99話 その4
『あの、寒くないですか?』
『大丈夫です。ぽかぽかします』
『ますたー、わたしもぽかぽかする』
『そうなんですね。ぽかぽかなら良かったです』
「……はあ、主様は可愛いすぎます! 好き!! 好き!!」
「アヴィさん?」
「――はい! なんですか!?」
「えと、アヴィさんの方が可愛いです。全然大したことをしてあげられていないのに、こんなに私のことを大好きなんです。いつもいい子です」
「――主様! 我が主様にしてもらったことは、とても言葉では言い尽くせない、信じられないようなことなんです!! 我を救ってくれるだけではなく、ずっと我に無窮の愛を注いでくれました!! それでいてこんなに可愛いんです!! 我は主様のことが大好きで大好きで、もうどうしようもありません!!」
「ふふっ、私もアヴィさんのことが大好きで大好きです。ずっと一緒にいたいです」
そう言ってみると、アヴィさんはとっても優しい笑顔を私に向けてくれました。そして私のほっぺにキスをしてきます。
「……主様? この先の運命を乗り越えて、レンと一緒に幸せになってくださいね。我は主様が幸せなら、それが一番の幸福なんです」
「……アヴィさん。……その時はアヴィさんも一緒です。アヴィさんも一緒じゃなきゃ嫌です」
「……大丈夫ですよ! 我はなにがあっても主様の心の中にいますからね!!」
「……そうですけど、アヴィさんにはずっと隣にいて欲しいです」
そう言う私のことを、アヴィさんはたくさん撫でてきます。……でも、なぜか約束はしてくれません。
「アヴィさん、ずっと一緒にいてください。約束です」
「えへへ! 気持ち的には約束です!! 我は主様のことをいつまでも愛してます!!」
「……私もアヴィさんのことはずっとずっと愛してます。……でも、気持ちだけの約束は嫌です」
「主様? そういうところも可愛すぎて最高です! でも、我は大好きな主様のことを守りたいんです! なので約束はできません……! 全てはレンとオリビア次第です!」
……? ……レンさんと、師匠ですか……? 師匠は王のことを私に任せていますし、きっとなにかすることはないと思います。……でも、レンさんは命の危険が迫った時には、必ず助けてくれると言ってくれました。……それならきっと、アヴィさんが危ないのも同じ時ですよね――。
「……分かりました。……アヴィさん? 私、レンさんのことを信じてます。なのでアヴィさんは大丈夫です」
「えへへ! なら我もレンのことを信じておきますね!」
「はい、一緒です」
そうお話してなんとか私も安心できたのですけど、一つだけ疑問が浮かびます。
「三千年前の私は、ほとんど完全に神理の力を扱えていました。それでもレンさんにはとても敵わないということだったのに、アヴィさんはその当時のレンさんと戦っても余裕に勝てるほどに強かったんですよね? それなら、アヴィさんが死んでしまうかもしれない状況を、レンさん一人で変えられるんでしょうか?」
「我の出す結論としては、まず間違いなく変えられるはずです! ただ、前提として三千年前のレンよりも、今のレンの方が遥かに強いということは無視できません! 当時のレンはまだ漠然とした守るべきもののために戦っていたので、『特異点』を完全に受け入れていませんが、今のレンは主様のために戦うことを決めて、『特異点』を完全に受け入れています! その上で適切な修行をしてこの一瞬一瞬も成長しているので、三千年前とは比較にならない力を得ています! とは言え、我の潜在能力は全勇者の中で群を抜いて最強クラスのレンと同等かそれ以上です! なのでつまり、我が王と戦う上で不利となるのは、あれが我と主様の親であること、そして決定打となる『神理』の力が王から系譜されているというところです! その点で対抗手段を持たない我や主様と違って、レンは『特異点』の力で『神理』すら上回れるので、勝敗が大きく変わるということですね!」
「……アヴィさん? 私は王と会ったことがないので分かりませんけど、王は勇者ではないんですよね?」
「そうですね! 我の予想では勇者ではありません!」
「それなら身体的には、アヴィさんの方が上なんですか?」
「『神理』の前ではその辺のことは些細な差でしかありませんが、単純な比較では我が絶対的に大きく上回るでしょうね! とは言え……、今の王はそういったことで測れるレベルではありません!」
「そうなんですね」
……できればお話だけで終わりにしたいのですけど、アヴィさんが警戒するということからも……、きっとそう簡単にはいきません。……おそらく、私たち全員の、命を懸けた戦いになるのでしょうね……。
そう考えていたところで、私たちは守り人の待つ扉の前にきました。ロッドさんはただ静かに私たちのお話を聞いているのですけど、無表情のままで……私が見ていることに気が付くと「姫様、ではお任せてください」と言ってきます。
「ロッドさん、お願いしますね」
そう言い、私は扉を理で消滅させました。
――瞬間、私の元に届くはずの攻撃を、ロッドさんが剣で弾き飛ばします。私も同時に守り人の前に転移し、メアさんを振り抜きます。ただ、接触しただけでまったくなにも起こらないので、その直後に迫る守り人の攻撃を躱しながら、私はさらにメアさんでの攻撃を続けていきます。
……メアさんは魔剣ではありますけど、実際にはラピスさんの不思議な力で作られたのであって、きっと魔法で作られたわけではありません。……なのでこの感じからも、魔力を必要としているわけではないのだと思います。
そんなことを考えながら攻撃していても中々上手くはいかないので、とりあえずこの守り人のことは倒してしまうことにします。
『《天刻の理です》』
瞬間的に止まる時の中で、私はルアさんの礼装の力を使い、剣身にアヴィさんの魔力を纏ってもらいました。そしてそれを守り人に向けて放出します。
――刹那、無限に近い衝撃が遺跡を貫き、結界ごと破壊して守り人を消滅させます。
「……すごいです」
そんな声を漏らしてしまいつつも、しっかり力を解いてお礼を言っておくのです。
「ルアさん、メアさん、ありがとうございます。いい感じでした」
『主様、頑張りました』
『わたし、ますたーに褒めてもらえた』
『ルアさんとメアさんは偉いです。頑張ってました』
『……そう。……いい感じだった』
そうお二人にも褒めてもらえたルアさんとメアさんは、綺麗な光を纏って喜んでくれています。
「ロッドさんもありがとうございます。今の感じでお願いします」
「かしこまりました、姫様」
「主様! 次に行きますよ! 実践あるのみです!」
「そうですね」
そんな感じで、私たちは運命の導くままに遺跡の踏破を続けていくことにしました。
そしてそれは日付が変わっても同じで、私たちは寝ることなくひたすら前へと突き進んでいくのでした。




