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98話 その9

 そうして可愛いアヴィさんで癒されたあと、私は師匠からもらった本を手に持ってみました。……でも、開こうとしても開けません。

 ……むう、まだ師匠の言っている『時』ではないんですね? それはいつなのでしょうか……?

 そんなことを考えてしまうのですけど、開けないものはどうしようもないのです。

 そういうわけなので、私はまた本を置きつつアヴィさんに質問してみます。


「あの、アヴィさん。私はもう運命の理も扱えるようになりました。それでも、運命を変えたりするのはダメなんですよね?」

「――もちもちです!! 最高です!!」


 全然お話を聞いていなさそうなアヴィさんですけど、いい子で寝ているオルさんから顔を離すと答えてくれます。


「レンのように特殊な場合を除けば、基本は運命を変えると死にますからね! 主様には我が付いているので、この条件ならそれで死なせることはありませんが、それでも無駄な戦闘は避けるべきです! それに主様はまだ王の支配を受けているので、運命を変えるのは禁物です!」

「……そうですね」


 考えてみれば当たり前なのですけど、なんとなく聞いてしまいました。

 ……私が下手に運命を変えてしまったら、きっと王の定めから外れてしまい、不明の死を迎えるはずです。……それではダメなので、しっかりと運命に従いながら、王にお会いした時に……その時に、運命をひらきます。

 そう頷く私は、アヴィさんと一緒に寝ている四人のことを撫でてから、しっかり服を着てみました。


「主様、もう行くんですか?」

「はい、ホントはずっとこうしていたいのですけど、それはできません。……王の元に行きます」

「……分かりました! レンが来るのを何日でも待つべきだと思いますが、まあ主様が動かないとレンも止められている可能性がありますからね! ……仕方ありません、行きましょう!」

「……?」


 なんだか不思議なことを言っているのですけど、アヴィさんも一瞬で服を着てから私の手を握ってきます。


「まずはどこに行きますか!?」

「……んと、そうですね。……まずは、ゆっくりと飛んでいこうと思います」

「ならそうしましょう!」


 そう言うアヴィさんに頷くと、私たちは空間収納魔法から出てみました。そしてアヴィさんの空間を抜けてマキア国の草原に出ると、ふわっと空中に浮かんで南に進んでいきます。

 私たちが目指す場所は広大なマキア国の中でも南端に位置する場所で、魔素危険領域の深部に位置します。訓練を受けている熟練の魔法使いでも、立ち入るだけで死んでしまうような危険な場所です。


「……主様ぁ、我のことを撫でてください!」

「いいですよ。撫でてあげます」


 そう言ってみると、アヴィさんが私の体に巻き付いてニコニコしてきます。


「アヴィさん、可愛いですね」

「はい! 我は主様の好みになってます!!」

「そうなんですか?」

「そうですよ! それも全て主様がしてくれました!! 感情のない我に、ふわふわしたまま優しく教えてくれたんです!!」


 ……? ふわふわですか?

 そんなことを考えていると、アヴィさんは「なんですかこのポンコツな子は!」とひどいことを言いつつも、すぐに「――キスをしましょう!」と言って私の口に唇を当ててきました。

 ……もう、アヴィさん……。もう少しゆっくりやってください。

 たくさん激しくキスをしてくるので、私も少し困ってしまいながらもアヴィさんのことをまったり撫でてあげるのでした。







 それから数時間飛行を続けた私たちは、途中で速度を上げていき、前方に大きな街を見つけました。


「……今もこうして、残っているんですね」


 もう三千年の年月が経っているので、ぼろぼろではありますけど、街全体が形を保って残っています。


「そうですね! 戦争が終わり魔素濃度の問題で北上するまでは、国民もまだここで暮らしていましたからね!」

「……えと、アヴィさんは三千年の間なにをしていたんですか?」

「毎日ずっと主様のことを考えていました!」

「……そうじゃないです。どこにいたんですか?」

「基本は城の主様の部屋にいましたよ! なので、今も綺麗に保たれてます!」

「……そうなんですか」


 なんだかすごいです。

 私がそう思いつつじっと見つめていると、アヴィさんは私の手を握って遠くに見えるお城の方に近付いていきます。そして街を見るのも程々に、私たちはお城に到着するとその中に入ってみました。


