ゲームフェイズ1:『13』友情
さて。
そうして大広間へと向かってみたが、まだ、誰も大広間に戻ってきていなかった!つまり、バカ達は暇である!
……ならば。
「じゃ、次の部屋いくかぁ!」
「行くのか……」
燕が深々とため息を吐く一方、バカはやる気と元気に満ち溢れてニコニコだし、真理奈は真理奈で、『よし!行こう!』とニコニコであった。つまり、1対2である。燕は数の暴力によって負けた。
「じゃあ次は……どこにしようかなあ」
バカはちょっと考える。バカは、数字と部屋の内容がイマイチ一致していないので、どこが何だかはよく分からない。が、一応、どんな部屋があったかは覚えている。燕の話では、『8』の部屋も、バカが開幕早々タックルをかませば解決できるらしい。だが……。
バカの尻のあたりをつんつん、とやってくるものがあって振り向くと、そこには『忘れないで!』と言わんばかりの戦車がいる。可愛いやつである。
「あっ!乗り物……!」
そしてその戦車を見て、バカは思い出した。
「あの、確か、『乗り物に乗って戦う部屋』、あったよなあ!?」
「……いや、無いと思う」
「えっ!?馬に乗った骸骨の」
「あ、13……えっ……?アレを、『乗り物に乗って戦う部屋』って言う……?」
……そう。
バカは、このデスゲーム中に、絶対にやりたいことがあった。それは……。
「じゃあ次はあの骸骨と友達になろう!」
「骸骨と!?えっ!?骸骨って生きてるの!?」
……あの骸骨騎士と、ちゃんと戦って友情を育みたい!バカは今まで、あの骸骨騎士を毎回毎回、瞬殺してしまっている!だから今度こそは!
「骸骨ー!」
そうしてバカ達は、『13』の部屋へやってきた。
……戦車に乗って!
骸骨の騎士は、顎関節がぶっ壊れんばかりに口をあんぐりと開けてこの光景を見ていた。それはそうである。参加者が戦車に乗ってやってくるのは、間違いなく前代未聞のことであろう。
「そもそもなんでこの戦車、自走するんだ……」
「なんか、さっきは牽いてくれる生き物居なかったっけ?それ無しでも動くんだね」
「いや、動かないから。普通は動かない。動くはずがない」
「そっかあ、じゃあ、普通じゃない戦車なんだねえ、この子。いい子いい子!」
真理奈が戦車を『いい子!』と撫でると、戦車はちょっと嬉しそうにふるんと震えた。この様子がまた、真理奈とバカには『かわいい!』と好評である。燕は色々と諦めて、ちょっと崩れた体育座りで戦車の上に乗っているだけだ!もう、何も言えない!
「あっ!骸骨ぅ!試合しようぜ!俺は戦車!お前は馬な!で……お前は槍で、俺はこのバット!」
「樺島さん。それはバットって言ってもイマイチ通じないと思う!」
「そ、そっかぁ!?……じゃあ、槍!?」
「うーん、槍でもないねえ……」
そして、いよいよ骸骨の騎士の下顎の骨が落っこちてしまった。それはそうである。同僚の悪魔が『バット』になっているのだから、そうもなる。
が、バカは慌てて『大変だ!骸骨の顎がおっこちちゃった!』とやってきて、そっと骨を拾い上げ、『はい!』と骸骨の騎士に返してあげた。骸骨の騎士は『あ、どうも……』とばかりに曖昧な会釈をしつつ、もそもそとやって、下顎の骨を元の位置にぱちこんと戻した。
……そして。
「じゃ、やろうぜ、試合!いい試合にしような!」
バカが闘志を燃やしていると、骸骨の騎士も一周回って、もうどうでもよくなってきたらしい。
両者は頷き合い……がしり!と握手を交わしたのであった!試合開始!
「いくぞ、戦車!俺達の力、見せてやろうな!」
バカは戦車に乗って、戦車に話しかける。戦車は『任せなさい!』とばかり、その場でくるんと一回転した!
