93話 その5
「アヴィさん、頑張りましょう」
「はい! 主様のことは絶対に死なせません!」
そう言ってくれるアヴィさんのことを見てみると、――その瞬間、……最低で最悪な呪いの気配が空間全体を包み込みました。できれば、二度と感じたくない気配です。
「これはこれは……、お待たせいたしました。ユノ様、アヴィ様……」
そう口にするナブーさんを見据え、アヴィさんは魔剣を傾けながら私に聞いてきます。
「主様、ナブーに聞いておくことはありますか?」
「……そうですね。質問したいことがあります」
そう言い、私はこちらを見て佇むナブーさんに話し掛けてみました。
「あの、ナブーさん。質問に答えてください。……『神徒』の方々は、時間魔法を使える私のことを狙っているんですよね? ……でも、私の師匠のように世界の理を扱える方なら、時間魔法を持たなくてもまったく同じ力を使えるんです。それなのに、どうして私なんですか? ……それとも、やっぱりアヴィさんの言うように、私はなにかの巻き添えを被っているだけなんですか?」
そう質問してみても、ナブーさんは「おやおや……」と不敵に微笑むだけです。なので、私はさらに踏み込んだ質問をしてみました。
「……私の中に眠っている、『世界の真理』と呼ばれるものが関係しているんですか?」
「んふふふふ……。それにお答えすることはできません。……ですが、ワタクシはアナタ様の敵ではございません」
「……そうですか。そんな言葉は信じられません」
そう答えると、この場に微妙な沈黙が流れます。ひとまず、私もそんなところでナブーさんのことを理で見極めてみたのですけど、やっぱり呪いの正体だけでなくなにも分かりませんでした。……つまり、理世界の理を以てしても、ナブーさんたちのような『神徒』の方のことはなにも掴めないのです。
「……もういいです。ナブーさん、あなたはなにしに来たんですか?」
「それは、アナタ様に敗北するためでございます」
「――?」
「では始めましょうか、んふふふふ……」
そんな声が響いた瞬間、突然私の目の前にナブーさんが迫ってきていました。そしてナブーさんの邪悪な爪のようなものをアヴィさんが魔剣で防いでくれていたのです。
「――主様! いきますよ!」
……んと、……そうですよね。頑張ります――。
私もしっかり戦いに集中すると、即座に理に命じながら魔剣を振り抜きます。
『――《この一撃は、必ずナブーさんの体を貫きます》』
そう告げながら放った一撃は、しっかりナブーさんに直撃して身に纏うローブを全て消し去りました。ただ、攻撃を当てることができただけで、異常な硬さの体を貫くことはできていません。
そしてその瞬間、ナブーさんの頭上に金と黒に輝く二重の『天輪』が出現しました。
――これは、……つまり、ナブーさんは本体ということですね……。
そんな思考をした瞬間には、私を置き去りにして一瞬でお二人が無数の攻撃の撃ち合いを始めているのです。夜空さんの覚醒のおかげで衝撃は受けないのですけど、そうでなければ周りの大地と同じように今頃体が消滅していました。
ただひとまず、このままではとてもお二人の速度に追い付ける感じではないので、私はアヴィさんに天剣奥義を使って、自分の体を飛躍的に超越させてみます。
『――天剣・律型《残》』
瞬間的に理解の及ばない力が全身を巡り、それによって私も少しは目で追えるようになりました。
『――《奇跡によって、ナブーさんは倒されます》』
一応動き出しながらそんな風に理の力を使ってみたのですけど、しっかり奇跡は起こったはずなのにまったく効いた感じはありません。それどころか、アヴィさんと激しく攻防を重ねながら笑っているのです。
「んふふふふ……。ワタクシにそのようなものは通りません、はい……」
私はそんな言葉を無視して理でナブーさんの背後に移動すると、夜空さんに魔力を込めながら剣を抜きました。そしてそれに合わせて、『《矛盾を起こし、不可能を超えた力を放ちます》』と告げるのです。
――刹那、莫大な力が溢れてナブーさんの体に魔剣が触れると、そのまま体を穿ち……とはいかず、触れる直前に邪悪な呪いを纏った爪で防がれてしまいます。ただ、その直後にアヴィさんがナブーさんを横に吹き飛ばしました。
「おやおや……。流石ですねぇ」
そんなことを言っているのですけど、ナブーさんは相変わらず無傷です。
「主様、ナブーには理世界の理すら通用しません! 傷を与えるには、それすら包含する力が必要です! 例えば、こんな風に――」
そう口にした瞬間、アヴィさんの魔剣が白く冷たい光を放ちました。
――瞬刻、認識できない速度でナブーさんの元に迫っていたアヴィさんが、ナブーさんの体を容易く引き裂きます。
「これはこれは……。中々愉快でございます、アヴィ様……」
そう口にするナブーさんは、瞬時にアヴィさんに反撃を繰り出しているのですけど、いつの間にかアヴィさんもそれを躱して私の隣に戻ってきていました。
「今みたいな要領で攻撃すれば、『神徒』も葬ることが可能です! 主様もやってみてください!」
「……? アヴィさん……」
「――なんですか!?」
……その、どうなんでしょう。……なんだか今、ナブーさん自身も避ける気がないように見えました。……それに今の反撃も、どこか手を抜いていたような……。
「主様、余計なことは考えないでくださいね! 今は目の前の敵に集中です!」
「そうでなければ、アナタ様の命はございません」
「――!?」
直後、一瞬にして私の目前に接近してきたナブーさんが、容赦なく攻撃を放ってきていました。私もそれをなんとか夜空さんとメアさんで防ぐのですけど、瞬間的に加速した攻撃を全て防ぎ切ることはできず、爪が僅かにお腹に掠ってしまいます。
――え?
どういうわけか、ナブーさんの攻撃は夜空さんの無敵を簡単に貫通して、私のお腹から下を全て弾き飛ばしていました。
「――げほ……っ……ぅ……?」
瞬間的に意識が遠のいてしまうので、私もギリギリのところで理に命じ、体を完治させます。……ただ、やっぱりナブーさんは、ゼレスさんやフォティニアさんのような『神徒』の方とは次元の違う強さみたいです。
……今の一撃、ナブーさんのさじ加減一つで私は即死していました。……ほんの少し強く攻撃を当てられていただけで、僅かに上に力が向くようにされていただけで、一瞬で死んでしまっています。
フォティニアさんの時は頭に攻撃を受けても夜空さんの力で守られていたのですけど、ナブーさんの攻撃は受けることすらできません。そもそもこの異常なまでの呪いの気配も、他の『神徒』の方と同じように一切気配を感じさせないようにもできるのに、あえて遊びで出しているだけな気がします。……呪いの気配自体も理で見極めることができないので、きっとそういう感じなのだと思います。




