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94話 その2

 ……おおよその事情は分かりました。学長さんが魔法大会の時に私に真実を全てお話しなかったのは、自分が直接事件に関係していたからなんですね。……ただ、いずれ私が真相を調べると分かっていながらも、この方の記憶を消していないということは、それほどまでに私のことを脅威だとは捉えていないということになります。『無敵の勇者』と呼ばれる学長さんからしたらホントにそうなのだと思いますけど、……いつかそんな相手に足をすくわれる日が来るかもしれませんよ。……まあとにかく、学長さんとのお話は、なにがあっても避けることのできない道です。私を狙いながらも学院に通わせてくれたり、弟子に誘ってきたりとなにがしたいのかよく分かりませんけど……。

 そんなことを思いつつ、私は首相さんの今の記憶を消して、過去の罪について償うように命じてから、転移しました。……因みに、しっかり時間停止も解いておいたのです。

 そして次は、前軍部総督のリシャール・アントワーヌさんの元にきました。アントワーヌさんは大きな執務室に一人でいたのですけど、私が転移するなりすぐにこちらに気付いてきます。


「……これは驚いた。……白髪の娘よ。わしに、なにか用かね?」


 まったく動揺する様子もなく平然とそう言ってくるので、私はそのままお話することにしました。


「十二年前……。アルスティナ帝国、ティレニアの三番難民キャンプを襲った爆撃について教えてください」

「爆撃? 十二年前? それはもうかなり昔のことだ。儂も少し時間を掛けて思い出さねば――」


 そう言いながら服の内側に隠してある通信魔法具に魔力を流そうとしたので、私はこの方にも見えるように遮断の結界を張ってみます。


「無駄なことはしないでくださいね。助けを呼ばせるつもりも、逃がすつもりもありませんから」

「……ふむ、……なるほど。……となると、お前は儂が絡んでいると踏んでいるわけか。だがしかし、儂の潔白を示そうにも、今すぐその材料を提示することはできない。よって時間を要することになるが、お前はそれを待てるのかね?」

「いえ、そんなものは不要です。あなたが関係していることは既に分かっています。あなたを含めた関係者と、黒幕のこともです」

「……チッ、……口を滑らせたのはラトゥールだな?」

「そうかもしれませんね」

「――奴は死んだのか?」

「どうしてそれが気になるんですか?」

「そんなものは決まっていようが! 儂を売ったのだ。死なねばならんだろうが!」


 ……なんですか、この方は……。


「いいですか? あなたが今することは、事件についてお話することです。他のことは不要です」

「……まあ良い。では言わせてもらおう。儂はアイン・クロムウェル、かの勇者からその命を受けて、心から感謝した。お前のような虫ケラを殺せることの悦びを感じていたからだ。そしてその場で儂は愉悦し、息を詰まらせるほどに興奮し、絶頂した。……だがどうだ? お前は生きているではないか。……これではならんのだ! 部隊の消失はたしかに不可解だったが、作戦は滞りなく行われたと儂は聞いている。となれば、儂の忠実な部下共が儂を騙したというのか!?」

「そんなの知りません。あなたに作戦が失敗したことを伝えれば、その方々を殺害するからじゃないですか?」

「……お前、何を分かったような口を……!!」


 そう言った瞬間、アントワーヌさんは袖の内側からナイフを取り出して、なぜか自分の首を斬ろうとしました。よく分かりませんけど、自殺はさせません。


『《止まってください》』

「――ッ……!!」

「……どうして無駄なことをするんですか。……貴方を見ていて、もう一つ質問ができました。どうして前皇帝と前皇后は亡くなったと思いますか?」


 そう聞いてみると、突然アントワーヌさんは変な感じで笑い出しました。


「――カッカッカッカッ! そうか、よく気付いたな……。その二人は、儂が殺させた! あの夜は堪らんかったな……! だがしかし、儂の助言を聞かぬ奴らが悪い! 儂はこの国の安寧の為に、正義を貫いてやったのだ! クッカッカッ!」


 ……もういいです。……お父さんとお母さんの命を奪ったのが、最低な方々というのは分かりました。


『――《あなたは過去の罪を、全て償ってください。一切の贅沢を禁じます》』


 そう告げ、私はこの最悪な空間から移動しました。




 転移の理でヴァレンシア帝国に来た私は、上空を飛びながらため息をつきます。

 ……はあ。……ホントに、……最悪な気分です。……ただ、ラピスさんとのお話がなければ、私も気持ちを抑えられることなく、きっとあの方を殺害していました。……でもそれでは、……誰も幸せにはなりません。私の大切な方は、誰もそんなことを望んでいないのです。……あんなひどい方々のことは忘れて、私は前を向いて生きましょう――。

 私はそう頷くと、優しいレンさんのことを考えながら学院に向かいました。

 そして程なくして学院が見えてきたのですけど、建物を見るとどうしても懐かしさを覚えます。


「久しぶりですね……。やっぱり学院に通っていた頃とは、どこか違います……」


 見た目はなにも変わらないのですけど、なんとなく違う感じがするのです。今は朝なので、きっと一限目の授業を受けている時間だと思います。

 ……たしか、師匠の命令で学院に近付くのはダメなんでしたよね。……でも、それもお仕事の最中のことでしたし、そもそもその原因の学長さんに会いに行くのです。……危険なのは間違いありませんけど、行きましょう。

 私は気持ちを固め、さらにまた転移します。


『――《指定の場所へ》』


 そう告げて瞬間的に学長室の前に到着すると、私はいつでも戦えるようにしっかり理に集中してみました。そして、扉を開けて中に入ります。

 以前通った長い廊下を進んでいくと、奥にもう一つ扉が見えてきました。そしてそれは、私が近づくとひとりでに開き始めます。警戒しながらその扉を抜けると、視界の奥までずっと続く、鮮やかで美しい庭園が映りました。

 その少し奥には、あの時と同じように人影が見えます。ただ、今回は二人ではなく一人みたいです。

 ……学長さんは、いつでもこの庭園にいるんですか? それとも、私が来ると知っているから、ここに来たのでしょうか。

 そんなことを思いながら近付いてみると、私は一つの勘違いをしていたことに気が付きます。

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