尚、真理奈と燕は応援係である。真理奈は『がんばれー!』と声を上げてくれている。燕はもう、途方に暮れたような顔である!
……そして、骸骨の騎士と黒馬も、気合十分であった。
黒馬に跨った骸骨の騎士は、馬の首のあたりをそっとなで、何やら声を掛けるようにカタカタと顎の骨を鳴らした。黒馬は、ひひん、と鳴いて、前脚で床を掻く。気合が入っている!
……さて。
そうして、バカ達は向かい合う。馬上槍を手に、身を低くして馬の上で構える騎士を見て、バカは『わあ、かっこいい……!』と思わず見とれてしまう。やっぱりかっこいいものはかっこいいのだ!
だがそれに負けじと、バカも戦車の上で女教皇バットを構えた。精一杯、キリッ、としてみるのだが、絵面は酷い。真理奈が思わず噴き出してしまう程度には、酷い。
……だが、真剣勝負に見た目など関係ない。バカと騎士、そして戦車と黒馬はしか、と見つめ合い……両者同時に、動き出した!
バカは、いつぞやに教えてもらった『馬から落ちたり武器を落としたりしたら負け』というルールを思い出しつつ、骸骨の騎士ではなく、その手の槍を狙うことにした。
一方、骸骨の騎士は、『いや、あのバット同僚だし……』という思いがあるからか、バカ本体を狙いにくるようだ。
黒馬も戦車も、どんどん加速しながら進んでいく。そして両者がすれ違うその一瞬……騎士が槍を繰り出し、そして、バカが女教皇を振り回した!
「っりゃあ!」
渾身の力を込めて振るった女教皇バットは、バカ自身を狙おうとしていた槍を真上から叩く。
……それはそれは、強い力で叩く。何せバカは、アンカーボルトをぶっ刺す時の勢いで叩いたので。
当然、骸骨の騎士の手からは槍が叩き落され、『めぎゃっ!』と音を立てて、床に突き刺さった。
……床に、槍が突き刺さった。
それを見た骸骨の騎士は、また下顎の骨が外れんばかりにぽかんと驚き……そして、馬を減速させると、ゆったりとUターンして、同じく減速して停車していた樺島と戦車の方に向き直る。
そして骸骨の騎士は馬からひらりと降りると、バカに向かってとことこと歩いてやってきて……その手に持っていたカードを差し出したのであった!
「くれるのか!」
バカが慌てて戦車から降りてカードを受け取ると、骸骨の騎士はそのまま、バカの手を固く握った。バカは、『握手!握手!』と大喜びで、ガントレットに包まれた骨の手を握り返す。勿論、あんまり力を入れてしまうと骨をバキバキやってしまうかもしれないので、力加減は控えめに!
「ありがとう!ありがとう!あの、いい試合……だったよな?俺、こういうの初めてで、その、上手くやれたのかよく分かんねえんだけど、でも、そっちの突進、すっげえかっこよくってえ……」
握手しながら懸命に『かっこよかった!』と相手を讃えると、骸骨の騎士は嬉しそうにカタカタやりながら、バカと戦車を指差して、そしてジェスチャーで『そっちも素晴らしかった』とやり、そして、床に突き刺さったままの馬上槍を示して、『あれはすごかった』と、ちょっと冗談めかしつつ怖がるジェスチャーをしてみせてくれた。
……そうして、バカと骸骨の騎士は、互いに称え合い、そして、友情を芽生えさせた。
バカは、何度もやり直してようやく、この未来をつかみ取ったのである!感慨もひとしお、といったところで……骸骨の騎士と一緒に、にこにこ満面の笑みであった!
