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98話 その8

 ……っ、……これは……。そんな……。

 気付いた時には、自然と涙が溢れていました。


「……今のは、オリヴィエさんの……いえ、――私の、……記憶です……。私の前世の、記憶です……」


 どうしようもないほどたくさんの感情が湧いてくるので、私は回らなくなった思考もそのままに、その場でただ泣き続けました。

 そして、涙が枯れそうなほど泣いた私は、何度もそれを拭って目を開けます。

 ……うぅ、……レンさん。……私のことを、……守ってくれたんですね。……なにかの原因でレンさんも記憶を失っていたみたいですけど、それでも約束を果たしてくれました。……私の死ぬ運命を、変えてくれました……。救ってくれたんです。……大好きです。

 そうたくさん思うと、私はアヴィさんにも感謝を告げます。

 ……アヴィさん、また私のところに来てくれてありがとうございます。……こんなにこんなにいい子で、また私の傍に来てくれたんです。……アヴィさんはずっとずっと、私の大切な家族です。

 そんなことを強く思ったあとは、自然と師匠のことを考えていました。

 ……師匠、……オリビアさん。……あなたは、オリヴィエさんではなかったんですね。……師匠は昔から、私の師匠だったんです。……ホントに、今なら分かります。優しい師匠が私のためにたくさん頑張ってくれたこと、……私が全ての魔族の業を引き受けられなかったから、お母さんやレティシアさんのように、苦しい思いをした方がいたこと……。私はまた、失敗したんですね……。運命を変えられず、師匠の願いを果たすことも……できませんでした。


「――それでも、私は想いを授かりました。過去の私から、『運命』の力を授かりました」


 なにもかもが、理として実感できます。


「……私はあそこに行かないといけません。全てを断ち切るために――」


 そう頷く私は、いつの間にか座っていた座から立ち上がり、虚空に手を向けました。

 ――瞬間、白き空間は裂け、その全てが消滅します。


「……ぅ……?」

「――主様! お目覚めですね!!」


 そんな声と共に、ニコニコなアヴィさんが映りました。


「……アヴィさん……」

「なんですか? 主様!」


 元気にそう言うアヴィさんに、私は優しく抱き締められていました。ふわふわな感じで撫でてくれていて、とっても嬉しいのですけど……、そんなことは……今はいいのです。


「……わたし、……おもい……出したんです。……全てを……きおくを……」

「……そうですね。我も愛する主様が業の影響で記憶を失っていたので、会った時には流石主様です! と思いましたよ?」

「……? そうにゃんれすか……?」

「――はい、そうにゃんれす! えへへー!! 我と主様はいつまでも結ばれてるんです!! 心の奥で、ずっとずっと!!」


 そう言うアヴィさんになんとか一度頷くと、私は体を起こしてアヴィさんのことを抱き締めます。


「……アヴィさん。……また、私の傍に来てくれて、……ありがとう……ございます。……私はとっても幸せです」

「……主様ぁ、我も幸せいっぱいですよ……!! 愛してます!!」

「……ふふっ、……私もです」


 とっても嬉しくてつい微笑んでしまうのですけど、私は優しいアヴィさんを見つめながら、大切なお話をするのです。


「……あのですね? アヴィさん、聞いてください」

「もちろんです! 主様の大切なお話を聞きますね!」

「……いい子です。……えと、私は現状、業の影響で『神理じんり』をしっかりと使えません。……なので、王の元に行き、力を完全に使えるようにする必要があります」


 ……そうしないと、師匠の願いを、過去の私が果たせなかった願いを、叶えることはできません。家族を、魔族の王家を、神理から解放しないといけないんです。


「……主様? 我は主様の選んだ道を一緒に進みます。それがどんな危険をはらんでいても、我は主様と一緒です」


 そう言ってくれるアヴィさんのことをたくさん撫でると、私は一緒に立ち上がりました。

 そしてすやすや寝ているオルさんたちの隣に、腰を下ろします。

 ……ふふっ、可愛いですね。……気持ち良さそうです。


「……アヴィさん? ……この子たちがこうして本当に生きているのは、神理の影響なんですね……」

「そうですよ! 主様はすごい子です!」

「……その、私、ロッドさんのことも分かりました。並行魔法という魔法を八千年前の勇者から引き継ぎ、『古代文明』……神話時代の理想郷を導こうとしている方です」

「わーい! 主様はもう知識だけはつよつよ主様ですね!」

「はい、そうです。……でも、分からないこともあります」

「なんですか!? 我が答えてあげますよ!」

「そうですか。……なら、過去の私は死んでしまいましたけど、レンさんは生きていますよね? でも、どうして記憶を失っているんですか?」

「……むぐぐ。我もその詳細な原因までは分かっていません! ただ、今いるレンと三千前のレンは同じであって、ある意味別人です! 主様が三千年の月日を掛けて転生したように、レンも主様との約束を果たしてから同じように転生したんです!」

「……そうだったんですね。……ふふっ、ならそのお話は、またレンさんから聞いてみます」

「はい! そうしてください!」


 そう言ういい子なアヴィさんのことを撫でつつ、私はさらに質問をしてみます。


「アヴィさん? 私、過去の全ての記憶を取り戻して、とっても多くのことが分かりました。それでも、……『神徒』の方のことはまったく出てきていないんです。オリヴィエとしての記憶の中にも、なに一つ手掛かりがありません」

「……そうですね! 我もそこまであれらのことは知りませんが、本来『神徒』は主様が関わるべき存在ではないんです! これだけ可愛い主様のことを、ただこの世界に存在する生命の一つとしか見ていません!」

「……? そうですよ?」

「あ、違います! 我も主様も普通の存在ではありません! ですがそう言う意味ではなく、枠組みとしてどこにでも存在する人間と同じく、平凡な存在という認識でしかないんです! つまり、興味があるように見えて、その実まったくありません! ……まあ、天才な我の考えはこうですが、これに関しては外れている可能性もありますからね! とにかくあれらは不確定な要素が大きいので、できることなら対処すべき人物にその役目を任せて、主様は安全な道を進みましょう!」

「……? そうしたいです」


 過去の私は師匠から多くのことを教わり、ほとんど全てのことを知っている気がしていました。『世界の真理』が『神理』であることや、声の主……『古代文明の王』との繋がりなど……今まで私が疑問だったことは、ほとんど知っていました。……それでも、この世界にはまだ分からないことが多いのです。きっとその中には、私が知る必要のないことも数多く存在するのだと思いますけど……、それでも知らないといけないような大事なことも眠っている気がします。……ただ、そういったことよりも、ずっと大切なことがあるのです。


「……アヴィさん?」

「なんですか!?」

「……アヴィさんは、魔剣で私に『神理』の加護を与えてくれましたよね? どんな加護なんですか?」

「……ぐむむ、それは秘密です! 我の主様への想いです! きっといつか分かりますよ!」

「……そうですか?」

「はい! 我は主様が大好きなんです!!」

「……んと、私も大好きですけど……、秘密は嫌です」

「そんなぁ……我は悲しいです! でも、これだけは秘密にしておきますね!」

「……分かりました。……なにがあっても、死なないでくださいね?」

「――えへへ!! 主様の愛がたくさん詰まってます!!」


 そんなことを言ってたくさんムギュっとしてくるので、私は少し肩を落としながらアヴィさんのことをむにむにしたりして遊んでみるのでした。

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