開始前:天井裏2
「……っていうかんじでぇ……なんか、よく分かんないんだけど、俺、むつと一緒に『巻き戻し』してぇ……それで、一緒にここに来たんだ!今度こそ、皆集めて、一緒にカード集めて、燕が昇格試験?に合格すれば皆で出られるみたいだから、それでミニストップ行ってソフトクリーム食べる!」
「……成程な」
バカの説明が終わると、海斗は、しみじみと頷き……そして、きゅ、と燕の手を握った。
「燕。君は、説明の補助が……その、とても、上手いな……?」
「……どうも」
……そう。
バカの説明は極めてバカであったが……今回、その説明が、ちょっと短く済んだ。
それは偏に、燕が『ああ、多分それはそういうことだと思う』と分かりやすく簡潔に説明してくれたからである!
すごいぞ、燕!
「……つまり、俺は『真理奈の魂を分離しない』ことを選んだ、のか……」
さて。
そんなすごい燕は、すごいことに、『バカのやり直しと燕の巻き戻し、あともしかしたら真理奈の巻き戻しもあったのかもしれないある時の状況』について、それを一応は見てきたバカよりも的確に理解していた。
「えっ、どういうこと!?」
「……樺島さんの『1周目』が俺にとって『2周目以降』だったとしたら、少なくとも1回以上、ほぼ丸ごと『巻き戻し』しているはずだ。それで、樺島さんのやり直しで俺が『1周目』になった時の行動と、俺の『2周目以降』の行動が違うなら、多分、俺が『巻き戻し』をする中で、そうした方がいいと判断したんだろう」
「うわー、すっごい。ぜんっぜんわかんないやぁ……」
「ああ、そう……」
燕は色々と説明してくれるのだが、真理奈は『燕はすごいねえ』と言いつつ、頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべている!バカはそんな真理奈の横で、やっぱり頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべている!親近感!
「……本当に、想定外のことしか起きないな」
そうして、燕はふと、ため息を吐いた。
「想定外……というと、逆に、君は想定しているものがあった?」
「『デスゲームを5連勝している人間』が参加するのは聞いていた。その周辺の、トラブルになりそうな人間が2人参加するのも聞いていた。元天使の、特別機動隊所属だった人が来るのも。……でも、真理奈が参加する予定は、無かった。だから、対策もしてなかった」
燕はそう言って、少し悔しそうな顔をする。
……実際、彼にとって想定外なことは、1つではなかったのだろう。
何せ、真理奈のみならず、バカもいる。……いざデスゲーム!となった時、真理奈が居て、しかも、やたらと未来を知っているかのように動くバカが居たのだから……燕は大層困ったことだろう。
「……だから、想定が狂ったんだと思う。当初の計画では、真理奈のことなんか組み込んでなかった」
「成程ね。……それで、『駒井燕』にしては随分と杜撰なやり方になっちゃった、っていうかんじかな」
「多分、そうだと思う」
デュオが『成程ね』とやっている一方、燕はなんとも悔しそうであった。
「……最初に真理奈の魂を分離しておけば、真理奈は守れると思った」
「守る、って……そんなの要らないよぉ」
真理奈はちょっと呆れた様子ですらあったが……燕は、じと、と真理奈を睨む。
「……デスゲームに参加して、死ななかったとしても、五体満足でいられないことなんて山ほどあるだろ。消えない傷が残る可能性だって」
「えええ……燕、そういうの気にするんだ……?」
「気にする」
燕が即答すると、真理奈は『ええええ……』と何とも言えない声を漏らし、それから……。
「え、えーと、それで、燕ぇ……」
真理奈は、おずおず、と燕に問う。
「……皆と協力して、くれる?」
……燕は、少し迷っているようだった。
それはそうだ。今、この瞬間にだって、燕はバカ達を裏切れる。
燕は真理奈の異能を知っているのだろうし、だとすれば、『模写』の異能を使って、真理奈の『巻き戻し』を使えるようになってしまうし……そもそも、バカは既に、『やり直し』の話をしてしまっている。だから、バカの『やり直し』を模写したっていい。
とにかく、燕は今ここで、バカも真理奈も放り出して、また彼だけしか記憶を保持していない『新たな1周目』を始めることができてしまうのだ。
だが……。
「……真理奈の魂を分離することで何かが起こる、っていうのは、間違いないんだと思う」
燕は、冷静にそう言った。
「多分……分離しておいたものを悪魔に没収された、とか。或いは、どうしても邪魔が入って真理奈の魂を奪われる事態になる、とか……」
「まあ、悪魔が関わるものだから、そうだろうね」
デュオはちょっと苦い顔で頷いた。……彼自身、悪魔には嫌な思いをさせられてばかりなので、思うところは存分にあるのだろう。
「……俺が無事に『やり直し』なり『巻き戻し』なりをし続けられるかは、分からない。俺は殺せば死ぬ脆い体しか持っていないし、そうなったら、ループを繰り返す間に殺されてループが途切れるようなことだって、無いとは、言えない。リスクでしか、ない、けれど……」
燕は考え込んで……それから、ちら、とバカの顔を見た。
「で……あんた達は、俺の勝利条件を満たそう、と、してる、って……?」
「うん!燕はカードいっぱい集めなきゃいけないんだよな?カードいっぱい集められたら、昇進できるんだよな?」
バカは元気いっぱい幸せいっぱいの笑顔で頷いて答えた。……すると。
「……そんなことして、あんた達に何の得がある?」
燕は、疑うような探るような目で、バカをじっと見つめた。
……その目が、やっぱりなんとなく、たまに似ている。バカは、『姉弟だあ!』とますますにこにこしてしまいながら、また元気に答えた。
「友達が!昇進したら!うれしい!」
「……えっ」
「それで願いが叶うんだろ!?俺、バカだからよく分かんねえけど、ビッグな悪魔になったら、なんか、悲しいこと、減らせるんだろ!?だったら応援する!頑張れよ!燕!」
バカが燕の背中をぽふぽふ叩くと、燕は呆気にとられた顔でバカを見つめ返した。
「……は?」
そして、大分気の抜けた声を漏らした燕を見て、バカは、『あれっ!?俺、何か間違えたこと言ったか!?あれっ!?』と慌てふためく。そんなバカを見て、燕はますます、困った。
「あのー、燕……」
そんな燕を見ていた真理奈は、ちょい、ちょい、と燕を横からつっついた。
「あのね、つまり、樺島さんって、ただただいい人なんだよ」
「……なんで?」
「え?理由とかある?……あるのかなあ、うーん……?」
真理奈は、途方に暮れた様子の燕の前で、『うーん、うーん』と悩む。だが、『何故、樺島はいい人なのか!』という問いへのクリティカルな答えなど、出せるはずもない。バカは理由もなくバカだし、理由もなくいい奴なので!
