ゲームフェイズ1:『7』せんしゃ
「ヨシ!カードだ!燕!これ持っとけ!な!」
「……うん」
……さて。
頭が消えた教皇の懐からカードを抜き取ったバカは、そのカードを拾って燕のポッケにすぽんと入れた。燕は、『わざわざポケットに入れないでほしい……』という顔をしていたが、バカは全く気付いていない!
「じゃ、バットも回収して……次、どこ行く!?」
「……なら、『4』か『7』か『13』か……。どれも力で何とでもなるけど」
「『4』は分かる!確か、偉そうな奴がいるところだよな!あっ、でもあいつ、いい奴なんだよぉ!俺が服全部消し飛ばしちゃって、パンイチになっちゃってたら、マントくれた!」
「待って!?なんでパンイチになっちゃったの!?えっ!?なんで!?」
バカは『あの時はちゃんと服が見つかってよかったなあ』と思い出してにっこりする。四郎と分かり合えたあの瞬間の喜び、そして、両者ともに羽の出し方を間違えて半裸とほぼ裸になってしまった悲しみ……。忘れられない、大事な思い出である!
「……じゃあ、『4』から行く?」
「うん!そうしようぜ!」
ということで、バカ達はまたエレベーターへ戻ることにした。女教皇バットはちゃんと拾っていく。リサイクルである!一方、教皇は置いていく。安らかに眠れ!そして自然に還れ!まあ、悪魔なのでもうちょっとほっといたら、頭部が再生するのだろうが……。
さて。
「じゃあお邪魔します!」
バキイ!と、またしてもドアを破って、バカは『4』の部屋にお邪魔した。
「なっ、何奴!」
「あっ!こんにちは!カード!ください!」
……当然のように、皇帝は慄いた。
当然である。同僚の悪魔がぶん回されているし、ぶん回している筋肉はにっこにこで近づいてくるし。
そう。バカはバカなので、『このおっさんは、マントをくれたいいおっさん!』と勝手に思い込んでいる。そんな勝手な思い込みと共に発せられる元気なご挨拶と満面の笑みは、皇帝を困惑させるのに十分すぎる。
「な、な……」
皇帝は、『無礼だぞ!』と言えばいいのか、それとも、同僚がぶん回されていることを加味して、さっさと降伏した方がいいのか、考えあぐねている様子であった。
だが。
「あの、カード、もらえないか……?駄目か……?」
バカが、しょんぼりと、なんとも哀れを誘う顔で、皇帝の玉座のある段の下、低い位置から見上げてくるのである。そのバカが考えていることは『やっぱり喧嘩しないとダメなのか……?』というところなのだが……。
「……控えろ」
……皇帝は、駄目元、といったところでそう言った。『これだけしょんぼりしている奴なら、言うことを聞くのでは……?』という慧眼によるものである。
「えっ!?何を!?塩分!?」
「態度!」
しかしバカがここまでバカであるということは、皇帝の慧眼では見通せなかった!皇帝は『こ、ここまで愚かとは!』と、どんどん混乱してきている!普通の感性には、このバカは難しすぎるのだ!
「態度を控えるって、何ぃ!?俺、バカだから分かんねえよぉ!」
バカは、じたばたしながら『燕ぇ!真理奈ぁ!』と助けを求めた。だが燕も真理奈も、『ああ……』という顔で遠巻きにバカを見つめているばかりである!
「……ごめんなぁ!俺、バカだからぁ!バカだからぁ!何すればいいのか分かんねえよお!」
そうしてバカは、泣きながらじたじたと地団駄を踏み出した。
……その足元で、大理石の床が、『バキイ!』となっている!バカの全力の地団駄のせいで!尚、それを見たバカは、『壊すつもりじゃなかったのに、壊しちゃった!』とまた嘆く!
「あああ……も、もうよい。よいから。うん……」
……そんなバカを見ていた皇帝は……諦めた。
「うん……まあ、その、態度については……不問に処す。うむ……」
「ふも……?」
「もうカードはあげるから早く帰りなさい!」
……諦めた皇帝は、さっさとカードを投げ渡すと、『しっしっ』とバカを追い払うようにした。バカは『カードありがとう!』と元気にお礼を言って、カード掲げつつ、てってけと燕と真理奈の元へと戻った。
……燕どころか真理奈までもが、なんとも言えない顔をしていた!ふしぎ!
「これでカード2枚目だな!」
「うん……あの、俺のポケットに入れなくていいから」
「えっ!?でも燕がカード持ってないといけないんだよね!?」
「だよなあ!?」
……ということで、また『真理奈が2倍……』と頭が痛そうな顔をしたところで、次の部屋である。
「……力でどうにかできそうなのは、『7』か。『13』は力でもなんとかなるだろうけれど……」
「そっか!よく分かんないけど、『7』な!ヨシ!」
バカは、次に『7』の部屋へ向かうことになったようだ。バカは『そういえば、7の部屋って入ったことあったっけ……?』と思いつつ、燕が『こっち』と教えてくれたエレベーターに乗って、また次の部屋へと向かうのだが……。
「……荷車!?」
そこには、木の台車に2つの車輪がついている……荷車か何かのようなものがあった!