「おまたせー!カード、貰えたぞ!」
ということで、バカは骸骨の騎士に貰ったカードを掲げて戻ってきて、燕のポケットにもすんと突っ込んだ。
「……俺のポケットに入れなくていい」
「そっか?燕はポッケにもの入れない派か?」
「他人にポケットに手を突っ込まれるのが嫌なのは少数派か……?」
燕が何とも言えない顔をしているが、バカは『そっか、燕は自分のポッケは自分の縄張り派だから、人に触られたくないんだなあ……』と、何とも言えない解釈をした。結論は合っているが、過程が間違っている。しかし、燕はそれを訂正する気力も無いので、ただため息を吐いて終わった!
「そろそろ皆、戻ってきてるかなあ……。ええと、今、残り時間何分くらいだろ」
「多分、残り15分くらいだと思う」
「そっかぁ!?じゃ、もう一部屋いけるな!スピード解決できる部屋なら2個いけるかも!」
バカは、『次の部屋!次の部屋!』とやる気満々である。なんだかようやく、パワーで解決できるようになってきて嬉しいのである!
……が、そんなバカも、一旦休憩、となりそうだ。
「ああ、戻ってきたか」
「皆、話し合い終わったのか!そっかぁ!」
そう。大広間に戻ったバカ達は、そこで、やはり『2』の部屋から戻ってきていたらしい皆と合流したからである!
「まあ、ひとまず話し合いというか、情報共有とかは終わらせたよ。まだ、七香さんは気持ちの整理が付き切らないだろうし、タヌキはタヌキで混乱してるけどね……ははは……」
「だって!私、社長ですって!ねえ!どうするんですかぁ!?私、社長なんてやったことないのに!ああああああ!デュオさんが私の体で社長になっちゃったばっかりに!あああああ!あああああああ!」
……まず、デュオとタヌキと七香の3人組は、概ね以前のような状態にまで持ってこられたようである。つまり、七香は『デュオには恋人がおり、そもそも今のデュオはタヌキの体を使っているだけで中身は別人であり、そして中身がタヌキの時の洞田貫彰と会ったことがある』ということを理解したらしい。
そしてタヌキは、『自分が!社長!ああああああ!』となっている。やんぬるかな。
「まあ、これも何かの縁だし、タヌキについては俺がサポートするよ、っていうことで話はついたんだけど……」
「……私も、お手伝いできることがあるかもしれないわ。そう悲観的にならないで」
「そ、そうですか?そうですかぁ……?いいんですね?私、頼りますよ……?頼りっ切りますよ……?」
……まあ、タヌキは七香の腕の中に納まっており、手慰みに撫でられているところである。更に、時々、果物などを与えられている。
つまり……本人は混乱しきっているところではあるが……客観的にみると、大分幸せそうな、タヌキ!
「こっちは……その、話がまとまった、というかんじではないな。とりとめもなく話してみたが……」
一方、五右衛門とヤエと海斗のチームは、まあ、特に何かが解決した、というかんじではないらしい。
……とはいえ、ヤエがなんとなく、明るい顔をしている。つまり……ヤエに必要なのは、きっと、とりとめもなく話すことだったのだろう。
「……あの、色々話聞けて、よかったです。五右衛門さんのこと、ちゃんと聞けて、よかった」
「そお?なら、いいんだけれど……その、無理させてないかしら。アタシ、本当に、どうしていいもんだか分かんなくって……」
五右衛門はまだまだ心配そうではあるが、ヤエは、こくん、と頷いた。
「本当に、無理してないです。……元々、五右衛門さんに会ってみたかったから。親には、なんか、止められてましたけど……親、ほんと、過保護で。私がどう思うかなんて、私以上に分かる訳、ないのに」
ヤエがそう言うのを聞いて、バカは、『ヤエは多分、お喋りするのが好きなんだなあ』と思う。
ヤエは、喋るのが得意ではないのだろう。言葉を選ぶのはゆっくりだし、声を出すのも、ちょっと抵抗感があるように見えるし。
だが……得意でなくとも、きっと、好きなのだ。誰かに話したくて、でも、『苦手みたいだから』と、喋ることをあんまりさせてもらえなかったのではないだろうか。
……その点、ヤエの話をいくらでもゆっくり聞く五右衛門と、自分の考えを言葉にするのが上手な海斗が一緒に居ると、ヤエはとっても居心地がいいのかもしれない。バカは、『海斗相手だと喋りやすいもんなあ!』と、自分のことのように誇らしく思った!