……だが。
「……真理奈に似てる人?」
燕は、そう気づいたらしい。そして燕は……真理奈のことは、心底信頼しているのだろう。
「うん!そう!多分そう!私、樺島さんと似てるっぽい!」
「……そうか」
真理奈が『燕に伝わったっぽい!』ときゃいきゃい喜ぶ横で、燕は小さくため息を吐いた。
……何故か、今ので納得できたものがあるらしい。バカは『よく分かんねえけどよかった!』とにこにこした!
「あー……もう少し、君が納得しやすそうな話をしようか」
一方、デュオは頭がいいので、頭がいい方向から燕の説得を始めることにしたらしい。
「俺としては、悪魔の知り合いがいるのはありがたいよ。……君のお姉さんの魂を取り戻さなきゃいけないから。もしかしたら、君もそれを狙っているのかもしれないけれど」
「ああ……うん」
デュオがつぐみの話を始めると、燕は苦い顔で頷いた。
「……姉さんの魂には、先約を入れてある」
「えっ」
「俺が、昇格してもう少し自由に動けるようになったら……姉さんの魂は、元に戻せるはずだ」
デュオがぽかんとする一方、燕はまだ苦い顔である。……そして。
「……俺のせいで姉さん、ああなったんだろ」
そう、苦しそうに零した。それを見て、デュオは苦笑する。
「……つぐみは、そうは思ってないと思うけれどね」
「あんたは思ってる」
「ちょっとだけ、ね。でももう、その気も失せたな。つぐみが言ってたよ。『多分、光は弟と気が合うと思うよ』ってね」
燕はしばらく、じっとデュオを見つめていた。デュオも、燕を見つめ返して、笑う。
「そういう訳だ。まあ、利害は一致しそうだし……気が合う者同士、協力しない?」
……デュオが手を差し出すと、燕はその手を、すっ、と握った。
「よし。じゃあ、交渉成立、ってことで」
「俺に都合が良すぎる気もするけど。……よろしく」
どうやら、交渉成立らしい!バカは大いに喜んだ!
「俺も!燕ぇ!俺も握手!握手!」
「あっ!私も!私も握手!ねっ!燕!」
デュオに続け!とばかり、バカと真理奈が燕に殺到すると、燕は『やっぱりこいつらのことはよく分からない……』というような顔になってしまったが!でもバカも真理奈も嬉しいばかりなので、気にしないのだった!
そんな折、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴る。
「あっ」
「まずい、個室に先に行かれちゃう!」
大慌てで、バカは『いそげいそげ!』と、一番近くにあった個室……燕の個室へ、皆を乗せた!
……つまり!
「……狭い!」
ぎゅうぎゅう詰め。紛うこと無きぎゅうぎゅう詰めである。
バカの胸板には、みっちりむっちりと、海斗とデュオと四郎が押し付けられている状態である!あと、タヌキはデュオと五右衛門の間あたりで『助けて!助けて!』とつぶれかかっている!
「これ……同じエレベーターに乗る必要は、無かったんじゃないのか……!?」
ぎゅうぎゅうになってしまっている海斗がそうぼやけば、バカはちょっと考えて……そして理解した!
「えっ!?あっ!?そっかぁ!どうりでなんか狭いと思ったぁ!」
「おいこのバカ!お前の先導のせいでこの有様なんだぞ!」
「ごめぇん!そうだぁ!1人1つ使えばよかったんだ!うわあああー!」
「うるさいぞ樺島ァ!」
協力はできても、ぎゅうぎゅう詰めはどうしようもない。
やり直していても、バカはバカである。
……燕が、『これ、本当に協力してもいいやつだったか……?』と、何とも言えない顔で、真理奈と一緒に潰れかけている!ぎゅう!




