96話 その1
いい感じに頑張ろうと思いつつも、まったく手掛かりのないまま三日が経ちました。私たちは特に当てもなく、闇雲に探索を続けているのです。
「マキア国のどこに行けばいいんでしょう……」
「どこでしょうね!」
師匠からなにか聞いていそうなアヴィさんも、なにも教えてくれないのです。
「アヴィさん? 師匠はなにか言っていましたか?」
「いえ、なにも言ってませんよ!」
「……んと、そうだったんですね」
どうやらアヴィさんも、なにも聞かされていないみたいです。
「アヴィさんが行ってみたいところはありますか?」
「我とのデートですか!? それなら眺めの美しい自然豊かな場所でも、食べ歩きを楽しめる商店街などでも、どこでも嬉しいです!!」
「そうですか。関係のなさそうなところはダメです」
「――!? 我は悲しいです! 主様とデートしたかったです!!」
アヴィさんがそう言って体に巻き付いてくるので、私は少しアヴィさんのほっぺをむにっとしながら微笑んでみます。
「ふふっ、今のは冗談です。アヴィさんの好きなところに行きましょうね。今日はもう大変なのでそうします」
「えへへー! ゆるゆる主様です!! 我は感動です!!」
そんなことを言って喜んでくれるので、私も一度アヴィさんのことを撫でてみるのです。そうしていると、お話を聞いていた可愛いオルさんたちが収納魔法から出てきてくれたので、みんなで一緒にピクニックをすることにしました。
〇
それから数日間、私たちはマキア国巡りを楽しみ、穏やかな時間を過ごしていました。自分の生まれた理由や本当の役目を知らないといけない反面、今を逃してしまったらもう一生こうして穏やかな時間を過ごせない気がするので、少しだけ葛藤があったりしたのですけど、可愛いオルさんたちや大切なアヴィさんの笑顔を見ていると、今を楽しんだ方がいいと思えたのです。
そして八日が経った、十一月一日のことです。もうだいぶ誕生日が近付いてきていたのですけど、今日もまったりと過ごしていました。
「主様? これ食べますか?」
「はい、食べてみます」
「それなら我が食べさせてあげますね!」
「お願いします」
そう言って口を開けると、アヴィさんがふわふわなパンケーキを口に入れてくれるのです。
……ふふっ、とっても美味しいですね。
そんなことを思いながらぼーっと丘の上で遠くに広がる雄大な景色を眺めていると、突然私たちの元に転移してきた方がいました。……その方は、私と目が合った瞬間、私のことを優しく抱き締めてくれます。
「……っ……れんさん……あいたかった……です」
「……ああ、俺もだ。ユノ……」
「……あの……れんさん? わたし……、もう……たんじょうびが……」
そう言って言葉を続けようとすると、レンさんは私の涙を拭ってくれながら、優しく私の口に指を添えてきます。
「ユノ、ずっと辛い思いをさせて悪かった。……未熟な俺のせいで、まだこれからも寂しい思いをさせることになると思う。……でも、これだけは約束する」
「……?」
「――ユノのことも、ユノの大切な人のことも、絶対に死なせない。絶対に悲しませない」
そう言ってくれるレンさんは、静かに私の口から指を離し、とっても優しく抱き締めてくれながら、キスをしてくれました。……とっても安心できて、心が幸せな気持ちで満たされていきます。
……レンさん、……愛してます。……レンさんは優しすぎます。……とってもとっても大好きです。
そう思っていると、レンさんはあっという間に口を離してしまいました。でも、私はレンさんに微笑んでみます。
「……レンさん? 私、レンさんがいつも私のことを大切に思ってくれていると分かっています。それだけで嬉しくて、満足なんです。レンさんと心が通じ合っているだけで、私には十分すぎるんです」
「……ユノ、俺も同じ気持ちだ。……待っててくれて、ありがとう」
そう言うレンさんは、優しく私の頭を撫でてくれるのです。そして穏やかに、再び私の体を包み込むように抱き締めてくれました。
「……ユノ、いいか。今からユノの『誕生日に死ぬ運命』を消し去る。……だから、少しだけ我慢してくれ」
そう言われたので、私は突然のことに少し驚きながらも一度頷いておきました。……すると、レンさんの体から、私の体に特異点の不思議な力が伝わってきます。そしてそれは、僅かな時の中で、私の中に眠る軸に干渉するのです。
「――?」
なにかよく分からないまま、突然特異点の力は消えてしまいます。
「ユノ、痛くなかったか?」
「……? 痛くありませんでした。……もう終わったんですか?」
「ああ、無事に『運命』を変えることはできた。もう心配しなくて大丈夫だぞ」
「……そうなんですね。……なんだか、一瞬でした」
「そうかもな」
そう言うレンさんは、私に優しく微笑んでくれます。私もそんなレンさんのことを見つめながら、ふとアヴィさんの言っていた言葉を思い出すのです。
「……あの、レンさん? 『運命』の理を使ってしまったら、死んでしまうんですよね? レンさんは大丈夫なんですか?」
「……ん? それはアヴィから聞いたのか?」
「えと、そうです。アヴィさんから聞きました」
「……そうか。……たしかにユノが使うと危険かもしれないな。……でも俺は大丈夫だ」
「そうですか。レンさんが大丈夫なら良かったです」
ひとまずそう納得した私ですけど、こうしてレンさんにギュッとしてもらえることが嬉しくて、つい微笑んでしまいます。そして自然と、レンさんのことをたくさんギュッとしてみるのです。
……ふふっ、レンさん……。私、とっても幸せです。……レンさんが来てくれて、とっても嬉しいです。
「……レンさん。キスしてください」
「……ああ。ユノ、目を瞑ってくれ」
「……分かりました」
そう言って目を閉じてみると、レンさんの唇が私の唇に当たりました。それからレンさんは優しく唇を重ね合わせて、お互いを感じるようにゆっくりと口を動かします。私もそんな時間が続くと、次第にもっとレンさんを感じたくなり、舌をレンさんの口に触れさせます。その瞬間、レンさんはさらにギュッと私のことを抱き締めて、舌を私の口の中に入れて絡めてきました。
……うぅ……。れんさん……だいすきです……。れんさんのこと……もっと……。かんじて……いたいです……。
頭がふわふわしてきて、体もなんだか熱くなってきます。私もどうしていいのか分からないので、なにも考えられないくらいに夢中に、レンさんのことを求めました。ただただムギュっと抱き締めて、レンさんから溢れる優しい愛に私もできるかぎりたくさん応えます。……ただ、そんな幸せな時間にもすぐに終わりが来てしまいました。
レンさんから特異点の力が一度流れてくると、私のふわふわした感覚は少し落ち着き、レンさんも口を離してしまいます。
「……ユノ、今はこのくらいにしとこう。ユノの体のためにも、これ以上はやめておいた方がいい」
「……れんさん、……わかりました」
私はそう答えると、少し涙を拭ってレンさんのことを見つめてみました。ホントはもっともっとしていたかったのですけど、レンさんがとっても優しいので私も我慢できるのです。……それに、キスをしていなくてもこうしてギュッとしているだけで、たくさんレンさんを感じられて幸せです。
「……ふふっ、ずっとこうしてます」
そう言う私にレンさんが「……あー、ユノ?」と、少しだけ困った感じなので、私は首を横に振ってみました。




