすん、もすん、と燕に体当たりをしている。
……その光景を見たバカは、『燕、よかったなあ!死んでも探されてたぞ!』と、にっこにこになった!燕は只々、苦い顔であったが!
「まあ、そういうことで俺とタヌキと七香さんについては、むしろ燕の昇級を応援したい立場、ってことになる、かな」
「頑張ってくださいね!よろしくお願いしますね!」
「必ずや、昇級なさい」
「あ、ああ……うん」
さて。
こうして、デュオとタヌキが『よろしく!』とやり、七香がしれっと圧を掛けると、燕は何とも言えない顔で頷いて……それから、ちら、と、四郎の方を見た。つまり、『元』とはいえ、天使であった四郎の反応は気になるのだろうが……。
「……俺としては、叶えたい望みがなあ……なんつうか、ボケちまって……もういいか?って気分にも、なってきちまってはいるんだが……」
四郎は四郎で、何とも言えない顔である!それはそうだ。『死んだ』と思っていた娘さんが生きていて、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の社食でバイトしていて、そして時々ミニストップ巡りをしてはソフトクリーム食べてる、などと聞いてしまってはこういう顔にもなろう。
「まあ、上級の悪魔のツテがありゃ、妻を殺した悪魔をぶっ殺す助けにはなってもらえるだろうしな。……俺の復讐を手伝ってくれるんなら、俺もお前の昇級試験に協力するが、どうだ」
四郎がそう言うと、燕は実に冷静に、『実のところ、こいつの助けが無くてももうどうとでもなりそうではあるが……』と考えている様子であった。
……とはいえ。
「分かった。協力する。……理不尽なことは、無い方がいい」
「おっ、そうか。なら交渉成立だな。よろしく頼むぜ、燕」
燕は燕で、正義の心を持っているのである。よって、四郎の思いには共感できるらしく……自らの利益のためではなく、単純に、理不尽を味わった者への救済のために、燕は四郎の手を取ることにしたのだった!
「ヤエちゃんは?願い……えーと、難しいわよね、急に振られても……」
「え、えーと……」
さて。続いて、ヤエと五右衛門であるが……。
「……その、まだ、考え中、っていうか、まとまってなくて……」
……ヤエはやっぱり、まだ考え中であるらしい。
とはいえ、多分、ヤエはこれでいいのだ。今まで、『考え中』の前で立ち往生していたらしいヤエのことを思えば、『考え中』になったこと自体、大きな大きな前進なのである!
「あの、五右衛門さんは?」
そんなヤエが五右衛門に話を振ると……五右衛門は、『あらっ!?アタシ!?』と、ちょっと驚いて……。
「……えーと、アタシは、願い、元々無かったのよねえ……。とはいえ、今はあるんだけど」
そして五右衛門は……なんと!驚くべきことに、そんなことを言い出した!
「えっ!?五右衛門、願い、できたのか!そっかぁ!よかったなあ!」
「それ、よかったって言っていいのぉ……?」
バカは『希望があるってのはいいことだ!』とにっこにこであったが、五右衛門は『それ、本当に喜んでいいのぉ……?』と、ちょっと申し訳なさそうな顔をしている。だがバカはバカなので、自分の不利益だのなんだの、考えているはずがない。バカはただ、人の幸福を喜ぶのみ!
「アタシはね……ヤエちゃんが幸せでいてくれたら、って思ってるわ。だから、ヤエちゃんの願いが叶うようにするのが、アタシの願いよ」
……更に、五右衛門がそんなことを言うものだから、『皆幸せであれ!』と、バカは大喜びである!幸せであれ!皆、幸せであれ!
「ああ、五右衛門さんとヤエさんは、事故の加害者と被害者なんだっけ?」
と、やっていると、デュオがそんなことを言い出した。途端、ヤエは気まずそうな顔をしてしまうし、五右衛門も身構えたが……デュオは、『ごめん』とちょっと申し訳なさそうに笑いながら、続けた。
「なら、賠償金とか、医療費とかについては俺が出すよ。つぐみの魂の手掛かりは手に入ったし、燕が居ればつぐみの魂も取り戻せるだろうし。となったら、金はそんなにあっても意味が無いから」
……そう!
デュオは、金持ち!そして、気前がいい……というよりは、つぐみ以外に興味が無いのである!
「えっ……そ、そんなの流石に悪いわよぉ!駄目でしょ!それは!」
「別にいいんじゃないかな。これも縁なんだろうし。それで幸せになる人が増えるなら」
五右衛門は『そんなの駄目でしょぉ!?』とやっているが、デュオは『まあ、1000万や2000万くらいならなんてことはないし』などと言って、五右衛門を余計に絶句させてしまった!金銭感覚が、違いすぎる!
……ということで、五右衛門とデュオの押し問答はもうちょっと続いたのだが。
「……提案がある」
そこで、燕が小さく、手を挙げた。
「その……金目のものを得られる部屋が、あるんだが」
「……えっ?」
「誰も裏切らないなら、莫大な額のものも得られると思う。……挑戦、してみないか。俺は協力する」
バカはすぐ、ピンときた。
……宝物がいっぱいの部屋だ!バカの記憶の中では、タヌキが王冠を被っているが……アレがまた、見られるのだ!




