19話 その5
私が諦めてごはんを口に運んでいると、セシリアさんはまた突然話題を変えてきました。
「ユノ、明日一緒にどこか行こ?」
「……その、明日は予定があります」
「どんな予定なの?」
「ノエルさん……お友達とお菓子作りです」
「え、そうなの? ……私も一緒にいい?」
「……どうでしょう、分かりません」
多分ノエルさんならいいと言う気がしますけど、聞いてみないと分からないのでここは濁しておきました。
「ふーん、それで……何時からなの?」
「たしか十三時頃です」
「なら、それまでならいい?」
「……いいですけど、お出かけは嫌です。……それに、もしかしたら寝てる可能性もあります」
そう言うと、セシリアさんは少し考えてから答えます。
「うん、じゃあ明日はユノの部屋でまったり過ごそうね! ……でもユノもちゃんと起きててね?」
「……はい、頑張ります。……あの、あんまり早く来ないでくださいね」
「分かった! 八時くらいに行くね!」
「……え、ダメです」
私が咄嗟にそう言うも、お昼ごはんを食べ終わったセシリアさんはオルさんを膝の上から下ろして立ち上がり、私に向かって言ってきました。
「これからお昼ごはんは一緒に食べようね! ……じゃあ、また明日ユノの部屋に行くから待っててね!」
「……あの、八時は早いので、十時くらいでお願いします」
私はセシリアさんの元気に押されながらも、なんとかそう伝えます。すると、セシリアさんはニコニコしながら、お弁当などを仕舞って教室を出ていきました。
私はしばらく教室の入口を見たままぼーっとしていたのですが、アヴィさんがほっぺを突いてきたのでそちらを見てみます。
「……なんですか?」
「セシリアは多分八時に来ますよ!」
「……そうですよね。もし私が寝てたら私のことは起こさずに、そのままセシリアさんを部屋に入れてあげてください」
「主様がそう言うのなら我も従います! 任せてください! ……でも、主様は寝てる前提なんですね?」
「そうですね、多分寝てます」
私がそう答えると、アヴィさんは笑顔で頭を撫でてきます。なんだか馬鹿にされていそうなので、私はそれをぺしっと振り払うと、残りのお昼ごはんをオルさんと一緒に食べていくのでした。
〇
それから私はお昼ごはんを食べ終わり、五限目と六限目の授業を受け終わりました。……因みに、オルさんはお昼ごはんを食べ終わると、眠くなって直ぐに収納魔法に戻ってしまいました。
……さて、今日は大体三週間振りですけど、ラピスさんに会いに行ってみましょうか。もちろん、グリフィスさんとの決闘をしたあとに時間を遡ってしまったので、ラピスさんは私と会ったことを覚えていないはずです。……ただ、色々と知っている方なので大丈夫でしょう。それに、『ルーラー軸』という合言葉ももらっているので、なんとかなります。
私が席を立とうとすると、アヴィさんに腕を掴まれます。
「主様! 今日はどうしますか?」
「今日は行きたいところがあるので、そこに行ってみようと思います」
「分かりました! 行きましょう!」
「……いえ、アヴィさんは行きません。私だけです」
「嫌です! 我も行きます!!」
ラピスさんは師匠や私のことを知っていたくらいなので、アヴィさんがいてもまったく問題はないと思います。でも色々とアヴィさんに説明したりするのが面倒なので、断っておきます。
「アヴィさん、静かにしてください。あと、付いてくるのはダメですからね」
「そんなぁ! 今日もですか!?」
悲しがるアヴィさんに私は頷くと、後ろから声を掛けられます。
「姫様、どこかにお寄りになるのであれば、同行させていただきます」
「……ロッドさん、大丈夫です。今日は私一人で行きます」
「承知いたしました。必要があれば、魔法具にてお知らせください」
……あれ? 聞き分けがいいですね。いつもなら私の言葉を無視して付いてくるはずなのに……。
私はそんなことを思いながら教室を出てみます。すると、なぜかアヴィさんとロッドさんも一緒に教室を出てきましたが、付いてくる気はないようです。
「主様! 我は帰って夕食の支度でもしておきますね! なにかあったら我が駆けつけるので、安心してください!」
「姫様、危険がございましたら、いつでもお呼びください」
アヴィさんはニコニコしながら寮の方に向かって歩き出し、ロッドさんはその場で頭を下げてきます。
そういうわけなので、私も目的の場所に行くことにしました。
私は正道オーストレイニア皇国の教室前に着くと、静かに教室の中を覗いてみます。……因みに、ここに着く途中オーストレイニアの方とも何回かすれ違いましたが、ラピスさんはいませんでした。車椅子なので分かりやすいですし、それ以前に見れば直ぐに分かります。
……えと、ラピスさんは――。
私が顔を覗かせた瞬間、突然扉の影から出てきた方に話し掛けられました。
「――君、誰かを探してるのかな?」
「……え? ……えと、そうです」
気配を感じられなかったのはびっくりです。こんな日常的な場面で気配を消しているのはどうしてでしょうか……。
「誰を探してるのかな? 僕が呼んでくるよ」
「……あ、いえ、大丈夫です。見れば分かるので……」
私が少し警戒してそう答えると、その方の隣にいた方が微笑んできます。……因みに、この方の気配も感じられませんでした。
「そんなに警戒しないで大丈夫だよ。僕たちは誰かと争うつもりなんてないからね」
「……そうですか。えと、見てもいいですか?」
「うん、教室には好きに入って構わないよ。扉からじゃ見えにくいよね」
そう言いながら、道を空けてくれます。ただ、私が若干警戒してそのお二人のことを見ていると、そのお二人はニコニコしながら何やら言い合いを始めてしまいました。
「ほら、テセウス。君が怖がらせたんだよ? 謝った方がいいんじゃないかな」
「それはどうだろうね? 元々君が気配を消さなければ、この子にこんな印象は与えなかったよ?」
「彼との一件もあるし、来た子がどんな子か分からないからね。確認は必要だよ」
「もちろんそうだね。でもそれを言ったらキリがないと思うんだ。大体僕たちが常に守れるわけじゃないんだから――」
そんなお話をしている時、教室の中から元気に駆け寄ってくる方がいました。王族の制服を着ているので、この方は……。
「――テセウス、オルフェ! どうしたんですか?」
「……アルフ、この子が人を探してるみたいなんだ」
「そうですか、分かりました!」
皇子様は私の方を向くと、礼儀正しく挨拶をしてきます。
「初めまして。私はアルフレッド=ウィリアム・オーストレイニアです!」
「……初めまして、皇子様。……私はユノです」
「人を探して訪ねてくる方は珍しいです! 誰に会いに来ましたか?」
「……えと、ラピス・アルヴェシウスさんにです」
私がラピスさんの名前を出した瞬間、ほんの僅かにテセウスさんとオルフェさんの気配が変わったのを感じました。私も警戒して気配に敏感になっていたので、なんとか気付いたという感じです。




