18話 その3
私は学院の門を抜けると、直ぐに魔法を唱えました。
「転移魔法二型」
瞬間、私は師匠が用意した部屋の中に転移します。そして、目の前の机には紙と手紙が一枚ずつ置かれていました。どうやら師匠からの返事か来ているようです。
私は早速、紙を手に取り読んでみます。
『勇者の件はご苦労だったね。大会についてはリタの手紙を見るといい。……それと、グリフィスたちのことは大体把握しているよ。お前はこのまま勇者の監視を続けろ』
ひとまず内容を考える前に、リタさんからの手紙も読んでみました。私のことを大好きという内容を除けば、剣術大会は師匠に行くのはダメと言われてしまったけど、魔法大会なら行っていいと言われたので応援しに行くとのことでした。そして、パンドラさんも一緒なのだとか……。できることなら、パンドラさんよりも師匠の方が良かったのですけど、仕方ありませんね。
とりあえず両方読んでみましたけど、師匠からはまあ予想通りな感じでしたね。勇者の件はレンさんの固有魔法が理論対象外と分かったからそれを伝えたことで、グリフィスさんたちのことは、私が襲われたことを書いたと思います。なので、これといって新たなことはありませんけど、引き続きレンさんのことを監視していこうと思います。それに、師匠に報告するかは分かりませんけど、レンさんが私に魔剣を作ってくれているので、もう少ししたらレンさんの固有魔法もなにか分かります。正直そこまで監視はできていないのですが、自然とレンさんに関する情報も集まってきているので、当面の間は下手に踏み込まずに今の感じを続けていこうと思います。そして、大会に関してですけど、魔法大会の時はリタさんにも私の優勝するところを見せたいので、真剣に頑張ってみようと思います。一応剣術大会も、パンドラさんだけが私の監視で見に来たりする可能性はあるので、頑張ろうとは思います……。
ある程度情報もまとまったので、私も報告書を書いて出すことにしました。今回の報告書には、神代教のことと魔剣のオルトリンデが擬人化できたことを書いてみました。それと、セシリアさんが勇者で、同時期に二人の勇者がいるということも書いておきました。正直かなり悩みましたが、師匠なら元から知っている可能性も高いので、結局私が隠したところで、なにか問題があれば師匠は動くのでしょうし、私一人がどうにかできることでもありません。それに、逆に隠してしまったことで罰がある可能性もあります。なので、今後も本当に危険な情報でもないかぎりは、しっかりと師匠に報告することにします。そもそもいくら師匠が物騒な考え方をしているとしても、セシリアさんがなにかとても悪いことをしないかぎりは、他国の勇者だからといってわざわざ命を狙ったりはしないと思います。……多分ですけどね。
それから私はリタさんへの手紙も書いて、報告書と一緒に机の上に置いておきました。……因みに、魔法大会では絶対に会いたいこと、その時に沢山抱き締めたいこと、とってもとっても大好きということを書いておきました。魔法大会はあと二週間と少しなので、楽しみです。
一通りやることを終えた私は、なんとなく近くの展望台の上まで転移しました。屋根の上なので、誰にも見られることはありません。私は少しその景色を堪能することにしました。近い部分も明かりに包まれていますが、ずっとずっと遠くの方までもキラキラと輝いています。
……夜景がとても綺麗です。……やっぱり大都市なんですね。たくさんの方がここに暮らしているというのも、なんだか実感は湧きませんけど、ホントのことなんでしょうね。……そして、ここに暮らす方々もお仕事を頑張っているんでしょう。私も体調を崩して周りに迷惑を掛けるのではなく、しっかりとお仕事をこなしていかなきゃいけませんね。もちろん、シュベール人民共和国のこともです。軍部のところから調べていく必要があります。……ただ、それは本当に大切なことなのですが、……この景色も本当に素晴らしいです。戦争がないからこそこうやって平和なのでしょうね。――って、あれは? ……なんでしょうか?
街の景色を眺めていると、遠くの方に赤い光が僅かに見えます。
チカチカといくつか光っているので、なにかの事件でしょうか? ……一応見てみましょう。
私は「投影魔法二型」と唱え、ぼやけてよく見えないところまでしっかりと見てみました。
警察の方々が武装して二十人……いえ、三十人はいます。その中には魔法使いも数人いますね。そして、その全員が建物の中を見ているので……きっと立てこもり事件かなにかでしょう。騒ぎの大きさからして複数人なのは間違いないですし、人質を取られているのかもしれません。
私はさらに詳しく見てみるために、投影魔法四型を唱えて建物の中も見ていきます。ざっと見ただけでも数百人近くは人質になっているようです。そのうち十数人は銃で撃たれたようで、体から血を流して倒れていますし、あまり良い状況とは言えません。テロ組織なのかは分かりませんけど、放置していると死者が出るのは時間の問題でしょう。それにもちろん、こんなのを見てしまった以上は無視できません。
私は直ぐに魔法を唱えます。
「変身魔法一型、変身魔法二型」
私は服と見た目を変化させると、続けて転移魔法を詠唱し建物内に転移しました。
事件を起こした方々は少なくともこの建物内だけに十五人います。……全員拘束しないといけません。
私は気配を消して、柱の影から様子を伺ってみます。今は人質にされた方々を優先して、その方々が集められた大広間に来ました。ここには五人の方が銃を持って監視しているようで、逃げ出したり戦おうとした方が撃たれてしまったみたいです。あんまり悠長にしているとその方々が失血死してしまうでしょう。
……さて、どうしましょうか。五人を拘束すること自体は簡単ですけど、人質にされた方々もかなり緊張しているはずです。私がその五人を拘束した瞬間に各々が勝手に逃げ出したり騒いだりするかもしれません。それだと収拾がつかなくなるので、まずは人質の方々の身の安全を優先しましょう。
「結界魔法六型」
魔法を唱えた瞬間、人質の方々を囲むように結界が生成されます。内側の声は外に漏れないようになっているので、ひとまず騒ぎが大きくなることはないでしょう。
そしてその直後に、私は転移魔法を唱えて撃たれて倒れた方の元に転移しました。瞬時に回復魔法四型を唱えて治癒すると、また次の方へと急いで回復魔法を使っていきます。
「――てめぇ、どっから現れた!?」
「――ぶっ殺せ!」
そんな声が聞こえた瞬間、一斉に銃を撃ってきたのですが、私は既に結界を張っているので無視して治癒を続けていきます。唐突な銃声に状況の理解が追いつかない大勢の方々は、既に相当参っているのか叫び出したりすることもなく、ただ頭を押えて無事を祈るばかりです。これだけの方々に大声で叫ばれても頭が痛くなってしまうので、今みたいに大人しくしていてもらった方が私としても助かります。




