94話 その1
……ふかふか……します。……? ……あれ?
なぜか柔らかい布団に包まれていたので、私は目を開けてみました。……するとなぜか、私は自分の部屋で寝ているのです。
「……主様、おはようございます! 気絶したというのに、気持ち良さそうに寝ていましたね!」
「……? ……そうなんですか」
……やっぱり、そうですよね。……私は昨日の夜、師匠の部屋で意識がなくなってしまったのでした。
「……アヴィさんがここまで運んでくれたんですか?」
「そうですよ! 可愛い主様を連れてきました!」
「……んと、ありがとうございます。……私、もう自由なんですね」
「――はい! 主様は自由です!! 我と恋愛を楽しんでもいいんですよ!?」
「……それは大丈夫です。アヴィさんは異性ではありませんし、家族です。私はレンさんのことが大好きです」
「そんなぁ……。我は家族でも同性でも大丈夫なのに……!」
「そうなんですね」
そう言いながらアヴィさんのことを撫でると、私はゆっくりと体を起こしてみました。なんだかいつも見ている空間収納魔法のお部屋と同じなのに、全然違う感じに見えます。……ただそれは良くて、私はベッドから降りると服を着ていくのです。
「アヴィさん? 私はこれから少し、用事を済ませてきますね。今日中に帰ってこれると思うので、それまでリタさんと一緒にお留守番しててください」
「――!? 我はいい子にしてますね!」
「はい、偉いです」
そう言っている間にアヴィさんが私に服を着させてくれたので、私も一度ギュッと抱き締めてから部屋を出ました。そして、そのままリタさんの部屋の前に転移します。
「リタさん、帰ってきました。ユノです」
そう言ってみると、中からばたばたと音が聞こえてすぐにドアが開きます。
「――お姉ちゃん!! おかえり~!」
「はい、ただいまです」
「ふふっ、可愛すぎ~!!」
元気なリタさんにほっぺをぷにぷにされたあとにムギュっと抱き締められると、私もリタさんのことを優しく抱き締め返しました。
「リタさん? 私、師匠からのお仕事が全て終わったんです。なので、もう自由なんです」
「――え!? すごいね! なら私とずっと一緒にいられるの?」
「……んと、それはまだ難しそうです。解決しないといけないことが他にもあるんです」
……まだ『神徒』の方々がいますし、きっとまた理想郷絡みのことで関わりがあるかもしれません。なので、それらが落ち着くまではリタさんを危険に晒すわけにはいきません。それに……。
「……そうだよね。……レンとは会えたの?」
「はい、一つ前のお仕事の時ですけど、一度だけ会えました。それに、また必ず会いに来てくれます」
「ふ~ん? こんなに可愛いお姉ちゃんを置いてなにしてるの?」
「……えと? レンさんにはまだやらないといけないことがあるみたいです。なので頑張ってます」
「なんだか分からないけど、お姉ちゃんが可愛いからいいや。……お姉ちゃんはこのあとどうするの?」
「……その、これから少し用事を済ませてきます。なので、リタさんはアヴィさんと一緒にお留守番しててくださいね」
「むー、お姉ちゃんはいつもそうなんだから! でもいいもん。私待ってるね」
「はい、リタさんはいい子です」
そう言ってリタさんの頭を撫でてみると、リタさんも嬉しそうに微笑んでくれました。私もそんなリタさんに微笑み返すと、名残惜しい気持ちを抑えて手を離すのです。
「リタさん、またねです」
「ふふっ、可愛いね~」
リタさんにそう言ってもらいながら、私は「リタさんの方が可愛いです」と言って、師匠の部屋の前に転移しました。そして扉に手を掛けようとするのですけど、少し思い止まります。
本当は師匠が教えてくれると言っていた力の極意について聞きに来たのですけど、その条件に私が師匠を驚かせるくらいに成長する、というものがありました。……きっと師匠の方から言って来ないということは、まだ私がそれほどまでに成長できていないということです。理世界の理を使えるようになっても運命の理はまだ扱えませんし、そう言うところにも原因があるのかもしれませんね……。
そんな風に考えた私は仕方なく一度頷くと、理の力で指定の場所に転移するのでした。
シュベール人民共和国に着いた私は、ぼーっと周りの景色を眺めてみます。初めて来る国だと言うのに、まったく嬉しい気持ちはありません。
……さて、調べることにしましょうか。……事件の真相を――。
『……《痕跡の理、リシャール・アントワーヌさんとテオ・ラトゥールさんを探します》』
そう命じた瞬間に、お二人の居場所が分かりました。私はまず、現首相のテオ・ラトゥールさんの元に行くことにします。
『……《転移です》』
瞬間的に私は首相さんの背後に移動したのですけど、今はちょうど議会かなにかの最中のようで、他にも大勢の方がいます。ただ、その方々が気付く前に、私は首相さん以外の方の時間を全て停止させました。
「――? ……これは?」
まだ私がいることに気付いていないみたいなので、私は無駄に相手はせずにただ命じます。
『《私の指示に従ってください》』
そう告げつつ、私も仕方なく首相さんの前に回ってみました。
「――!? なっ……、何者だ……!? 貴様は――!!」
「喋らないでください」
「――ッ……、っ……!?」
なんだか見ているだけで不快な感じですけど、ラピスさんとの約束があるので、私も気持ちを抑えてやることを済ませてしまいます。
「いいですか? あなたが知っている、十二年前のティレニア難民キャンプ爆撃の真相をお話してください」
「じゅ、十二年前……!? お、覚えていない!! 本当だ! なんのことを言っている……!?」
「混乱しているんですよね。もう一度しっかりと思い出してください」
そう言ってみると、首相さんは私のことを一度真剣に見たあと、すぐに後退りを始めました。
「……は、白髪……!? ――あッ! ――そ、そ、そうだ……! 思い出した!! わ、私はあ、あ、あん、アントワーヌに! そ、そうだ! 私はアントワーヌに乗せられたんだ!! 全てあの男が原因だ……!! は、はは、わ、分かったぞ……そうなん、だな……!? ――ははは!!」
笑いながら足を震わせて、死を恐れてなのか……涙を流しています。どうやら極度の恐怖を覚えているみたいです。
もうこれ以上この方とお話しても仕方がないので、私は半分ほど意識を曖昧にしてから、一つずつ質問していきます。
「《あなたは記憶の底に眠ることを覚えています》。爆撃を提案したのは誰ですか?」
「……全て、アイン・クロムウェルに……命令されました」
「――? どうして学長さん……アイン・クロムウェルさんに?」
「……あの男が、生きるか死ぬか選べと言ってきました。家族も皆殺しに、国民も全て焼き払うと言われ、僕たちは全員命令に従うしかなかったんです」
「……全員と言うのは誰ですか?」
「……今は亡き前皇帝皇后両陛下。そして僕と、アントワーヌ総督です」
「……そうですか」




