98話 その5
――混暦一年、七月十四日。
「主様? ホントに一人で行くんですか?」
「はい、このお話は私一人でしないといけません。オルタヴィアさんはいい子で待っていてくださいね」
「……はあ、仕方ありませんね! 帰ってきたら我のことをたくさん撫でてください!」
「分かりました。お花をたくさん乗せてお花オルタヴィアさんにしてあげます」
「えへへ! 最高です!!」
「そうなんですか?」
「はい! そうですよ!」
「良かったですね」
そう言う私のことを見て、オルタヴィアさんは少し笑顔でまったりしてから、突然真剣な表情になります。
「――いいですか、主様。あの勇者は今の主様すら凌駕する力を秘めています。主様はポンコツな子なのでお話するだけと思っているのでしょうけど、そう簡単にはいきませんよ。少なくとも、我が滅ぼしてきた過去の勇者は皆そうでした」
「……そうですね。……それでも、私は会いに行ってきます。この戦争を終わらせるためにも、お話しないといけません」
「……まったく主様は! 少しは自分のことも考えてください! でも我は、そんな主様のことも大好きです!! 頑張ってくださいね! 我はいつでも応援してます!!」
「はい、ありがとうございます。頑張ってきますね」
そう言い、私はオルタヴィアさんの頭を撫でてみました。そしてお別れをして転移の理でお城を出ると、国を抜けて『帝国』に向かうのです。
移動自体は一瞬で済むのですけど、『帝国』の上空から見ているだけでは勇者を見つけることができません。
……力を使ってしまったら警戒されてしまいますよね。……でも、そうしないと居場所が分かりませんし、……いえ、そうじゃないですね。私はこれから勇者に会いに行くのです。大事になるのは避けるべきですけど、ずっと隠れるわけにもいかないのです。
そう考えた私は、その場で力を使いました。
『――神理』
瞬時に勇者の居場所が分かるのですけど、同様に私の居場所も気付かれたみたいです。
……師匠やオルタヴィアさんのお話にあったように、私では到底敵わないような方なのかもしれませんね。……でも、それでも行かないといけません――。
強い想いを胸に秘め、私はまた移動をしました。
――その瞬間、視界に一人の男性が映ります。その方は特に驚く様子もなくこちらを向き、平然と声を掛けてきました。
「白髪でこの力……、お前が『魔王』なのか?」
「……そうですね。そんな風に呼ばれています」
「……それなら尚更、こんなところに一人で来ていいのか? 人類はお前のことを殺そうとしているんだぞ?」
「それも心得ています。……それでも今日は、命を懸けて来る必要があると思いました」
「……そうか。……俺が勇者であることも、分かってるんだよな?」
「もちろんです。勇者の貴方とお話をしに来ました」
そう言う私のことを男性は静かに見つめ、少し間を空けてから「……分かった」と頷いてくれます。
「ここは人が来るから、別の場所で話そう。俺の用意した空間でいいか?」
「はい、大丈夫です」
「……なら来てくれ」
そう言って男性が上空に空間を作ったので、私もその中に転移してみました。
中はなにもない空間なのですけど、結界の役割をしていて外部からはなにも分からないようになっています。
「俺はレンだ。お前は?」
「私はオリヴィエです。オリヴィエ=ロイヤルオード・アルカディアという名前があります」
「そうなんだな。……なんと言うか、俺が聞いていた印象とだいぶ違うな」
「……私がですか?」
「ああ。俺の聞いていた話だと、『魔王』は殺戮を好み、世界から俺たち人類を滅ぼそうとしている……ということだった」
「……そうなんですね。……あの、お話の前に一つ質問してもいいですか?」
「……どんな質問だ?」
「えと、あなたがどうして私とお話をしてくれる気になったのか知りたいです。人類の敵だと思っている私のことを、どうして殺そうとしなかったんですか?」
「……いや、俺もお前が話に聞いていた通りの『魔王』ならその場で滅ぼしていた。でも、お前からはそう言ったものは感じない。だから話そうと思ったんだ」
「……そうですか」
そう言い、私は男性のことを見つめました。男性も私のことを静かに見つめてきます。お互いに相手の本当の性格を知らない中で、殺し合いをせずにこうしたお話の場に辿り着けたことは奇跡です。
「……では、お話を始めますね。……私があなたに会いに来た理由を。……それは、この戦争を終わらせたいからです――」
そう言い、私は男性に自分の想いを伝え始めるのでした。
〇
それから一ヶ月が経ちました。既に『最強の勇者』とは二度お話することができて、今日でそれも三回目となるのです。
「オルタヴィアさん、行ってきますね」
「はい! 楽しんできてください!」
「……? 大切なお話をするんです。……でも、今度オルタヴィアさんのことも紹介してあげますね」
「えー! 我は主様のものなんですよ!」
「……?」
よく分からないことを言うオルタヴィアさんに首を傾げつつ、私は転移の力で待ち合わせの場所に移動しました。ただ、到着すると既に男性が私のことを待ってくれていたので、私もしっかり言っておきます。
「あの、ごめんなさい。少し遅くなってしまいました」
「いや、そんなことないぞ。俺が早く来ただけだからな」
「そうですか?」
「ああ」
「ふふっ、いつも優しいですね」
「……そう言ってくれるのはお前くらいだ」
「そんなことありません。言わないだけでみんながそう思ってます」
そう言う私のことを見つめてくると、少し考えてから口を開きました。
「あのな、こうして会うようになって俺も考えたんだけど、お前のことをオリヴィエって呼んでもいいか?」
「……? いいですよ。……それなら、私もあなたのことをレンさんと呼びますね」
「ああ、そうしてくれ」
そう言うこの方……レンさんに私は少し微笑むと、両手でレンさんの手をギュッと握ってみました。
「……レンさん、あなたが勇者で良かったです。他の誰でもなく、あなたで――」
「……俺も気持ちは同じだ、オリヴィエ。お前が魔族の王で良かった」
そう言いレンさんは、私に優しく微笑んでくれます。
「私たちで、この戦争を終わらせましょうね」
「……ああ、必ず――」
そうお話した私たちは、また短い時間ではありますけど、戦争終結に向けての話し合いを始めるのでした。




