多分もうゲームフェイズ1:隠し部屋3
……ということで。
「へー。四郎さん、1周目で死んだのを『やり直し』みたいな異能で時間を巻き戻されて生き返った可能性があるのか……。それ、すごいね」
「……エレベーターにも異能が作用するということなら、そちらも色々と説明はつくな……」
「『寝坊』についてもね。……1周目の樺島君が今回よりも寝坊していた、ということは、『時間を巻き戻し切れなかった』か、『時間を巻き戻すタイミングが遅くなった』かのどちらかだろう」
海斗とデュオが『成程な』『成程ね』と頷いていると……タヌキが、『えっ!?えっ!?』と慌て始めた!
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!その、『時間を戻す』のは、樺島さんがおバカだからできるってことじゃありませんでしたっけ!?」
タヌキの困惑はご尤もである。だってそういう話だった!バカもそれは覚えている!
「ああ。だから、『世界全体の時間が巻き戻っているわけではない』と予想できる」
が、海斗は全く動じていない!すごい!バカは『もう俺なんもわかんねえ!』とゴロンゴロン転がって、ばたん!と仰向けになった!
するとタヌキが『もう私、何も分からない!ああん!』と嘆いて、ぽよんぽよんと跳ねて、バカのお腹の上に、ぽぬん!と仰向けになった!
……七香がこの様子を何とも言えない顔で見つめていた!
「……その、さっきも言ったが、『特定の対象の状態だけを戻す』ということなら、まあ……パラレルワールドなどを気にする必要はないだろう。実際、僕は前のデスゲームで、『治癒』の異能を持つ人に出会った。彼女の異能は怪我を治せるものだったが、アレも考えようによっては『時間を戻す』類のものだと思う」
「ああ……ミナさんか。そうだね。『死んでさえいなければ何でも治せる』んだっけ、彼女。……まあ、医術の類じゃ、ないよね。あははは……」
海斗の話を聞いて、バカは『ミナの異能って、そうだったの!?つまり、ミナって……バカ!?嘘だあ!』とジタバタし、バカのお腹の上のタヌキが『あああああ揺れる揺れるあああああ!』と慌てた!ヤエがそっとタヌキを押さえてくれたため、タヌキは落馬せずに済んだ!
「或いは……その、あまり考えたくないが……このデスゲーム会場の中『だけ』、状態を戻すことができる、とも考えられる。そうすれば、まあ……大規模なパラレルワールドの心配はしなくてもいいだろう」
「俺、なんもわかんねえ……」
「お前に分かられると困るからお前はしばらくタヌキのベッドに徹していてくれ」
海斗からもそう言われてしまったので、バカは理解を諦めた。バカはベッド。バカはベッドである。
「ええと、つまりそうなると……あっ、俺、すごく嫌な可能性に思い当たっちゃったんだけれど……もしかしてこの会場の外、ものすごく時間が経過してる、ってことは、無い……よね?あははは……」
「……無いと信じたい!さもないと僕は留年だ!」
海斗が『留年は嫌だ、留年は嫌だ』と頭を抱える傍ら、バカは『俺はベッド……俺はベッド……』と自らを律しつつ、できるだけふわふわになろうとした。が、筋肉の塊はふわふわからはかけ離れた寝心地である!
タヌキが『わ、わああ……硬い!硬いですね!腹筋がまるで洗濯板!』などと言っている!バカは『俺、ベッドなのに……硬くてごめん!』と咽び泣いた!
