多分もうゲームフェイズ1:隠し部屋4
「いや、コンセプトは分かるが、どうやってそれを実現するんだ」
「ほぇっ?」
が。バカの思い付きは……海斗の何とも言えない顔に迎え入れられた!
「むつさんと燕がちゃんと、魂も体も2人分一揃いになる状況は……その、生まれようがないんじゃないか?」
……なんと!
そうなのである!バカは『いいこと思いついた!』と思ったが……そもそも、むつと燕はお喋りできないのだ!燕がむつをすぐランタンに入れちゃうばっかりに!むつが燕を説得できる機会は……無いのである!
「……いや、やる方法は、2つは考えられるよ。俺としては、リスキーだからあんまり推奨しないけど……」
が、更にそこでデュオがなんとも難しい顔でそんなことを言い出した。
「……むつさんの魂を殺してから、『20』のアルカナルームでむつさんと燕を生き返らせる。そうすればむつさんと燕が喋れる状態になると思う」
「おおおおお!すげえええええ!」
そう。バカも覚えているが……例の、『20』のアルカナルーム。あれは、敗者復活の部屋なのだ!あそこに行けば、死者を復活させることができる!
「ただし、その場合は『20』の機能に裏が無いことが条件だね。『生き返っているように見えて、実はそうではない』なんて、悪魔が幾らでもやりそうだし。……それに加えて、燕が俺達も同席している状況ではすぐ『やり直し』をしようとするだろうし……そもそも、むつさんを説得できるか、っていう話にもなる」
とはいえ、デュオが難しい顔をしているのには理由がある。
……そう。たとえ、目の前にむつが居たとしても……燕がむつを見た瞬間にすぐ『やり直し』みたいなことをしてしまう可能性は、十分にあるのだ。
「……そうだな。僕としてもそれは難しいように思う。燕のあの様子を見る限り、彼が『自分の異能を知られている』と気づいてしまったなら、その瞬間に逃げられるだろう。それに、『20』の部屋とやらを利用するのも、危険じゃないか?」
海斗も難色を示している。バカは、『やっぱり難しいのかあ……』としょんぼりした!
「ねえちょっと。そもそも『20の部屋』って何があんのよ。置いてけぼりよアタシ達。どうしてくれんのよ」
更に、こっちはこっちで大変なのだ。やっぱり、情報の伝達というものには時間がかかる。バカじゃなくて海斗やデュオがやったって、説明に掛かる時間をゼロにはできないし、そもそも説明していない部分は伝わらないのである!
「あー、ごめんごめん。ええと……まあ多分、『死者が蘇る部屋』だと思うよ。俺も直接見たわけじゃないから分からないけれど」
「なんで直接見てないのにわかんのよぉ……」
「デュオはな!めっちゃ頭いいんだ!デスゲーム5連覇してる!」
バカは目をキラキラさせてデュオを褒め称えるのだが、五右衛門はバケモンを見るような目でデュオを見つめている!それはそうだ!普通の人からしてみると、『デスゲーム5連覇』は正気の人間の所業ではないし、そもそもデスゲームというものを楽しい場所だと思っていない!でもバカはそう思っている!見解の相違!価値観のすれ違い!筋肉!
「え、ええと、とにかく『20』の部屋に行くと、死者が蘇るんですね!?すごい!つまり私達、死んでも大丈夫ってことですか!?」
「いや、蘇る人数制限とか回数制限はあると思うよ、流石に」
「まあそうかあ!そうですよねえ!そりゃそうだあ!じゃないと悪魔さん、大赤字ですもんねえ!多分!」
「……1人生き返らせるごとに何円、みたいなの、あんのぉ?」
バカは『まあ、悪魔は魂を食べたいんだろうし、生き返らせてばっかりじゃ、お腹空いちゃうんだろうなあ……』とちょっとしょんぼりした。
全ての悪魔が納豆を食べて満足していてくれればよいのだが、それを言うのも悪魔には酷な話だろうし……。本当に、悪魔が納豆で満足してくれるのであれば、バカは喜んで丑三つ時に色んな雑木林から藁人形を収穫して回ってきて、納豆を拵えるのだが……。
「ああー……2人生き返らせられるんだったら、今からでも『20』のお部屋に行けば何とかなったのかもしれないんですよねえ……ううーん、上手くいかない!」
タヌキが『やっぱり私には何も分かりません!』と、七香の腕の中でひっくり返った。七香は何とも言えない顔で、タヌキをじっと見つめている……。そして、タヌキをそっと、撫でてみている……。あ、ちょっと笑った……。
「……それで、デュオ。『もう1つ』の方は、どうなんだ」
そんなこんなでバカ達が頭を抱えていたところ、海斗がそんなことを言ってデュオを小突いた。
バカが『もう1つ?』と首を傾げていると、海斗は『デュオは最初に、案が2つあると言ったぞ』と教えてくれた。バカはそれを聞いてようやく思い出した!
