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99話 その1

 ……ぅ、……もふもふ……です。

 体をとってもふかふかなものが包んでいたので、私はそれを掴んでみました。

 ……なんでしょう。……もっとこうします。

 そんなことを思いながら頑張っていると、少しずつ目が覚めてくるのです。

 ……? ……ふかふかな布団ですね。……えと、そうでした。……ここはお城の中です。

 昨日のことを思い出した私は、少し目を擦りながらも体を起こしてみるのです。そして周りを見てみると、ニコニコなアヴィさんと目が合いました。


「……アヴィさん、……おはようございます。……もう朝です」

「そうですね、主様! おはようございます!」

「……んと、アヴィさんも今起きたんですね」

「あ、違いますよ! 我の方が早起きでした!」


 そう言うアヴィさんに首を横に振ってみるのですけど、ベッドの上にオルさんたちがいません。


「主様? オル様たちはもう収納魔法の中に戻っています! 大体三時間くらい前に起きて、少し前まで遊んでいました! 主様はたくさん寝てて気付かなかったんですね!」

「……そうなんですか。……とっても早起きだったんですね」

「あ、オル様たちが起きたのは普通に八時頃でした! なので主様がお昼前まで寝てしまったということです!」


 そんなことを言ってくるので、私はアヴィさんのほっぺをむにゅーっと引っ張ってみます。ただ、あんまりやると手が疲れてしまうので、私は適当に手を離して起きることにしました。


「アヴィさん? 今日は大変な一日になると思います。気を付けてください」

「――!? 分かりました! 我はいい子なので頑張ります!」

「偉いです」


 そう言ってアヴィさんのことを褒めてあげると、アヴィさんも嬉しそうに微笑んでくれます。

 そしてベッドから降りて服を着ると、いい子なアヴィさんと一緒にまた少しお城を回ってから、お別れを告げて外に出ました。……長い時間を過ごした場所でしたし、たくさんの思い出の眠る場所なのです。……でも、これから私が向かうのは――。


「アヴィさん、行きましょう」

「はい! 行きますよ!」


 そう言うアヴィさんに頷き、私たちは空に浮かび上がってさらに南へと進んでいきました。







 体の崩壊が数回起こってしまいつつも、私たちの視界に目的の場所が映り始めました。マキア国を大きく南に抜けた、世界のどの国も知らない未開の地です。


「アヴィさん、あれですか……」

「はい! 我と主様の生まれた地です!」

「……そうですね」


 私は一気にその目的地に近付くと、眼前に広がる景色を見て静かに想いを巡らせます。

 ……今も『運命』は、私のことを導いています。……それはたしかなのですけど、……『運命』の理を統べているというのに、それでもここから先の『運命』はなにも見えません。……ただ私は、王の定めたままに、導かれるままに進むしかないのです。

 視界いっぱいに広がる古代の遺跡群……五万年前の理想郷、過去に沈むネクロポリスを見つつ、私は強い覚悟を胸に地面に降り立ちました。遺跡そのものが理でできた建物で、それらが繋がれて作る結界を抜けないと、この地に立ち入ることすら許されません。……ただ、私たちにはその必要はないのです。


「アヴィさん、行きましょう」

「はい!」


 元気に頷くアヴィさんと一緒に結界に触れると、私たちは弾かれることなく古代遺跡の地に足を踏み入れました。

 ――瞬間、周囲の遺跡が光の文字を帯び始めます。

 ……これは、きっと当時の言語ですね。……読めませんけど、すごいです。


「主様? 世界が王の帰還を喜んでいるということが書かれています!」

「そうなんですね。どうして王の帰還を喜んでいるんですか?」

「主様が王だからですよ!」

「……? 違います。私は理想郷アルカディアの王ではありません」


 そう言ってみると、アヴィさんはなぜか少し黙ってしまいます。ただ、その沈黙のあとに、「そうですね! 主様は主様であって、『王』ではありません!」と答えてくれました。

 そんなアヴィさんに頷きながら導かれるままに歩いていると、突然前方に人影が現れます。その方は、ただ礼儀正しく頭を下げてくるのです。


「――姫様、お待ちしておりました」

「……え、……ロッドさん……。どうしてここに……いえ、どうやってここに入ったんですか?」

「それはこの地に踏み入ることを、神代教開祖が許されたからです。それを私たちは引き継いでおります」

「……そうだったんですね」


 私がそう言ってロッドさんのことを見つめていると、ロッドさんはもう一つの質問にも勝手に答えてくれました。


「私がここで姫様をお待ちしていたのは、姫様を王の元まで護衛するためです。この地には無数の危険がありますので、身命をしてでも必ずお守りさせていただきます」

「主様、こいつは必要ありませんよ! 我が滅ぼしましょうか?」

「……んと、そんなことしたらダメです」

「……はあ、我は悲しいです! でも主様には従います!」


 そう言うアヴィさんを撫でてあげると、私はもう一つ質問してみるのです。


「ロッドさん? ずっとここで私のことを待っていたんですか?」

「はい、姫様が学院を退学したのち、ここに来るのをお待ちしておりました。姫様がここに来ることは、『運命』として定まっていると私は存じておりました」

「そうですか……」


 ……えぇと、……もう五ヶ月もここで待っていたということですよね。……別にロッドさんに守ってもらう必要はありませんけど、……特にロッドさんが死んでしまうようなことも並行魔法の性質上そうそうないので、付いてきてもらう分には問題ありませんね。……せっかく頑張って待っててくれたのです。このままかえしてしまうのは可愛そうです……。


「分かりました、ロッドさん。付いてきてください」

「そのようなお言葉を頂戴し、大変光栄に存じます。引き続き姫様をお守りさせていただきます」


 ロッドさんはそんなことを言っているのですけど、とりあえず私はお会いした時に言おうと思っていたことを口にするのです。


「……ロッドさん、今まで守ってくれてありがとうございます。……これからはきっと短い時間になりますけど、また護衛をお願いします」

「姫様、私は必ず役目を果たします――」


 そう言うロッドさんは、いつになく強い決意を固めている様子です。アヴィさんはムキーッとしているのですけど、私は「アヴィさん、可愛いです」と言ってギュッとしてあげるのです。

 そしてニコニコなアヴィさんに戻ってくれたあとに、遺跡群を進んでいくことにしました。


「あの、アヴィさんはここに詳しいんですよね?」

「はい! 全てを知っています!」

「そうですか。なら王のところまで案内してください」

「あ、それは嫌です! 我は主様との時間を楽しみます!」

「……分かりました。……ロッドさんはどうですか?」

「私は不必要な事故を避けるため、深部や建物の中には入っておりません。なので姫様のお役に立つ情報は持ち合わせていない所存です」

「そうですか」

「まったくロッドは使えませんね! ゴミ以下です!」

「アヴィさん? ロッドさんも頑張ってくれているんです。そんなことを言ったらダメです」

「そんなぁ……。我はこんなにいい子なのに……」


 そう言ってしゅんとしてしまうアヴィさんのことをたくさん撫でていると、アヴィさんもまた元気な感じに戻ってくれます。

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