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98話 その7

 ――混暦(こんれき)一年、十月三十日。


「――オリヴィエ……」

「レンさん、来てくれてありがとうございます。……どうですか? お話は進んでいますか?」

「……ああ、もう大方の話は済んでる。そう遠くないうちに、戦争も終わらせられるはずだ」

「……ふふっ、良かったです。レンさんは流石ですね」

「オリヴィエ、そんなことはいいんだ。……王のことも、運命のことも全て聞いた。……でも、俺はオリヴィエが――」

「――いい加減にしろ、レン!! お前如きが、主様の想いを踏みにじるな……!!」


 そう強く言うオルタヴィアさんは、一瞬でレンさんを掴み顔を強く叩きました。


「……我やお前に、全てを解決できるほどの力があれば……こうはなっていない。……主様も、それを分かって言っているのだ。……主様は、……誰にも……」


 そう言い涙を流すオルタヴィアさんが、またレンさんに手を振り上げようとしました。私はそれを優しく止めると、首を横に振っておきます。


「……オルタヴィアさん、私のことは気にしないでください。……生まれた時から、こうなる運命でした。もう決意は揺るぎません。……だから、私のことで……悲しまないでください……」


 それ以上の言葉が出てこないのですけど、オルタヴィアさんも静かに手を下ろします。


「……主様ぁ、……われは……あるじさまがいれば……それで……」

「……今日は、……これで終わりです。……レンさん、……私の誕生日に、……お城に来てください。……待ってますから」


 そう言い残し、私たちはこの場を離れました。

 レンさんに辛い思いをさせてしまうのは嫌ですけど、それでも……ホントはこのままずっと一緒にいたら、強く決めていた想いが、揺らいでしまう気がしたのです。……師匠との約束を、私は果たさないといけません。……師匠のことを、家族のことを、救わないといけません――。







 ――混暦(こんれき)一年、十一月十一日。


 ――長く、永く続いた戦争も今日で終わりを迎えます。私たち魔族の苦しみも、呪いも、今日で断ち切ることができるんです。


 夕方、黄昏が沈む頃、私は大切な家族に最後の別れを告げました。


「お父さん、お母さん、リネアさん。私はとっても幸せでした。皆さんの家族でいられたことが私の誇りです」

「……オリヴィエ、僕たちの元に生まれてきてくれて……ありがとう。愛しているよ……うぅ……」

「……あなたの想いは、きっといつまでも、私たちの中で生き続けるわ。……愛してる。ずっとずっと……」

「……お姉ちゃん、……大好き。……私の愛は、輪廻の果てまでずっとだから。……お姉ちゃんの作ってくれた優しい世界を、たくさんたくさん見て回るね。幸せいっぱいになるね」


 そう言ってくれる優しい三人と抱き合っていると、程なくしてオルタヴィアさんが私に言いました。


「……主様、勇者が……レンが到着しましたよ」

「……そうですね」


 ……もちろん、分かっていました。あの方の気配を読み違えるはずありません……。

 お母さんとリネアさんがお父さんを連れて玉座の間を出ていくと、私は残ったオルタヴィアさんと最後にお話します。


「……オルタヴィアさん? あなたには最後の時まで傍にいてもらいたいです」

「……はい、主様。我はいつまでも主様の傍にいます」

「……いつまでもですか?」

「……そうですよ! 我は主様と運命で結ばれた、大切な大切な家族ですからね!! いえ、家族以上に特別な存在です!! 永遠の姉妹です!!」

「……ふふっ、そうかもしれませんね」


 ……オルタヴィアさん、大好きです。……私たちはきっと、この先も一緒に……また出会えるはずです。……大好きです。

 そう思いながら、私はオルタヴィアさんのことをたくさん抱き締めました。


「……主様ぁ……」

「……オルタヴィアさんはいい子です。……こんなにもちもちしてるんです。偉いです」

「……主様の方がずっともちもちです! もちもち主様です……!!」


 そう言うオルタヴィアさんは、そのあと少し黙ってから、耳元でささやきました。


「……主様、我はどんな時でも主様の味方ですからね。……誰よりも、何よりも愛してます……」


 そう言ってくれると、すぐに体を離して扉の方を見つめました。私も気配を感じ取り、静かにそちらに向けて、歩き出します。

 そして数秒、大きな扉が開き、レンさんが姿を現しました。表情は真剣で真っ直ぐに私のことを見てくれているのですけど、どこか悲しげです。


「……レンさん、私は魔族を守りたいです」

「オリヴィエ、お前が全てを背負う必要はないんだ……! 代わりは俺がする! だから――」

「レンさん、あなたは初めてあった時と変わりませんね。いつでも優しく、私のことを大切にしてくれました。……でも、私は逃げません。この戦争を、王の定めた運命を終わらせます」

「オリヴィエ……。どうして、お前は……」

「……私は、そうするために生まれてきたんです。魔族の業は、全て私が受け止めます」

「――ダメだ! そんなものを一人で――」


 私は優しいレンさんの言葉を遮り、お話を始めました。ただレンさんに、想いを伝えるために……。


「……この先、二千年後か三千年後に、私はきっと全ての業を背負って転生するでしょう。……だから、私のことを想ってくれるのなら……その時は、今度こそ、……私を救ってください」

「――そうか……。もう決めたんだな……」

「そうです。……ふふっ、レンさん。――大好きです」

「俺もだ、オリヴィエ。……いつまでも、愛してる――」


 そう言うレンさんは、私のことを優しく穏やかに抱き締めて、キスをしてくれました。

 レンさんが辛い気持ちを押し殺して、私のためを想ってくれたのは分かります。

 私は優しく幸せな一時ひとときを楽しんで、口を離すとお礼を言いました。


「ありがとうございます、私はあなたに出会えて幸せでした」


 そう言い、私は微笑みます。レンさんは涙を流すのですけど、私は神理の力を使いました。

 今度は失敗しません。そのために、またたくさんの力を貯めてきたんです。


『……祖は器の業を満たし(アスティアス)()神理の解放(アスタリア)()世界に永劫の(ティルハ)奇跡を命ず(ドール)――』


 全ての魔族の方から神理を解き放った瞬間、私の真核に無数の業が流れてきました。……それを受け止めるだけで、私はもう命が尽きてしまいそうです。……でも、残り僅かな最後の寿命を使い、未来に想いを託します……。


「……いつか生まれる、未来の私に授けます。――運命デスト。この力はきっと、貴女を導いてくれるはずです……。全ての業の原因を、断ち切ってください……」

「……オリヴィエ。――必ず、必ずお前を救ってみせる」

「――はい、信じてます。……さようなら。……またいつか、お会いしましょうね……、レンさん……」

「――ああ、いつかまた……」


 そう口にするレンさんは、全てを悟って魔剣を出してくれます。そしてそれを、ただ優しく私の胸に刺してくれました。

 ……ぅ、……そう……ですね……。いつか……一緒に見ましょうね……。今度は、……戦争のない、世界で――。

 薄れていく意識の中で、私はレンさんと一緒に、美しい夜空を見ている光景を夢見ました。


「……れん……さん……」


 ――愛してます……。

 そう想いを伝え、レンさんの優しさに包まれながら、私は最後の眠りにつきました。

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