19話 その1
「主様! 寝顔が最高です!!」
「……アヴィ、そうじゃなくて起こそうな」
「うるさい! 我に全て任せておけ!!」
「あー、悪い。任せるからしっかり頼むぞ」
「ふん! まあ見ておけ!」
そんな声が聞こえた瞬間、首元に柔らかいなにかが当たり……とてもくすぐったいです。
「……やめ、て……」
そう言っても止まることなくそれは続くので、私は手でどかそうとしますが、その手もなぜか掴まれて動かせなくなってしまいました。こうなっては私も為す術がないので、仕方なく目を開けて確認します。すると、よく分かりませんけど、アヴィさんの頭が見えました。ただ、それでもくすぐったいのは続いているので、とりあえずもう一度やめるように言います。
「……あの、くすぐっ……ぅ……」
声を出そうにもこの状況では中々難しいようです。
……なん、ですか? 首を舐めて……? 鬱陶しい……です。
私はどうしようもないので、近くで傍観していたレンさんに助けを求めました。目線でそれを訴えてみたのですが、しっかり伝わったようです。
「おい、アヴィ。いい加減にしろ。ユノももう起きてるぞ」
レンさんのその声にも反応せず、アヴィさんはひたすら私の首を優しく舐めてくるので、見兼ねたレンさんがアヴィさんの体を引き剥がそうとしてくれました。ただ、異様に力が強いアヴィさんになぜか勇者のレンさんが苦戦して、やっとのことでアヴィさんは私から引き剥がされます。
「――おい、レン。どういうつもりだ?」
「いや、どうもこうも――」
「アヴィさんこそどういうつもりなんですか? もう怒りましたからね?」
レンさんに敵意剥き出しにするアヴィさんでしたが、私の言葉を聞くと直ぐにしゅんとなって、私の隣に座ってきました。
「主様! おはようございます! 今日はもう完全復活ですね!」
「……え? ……そうですね、おはようございます」
変わり身の早さに困惑しながらも、私は一応返事をします。ただ、朝から苦しめられたことには、まだ少し怒っていますけどね……。
しばらく私はアヴィさんのほっぺをムギュっとつねったり引っ張ったりして遊んだ後に、ベッドから立ち上がって制服を着ました。すると、アヴィさんは突然後ろから抱き付いてきて私の首を触ってきます。
「主様は首が弱いんですね!」
「……? 首は人の弱点ですよ?」
「違いますよ!! 主様は首が敏感で感度がいいんですね!!」
……なんのことですか? ……まあ聞いても教えてくれるか分からないので、もういいです。
私は相変わらず不思議なアヴィさんには反応せずに、体に回されていた手を解くと、ダイニングに向かいました。ただ、レンさんはアヴィさんにお話があるということだったので、私はお二人より先にごはんを食べ始めます。そうして少し経ってからお二人は戻ってくると、一緒にごはんを食べ始めるのでした。
それからごはんを食べ終わり、あとは校舎に向かうだけとなったのですが、まだ時間があったので、私はベッドに寝転がって布団を抱き締めていました。
……はあ、布団は最高です。気持ちいいです。ふかふかです……。
私が布団を堪能していると、アヴィさんも同じようにベッドに寝転がって聞いてきます。
「主様は布団が大好きですか?」
「……はい、大好きです。でも誰でも大好きだと思います」
「それもそうですね! 主様は布団のどんなところが好きですか?」
「気持ちいいところです」
私がそう答えると、アヴィさんは直ぐに別の質問をしてきます。
「次に好きなところはどこですか?」
「触り心地です。ふかふかなので、最高です」
「そうですか! その気持ちはとても分かります! 我にとって好みの触り心地なのは主様なので、たくさん触りますね!!」
そんなことを言ってくると、私のことを無理やり抱き寄せてたくさん触ってきました。ただ、私は布団を抱えているので、全然気になりませんでした。……やっぱり布団はすごいです。
結局時間ギリギリまで布団を堪能したあと、ようやく私たちは部屋を出ます。そして部屋の近くには三日振りですけど、ロッドさんが立っていました。
「こうして再び姫様のお姿を拝見することができて、大変喜ばしく思います」
「……そうですか」
なんだか礼儀正しく頭を下げてくるロッドさんを見ると、テンションが下がってしまいます。
「……行きましょう」
私はそう言うと、しばらく無言のままで歩きました。
〇
アヴィさんとロッドさんも特に会話はなく時間は過ぎ、私たちはノエルさんたちの元に到着しました。
「……あの、おはようございます。熱も治りました」
「――ユノちゃん! 体調が治って本当に、本当に良かったです……」
ノエルさんは私に抱き付いてくると、優しくギュッと力を入れてきます。そんな姿にユッカさんは頷き、シエラさんは話し掛けてきました。
「ユノ? 私だって貴女のことを心配してたんだから。……熱が42.2℃まで上がったって聞いた時は、もうどうしていいか分からなかったけど……後遺症もなさそうで安心したわよ」
「えと、ありがとうございます。……こんなに早く元気になれたのは、アヴィさんのお薬のおかげだと思います」
「……はあ、オルタヴィアに関してはあんまり触れたくないわね」
「どうしてですか?」
そう言い、首を傾げる私に対してユッカさんが答えてくれます。
「一応一日目と二日目にユノさんのお見舞いに行ってみたのよ? でも、そこのオルタヴィアさんに追い返されてしまったの。……もしかして、ユノさんはなにも聞いてない?」
「……はい、なにも聞いてません」
「やっぱりそうだと思ったわ。オルタヴィアさんは相当独占欲が強いのね」
「……そうですか」
私はそう答えると、ひとまずアヴィさんの方を向いてみます。
「アヴィさん? どうしてそんなひどいことをしたんですか」
「風邪を移さないようにですよ!」
「……ホントですか?」
「――主様は本当に可愛いです!! それなのに、こんなに必死に色々と考えを巡らせていると思うと……あまりの刺激の強さに、我は興奮で胸が高鳴りっぱなしです!!」
……え? なんのお話ですか?
私はアヴィさんのお話がまったく分からないので、仕方なく頷いて事なきを得るのでした。ひとまずそんな感じで歩き出すと、シエラさんが聞いてきます。
「オルは今日はいないの? 会って撫でたいんだけど……」
「オルさんは気分屋さんなので、出たい時に出てくるんです。今日はまだ出てきてませんね」
「……そうなの? それは残念ね」
そう言うと、三人とも気を落としてしまいます。どうやらオルさんは人気みたいです。ただ、少ししてからノエルさんが何かを思い出したように口を開きました。
「――あ、ユノちゃん? 明日のお菓子作りはやめておきますか? 病み上がりですし、無理そうなら全然構いませんから!」
「……いえ、大丈夫です。もうたくさん休んだので元気です」
「ホントに大丈夫ですか?」
「はい、ホントに大丈夫です」
私が頷いてみせると、ノエルさんも納得してくれたようで、早速お菓子のことを話し始めます。
「明日はなんのお菓子を作りますか?」
「なんでもいいですよ」
「なら……フィナンシェはどうですか? あと、マカロンも作りたいです!」
「いいですね、そうしましょう」
「材料は私が持っていきますね!」
ノエルさんは微笑みながらそう言います。そんなノエルさんを見ながら、私はお菓子のことを考えてみました。