「……アヴィさん、ぼろぼろです」

「えー! 我は主様がよく立ち入るところしか綺麗にしてません!」

「そうですか。なら仕方ありませんね」

「はい! 仕方ないです!」


 そう言うアヴィさんに頷きつつ、私はなんとなく玉座の間に進んでいきます。なぜかアヴィさんが嬉しそうに微笑んでくれていたので、私もなんとなく微笑んでみました。

 そして、玉座の間に通じる扉を開けると、綺麗に保たれた室内を進んでいくのです。


「主様、見てください! 主様が死んでしまった場所です!」

「……ホントですね」

「……はあ、我は嬉しくて悲しいです……。あの時を思い出すと悲しくなりますが、今こうして生きている主様が隣にいると思うと、嬉しさで胸が張り裂けそうです……!!」

「そうなんですか。張り裂けたらダメです」

「主様ぁ……」


 なんだか少しだけ「……むぐぐ」となってしまうアヴィさんを撫でつつ、私は玉座……『座』の元まで近付いてみました。

 白き空間の中にあったこの部屋は、私の記憶に眠っていた光景だったのかもしれませんし、王が私を導くために作り出した似た空間だったのかもしれません。その真相は分かりませんけど、大したことではないので気にしないことにします。


「主様! ここに座ってください!」

「分かりました」


 アヴィさんの言われるがままに私は玉座に座ると、嬉しそうなアヴィさんはさらに言ってきます。


「主様! 『私が魔王です』って言ってみてください!」

「どうしてですか?」

「可愛いからです!」

「そうですか……」


 そう言って見つめていると、アヴィさんはどこからか王冠を取り出して私の頭に乗っけてきました。


「さあどうぞ! 我が見ててあげます!」


 ……むう、仕方ありませんね。……やってあげましょう。


「アヴィさん、私が魔王です」

「――えへへー!! 可愛すぎます!!」


 よく分かりませんけど、たくさん喜んでくれているので良かったです。


「アヴィさん、来てください」


 私は王冠をアヴィさんに返してそう言うと、早速自分の部屋に向かってみました。

 そこに続くまでの廊下も私の記憶にあるままなのですけど、部屋の中までしっかり手入れが行き届いています。


「……すごいです。布団もふかふかです」

「主様の大好きな布団ですからね! 我のことを褒めてください!」

「はい、アヴィさんはとってもいい子です」

「やったぁ! 主様は最高です!!」


 そんな風に言ってくれるアヴィさんと一緒にベッドに座ると、私はとってももふもふな布団を掴みながら考えてしまいます。

 ……うぅ、ホントはオルさんたちにも見せてあげたいです。……でも、今はぐっすり寝ているので起こさないでおきましょう。

 そう思った私は、アヴィさんにお話してみるのです。


「あの、アヴィさん? オルさんたちが起きるまでここにいましょう」

「分かりました! 主様も布団に包まりたいんですね!?」


 そう言うアヴィさんに頷くと、私は靴を脱いでベッドに横になってみました。優しいアヴィさんもムギュっとしてくるので、私は少し微笑みます。


「主様? 懐かしいですね。こうしてここで一緒に寝るのは久しぶりです」

「……ふふっ、私は昨日のことのように感じてます」

「そうですね! 主様にとっては実際に昨日のことなんです!」

「はい、そうです」

「なんですかその反応は! こうしてあげます!!」

「……ダメです。そんなにギュッとしたら潰れてしまいます」

「あ、潰れません! 我は主様のことが大好きなので大丈夫です!」


 たくさんギュッとしてくるアヴィさんなので私は少し困ってしまいつつも、なんとなく眠くなりながらまったりアヴィさんのことを抱き締め返すのでした。

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