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95話 その1

「……ちゃん! ――て!」

「……? ……りたさん……?」

「――なの?」


 ……ん……、なんでしょう。……リタさんだと……思います。

 私は眠いながらになんとか少しだけ目を開けてみました。すると、視界の中にぼんやりとですけど、リタさんの姿が映ります。


「……お姉ちゃん? まだぼーっとしてるの?」

「……りたさん、……もうおきました」

「ふふっ、おはよ~。でもまだ眠そうだね」


 そう言いながらリタさんがほっぺをむにむにしてくるので、私は目を擦りながら体を起こしてみました。


「……おはよ、ございます」


 ……リタさん、……わたしはぼーっとしてません……。

 そんなことを言いながら周りを見てみるのですけど、私の隣にはリタさんだけでなくニコニコなアヴィさんもいます。それに、オルさんたちは四人で一緒にムギュっとしながら布団に包まっています。でも、メアさんだけ眠そうです。


「――ちゃん? ……聞いてる?」

「……? 聞いてませんでした」

「ふふっ、お姉ちゃんらしいね~」


 そう言い、リタさんは私の頭を撫でてきます。私もそんなリタさんのことをギュッとしたり、アヴィさんのことを見つめてみたりしながら、そのままぼーっとしてみるのです。

 そしてしばらく経ったところで、ようやく頭が冴えてきた私は、昨日のことを思い出しました。

 ……えと、……そうでした。……昨日はとっても大切な感じの一日でしたけど、改めて考えてみると……リタさんや私は、魔族の王家の者なんですよね。……そしてこれから、おそらく私はマキア国でその役目や意味を知ることになるのだと思います。お母さんやレティシアさんの生まれた地でもありますし、アルスティナ帝国辺境のティレニア難民キャンプで育ったリタさんと私も、マキア国近郊ということもあってなんとなく近いものを感じます。そういうことからも、マキア国が私たち一族にとって深い関わりがあるのは確かなはずです。……思えば、今もなおマキア国のみが君主制ではなく共和制を執っているのも、私たち魔族との繋がりがあったりするからなのでしょうか? 魔族の王家を表す白髪が忌むべき存在とされていることからも、なにか繋がりを感じますね。……まあそれはそうと、アヴィさんがそう言ったお話に詳しいのは師匠から聞いたおかげなのでしょうけど、アリアさんが詳しいのはどうしてなのでしょう。なんでも知っていそうな感じでしたし、不思議です。

 そんな難しいことを考え始めてしまった私は、途中でやめるといい子なリタさんに話し掛けてみます。


「あの、リタさん?」

「なーに? お姉ちゃん」

「えとですね? ……実は今日からまた、私たちは大切な用事のためにここを出ることになります。帰って来れるのがいつになるのか分かりませんけど……、それまでリタさんにはまた待っててもらうことになります」


 そう悲しいことをお話してみたのですけど、リタさんは案外平気な感じでした。


「ふふっ、お姉ちゃん? 実はもうそのお話、私知ってるの! さっきパンドラが来てね? 少し長旅になるかもって教えてくれたの」

「……んと、そうなんですね。パンドラさんなのに優しいです」

「……? パンドラは優しいよ?」

「えと、そうでした……」


 パンドラさんはいつでもリタさんには優しいのです。……あれ? ……オルさんたちには……。

 そう思って四人の方を見てみると、オルさんはうとうとなメアさんのことを見つめていて、夜空さんとルアさんはオルさんのことを見つめていました。そんな姿からもなにかひどいことをされてはいないみたいなのですけど、私は一応聞いてみるのです。


「オルさん、夜空さん、ルアさん。パンドラさんにはなにかされませんでしたか?」

「マスター、撫でてもらいました」

「……そう。私も……」

「……我はギュッとしてもらいました」

「そうなんですね。メアさんはどうでしたか?」

「メアさんもたくさん撫でてもらいました」

「……喜んでた」

「そうですか。それなら良かったです」


 パンドラさんが私にだけひどいのはよく分かりませんけど、とりあえず私も安心しながら一度頷いておくのです。

 そしてそんなことをしていると、突然リタさんがなにかを思い出したように言いました。


「あ、お姉ちゃん! そういえば、パンドラが本を渡してって言ってたよ」

「……? 本ですか?」

「うん、オリビアからみたい」


 そう言うリタさんは、机の方を軽く見るのです。私も同じように見てみると、たしかに机の上に一冊の本が置かれています。

 ……なんの本でしょう。……でも、自由にしてくれた私にわざわざ本を渡してくれるということは、きっとなにか意味があるはずです。

 そう思いつつベッドから降りると、私は早速なにも書かれていない本を手に取ってみました。見た目も重さも特に変哲のない感じですけど、なぜか開こうとしてもまったく開けません。


「……?」

「主様! パンドラがオリビアからの伝言を持ってきてましたが、曰く『時が来たら開け。それまで開くことはない』とのことですよ!」

「そうなんですか」


 そう答えつつもなんとなく理を通して見てみるのですけど、どういうわけかまったくなにも分かりませんでした。

 ……えぇと、これはどういう力なのでしょう。……『時』と言うのも、いつのことなんでしょうか……?

 なんだか不思議な感じなのですけど、よく分からないのでアヴィさんに聞いてみることにします。


「アヴィさん、どんなことが書かれてると思いますか?」

「我にも分かりません! 我は使えない子です! ののしってください!」

「んと、大丈夫です。アヴィさんはとっても優しい子です」

「――!? えへへ、主様に褒めてもらえました!!」


 そう言い、アヴィさんが背中からギュッと抱き付いてくるので、私は本を仕舞ってからそのままなんとかリタさんの方を向きます。


「あの、リタさん? 朝ごはんを食べたら出ようと思うので、今日は一緒に作りましょうね」

「うん! お姉ちゃんが大好きなのたくさん作ってあげるね~」

「はい、お願いします。私もリタさんの好きな料理をたくさん作ってみます」

「ふふっ、お姉ちゃん優し~!」


 そう言ってくれるリタさんに微笑んでいると、アヴィさんも私に言ってきます。


「主様! 我はもうサクサクふわふわクロワッサンを焼いてあります! 楽しみにしててください!」

「そうなんですね。楽しみです」


 そんな感じのお話をしているとすぐにお腹が空いてきたので、私たちは早速ダイニングに向かうことにしました。

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