「それから、私の話も、聞いてもらって……なんか、すっきりした、っていうか……脚の話、今まで誰にも、できなかったから……」
ヤエがそう言って、ちょっと笑う。それを見て、海斗と五右衛門が、ほっとした顔をした。
バカも、満面の笑みである!
……そして。
「……で、樺島ぁ」
四郎が、何とも言えない顔で、バカを見ていた。
「……そいつはどこで拾ってきたんだ」
「ん!?『7』の部屋!」
……そう!バカの後ろには今も、戦車が健気にくっついてきているのである!
「……樺島。それ、会社で飼うのか」
「えっ?うん!かわいいもん!連れて帰る!なっ!」
海斗も呆れかえった顔であったが、バカは嬉しくなりつつ、戦車を撫でた。撫でられた戦車は嬉しそうにバカにすりすりやって、それから、海斗にも挨拶をするかのように、ぺこ、とお辞儀した!礼儀正しい戦車である!
「えっ!?それなんですか!?台車!?でも自力で動いてます!?エッ!?もしかして生き物です!?」
……一方、こうしたものに馴染みが無い他の参加者達は、タヌキを筆頭に只々戸惑っていたが……バカは、胸を張って答えた!
「戦車!可愛いだろ!俺、こいつ連れて帰るんだ!」
……タヌキが、『なんでェ!?ああーん!私もうなんにもわかんない!あああーん!』とひっくり返った!ぽんぽこぽん!
タヌキは『戦車!?何故!?何故戦車が自力で動いているんです!?』とひたすら混乱していたが、そんな面子の中で四郎は唯一『あー、まあ、野生の戦車とか、居るよな。こいつ野良戦車か?飼い戦車にしては、首輪とかもねえしなあ……』と概ねバカと同様の感想を漏らしつつ、しげしげと戦車を見つめ……。
「……ん?なんだ、俺が気になんのか?おいおい……」
バカの後ろからちょこっ、と出てきた戦車は、ふと、興味深そうに四郎へ近づいていき、四郎の周りをくるくると回り始めた。……そして、首を傾げている。
「ん?どうしたんだ?戦車」
戦車は、バカが声をかけるとちょっと戸惑ったように、かた、と傾いた。多分、首を傾げている。
「……なんだろなあ、四郎のおっさん、戦車が好きな匂いでもすんのかなあ」
「は、はあ?んなことあるか?」
「ううーん……?四郎のおっさん、この戦車、知り合いか?」
バカが『知り合いだったりして……』と思って聞いてみたところ、戦車は首を傾げ、四郎もまた、首を傾げた。
……どうやら、別に知り合いではないらしい。バカは、『じゃあ、知り合いの知り合い……?』などと首を傾げ、首を傾げる2人の天使と1台の戦車が揃うことになったのだった!
さて。
「じゃ、俺、次のカードとってくる!」
そうして元気に『レッツゴー!』となりかけたバカであったが。
「待て。樺島。待て。もうそんなに時間は無いぞ」
海斗はバカのシャツの裾を掴んでバカを引き留めた。そしてタイマーを見せてくれるが……残り時間は、10分を切っている。
だが。
「大丈夫!1分でなんとかなる部屋、知ってるから!」
バカは元気にそう答える。
そう。バカはバカだが、覚えているのだ。とんでもないスピードで解決する部屋があることを!
「……そんな部屋、あったか?」
一方、燕は訝し気な顔であったが……。
「なんか、塔に登って降りてくるだけの部屋、あったんだけど……」
……バカが頭の上に『?』マークを浮かべているのを見て、燕も『ああ……』と、納得半分、諦め半分のような顔をした。
そう。あの部屋は、バカにとっては……『登って降りて、1分以内!』の部屋なのである!




