96話 その2
「……レンさん? 私、頑張ってるんです。褒めてください」
「ユノ、偉いぞ。……でもあんまり無理しないようにな」
「はい、大丈夫です。アヴィさんもいます」
「そうだな」
そう言ってレンさんが私の頭を撫でてくれていると、いい子なオルさんと夜空さんが、ルアさんとメアさんと手を繋ぎながら収納魔法から出てきました。
「レンさんです」
「……撫でてもらう」
「……我もです」
そう言いながらレンさんのことをギュッとすると、優しいレンさんも三人のことを撫でてくれるのです。ただ、メアさんは初めてお会いするので、私もメアさんのことをしっかり紹介しておきます。
「レンさん、この子はメアさんです。ラピスさんにもらった魔剣です」
「そうか、ラピスが……。メア? 俺はレンだ。よろしくな」
「ますたー、れんに撫でてもらう」
「そうですね。レンさん、お願いします」
「ああ、メアもこっちに来てくれ」
そう言われてとてとて近付き、オルさんに抱き付きながら見上げるメアさんのことを、レンさんもとっても優しく撫でてくれました。四人も嬉しそうにレンさんの周りではしゃいでいるので、私はそんな子たちのことを撫でながらレンさんに聞いてみます。
「あの、レンさん? アヴィさんのお話では、レンさんが私のことを水浸しにするみたいです。……どうしてですか?」
「……あー、いや、どういうことだ……?」
「分かりません。アヴィさんに聞いても答えてもらえませんでした」
「……そうか」
レンさんもあまり分かっていない感じなのでアヴィさんのことを見つめてみるのですけど、アヴィさんは私たちのことを見て微笑むだけです。……まあ、いい子なので気にしないことにしましょう。
「えとですね? レンさんには、もう一つお話したいことがあるんです」
「そうなのか」
そう答えるレンさんですけど、私のことを見て少し真剣な表情になってくれます。私もそんなレンさんのことを見つつ、お話を始めてみました。
「実は、また色々とあって『神徒』のナブーさんを倒したり、『天域の勇者』アリアさんとお会いしたりしたんですけど、……そこで私は、たくさんのことを教えてもらいました。……五万年以上も前に存在した理想郷アルカディアのことや、白髪が魔族の王家を表すこと……、私の生まれた理由と本当の役目が、マキア国に眠っていることなどです」
レンさんは静かに私のお話を聞いてくれているので、私はそのまま言葉を続けてみます。
「……それで、その……、どうしてなのかは分かりませんけど、私はその平和な理想郷を、万物が平和な理想郷を導ける存在みたいなのです。……ある時から運命に導かれるような感覚があって、それに従うことできっと果たせるのだと思いますけど、レンさんはどう思いますか? ……やっぱり私は、その理想郷を導くべきですか?」
そう聞いてみると、レンさんはオルさんたちから手を離して、私のほっぺに優しく手を添えてきます。
「もしユノが恐れているんだったら、俺はそうするべきじゃないと思う。でも逆に、ユノが大丈夫だと思ったなら、その時は大丈夫な時だと思う。……俺はユノの全てを信じてる。だから、ユノも自分の感覚に従ってくれ。……ユノがどんな決断をしても、必ず守り抜くからな」
「……ふふっ、レンさん。ありがとうございます。またいつ決断の時が来るのか分かりませんけど、……いつでもレンさんの想いが私の中にあるので、きっともう大丈夫です。間違えません」
そう言ってみると、レンさんはなぜか名残惜しそうに私の頭を撫で始めました。私は少し首を傾げてみるのですけど、レンさんは優しい雰囲気のまま口を開きます。
「ユノ、……こうしてずっと一緒にいたいけど、まだ俺はユノを完全に守れるほど強くはないんだ。ユノの病気や体の崩壊のことも、神理の軸を消せるようになってからになるし、この先の運命や敵を考えると……、俺はもっと強くならないといけない。だからまた、ユノを待たせることになる」
「……そうですか」
「……ごめんな、ユノ。……でも、ユノの命が危うい時は、必ず助けに行く。だから待っててくれ」
「はい、……分かりました。……私、レンさんのことが大好きなので、待ってます」
そう言ってみると、レンさんは優しく私にキスをしてきてから、微笑んでくれました。
「――ユノ、愛してる」
「私もです、レンさん。愛してます」
「……ああ」
そう言い、レンさんは私から手を離します。そして最後に、アヴィさんに話し掛けるのです。
「アヴィ、ユノのことを頼んだ。……俺は全て思い出したからな」
「……ふんっ、そうか。……レン、お前はもう行け! 我との会話に使う時間を修行に当てろ!」
「分かった。ありがとな――」
そう言った瞬間、レンさんは私たちの前から消えてしまいました。私はレンさんのいた虚空を少し見つめると、じっと見つめてくるオルさんたちのことをたくさんギュッとしてみます。
……ふふっ、もちもちです。いい子です。
「主様!? 我も楽しみます!」
「はい、可愛い子たちです」
「そうですね! 我の天使たちです!!」
そんな感じで四人を可愛がりつつ、私はしばらくレンさんに会えたことの余韻に浸ってみるのでした。
〇
それから夜になって、お風呂に入っている時のことです。私はルアさんのことを抱き締めながら、アヴィさんに聞いてみました。……オルさんと夜空さんとメアさんは、すぐ近くでルアさんと一緒に遊んでます。
「……あの、アヴィさん? 私、レンさんに会えたことが嬉しくて、師匠とパンドラさんの言っていたことを聞き忘れていました。……アヴィさんと私が死んでしまうということでしたけど、レンさんが守ってくれるので大丈夫ですよね?」
「はい! レンが言ってるので大丈夫です! もしそれでも守れないようなら、パンドラ以上に終わってますね!」
そう言うアヴィさんのことをじっと見つめていると、アヴィさんはなんだかしゅんとしてしまいました。
「……お風呂ぽかぽか主様です。……我のお気に入りです……」
「……? アヴィさん、元気を出してください。そうしないと撫でてあげません」
「――!? 我は元気です!! 撫でてください!」
……ふう、元気になってくれて良かったです。
そう思って安心していると、アヴィさんがたくさんほっぺに顔を擦り付けてきていたので、私も「アヴィさん、ぽかぽかを味わってください」と言っておくのです。ただ、アヴィさんは「我は主様を味わいたいです! ぽかぽかは二の次です!」と言っていたので、よく分かりませんけど仕方なく頷いておくのでした。
そうして元気なアヴィさんとお話しながらお風呂を堪能したあとは、たくさん遊んでうとうとになってしまったオルさんたちと一緒にベッドに横になりました。
オルさんと夜空さんは手を繋いで布団に入るとそのまますぐに寝てしまい、ルアさんは頑張ってメアさんのことを布団の中に連れていくと、二人で仲良く寝てしまいました。
「アヴィさん、私たちも寝ましょう」
「そうですね! 我が撫でててあげますよ!」
「それは大丈夫です。おやすみなさい」
「まったく主様は! でも我はいい子なので諦めません! おやすみなさい!」
なんとなく違うことを言っていた気がしたのですけど、私は目を閉じると寝ることにしました。
……はあ、……もふもふですね。……偉いです。
そう思って布団を掴んでいると、アヴィさんにその手を外されてしまうのです。でも、私はかなり眠かったので、そのままなんとか首を横に振ったりしながら、眠りに落ちるのでした。




