多分もうゲームフェイズ1:天井裏2
「3周目、って……」
バカは頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべて首を傾げる。
「『燕にとっての』だ」
「……へ?」
「樺島君。もし……燕が君の異能をコピーして使ったら、どうなると思う?」
……バカは、考えた。
考えて、考えて……そして、結論を出した。
「……わかんない!」
「そうかあー、うん、成程ね。あははは……」
……デュオと四郎には何とも言えない顔をされてしまったが、海斗は1人、『そうだろうな』と納得して頷いていた!流石はバカの相棒である!バカがバカであることをよく知っているのだ!
「いや、まあ……『樺島君の言う1周目』が、そこ『だけ』違った、となると……そう考えるのが妥当だろうな、と思っているんだよね。海斗はどう思う?」
「僕も賛同する。……考えたくはないが、最早、それしか考えられない」
デュオが何とも言えない顔をすれば、海斗も苦い顔で頷いた。
「恐らくこのデスゲーム……樺島が『やり直し』をしたと記憶しているものの前に、更に数度のやり直しがあるはずだ。それが、『少なくとも』1周はあったわけで……いや、1周で済んだと考えるのは、あまりにも楽観的すぎるか」
「そうだね。下手したら、10や20どころじゃなくて、100か、1000か……もっとやり直し続けている可能性もある訳だ。樺島君と燕と、2人が『やり直し』をし合っていたら、互いに記憶しているものが1周や2周だったとしても、相手がその前に『やり直し』をしていたかもしれないし、更にその前は自分が『やり直し』をしていたかもしれないし……」
「ほええ……」
デュオと海斗の会話を聞いて、バカは『ほええ』となるしかない。四郎は考えてデュオ達に思考が追い付いたらしく、『成程、そういうことか……』と冷や汗をかいているが、バカはそこへは到達できそうにない!置いてけぼり!
と、そんな状態のバカを見て、海斗は『ああ、まあ、お前には難しかったよな……』と何とも言えない顔をすると、少し考えて……。
「……お前が『やり直し』をすると、僕は記憶を失う。それは分かるな?」
「え?うん。分かる……」
海斗がバカにも分かる話を始めてくれたので、バカはこっくり頷いた。……同時に、少し寂しさを思い出した。そう。海斗は、バカが『やり直し』をすると、そこまでにバカと一緒に何をやっていたかも、何を話していたかも、忘れてしまうのだ。
勿論、バカは『海斗は忘れたんじゃなくて、何も知らない状態に戻っただけ』ということは理解している。一応、それは理解できるのだ。バカでも。
だが……寂しいことは、寂しい。そんなバカであった。
「まあ、分かってくれるなら話は早い。……要は、燕が『やり直し』をすると、お前も同じ状態になる、ということだ」
……なので、バカは、すとん、と理解した。
「燕は『やり直し』をした。その結果、お前はそれまでに経験したこのデスゲームの記憶を失った。一方、燕は1周分の記憶を持ったまま『やり直し』になる。つまり……お前にとっては『1周目』だが、燕にとっては『2周目』……いや、もしかしたら、3周目か4周目か、もっとかもしれない。まあ、そういう状況になる」
「……そっかぁ、燕も、やり直し、してたのかぁ……」
「ああ、そうだろうな。だから燕は、『1周目』だけ……つまり、彼にとっての『2周目以降』だったあの時だけ、普通ではありえない行動をとった。そういうことなんだ」
バカは、色々なことに納得がいって、ぼーっとしていた。頭の中で色々なことが一気に片付いて『すぽん!』と消えてしまったし、消えたところに新しい情報がどさどさやってくるものだから、処理が追い付かないのである!
「……まあ、なんだ。つまり、だな……僕達は今、ものすごく運がいいのだろう、ということだ」
更に、容赦なく情報はやってくる。どどどどどど、と押し寄せる情報の波に、バカはどんぶらこどんぶらこと流されていきそうだ!
「お前は今、何周目だ?」
「え?えーと、えーと……17……?あれ、18だっけ……?」
バカは頑張って指折り数えてみるが、途中にいっぱいやり直したのが挟まったので、余計にこんがらがっている!処理は余計に追いつかない!
「……その間のどこでも、燕はお前の異能を『コピー』しなかった。ついでに恐らく、お前の異能が『やり直し』だということにも、気づかれていない。そういうことだ」
……だが、バカはなんとか、海斗の言葉を理解した。
バカが『やり直し』をし続けているから、今がある。
逆に……バカが『やり直し』をできないことがあったら……その時、バカは未来を失うかもしれない。
「どこかで何かが間違っていたら……もう、燕が先に『やり直し』をして、お前の記憶はリセットされていたはずだ。そしてその危険は、今もある」
海斗は緊張の走った顔で、バカを見つめた。
「いいか?樺島。お前は……絶対に、燕に異能をコピーさせるな。異能を、知られるな。何があっても、だ」
バカも、緊張に満ち満ちて海斗を見つめ返す。……今までも自分のすぐ背後にあったかもしれない脅威を知ってしまったバカは、ぞっとした。
「知られたら、お前は一切の記憶を失ってまた『最初から』になる。そして燕が有利な状況で……僕らがたまたま燕より先に『やり直し』をするかもしれないその時に賭けるだけの周が始まる」
「1周目、燕が樺島君を殺そうとしたのは多分、そういうことだったんだろうね。自分以外に『やり直し』させないためだ。……まあ、それってつまり、燕が目指す『ゴール』は、どうやら樺島君抜きのゴールらしいね、ということになるけれど」
「そうだな。だからこそ、絶対に、燕には異能を知られてはならない。燕はお前や僕を殺して『ゴール』するつもりらしいからな」
「そ、それはダメだ!」
バカは焦って声を上げながら、『なんで燕は俺も海斗も殺そうとしちゃうんだよぉ……』と、泣きそうになってきた!嗚呼!燕が、バカや海斗を殺そうとしなければこんなことにはならないのだが!