「……まあ、様々な可能性が存在するが、とにかくこの会場を脱出してみないことにはどうしようもない。燕が素直に言うことを聞いて協力してくれればいいんだが……そうもいかない訳だからな」
さて。バカがすっかりベッドになり切ってしまって、己の不甲斐なさに咽び泣いているのをチラチラ見つつも、海斗は頭を抱えている。頭脳派は大変なのだ。
「彼を説得する方法が思いつかないな。……あの調子じゃ、やり直しをしても、彼自身は『自分がやり直して主導権を握らないと』と考えるばかりで、今までの繰り返しにしかならないだろうし」
……バカは『俺はベッド……でも、考えるベッド……』と、ちょっと進化しつつ、考える。
燕は、頑なだ。今回も、そうだった。むつの魂を人質にとっちゃったからだったのだろうが……それでもやっぱり、彼は頑なである。
そんな燕を説得するなら、どうすればいいのだろうか。
「なあ、むつ……」
バカは、むつの魂に聞いてみた。
「どうやったら、燕に納得してもらえるかなあ」
……最後の問題は、きっとここである。
「むつさんの異能の推測ができて、燕の異能の情報もある程度出て……けれど、燕をどう説得するかは見えてこないな。くそ……」
海斗も頭を抱えて蹲る。バカも起き上がって海斗の横にそっと移動すると、丸くなる。こういう時にはもう、丸くなっちゃうに限るのである!するとタヌキもバカの上で丸くなったので、バカとタヌキの雪だるまの完成だ。
……ここまでやると、海斗は丸くなって蹲っているのがバカらしくなってきちゃったらしく、何とも言えない顔でその場に座り直した。が、バカとタヌキは雪だるま続行!
「俺が寝起きですぐに燕とむつを攫いに行くんじゃダメかあ……?」
バカが雪だるま状態のままそう聞いてみると、海斗はちょっと悩んで、ため息を吐いた。
「……試してみてもいいとは思う。けれど、上手くいかないんじゃないか。多分、燕は『ゲーム開始時』には既にむつさんの魂をランタンに入れているからな。……樺島。お前の『やり直し』は、燕が『巻き戻した』後の世界に設定されているんだと思う」
「……ほああ!?」
が!バカには難しい話である!『わかんねえよお!』とゴロゴロ転がると、タヌキが転がるバカの上で『あああああああああ!』と走る。タヌキの玉乗りの完成である。
すると七香が、バカが通り過ぎていく時にそっとタヌキを拾い上げて救出してくれた。また、四郎はバカをそっと止めると、『あんま転がるとあぶねえぞ』と、バカをそっと転がし直して海斗の横に設置し直してくれた。バカは『ありがとう!』とお礼を言った!
「……難しいだろうし、意味もないから理解はしなくていい。しないでくれ。ただ、とにかく『ただやり直しても、燕がむつさんの魂をランタンに入れる前には戻れない』という可能性だけ考えておいてくれ」
「……ゲームが始まる前に、燕がもうむつの魂をランタンに詰めてたってことかぁ!?」
「ああうん、その理解でいい。お前にとってはそういうことだ」
そうしてバカはどうやら、正解じゃないが大体いいかんじのところに落ち着けたらしい!バカは『ヨシ!』と元気を出した!バカだってやればできる子なのである!そのために丸まったり転がったりする必要がある訳だが!
「つまり……俺、何度やり直しても、燕とむつのこと、助けられねえのか……?」
そして気づいたバカは、しょんぼりとしてしまった。
……あらゆることが、取り返しのつくことならばいい。何か大変なことがあっても、やり直せればいい。
だからバカは、自分の異能を誇りに思っている。自分が持てたこの異能は誰かを救えるのだと、強く信じている。信じていたい。
だからこそ……自分の異能でもどうにもならないことがあるとなったら、どうしていいのか分からない。まるで、自分が立っていた地面がもろもろと崩れていってしまうような、そんな感覚を味わいながら、バカは海斗に尋ねた。
「……それを回避する方法を、今、探してるんだ」
……海斗も、答えを見つけられないようだった。
『やり直し』の異能でも、相棒の頭脳でもどうしようもないことを、バカはどうすればいいのだろうか。
「……そもそも、どうして燕はデスゲームに参加したんだろ」
バカは、ふと気になって呟いた。だって、相手の事情も分からないのに説得するなんて、難しすぎる!
