開始前:天井裏
「え、えーと、まずは燕か!?あっ、でも燕が『巻き戻し』しちゃうと大変なんだっけ!?ってことは、ええと、七香か!でも七香連れてくるにはデュオとタヌキ一緒にお話ししてもらった方がよくってぇ……」
「あの、四郎さんは?四郎さん、結構色々知ってそうだったけど……」
「四郎のおっさんは俺が羽出してけばすぐ話が通じるんだけどぉ……あー……うー……俺、やっぱり海斗に居てほしくってぇ……」
バカは、ちょっと悩んだ。
ちょっと悩んだが……時間が無いのだ!急がないといけないのだ!だが、誰を出せばいいのか分からない!
……つまり!
「そっかぁ!全員出せばいいんだぁーっ!」
バカは、シンプルかつ筋肉な解答に辿り着いたのであった!
ということで。
「海斗ぉおおおお!」
「うわぁあああああ!?か、樺島か!ああ、びっくりした!ノックくらいしてからタックルしてくれ!」
……バカは、まず海斗の部屋をタックルでぶち破った。海斗はバカのタックルには慣れているし、一応、『僕の部屋には開始早々バカが突入してくる可能性が高い』と覚悟を決めてもいるので、『びっくりした!』くらいで済んでいるのだ!
「ん?そちらの人は……?」
そして、そんな海斗は、バカの隣に居る真理奈を見て、『おや……?』と不思議そうな顔をする。
「あっ、あの、はじめまして……でいいのかな?私、町田真理奈っていいます!燕の幼馴染で、ええと……燕を助けるために協力してください!」
「は?燕?……駒井燕、か?」
海斗は『本名を名乗った……!?』とびっくりしていたし、『駒井燕……!?早速、目的の人物に手が届くのか……!?』ともびっくりしていた。
だが。
「あっやべっ、時間がねえんだった!急げ急げ!説明にめっちゃ時間かかるんだ!」
海斗ばかりに時間をかけてはいられない。バカは、海斗をひょいと小脇に抱え、てけてけと走る!次は……デュオの部屋!
「デュオーっ!」
バカのタックルによって、『バキイ!』と、デュオの個室のドアは消えた!
「うわっ……」
デュオは大いに警戒していたが、同時に、すぐに動けるように身構えていたし、状況を瞬時に分析すべく、バカと真理奈、そしてバカの小脇に抱えられたまま憮然とした表情の海斗を見て、ますます混乱したようであった。それはそうである。色々と意味が分からない面子であろう。しかも、海斗が海斗なので!
「君は……」
「あっ!こいつ、海斗!えーと、陽とは知り合い、だよな!よろしくな!」
が、バカはバカなので、デュオの警戒なんて知ったこっちゃねえとばかり、元気にご挨拶し始めた。海斗は海斗で、『デュオ……この人が、陽……!?』と、バカに抱えられたまま驚いていた!
「それから俺は樺島剛!よろしくな!こっちは真理奈!燕……えーと、つぐみの弟の、友達!よろしくな!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何?なんだって?」
「うん!ごめんな!説明はちょっと後!次はタヌキ!あ、デュオも抱えてくな!」
「は!?」
……そうして、恐らくこのデスゲーム中、最も冷静で最も頭が切れる男であろうデュオに素っ頓狂な声を上げさせつつ、バカは海斗とは反対側の脇にデュオをひょいと抱え……。
「タヌキぃいいいいい!」
「あああああああああああああ!ドアが!タックルで!筋肉に!ああああああああああ!」
タックルでタヌキを怖がらせた!哀れ、タヌキ!
タヌキには、『はい!これ、お前の体の持ち主!デュオっていうんだ!えーと、こっちにいる真理奈の友達のお姉ちゃんの彼氏!』と説明した。そのせいでタヌキは、『友達のお姉ちゃんの彼氏!?つまり、他人!?』と混乱してしまった!さっきのタックルからずっと、タヌキは怯えて混乱しっぱなしなのだ!
……本当はタックルしなくてもいいのかもしれないが、バカは全てのドアをタックルで開けている。理由は簡単、その方が早いからだ。
自動ドアが開くのが遅いと思ったことがある人もこの世には大勢居ることだろう。つまりそういうことである。ドアが開くのを待つより、タックルした方が、早い。
タヌキは、『あああああ!もうデスゲーム始まってるんですか!?こういうデスゲームなんですか!?あああああああ!』と怯えながらも海斗に抱えられて、そのままバカに連行されていく。真理奈は一周回ってなんだか楽しくなってきてしまったらしく、『それいけー!』と楽しくバカの後をてけてけ付いてくる。
そして次は、四郎だ。
「四郎ーッ!」
「うおぉぉおおおお!?ん!?同業か!?」
そして四郎の部屋のドアをぶち破る時には、羽を出していった!今度は上手くいったので、パンイチ筋肉にならずに済んだ!
「うん!俺、天使!よろしくな!協力してくれな!」
「お、おお……!?」
四郎は『一体なんだってんだ!?』と混乱していたが、警戒はしないでくれたらしい。バカは『大成功!』とにっこにこになりながら、更に。
「それから、四郎のおっさんの娘さん2人、うちの社食でバイトしてるから、このゲーム終わったら一緒に行こうぜ!」
「はあ!?」
バカがとんでもないことを言い出したので、四郎も混乱した!