「ま、そういうことなら話は早いな」
……が、四郎がそう言って笑う。バカは、頼れる先輩天使の言うことなので、大いに期待しつつ待ち……。
「燕は、燕にとっての1周目……ん?1周目とも限らねえのか。あー……めんどくせえ。もう『樺島にとってのマイナス1周目』ってことでいいな?」
「どうぞ!」
バカは覚えた!バカが知らない、多分燕しか知らない『1周目の前』は、『マイナス1周目』!
……バカはバカだが、一応、正負の数の概念は分かる!がんばった!
「とにかく、その『マイナス1周目』と『1周目』で燕の行動が決定的に違う、ってのは、つまり……『むつと体を交換しない方が燕にとっては良い結果になることが分かった』ってことだろ?なら、それを材料に燕を説得するっきゃねえよな?」
そして、四郎の言うことが概ね分かったバカは、ぱちぱちと拍手をした!
……そう!燕が『やり直し』をした結果、むつをランタンの中に入れないことに決めたというのなら、それが燕にとって、よいことだった、ということだ。
だったら、燕に『むつの魂をランタンに入れないでほしい』とお願いすることは、燕にとってもよいことであるはずなのである!
だが。
「あー……うん。まあ、それは、そうだね……」
「それが可能なら、だな……。当然、燕に『やり直し』のことを話すのは、リスクだからな……」
……デュオと海斗が、渋る。それはそれは、渋る!
それはそうである!だってさっき、『燕にやり直しをコピーさせてはならない!』という話をしたばっかりなのだから!
……それからしばらく、バカ達は話し合いをしていた。
即ち、『燕に話してみるか……?』『いや、危険じゃないかな……?』『でも安全なように上手く、できないか……?』『脅すか?』などといった具合に。
……そして。
「まあ……相手を脅す材料には事欠かない訳だし。それでいくのがいいかもね」
「……僕としては不本意ではあるんだが……まあ、現状、それ以上に安全をとれる方法が見つからないからな。仕方ない、か……」
バカがおろおろする中、結論が出た。
「むつさんを人質にしよう」
「それ、やらなきゃダメかぁ!?」
「駄目だね。まあ……一回くらい、悪役をやってみる回があってもいいんじゃないかな」
「俺には難しいよぉおおお!」
バカは大いに嘆いた!嗚呼!
「さて。となると、『9』の部屋に入らないといけないのか。……今、ここに在る腕輪は『1』『2』『4』『10』だけだから、今のままだと『9』には行けないね」
さて。
バカが『むつに酷いことするのぉおおお!?』とゴロンゴロン転がっている間にも、デュオ達は元気に相談を続けていく。
「そもそも大広間に行けねえだろうがよ」
「ああ、それは問題無い。樺島がデュオを振り回せば床を破って大広間まで戻れる」
「え?今なんて?」
デュオが困惑すると同時に、バカはちょっと元気を取り戻した。床を破ることなら、頑張れる!
「『8』『7』『6』『5』『3』のどれかの腕輪があれば『9』に入れることになるよな?おい」
「ああ。……なあ、樺島。その中だと、誰が一番、協力を仰ぎやすい?或いは、攫ってきやすい?」
バカは『ヤエと七香とむつと五右衛門とタヌキ……?』と考えた。
……むつは、無理だ。『6』の腕輪を今持っているのは、むつの中に燕が入った、あのむつなのだから!
そして五右衛門も、ちょっと難しい。五右衛門はちょっと警戒心が強いタイプだ。ちゃんと説明して、ちゃんと最初から仲良くなるために頑張らないと、協力してもらうのは難しい!
ということで、ヤエも難しい。ヤエだけ攫って来ようとしたら、五右衛門が止めに入ってくることだろう!
……となると、七香かタヌキだ。七香については、デュオが説得したらすぐ付いてきてくれるだろうが。
それ以上に。
「……タヌキ!」
バカの頭の中では、タヌキが『ぽんぽこぽーん!』と元気に飛び跳ねている!
そう!タヌキなら事情を何も説明しなくても、割と協力してくれる!だってタヌキは人が良いから!
そして、タヌキなら攫うのが極めて簡単である!だってタヌキはタヌキだから!
……ということで。
「よし。タヌキ狩りの始まりだね」
「タヌキ、狩られちゃうのぉおおおお!?」
「あ、いや、狩らない、狩らない。ただちょっとお話しして、協力してもらうだけだよ」
「そっかあ!ならいいやぁ!」
……嗚呼!タヌキの運命や、如何に!




