98話 その3
――次の日。
「オルタヴィアさん、美味しいプリンをもらってきました。一緒に食べましょう」
「主様の命令なら食べます」
「えと、違います。そうじゃなくて、一緒に食べたいんです。こっちに来てください」
「分かりました」
そう言って近付いてきてくれるのですけど、まったく食べる素振りを見せません。なので、私はスプーンでプリンを掬うと、それをオルタヴィアさんの口に入れてみました。
「どうですか? 美味しいですか?」
「分かりません」
「……そうですか」
少し悲しくなりながら私もプリンを食べてみたのですけど、オルタヴィアさんの感想と違ってとっても美味しいのです。
「オルタヴィアさん? このプリンはとっても美味しいです。もう一度食べてみてください」
「分かりました」
そう言ってみると、今度はオルタヴィアさんも自分でスプーンを作って食べてくれます。ただ、思ったよりもスプーンが大きく、かなりたくさんの量を一回で掬って食べてしまうのです。
……うぅ、……こんなに少なくなってしまいました。
そう思い肩を落としつつも、私はオルタヴィアさんにもう一度聞いてみます。
「あの、美味しいですか?」
「分かりません」
……むう、……それならそんなに食べたらダメです。美味しいプリンなんですから……。
そんな感じで悲しみつつ、私は残ったプリンを食べていきました。
〇
――三日後。
「オルタヴィアさん? 今から師匠の元に行きます。一緒にきてください」
「分かりました」
そう言ってくれるので、私は師匠のいる場所を調べてオルタヴィアさんと一緒に転移してみました。どうやら、ここは海に囲まれた無人島みたいです。ただ、見覚えがあります。
「師匠? 私、師匠との修行で昔ここに来たことがあります」
「よく覚えているね、正解だよ」
「ふふっ、師匠との思い出を忘れるはずありません」
そう言って微笑むと、師匠も微笑んでくれました。私はそんな師匠の元に近付くと、早速お話を始めます。
「あのですね? 昨日、オルタヴィアさんと一緒にお庭を見て回っていた時に、綺麗なお花を見つけたんです。優しい黄色のつぼみでふわふわな感じだったので、もう少しで綺麗に咲くと思います。今度師匠も見てください」
「分かった。そうしよう」
「えと、できればお茶をできるお菓子も持ってきて欲しいです」
「……ふふっ、仕方のない弟子だ」
そう言いつつも、師匠は私の頭を撫でてくれるのです。私もそんな優しい師匠のことを見つめてから、少しオルタヴィアさんに質問してみました。
「オルタヴィアさん? そういえばですけど、師匠とはいつ出会ったんですか?」
「我がとある勇者を滅ぼした時に出会いました」
「……んと、……そうですか」
……うぅ、なんだか変な質問をしてしまいました。……でも、お二人はもう解決しているみたいですし、私がなにか言うのはやめておきましょう……。
そう思ってお話を変えようとしたら、師匠がその続きを話し始めてしまいます。
「オリヴィエ、あれはお前が思っているようなことではないよ。無謀にも魔族の王を殺そうとした勇者が、それを守るオルタヴィアに滅ぼされただけだ」
「……? それなら師匠はどうしてそこに向かったんですか?」
「それは秘密だよ、オリヴィエ」
「そうですか。私知りたかったです」
そう言って師匠のことを見てみるのですけど、師匠は微笑んでくるだけで答えてはくれません。なので、私も諦めて別のお話をすることにしました。
「オルタヴィアさん? 師匠は優しい方なので、なにか困ったことがあったら頼ってくださいね。私よりもたくさんのことを知ってます」
「我は主様をお守りするだけです。他の者は必要ありません」
……もう、そんなことありませんよ? 師匠はとっても優しいんです。
そんなことを思って少しムッとしてしまいつつも、私は無表情なオルタヴィアさんのことを撫でてあげることにしました。
〇
――二週間後。
「ごめんなさい。今日は忙しくて大変でした」
「……主様はなにを謝っているんですか?」
「えと、オルタヴィアさんと全然お話できませんでした」
「我のことは気にしないでください。我は主様をお守りするために存在しています」
「……あの、それは王の定めた運命であって、もうオルタヴィアさんはそれに従う必要はないんです。なので私のことなんか気にしなくて大丈夫です」
「いえ、主様。これは王の意志とは関係なく、我が選んだことです」
「そうなんですか?」
「はい」
「……そうですか」
なんだかまだずっと悲しいことをさせてしまっているので、私はオルタヴィアさんの手を引いてベッドに座ると、優しく頭を撫でながらお話してみます。
「……オルタヴィアさん? どんな些細なことでもいいので、なんでも私にお話してくださいね。私はオルタヴィアさんとたくさんお話したいです。もっとオルタヴィアさんのことを知りたいです」
「分かりました。我は主様の命令に従います」
「……そう、……ですよね。……ごめんなさい」
私の勝手な都合で解放して、私の勝手な考えで自由に過ごしてくださいと言われても、そう簡単にできるはずありません。
悲しい気持ちは胸の奥に留めて、私はオルタヴィアさんにふかふかな布団をギュッと押し付けてみました。
「どうですか? もふもふしてますよね」
「分かりません」
「……んと、もふもふです。気持ちいいです」
「……分かりました」
「……? いい子ですね」
そう言いながらたくさん撫でて褒めてあげると、私はオルタヴィアさんのことを抱き締めてから、しっかり布団のお話をしてみるのでした。




