19話 その8
私はそんなレンさんに呆れながら、魔剣を握って構えてみます。
「どうですか? いい感じですか?」
「主様! いい感じです!! レンが作ったので悔しいですが、似合ってます! それに可愛いです!!」
「……えと、良かったです。レンさんはどう思いますか?」
「……よく似合ってる。作って良かった」
レンさんは感慨深そうにそう言ってきます。ひとまず私は収納魔法で魔剣を仕舞うと、命名がしっかりできているのか確認するために、呼び出してみることにしました。
「『夜空』、出てきてください」
そう呼び掛けると、一瞬にして私の手の中に漆黒の魔剣が握られます。
……むう。たしかにオルさんと違って、呼応しているような感じはしませんね。なにが条件なんでしょうか? まあよく分かりませんけど、覚醒はおそらく大丈夫だとして……擬人化ができるのかどうかはまた今度試しましょう。と言っても、明日か明後日のうちにですけどね。
そうしてある程度整理もできたので、私はレンさんに言います。
「レンさん、『夜空』のベース魔法はなんですか?」
「……ああ、そうだな。まずは名前だけど、『特異点魔法』って言うんだ」
……えと、聞いたことありません。それに時間魔法と違って、どんな魔法なのか名前で分からないタイプですか……。
「……あの、どんな魔法なんですか?」
「まあ説明するより見た方が早いと思う。魔剣に魔力を少しだけ流してくれ」
「……分かりました」
私は言われた通り、少し魔力を流してみます。その瞬間、私の周囲に結界が現れます。結界の内容は構造が複雑で見たことがないものなので、とても読み取れそうにありません。結界魔法とは見た目こそ似ていますが、中身はまったく違うようです。
私が色々と確認していると、レンさんは少し離れたところに行き口を開きます。
「じゃあ、ユノ。これからいくつか魔法を放つから、そのまま魔剣を握っててくれ」
「……はい、握ってます」
「他に魔法は使わないでいいからな。……よし、いくぞ。――火砕魔法一型!」
瞬間、レンさんの上空に熱を帯びた溶岩の塊が数十個出現し、私に向かって飛んできました。一つ一つの大きさもかなりのもので、全部躱すのはほぼ不可能です。なので、直ぐに私も結界魔法か火砕魔法で対抗しないと焼け死んでしまいます。ただ、レンさんは魔法を使わないでいいと言っていたので、私もそれを信じて魔剣を強く握ります。
……レンさん、信じてますよ――。
――刹那、飛んできた溶岩の塊は結界に触れると、音もなく消滅しました。
私はその出来事に困惑しながら、全ての溶岩が結界に触れて消えるのを見届けました。そのまま私が呆然としていると、レンさんはあまり気にすることなく言葉を発します。
「他の魔法も試していくぞ? ――原初魔法二型!」
そう唱えた瞬間、今度は白い光線が私に向かって放たれました。しかしそれも、先程と同様に結界に触れると消滅します。それからレンさんは麻痺魔法を使ってきたのですが、結界を張っているからか、私に魔法が届くことはありませんでした。そして、物質生成魔法で作った剣を飛ばしてきたりもしましたが、それも結界に触れた瞬間に消えてしまいました。
私がどういうことか聞こうとした時、レンさんが口を開きます。
「これで最後だ。――結界魔法二型」
レンさんは私が出した結界を覆うように新たな結界を展開してきました。……ただ特になにも起きず、レンさんが何をしたかったのか分かりません。
「ユノ、この結界は炎魔法を制限してるんだ。今炎魔法を使ってみてくれないか?」
「……分かりました。炎魔法一型」
そう唱えると、炎の球が出現します。特に制限を受けることなく出すことができました。
「今度は魔剣に魔力を送るのをやめて、もう一度炎魔法を使ってみてくれ」
私は頷くと、レンさんに言われた通り魔剣に魔力を送るのをやめました。すると、僅かに経ってから結界も消えます。
「炎魔法一型」
再びそう唱えるも、今度はたしかに結界魔法の制限を受けているようで、炎は出てきません。……ですが、これで私にも分かりました。
ひとまず私はレンさんに近付くと話し掛けてみます。
「レンさん、特異点魔法は……魔法を無効化する魔法なんですね?」
「まー、そうだな。……でも、特異点魔法はかなり特殊らしくてな。理論対象外の魔法なのに、複合魔法なんだ。だからその魔剣に組み込んだ『無効結界』も、片方の魔法の力って感じだな」
……えと、特異点魔法ってとてもすごい魔法なんですね。魔法を無効化する魔法なんて聞いたことがないので、これもおそらく理論対象外なのだと思いますし、もう片方の魔法ももしかしたら理論対象外なのかもしれません。……そんな魔法をベースにした魔剣までもらえて、私はとっても運がいいみたいです。すごいです……。
私が喜んでいると、レンさんは少しだけ補足してくれました。
「無効結界は魔法と魔法具みたいに魔素で作用するものをなんでも無効にできるんだ。……ユノはそんなに危ないことはしないと思うから大丈夫だろうけど、護身用として持っといてくれ」
「ありがとうございます、レンさん。とっても大切にしますね」
私が微笑むと、レンさんは少し頬を掻きながらも笑ってくれます。ただ、私の横に立つアヴィさんは「むぐぐ……。我の変質魔法は魔剣向きじゃないのに……」と、悔しそうにするのでした。
それから寮の部屋に戻ると、私は直ぐにベッドに寝転がります。レンさんもここ最近は私のために魔剣作りを頑張ってくれていたそうなので、私やアヴィさんと同じように直ぐにベッドに横になりました。
「……レンさん、アヴィさん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。ゆっくり休んでくれ」
「主様! おやすみなさい! ――それと、我も主様に魔剣を作ります!! 楽しみにしておいてください!!」
「……気持ちは嬉しいです。……でも大丈夫です」
「あ、これはもう決めたことなので、絶対に作ります!!」
そう言い、ベタベタと触ってくるアヴィさんのことは置いておいて、私は目を瞑りました。
今日も色々とありました。私が昨日戦ったお二人が学院を退学になりましたし、アルフさんとテセウスさん、オルフェさんにも会いました。テセウスさんとオルフェさんとはお友達になれるか分かりませんけど、なんとなくアルフさんとはお友達になれそうです。また適当に遊びに行ってお話してみようと思います。……そして、明日はノエルさんとお菓子作りです。あとセシリアさんも遊びに来ると言っていましたね。楽しみです。……それと、忘れてはいけないのが、勇者についてです。これも明日の夜に詳しくお話してくれるそうなので、楽しみの一つですね。
私はそんなことを考えると、布団をギュッと抱き締めて寝ることにします。
――ふふっ、レンさんからもらった『夜空』は大切にします……。
私は寝る直前にそんなことを思いつつ、直ぐに眠りにつくのでした。