「あー……まあ、こっちはもっと危険というか、俺としては推奨しない案になるんだけれど」
……が、『2つ目』の案があるというのに、デュオはなんとも浮かない顔をしている。デュオには珍しく、なんとも歯切れが悪い。
バカは、『珍しいなあ』と首を傾げる。デュオは……或いは、陽についてもそうだが、彼らは基本的に、言うか言わないかを躊躇う、ということはあまり無いように思うのだ。出せる案は大体全部出すか、『この案になられちゃ困る』という時にだけそれを思いついても隠しておくか……とにかく、頭の回るデュオは、そこらへんの判断が早いので、迷う時間が必要無いのである!
そんな『宇佐美光』は、迷いに迷って……それから、言った。
「今のむつさんに異能を使ってもらって、むつさんと燕が生き返った状態にまで戻ってもらう、という案だ」
「今のむつ、が……?」
バカが首を傾げるのに合わせて、むつの魂も、ほよ、ほよ、と揺れる。困惑気味らしい。
「あー……勿論、こっちはこっちで、問題だらけだ。未確定のことが多いし、それら全てが俺達に都合よくできていたとして、更に問題があるし……だが俺は現状、これ以外に期待が持てる案を思いつけなくてね」
デュオはそんな言い訳じみた前置きをしてから、話し始める。
「まず、問題1つ目。むつさんの異能の仕様が何も分からない、ということだ」
「しよう……?」
「仕様書、とか言うだろう。……というかお前、そういうものを扱うことがあるだろう」
「あ、うん!分かった!仕様書の仕様だな!分かった分かった!」
バカは首を傾げていたが、海斗の解説によってなんとか戦線復帰した。
バカにも『仕様書』は分かる。つまり、取説みたいなものだ。『ここをこうやるとこうなりますからね!いいですね!』というやつが『仕様書』なので、『むつの異能の仕様』は、『むつの異能は!ここをこうすると!こうなる!』というやつなのだろう。
「勿論、推測できる部分は、まあ、あるよ。……例えば、樺島君から話を聞いた限りだと、『1周目』で四郎さんがおかしなことになっていたり、エレベーターがおかしなことになっていたりしたらしいけれど……まあ、現状、それらは『むつさんの異能』によってなんとかなったものだと考えるしかないよね」
バカが『そうだそうだ』と頷くと、デュオも『だよね』と頷いて……なんとも頭の痛そうな顔をした。
「となると、四郎さんのケースから考えるに、『人間1人だけを対象にすることができる』のは間違いない。勿論、『人間2人以上を対象にできない』ということは確定しないし、むしろ、俺達全員が15分寝坊しているらしいことを考えると、効果範囲は拡大できそうだけれどね……」
「そうだな。ついでに、『燕自身がマイナス1周目から1周目へ移動している』ということを考えると、効果対象に自分自身を選択することも可能なんだろう」
バカは、そろそろ付いていくのが難しくなってきたが、頑張ってついていく。ああ、頭のいい人達の会話は、辛い!とてもつらい!
「それから、燕がエレベーターを操作したのは、やっぱりむつさんの異能を使って、っていうことだと思う。『エレベーターの行先ボタンが押された瞬間』とかまでエレベーターの状態を巻き戻せば、すぐエレベーターの中に滑り込んで……そのまま、目的の場所まで行けるだろうし」
デュオの話を聞いて、バカは『1周目で燕が『8』の部屋に来た時、エレベーター2台とも部屋の方に来てて大広間に無かったけど……そっかぁ、エレベーターが巻き戻ったら、大広間にエレベーター、戻せるのかぁ……』とそこは理解した。建物の話の方が、バカには理解しやすい!
「それで……これが厄介なんだけれど、四郎さんのケースとエレベーターのケースで、大分、異なる部分がある」
「へ?」
「四郎さんのケースだと、『状態』だけ巻き戻しているかんじかな。一方、エレベーターは『位置』もその時の状態に戻っていなきゃいけないわけだ。……となると、そこも任意に決定できるのかな」
が!デュオの話が、大分飛躍した!突然、何言ってんだか分かんなくなってしまった!バカは混乱した!
「え?え……?か、海斗ぉ、助けてぇ……」
「……少し待ってくれ。僕も考えてる」
……バカが混乱している横で、海斗も混乱している様子である。それを見たバカは、『海斗に分かんねえんなら俺に分かんなくてもしょうがねえな!ヨシ!』と落ち着きを取り戻した。海斗に『お前はなんで落ち着いたんだ……?』と何とも言えない顔をされてしまったが……。
「……まあ、そういう風に、色々と『推測できる』部分と、『推測するにしても可能性が広すぎる』部分、そして『そもそも俺達が思い至っていないかもしれない部分』があるわけで……そこらへんを考えると、むつさんの異能に頼るのは、結構リスキーだと思うんだよね」
ということで、デュオの説明は一旦終了し、デュオはため息を吐いた。バカは『説明お疲れ様!最後の方、よく分かんなかったけど!』と拍手を送り、タヌキも七香の腕の中で、『お疲れ様です!最後の方、よく分かりませんでしたけど!』と拍手を送った!
