19話 その7
私がそう考えた時、アヴィさんが私の腕を引いてきます。
「主様? 我は剣聖のことを詳しく知っていますよ!? どうして一切我に聞こうとしないんですか!?」
「……いえ、そんなことより、知っているなら教えてください」
「主様はひどいです! まあ我は主様が大好きなので、どんな対応をされようと教えますけど!!」
私はなにか無駄なことを喋るアヴィさんから視線を外して、美味しいごはんに目を向けます。アヴィさんは「……むぐぐ」と唸っていましたが、少ししてからお話を始めてくれました。
「主様、いいですか? 剣聖はその名の通り、世界で最も剣を扱える者に与えられた呼び名です。我が読んだ文献には、正道オーストレイニア皇国に生まれた勇者が関係していると書いてありました! 本来勇者の子供は勇者の力を引き継ぐことなく普通の人間になりますが、剣聖の剣の才能はなぜか引き継がれてるそうです! 他にもまだありますけど知りたいですか?」
「知りたいです」
「主様は可愛いですね!! 教えてあげます! 剣聖はあらゆる剣を使いこなせるらしいです! これは我の推測ですけど、他人の魔剣でも自由に扱えるとかそういうことだと思います! それと、剣聖が握っている剣は絶対に壊れないそうです! これが我が読んだ文献に書いてあった情報です!!」
「……とても詳しくありがとうございます」
私は頑張ってくれたアヴィさんの頭を撫でてお礼を言いました。アヴィさんも喜んでくれているようなので、良かったです。少しの間そうしていたのですが、考えるまでもなく不思議なことがあったので、聞くことにします。……因みに、レンさんはお話を聞くと「へー、剣聖って凄いんだな……」なんて適当なことを言っていました。
「あの、アヴィさんはその文献をどこで読んだんですか?」
私のその質問に、アヴィさんは悪びれることなく即答します。
「アルスティナの王宮の地下十二階にある禁書庫で読みました!」
「――え、それは……」
なんとなく詳しすぎる気はしていましたし、国家機密レベルの重要そうな情報だったので、どうしてアヴィさんが知っているのかと不思議に思いましたが、まさかこんなことだったとは……。それに、アルスティナ帝国の禁書庫とはいえ、正道オーストレイニア皇国の勇者のことまで文献に残されているのは不可解なので、おそらく国家ぐるみの裏取引などで得た情報なのでしょうね。……剣聖についてここまで詳しく分かっているのなら、もしかしたら勇者についても実はかなり詳しく調べられているのではないでしょうか?
私は念の為、レンさんとセシリアさんのことを知る意味でも、勇者のことを質問することにしました。
「アヴィさん、勇者についての文献はありましたか?」
「……ありましたよ、たくさん!」
「えと、たくさんですか。どんなことが書いてありましたか?」
「……この話は長くなりそうなので、また今度でいいですか?」
アヴィさんはそう言いますが、私は気になったのでしっかり聞いておきます。
「……あの、いつ話してくれますか?」
「主様、明日の夜でいいですか? 我も色々と分かりやすいようにまとめておくので!」
「……分かりました。どんな内容なのか気になります」
ひとまず明日聞けることが分かって私が満足していると、レンさんは突然思い出しかのように言います。
「そういえば、ユノ。前に渡すって言った魔剣が完成したぞ」
「――え、ホントですか? 後で試していいですか?」
「ああ、寮の中だとあれだから、外にしような」
「楽しみです!」
私がそう答えると、レンさんはなぜか無言で私を見てきて、アヴィさんはムキーッとレンさんに怒っています。わけが分かりませんけど、私は残りのごはんを食べていきました。
〇
それからごはんを食べ終わり、お風呂に入ったりとやることを済ませた私たちは、寮の外に出てみました。
「……その、大丈夫か? シャワーを浴びる前の方が良かったんじゃないか?」
「どうしてですか? 大丈夫ですよ?」
「……そうか。ユノが大丈夫ならいいんだけどな……」
なぜか困った顔をしているレンさんに、私は言います。
「レンさん、魔剣を出してもらっていいですか?」
「……そうだな。――収納魔法」
そう魔法が唱えられた瞬間、レンさんの手の上に一つの魔剣が現れました。
――真っ黒な剣身に星空のように輝く光が散りばめられていて、とても幻想的で……綺麗です。
私が見惚れていると、レンさんはその魔剣を渡してきます。
「まだ名前はないからユノが付けてくれ」
「……ありがとうございます。大切にしますね。……名前は少し考えさせてください」
「ああ、分かった」
優しく微笑むレンさんと、なぜかレンさんを睨み付けるアヴィさんは置いておいて、私はじっくり考えることにします。
……名前は大切ですし、決めるのは難しいので頑張る必要がありますね。さてどうしましょう……。
『包丁』『包丁さん』『レンさんが作った剣』『レンの剣』『レンの魔剣』『レンさんの魔剣』『レンさんからもらった魔剣』『レンさんソード』『綺麗な剣』『第二号』『二号さん』『二つ目の剣』『魔剣二つ目』『黒い剣』『黒い魔剣』
どれも微妙ですけど、なんとなく悪くないのがありますね。
私は候補を絞れたので、最後にレンさんに決めてもらうことにします。
「名前はレンさんに選んでもらいたいです。『レンさんソード』か『魔剣二つ目』にしようと思いますけど、どちらがいいですか?」
「――え、いや。……ん?」
レンさんは難しい顔をすると、そのまま悩み始めます。そして、程なくして口を開きました。
「――ユノ。その二つじゃなくて、俺が決めたのでいいか?」
「……え、はい。大丈夫です」
どうやら私の決めた名前では嫌だったみたいです。レンさんも結構ひどいところがありますね……。
「なら、この魔剣の名前は『夜空』にしてくれ」
「一応理由を聞いてもいいですか?」
「あー、なんというか……悪い。本人に言うのは恥ずかしいな」
「……そうですか、まあいいです。では決めてしまいますね?」
私がそう確認すると、レンさんは頷きました。それとどういうわけか、アヴィさんは必死に首を横に振っていますが、それは無視することにします。
「――では、あなたの名前は『夜空』です」
私がそう命名するも、特に『夜空』が光ったりすることはありませんでした。一応レンさんに聞いてみます。
「……あの、レンさん? これは失敗ですか?」
「ん? なんのことだ?」
「魔剣って命名すると光りますよね。でも今は光らなかったので……」
「……いや、やっぱりそうか。普通は命名しても魔剣は光らないぞ。しっかりと命名できたかは収納魔法に仕舞った後に取り出せば分かるから、特に困ることもないんだ。……魔剣が命名時に光ることも擬人化も、やっぱりユノが作ったから起きたんだと思う」
「……そうなんでしょうか」
私がやや疑っていると、レンさんは補足で説明してくれます。
「俺は人からもらった魔剣と、自分で作った魔剣の二つに名前を付けたけど、その両方で魔剣が光ることはなかったぞ。……アヴィは魔剣を持ってるか?」
「ふん、当たり前だ! レン、お前はなにか勘違いしているようだが、我の魔剣も命名時に光ったぞ?」
「……ん? そうなのか? ってことは……?」
アヴィさんの発言によってレンさんは混乱し始めたようで、結局「まあ、専門家になるわけじゃないから、いいか……」とのことでした。