四郎には自力で走ってついてきてもらって……バカが続いて、五右衛門の部屋のドアもタックルで破壊した。
「五右衛門ーッ!」
「うおぉぉおわわああああああああ!?」
五右衛門から、五右衛門らしからぬ悲鳴が上がった。野太い。ファッションオカマはやはりファッションなのである。野太さがそれを証明している。
「五右衛門!一緒に行こう!ヤエが居るから!」
「な、何!?なんなのよアンタぁ!あとヤエって誰よ!?」
「ん!?ヤエは……あっ!?ヤエの本名、俺、知らない!」
五右衛門は大いに戸惑っていたが、バカも『ヤエの本名、知らない!』と戸惑った!バカなので!
「あの、五右衛門が大事にしたい子……なんだと思う。でも、一回ちゃんと話し合ってからの方がいいぞ。ヤエ自身は、長距離できないの、そんなに気にしてなくって、どっちかっていうと、脚のこと色々言われるのとかで嫌になっちゃってるみたいだし……」
「脚……長距離……ちょ、ちょっと!まさか!?」
「一緒に行こうぜ!七香のところ寄ってからヤエのところ行くから!」
五右衛門は青ざめて、バカについてきてくれることになった。ありがとう!
……続く『ティファレト』の個室は、むつの個室なので飛ばす。
なので、次に犠牲となるドアは、『7』の個室……つまり、七香の部屋のドアだ。
「七香ーッ!」
バカのタックルによって『バキイ!』とドアが吹っ飛ぶや否や、バカの胸に強く、七香の異能がぶち当たった。
だが、すこぶる元気なバカは微動だにもしない!その事実に、七香は目を見開き、身構えた。
……が!そんな七香も納得してくれる面子が、ここに揃っているのである!
「あ、小百合さん……」
「……えっ」
そう!デュオは依然として、バカの小脇に抱えられたままなのである!そのデュオが『まさかこうなるとはね。ははは……』と何とも言えない顔で半笑いになっていれば、七香も黙って驚くしかない。
「七香!こいつ、デュオ!えーと、七香が好きになった人の体を使ってる奴で、中身は陽!」
「え?」
「それで、こっちがタヌキ!七香が好きになったやつ!ピアノ教室でお花のお手入れしてたタヌキだぞ!」
「えっ……ええええええ!?ちょ、ちょっと待って!待って!このお嬢さん、私のこと好きなんですか!?エッ!?聞いたことない……アッ!?でも確かにこのお嬢さん、待合室でドストエフスキー読んでるところに話しかけたことがあった気がァ!」
七香は、混乱のあまりか、ただ黙っていた。逆にタヌキは、『あの時のォ!お嬢さん!まさか同じデスゲームに居るとは!』とものすごく騒がしい。
「あの……詳しく、説明を」
「ごめんな!話は後だ!ヤエのところ行こう!」
が、ようやく混乱から立ち直った七香を気遣う余裕はない。次はヤエ!ヤエなのだ!
「ヤエー!」
ということで、『バキイ!』とドアがまた1枚犠牲になった。そして個室の中では、ヤエが『ぴゃっ……!』と驚いて、ベッドの上で身を縮めて怖がっていた!
「あの、怖がらないでな!ごめんな!ごめんな!」
「え、あ、はい……」
バカは『怖がらないで!』とやっているが、無理があるのであった。ドアをタックルで破壊する奴は、どう見ても、怖い。
「五十鈴ちゃん……よね?」
……が!そこで、五右衛門がヤエのことを見つけて、絶句した。
「えっ……あの、なんで、名前……?」
どうやら、五右衛門は無事、ヤエを見つけて『轢いた子だ!』と気づけたらしい!ヤエの方は、『この人、誰……?』と、ますます怯えているが……。
ということで。
「ごめんな!話はもうちょっと後なんだ!でも、皆、話したら全員、仲良くなれるし色々解決するから!だから、俺のこと信じてくれ!」
バカはそう言って、最後の個室へダッシュする。
……そして。
「燕ぇえええー!」
最後に犠牲になったのは、燕の個室のドアである!『バキイ!』とやられたドアが弾け飛び、そして……。
「燕ー!よかったあー!」
「うわっ……!?」
そこに居た燕が警戒するや否や、真理奈が燕に飛びついた!
「お、おい。これ、どういう状況なんだ……」
「あっ!燕!待ってね!待って!ちゃんと説明するから、まだ『巻き戻し』は待って!ここまでくるの大変だったんだからね!」
燕は大いに戸惑っていたが、真理奈がさっさと『巻き戻し、ストップ!』とやってしまったので、余計に戸惑う。
……だが。
「……えーと、じゃあ、説明、するかぁ!ヨシ!俺、頑張るからな!」
バカは、ぱちん!と自分の頬を叩いて気合を入れると……にまっ!と笑って、燕の手を握った。
「燕!俺、お前の昇格、全力で応援するからな!」
「……は?」
「それで……燕がこのデスゲームで勝利して!俺達全員、ここ出て……ミニストップのソフトクリーム、食いに行こうな!」
……燕は、困惑していたが。
だが、その困惑も、そう長くは続かないことだろう。説明してくれれば、きっと彼も分かってくれるはずである。
「えーと、じゃあまず、タヌキがデュオで、デュオは陽なんだけど……あっ、陽って、つぐみの彼氏でぇ、未来で天城になっててぇ」
「待て。待て樺島。順を追っていけ。何も分からない」
……否。燕の困惑は、ちょっと長く続くことだろう。
何せ……バカは!説明が!ドヘタクソ!