「戦車だ」
が、これはどうやら荷車ではなく……燕曰く、戦車であるらしい!
「戦車ぁ!?これがぁ!?……俺が知ってる戦車と違う!でも、そっかぁ!古くて硬いタイプの戦車かぁ!」
「やわらかいタイプの戦車ってあるの……?」
真理奈が困惑する一方、バカはしげしげと『戦車』を眺める。
戦車、と言われてよくよく見ると、確かに、ちょっと棘が付いているので、戦車かもしれない。
ということで、バカは早速、『戦車だ!戦車だ!野生のじゃなくて飼い戦車かなあ!でも首輪ついてねえしなあ!』と、戦車の周りをくるくる回って戦車を観察し始めた。バカは戦車が好きである。かっこいいので!
……だが。
「それ、動くから」
「動くんだぁ!そっかぁ!」
……燕が『警戒しろよ』という意味で言った言葉は、バカには『素敵!』という意味で捉えられた。言語の壁が厚い。
そして、燕が言った通り、戦車が動き出す。
車輪が、ぎゃり、と回る。
すると、その戦車の前に、陽炎がゆらりと揺らめくかのように空気が動き……。
「わああああ!かっこいいいいい!」
そこには、戦車を牽く2頭の獣が現れていたのである!バカが歓声を上げる中、2頭の獣はその輪郭を陽炎のように揺らめかせながら、戦車を牽き、突進してきた!
「相撲かあ!よし来たぁ!」
「えっ相撲ってちょっと待ってちょっと待ってああああああ」
が、戸惑う真理奈と、最早言葉を出すことすら諦めた燕が見ている前で!バカはタックルで獣2頭をあっさりと蹴散らし、そして、戸惑いつつもそれでも果敢に向かってくる戦車に向かっていき、がっちりと組み合い……そして!
「でやああああああああ!」
……繋がれた2頭の獣ごと、投げた!
「戦車ってひっくり返っちゃうと、なんかかわいいよなあ……」
「あっ、ちょっと分かる……」
そうして、獣2頭は、きゃんきゃんと悲鳴を上げて逃げていった。
……取り残された戦車はひっくり返ったまま、『からから……』と車輪を空回りさせながら、わたわたもぞもぞしている。ちょっとかわいい。
「しょうがねえなあ、起こしてやるかぁ。……仲間の戦車が居たら、ひっくり返し直してもらえるんだけどなあ……こいつ、ひとりぼっちみたいだしなあ……」
さて、戦車がそろそろかわいそうになってきたので、バカは『よっこいしょ』と、戦車をひっくり返し直してやった。
すると、戦車は勝者への尊敬の念からか、それとも、ひっくり返し直してもらった恩を感じているのか、バカにカードを差し出し、そして、すりすりとすり寄ってきた。
「おっ!こいつ、かわいいなあ!」
「そうだね……さっきのわたわたしてたの見てたからなあ、かわいく見えちゃう……」
燕は心底頭の痛そうな顔をしていたが、バカは、『戦車、かわいい!』とにこにこ顔である。戦車はかわいがられるとかわいくなる習性がある。よって、ここから更にめきめきと可愛くなっていくことであろう!
「……ん?お前、一緒に行きたいのか?」
が、そんな戦車は、すっかりバカに懐いてしまったらしい。バカが移動すると、戦車も『からから……』と寂しそうに車輪を回して、健気にバカの後ろをついてくる。さながら、カルガモの雛のように!
「そっかぁ……お前、エレベーターに入れるかなあ……」
「……それ、本当に持っていくのか」
「え?うん……かわいいし、ついてくるしぃ……」
この戦車は、古い戦車である。よって、サイズはかなり小ぶりである。90式戦車なんかと比べると、相当、小ぶり!
ならいけるのでは?と思ったところ……案の定、バカがエレベーターに入ると、ギリギリ、戦車も入れた!
「じゃ、一緒に行くかぁ!よろしくな!」
「本当に……?」
「わー、なんかホントにかわいく見えてきちゃった。よろしくね、戦車ちゃん」
……そうして、バカは戦車を連れて帰ることにした!よろしく戦車!
ということで、るんるんうきうきした様子の戦車を見ながら、次の部屋の相談である。
「じゃ、次、どこ行く!?」
「ここまでかなりのハイペースで来てるから、そんなに急がなくてもいいと思う」
が!ここに来て、燕がそんなことを言い出した!
「でもまあ、折角だし!樺島さん、強いし!行こ!危険なこととか、なさそうじゃん!ね!」
しかし!真理奈はこの調子である!燕が何とも言えない顔をしている!
「……一応、これ、デスゲームなんだけど」
バカは、『うん』と頷いた。真理奈も、『そうだねえ』と頷いた。
……燕は、ため息を吐いた。
デスゲームの概念が、崩れる!