……考えてみると、ここに居る人達は皆、理由があってこのデスゲームに参加している。
デュオは、恋人である駒井つぐみのため。
タヌキは、タヌキボディになってしまった自分の体をどうにかするため。
四郎は、自分の妻と娘の復讐を遂げるため。
五右衛門は、多分、贖罪のため。
七香は、デュオの心が欲しくて。
ヤエは、よく分からないまま……多分、その理由を探しに、ここへ来た。
……そしてむつは、燕を探しにここへ来た。
「なあ、むつは、やっぱり燕を探しに来たんだよな?」
ランタンの中のむつの魂にそう聞いてみると、むつの魂は、ぴょこん、と頷いた。そして、必死に、何か訴えるようにゆらゆら揺れる。
生憎、むつの言葉は分からない。分からないが……バカにはなんとなく、分かるものもある。
「……だよなあ。急に友達が居なくなっちゃったら、なんで居なくなっちゃったのか、聞きたいもんなあ。言えるなら、ちょっと文句も言っちゃうかも……」
バカがそう言えば、むつは、ぴょこ、と頷いた。
海斗やデュオは、ぽかん、としてこの光景を見ていたが……バカは、『やっぱり、そうだと思った』とにこにこした。
……だって、1周目のむつは、言っていたのだ。『友達を探しに来た』と。それが燕のことだ、とも。ついでに、その燕がここに居るとは思っていなかった、とも言っていたから……むつは多分、『駒井燕』が死んだことを知っていたのだろう。
……死んだ友達を、それでも追いかけてきたというのならば……そこには絶対に、強い強い思いがある。自分の命を危険に晒してでも、友達の手を捕まえて引き戻したいと思うような、そんな思いがあったはずなのだ。
「むつ、燕に文句、言えたか?」
むつの魂は、むいむいっ!と横に揺れた。文句はまだであるらしい。
「理由も、聞けてないよな?」
むつの魂は、むいっ、と横に揺れて……それから、ちょっと迷うように、へにょ、と縮んだ。……思い当たるものは、あるのかもしれない。
「……やっぱり、ちゃんとお喋り、したいよなあ……。でも燕は、むつとお喋り、したくねえのかなあ……」
むつの魂は、ぺそ、とすっかり元気を失って、しょぼくれている。バカは『元気出せよお……』とランタンを撫でた。
……そうしてランタンを撫でながら、考える。
むつですら燕とお喋りできていないんだから、俺なんて当然、お喋りできねえよなあ、と。
……そして。
「あの、海斗ぉ」
「……なんだ?」
バカは、ふと閃いて、海斗に聞いてみた。
「海斗はさ……その、なんか、全然納得いかないこと言われて、説得されるんだったら……俺と、知らない奴と、どっちの方が言うこと聞く?」
「は?」
海斗は『突然何を言っているんだこいつは』という顔をしていたが、根が真面目なのでちゃんと考えて……それから、ふ、と笑った。
「……そうだな。お前に言われる方がマシだ。お前が言うことなら、突拍子も無いようなことだったとしても、一応は、聞くと思う」
ちょっと笑って……それから、海斗はちょっとだけ迷うように視線を彷徨わせて、ぼそぼそ、と続けた。
「その……お前は、友達だから」
……海斗の言葉を聞いて、バカはみるみる嬉しくなってくる!さっきまでベッドとしての不甲斐なさを嘆いたり、丸くなって転がったりしていたバカが嘘みたいである!
「うん!だよな!俺も、知らねえ奴に言われたらちょっと考えるけど、海斗に言われたらすぐそうするもん!」
「お前はもう少し警戒しろ。僕が間違っている可能性だってあるんだぞ」
「だとしても俺、バカだからわかんねえもん!俺の頭脳は海斗!海斗の筋肉は俺!なっ!そうだろ!」
バカは一気に元気になった。何せ……少しだけ、希望が見えた気がしたので!
「むつなら、燕を説得できると思う。だって……むつは、燕の友達だから!」