「一度、確かに死んでしまった燕をまた生き返らせられるかは分からない。彼の魂は今、悪魔の手元にあるだろうからね。それにそもそも、魂だけになってしまっているむつさんが自分自身に異能を使うことができるかも分からない。……そして、むつさんの異能の詳細は、むつさんが異能の説明書を読む前に燕に処分されたか……はたまた、読んだ『後』に、燕がむつさんの記憶を巻き戻してしまったか、ということになる」
デュオはそう言って、『だから現実的じゃないんだ』とため息を吐いた。
「成程な……。するってえと、確かなことは何も分からねえまま、むつの異能に賭けるしかねえ、ってことか」
「……だから、俺としては『燕を見捨てる』ってことも考えてるけど……まあ、それだとむつさんは納得しないだろうね……」
四郎が思い悩む横で、デュオはとんでもないことを言ったが……ランタンの中のむつの魂が『それはだめ!』とばかり、一気にメラメラと燃え上がって見せたのを見て、またため息を吐いた。……でも、デュオはむつが納得しなくても、それしか無いと思ったらきっと、そうするのだろう。彼はそういう奴だ。バカはそれを、知っている。
「あの、私も、燕……さん?を見捨てる、のは……ちょっと、嫌、です」
だがそこで、ヤエがそんなことを言い出したので、デュオは『参ったな』という顔で苦笑いするしかなくなってしまった。
「燕さんが、むつちゃんのふりして、私と一緒に居た時間……そんなに、長くなかったけれど……でも、一緒に居て、楽しかったし。その、見捨てなくていいんだったら、そんなこと、したくない、って、思って……」
ヤエがちょっとしどろもどろになりながらもそう言うと、むつの魂は『ありがとう!』と言うかのように、ほよんほよんとランタンの中を跳ねまわった。
あんまり元気に跳ね回っているものだから、ランタンから飛び出しそうな勢いである。なのでバカは慌てて『ランタンから出たら駄目だぞ!お前、ランタンから出たらすぐ弱っちゃうんだからな!』とランタンの蓋をガッチリ押さえ込んだ!
「そうねえ……まあ、試行錯誤する余地があるんだったら、できることは、やりたいわよね。……人に危害を加えてのうのうと生きていくのって、結構しんどいわよ」
更に、五右衛門もそんなことを言って苦笑する。……ヤエのことがある分、五右衛門としても、思うところがあるようだ。まあつまり、彼も優しい、好い人なのである。
「とはいえ、むつさんの異能の詳細が分からないのは辛いですよねえ……。私も自分の『謎収納』を説明なしにいきなり使えって言われてたら、多分、無理でしたしぃ……」
が、気持ちだけではどうにもならないこともある。
タヌキが尻尾をしおしおさせている通り、現状、むつに『とりあえずお前の異能でなんかいいかんじにして!』と言うのは酷である。酷すぎる。あまりにも。
マニュアルも引き継ぎも無しにいきなり業務にあたらせるようなものだと考えたら、バカは縮み上がりそうなほど怖くなってしまった!そういうのは、よくないのだ!労災待ったなしである!
……だが。
「……ふと、思ったことがあるんだが、いいか」
そんな折、ふと、海斗が小さく小さく、手を挙げていた。
「その……あくまでも、ダメ元だと、思ってほしい。だが……もしかしたら、むつさんの異能の詳細が、分かる、かもしれない……」
「えっ!?ほんとか!?」
バカは目を輝かせて、海斗に飛びついた。だが、海斗は『ダメ元だって言っただろう!』と、ちょっと慌ててバカを落ち着かせにかかった。なのでバカは大人しく正座して待機する!
「まあ……その、僕の異能を使えば、もしかしたら……と、思ってな」
が、海斗がそんなことを言うものだから、バカはまた正座から立ち上がってしまいそうになった!海斗が『落ち着け!』と落ち着かせに掛かってきたので、バカはその場で正座のまま、みょん!とジャンプするにとどまった!
「いや、ちょっと待って。海斗、君の異能って……『リプレイ』だよね?」
そこでデュオが『待って待って』と言うかのように手をふりふりやってきたので、バカも身構える。『なんだなんだ、海斗の案に文句あんのか!』という構えである。バカなので。
「ああ。『リプレイ』だ。詳細に語るなら……指定した場所とタイミングの『人』がどういう風に動いていたかを再生することができる、といったところだが……」
「……それだと、異能の詳細について書いた紙を見ることはできないんじゃないかな。いや、手に持っていたものは再生できたり……?」
デュオがそう言うのを聞いて、バカは、しおしおしお……となってしまった。
そう。海斗の『リプレイ』は、人しか再生できないのだ。だから、個室の中の時計を見ることは、できないのである……。
『手に持っているもの』については確かに、前回のデスゲームでは卓球のラケット替わりのキムワイプの空き箱とかが再生されたことがあったのだが、文字が読めるレベルで紙が再生できるかというと……。
と、思っていたところ。
「ところで、樺島は長かったり難しかったりする文章を読む時、一々音読するんだが」
……海斗は、実に頭の痛そうな顔で、そんなことを言い出した。
「……むつさんも、そうだったら、その……可能性が、あるんじゃないか……?」




