100話 その1
古代文明の地に足を踏み入れてから二日目、明らかに前日よりも遺跡の守り人が強くなってきました。初日はまったく問題のなかったロッドさんも、度々死ぬことが増えてきたのです。
因みに、ロッドさんが八千年前の勇者から継承した並行魔法は、同時に魔法等級の分まで自分の分身を出す魔法なので、7級のロッドさんは本人を含めて八人の自分を現実世界に存在させられることになります。そしてその誰もが正しく本人であり本物なので、仮に七人のロッドさんが殺されてしまっても、また一瞬で残った一人から七人のロッドさんが出てくるのです。……もちろんそれだけ代わりがいると言っても、一人一人がこの世界で死んでしまう事実は他の人となにも変わらないので、できればやって欲しくはないのですけど……、ロッドさんもこれまで何度もやってきているからという理由で、まったく止める気配がありません。
「ロッドさん? また一人ロッドさんが亡くなってしまいました。……本当にこれを続けるんですか? まだまだ私の導かれる感覚はたくさんあるんですよ?」
「構いません。元より私は命を投げ打つ覚悟の元ここに来ております。死への恐怖など歴代の最高司教にも存在しなかったもので、無論私にも存在しておりません。姫様のお心遣い、感謝いたします」
そう言うロッドさんをじっと見つめていると、アヴィさんが私のほっぺをたくさん突いてきました。
「主様! ロッドのことは気にしないで大丈夫です! というより、並行魔法の使用者とそれ以外では、死という感覚が大きくかけ離れています! 所謂『いくら死んでもやり直せるからいい』という感覚に近いですね! なので、我や主様が気にするようなことではありませんよ!」
「……そうですか。気にはなりますけど、言わないことにします」
「――いい子すぎます!! 流石我の主様です!!」
なぜかそう褒めてもらえたので、私は少し首を傾げながらもアヴィさんに微笑んでおきました。
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それからまた一日が経ち、遺跡の守り人もさらに強くなってきました。勇者の力を継いでいるロッドさんが、一度の戦闘で平気で数人亡くなってしまうほどにです。とは言え、同時にではないのでまだまだロッドさんの方が優勢ですし、心配するほどではありません。
「主様! 今の攻撃は少し手を抜いてましたね!? メア様の力を探るのも大事ですが、油断は禁物ですよ!」
「……んと、少しだけ間違えちゃいました」
「――!? なにをですか!?」
「アヴィさんがさっきふわふわなケーキのお話をしていたので、それを思い出してしまったんです」
「――えへへー! なら少し休憩して食べましょうか! せっかくなので、お風呂にも入りましょう! ぽかぽかしましょうね!」
そんなことを言われてしまったので、私も仕方なく頷いておきました。
「ロッドさんも食べますか? 美味しいケーキだと思います」
「いえ、私は姫様をお守りする務めがありますので、待機しております」
「そうですか。なら出口で待っててくださいね」
「かしこまりました」
そう言って礼儀正しく頭を下げてくるロッドさんを放置して、アヴィさんと私は空間収納魔法の中に入っていくのでした。
〇
一度戦いを忘れて楽しく穏やかな時間を過ごしたあとは、また集中して戦いを続け、次の日になりました。
お昼を過ぎた頃には、敵ももうだいぶ強くなってきています。
「……ロッドさん? この感じなら……今日は大丈夫ですけど、明日には八人のロッドさん全員が亡くなってしまう可能性があります。もうそろそろ全ての攻撃を引き受けるのを止めて、普通に戦ってください」
「では、明日からそうさせていただきます。それまでは引き続き、姫様の盾として全身全霊を以てお守りいたします」
「……分かりました。それでいいです」
そんな感じでお話したあとは、また次の遺跡に向かってみました。まだまだ数は残っているはずですけど、焦らずにしっかり集中です。
「ここですか。……行きましょう」
「はい! 頑張ってくださいね!」
そう言うアヴィさんに頷くと、私は目的の遺跡に入ってみました。
そして静かな通路を進んでいる時、突然転移の理が働きます。
――これは、……私たちを別々の空間に転移させるものですね。……どうしましょうか。
一瞬そう考えている間に、アヴィさんが私に話し掛けてきました。
『主様、なにか問題があったら我も駆け付けるので、とりあえず一人で戦ってみてください! 主様なら問題なく勝てるはずですよ!』
『そうですね。戦ってきます』
そんな風に答えると、私はそのまま理によって強制転移します。
――瞬間、私の背後に迫ってきた遺跡の門番は、一切躊躇わずに破壊の理を私の体に打ち付けてきました。ただ、そんな攻撃は効きません。
『《無効にして、崩壊です》』
そう攻撃を受ける前に命じた私は、そのまま後ろを振り返って敵を視界に入れてみます。
流石に崩壊自体は理の力で防御したみたいですけど、次の瞬間に仕掛けてきた攻撃が単調すぎるので、それを適当に受け流しながら、私は集中してメアさんを振るいました。
……うぅ、……これもダメですか。
たくさん別の攻撃や方法を試してはいるのですけど、どれも失敗していて上手く力を使えたことがありません。メアさんが可愛いのでそれはそれで構いませんけど、せっかくラピスさんが渡してくれた魔剣なので、きっとなにか意味があるはずなのです……。
……ラピスさん、全然分からなくてごめんなさい。……でも仕方ありません。……今は、この方を倒します――。
そう強く想って夜空さんに魔力を流した瞬間、突然守り人が消失しました。……それは、私の前からだけでなく、理として完全にこの世界から消失していました。
「――? ……えと、今のは……?」
そう呟いてみてもよく分からないままなので、一応夜空さんに聞いてみます。
『あの、今のは夜空さんがやったんですか?』
『……私じゃない。マスターとメアの力……?』
『そうですね。それならメアさんの力です』
よく考えてみれば、私が知らない力はメアさんだけなので、分からなかった時点でメアさんだったのです。




