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94話 その5

 そして師匠の部屋に着いたあとは、また私がノックをする前にアヴィさんが扉を開けてしまいます。


「……あの、アヴィさん? ダメですよ?」

「あ、大丈夫です! 我はいい子ですからね!」


 そんなことを言うアヴィさんに手を引かれて、私はそのまま師匠の部屋に入ってしまいました。ただ、中にいる師匠は特に気にした様子がありません。……それと、部屋の中にはパンドラさんもいます。


「お前たち、なにか用か?」

「……えと、そうなんです。……実は今日、『天域の勇者』アリアさんにお会いしました。……そこで、白髪の者が魔族の王家であるということと、銀髪の者が魔族であるということをお話してもらいました。……それが本当なら、この世界から魔族が淘汰されたわけではないんですね?」

「いいや、淘汰はされたよ。だからそれには語弊がある。今現在この世界において、白髪の者のみが魔族であるとね」

「……? 銀髪の方はもう魔族ではないんですか?」

「お前は聞くだけでなく、一度自分の頭で考えてみろ」

「……はい、……分かりました」


 ムキーッとしてしまうアヴィさんを撫でつつ、私はもう一度考えてみるのです。ただ、それだけではなにも分からないままです。……でも、私のことを見てきながら目を輝かせるアヴィさんのおかげで、私は大切なことを思い出しました。

 ……あれ、……もしかして、……これは『偽りの歴史』のことなのでしょうか?

 私はアヴィさんのことを見つつ、その言葉を思い出していきます。


『『偽りの歴史』……その原点は、今からおよそ三千百年前にあります。まだ魔族と人類の戦争が続いていた時、その凄惨せいさんな戦争に終止符を打つべく、オリヴィエ=ロイヤルオード・アルカディアが全ての魔族をこの世界から淘汰したと、人類の歴史には刻まれています。ですが、本当は全てではなく、とある魔族の家系がこの世界に残ってしまいました。――その時に『淘汰』されるべきなのに、そうされることができなかった、囚われの家系です……。それは魔族にとって最も重要な家系で、代々運命魔法をぐ家系でした。……果ての時までオリヴィエ=ロイヤルオード・アルカディアが奇跡を願い、あらゆる力を尽くしても、ついに『淘汰』することが叶わなかった、……運命に縛られた家系なんです。そして今もなお、その家系は生き続けています――』


 ……これは、ここで言う『淘汰』とは、なにを意味するのでしょうか……? ただ殺害してしまうことではない気がします。……それに、師匠とアリアさんの言葉を重ねてみると、魔族であった銀髪の方が、『最強の勇者』によって『淘汰』されたことで、今は魔族ではなくなったと考えることができます。……それでも、師匠……オリヴィエさん自身は運命に縛られて、魔族であることをやめられなかったと、そういうことになりますよね……。アヴィさんはそれを、とても悲しいことだと思っているみたいですし、定められた運命によってその願いが叶わなかったのですから、……なんだか救われないお話です。


「……師匠、変なお話をしてごめんなさい。……私は明日から、マキア国に行ってきます。……そこでなにか、大切なことを掴めるはずです」

「それは好きにしろ。ただ、後悔のないようにね」


 突然師匠からそんな優しい言葉を掛けられてしまい、私はなんだか言葉の裏まで考えてしまいます。


「……師匠、……私は死ぬんですか?」


 そう聞く私に、師匠はなにも答えません。ですが、アヴィさんが代わりに答えてくれます。


「主様は死にませんよ! 我が傍にいるかぎりはですけどね!」

「……えと、それなら離れないでくださいね?」

「――やったぁ!! 我は主様のお気に入りです!! 離れません!!」

「はい、お願いします」


 そうお話していると、突然パンドラさんが不穏なことを言います。


「オリビア♪ 二人はどの道死ぬよ?」

「黙っていろ、パンドラ」

「は~い♪」


 ――? ……今のは、なんですか? ……二人と言うのは、アヴィさんと私のことですか?

 どうしてそんなことを言われないといけないのか分かりませんけど、アヴィさんを見てみても「大丈夫です! パンドラは終わってますからね!」と言って私のことを撫でてくるだけです。なので、私はしっかり聞いておきます。


「あの、師匠。ホントに私たちは死んでしまうんですか?」

「それはお前たち次第だよ」

「……そうですか。……分かりました」


 考えても仕方がないことな気がしてきたので、私はそう言うとさらに変なお話を聞かされないうちに部屋を出ることにしました。


「師匠、……パンドラさん、ありがとうございます。明日は朝出ますね」


 そう言うと、「主様? 早く行きますよ!」と言って腕を引っ張ってくるアヴィさんと一緒に、師匠の部屋を出ました。そしてリタさんの待つ私の部屋に戻ると、寝ている子たちを撫でてくれていたリタさんがほっぺを膨らませます。


「むー、お姉ちゃん、遅いよ~?」

「……えと、ごめんなさい。たくさんお話してました」

「そうなの? じゃあ早く寝ようね」

「はい、そうします」


 そう言い、私は可愛いリタさんの隣に横になりました。アヴィさんはリタさんの反対側に横になって私に抱き付いてきているので、頑張ってます。


「おやすみなさい。リタさん、アヴィさん」

「おやすみ~」

「おやすみなさい、主様!」


 そんな感じで返事をくれたので、私も安心して目を閉じました。

 ……今日は、とっても大きな一日でしたね。……シュベールのことはもちろんそうですけど、アリアさんから聞けたお話は、少し日付や時間が違えば聞けなかった可能性が十分にあります。……それにあの感じは、つぎ学長さんに会った時に私も戦うことになるかもしれないのです。今日が留守の日で本当に助かりました。……それと、師匠のお話は……残酷で悲しいです。私なんかが同情していいことではないのかもしれませんけど、それでもいつか師匠に幸せになってもらいたいです。

 そう思いつつも、なんだか眠くなってきたので、私はそのまま寝ることにしました。

 ……うぅ、……今日は体の崩壊が、自然に十二回も起きてしまいました。……もしかしたら、昨日あの不思議な理をナブーさん相手に使いすぎたからかもしれません。……使ってる時もずっと崩壊が起こり続けていましたし、きっとそうです……。でも、今更仕方ありませんね。どれだけ増えてもレンさんの力が守ってくれるので、それでいいのです……。レンさん、大好きです……。

 そんなことを考えながら、私はリタさんとアヴィさんにムギュっとされたまま、穏やかな眠りにつくのでした。

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