93話 その3
「えと、この魔剣は擬人化してもいいんですか?」
そんな質問にはラピスさんも無言のままです。でも、ダメなら断ってくるはずなので、きっと大丈夫なのだと思います。
「……んと、それなら……あなたの名前は、『想刻剣ナイトメア・ロータス』です」
そう告げた瞬間、なぜか一瞬だけ私の意識はなくなった気がしたのです。……でも、特に何事もありませんし、よく分かりません。
「ユノ、話せる時間はこれで終わりだ。だから、最後に……一つ、伝えておくことがある。……お前は――――――。制約か……」
「……いえ、ラピスさん。大丈夫です。ラピスさんの想いは伝わってきました。……ラピスさんが最後に私に言ってくれることなら、一つだけです。……お父さんとお母さんを殺害した方々への、復讐をやめろということですよね。……その決断が、必ず私の身を滅ぼすと……、だからやめるべきなんですよね」
そこで言葉を止めると、私はラピスさんのことをギュッと抱き締めます。
「……大丈夫です、ラピスさん。私はあなたの想いを無駄にはしません。……それに、レンさんの望む平和な世界に、復讐なんてものはあってはいけないんです。レンさんの隣にいたい私が、そんなことをしていたら、きっと嫌われてしまいます。……だから、大丈夫です」
そう言う私の背中を、ラピスさんは優しくさすってくれるのです。
「ユノ、お前は強く成長した……。私はこれからも、お前を見守り続けている――」
「――ラピスさん……」
そんな私の言葉は虚空に響き、ラピスさんは一瞬にして消えてしまいました。……でも、それでもラピスさんの優しさは私の胸に溢れています。
「……ラピスさん、ありがとうございます。……きっと、数多の時間を過ごしたラピスさんにとって、この魔剣を私が初めて受け取れたというのは、信じられないような奇跡なのだと思います。……これ以上、ラピスさんに悲しい想いはさせません。私のことを信じてくれるラピスさんのためにも、私も全力でその想いに応えてみせます!」
そうお話すると、私は静かに魔剣を抱き締めてから、お部屋に向かって歩き出しました。
魔剣の構造はなにも見えず、そもそも魔剣……魔法で作られた剣と定義することはできない物なのかもしれませんけど、それでもなぜか、物質生成魔法を組み込む場所だけは空いているのです。
……これは、ラピスさんが擬人化できるように残しておいてくれた……ということですよね。……ふふっ、優しいです。
私は少し微笑んでしまいながらも、しっかりと理を操作して『想刻剣ナイトメア・ロータス』に魔法を組み込んでおきました。
そして空間収納魔法の部屋の中に戻ると、楽しそうにアヴィさんのお話を聞いている三人に声を掛けてみます。
「あの、見てください。新しい魔剣です」
そんなことを言ってみると、いい子なアヴィさんもお話を中断してくれました。
「マスターの藍色の魔剣です」
「……綺麗。キラキラしてる……」
「すごいです。不思議です」
三人も興味津々みたいで、すぐにベッドから降りてとてとてと近付いてきます。そんな子たちを撫でながら、一度私はベッドに腰を下ろしてみるのです。
「主様、ラピスから魔剣をもらえたんですね!」
「はい、そうなんです。『想刻剣ナイトメア・ロータス』と言います」
「そうなんですね! 我は擬人化が楽しみです!!」
アヴィさんも嬉しそうにそう言ってくれるので、私はそれに頷きつつ、じっと見つめてくるオルさんたちにも言っておきます。
「えと、この子の呼び名は『想刻剣ナイトメア・ロータス』なので……メアさんでいいですか?」
「はい、メアさんです」
「……メア。可愛い……」
「メアです」
そんな感じですぐに気に入ってくれたみたいで、三人は『想刻剣ナイトメア・ロータス』の剣身を撫でてくれるのです。ただ、まだ擬人化をできる状態ではないので、私は最後の工程に入りました。……これもラピスさんができるようにしてくれていました。良かったです。
『……《私の意思の通りに変更です》』
そう告げた瞬間に魔剣の擬人化が完了して、剣から眩い光が放たれます。その次の瞬間には、私たちの前に一人の女の子が立っていました。
ラピスさんと同じ藍色の髪をしていて、深い蒼の瞳をしています。
「メアさん、私はユノです。どこか変なところはありませんか?」
「……? わたしはますたーの魔剣?」
「はい、そうです」
そう言うと、メアさんは首を傾げつつも私の元に来てくれます。そしてそんなメアさんに、オルさんたちも挨拶をしてくれるのです。
「メアさん、私はオルです。お姉ちゃんです」
「……私は夜空。……ルアとメアのお姉ちゃん」
「……私はルアです。メアと一緒です」
「……? おるとよぞらとるあと、わたしも一緒?」
「そうです。メアさんはいい子です」
「……撫でてあげる」
お二人がそう言って優しく撫でてあげると、メアさんは嬉しそうに微笑みました。ルアさんもメアさんのことを撫でてくれるのですけど、少しして私に寄りかかってきます。
「ふふっ、メアさんも来てください。二人の末っ子さんです」
そう言ってみると、メアさんもちょこんと私の隣に座ってムギュっとしてきました。とってもいい子なので、私もたくさん抱き締めてみます。
「メアさん、なにか困ったことがあったらお話してくださいね。私たちの誰もがメアさんの味方です」
「はい、メアさんを守ります」
「……私も守る」
「……我も頑張ります」
「オルさんも夜空さんもルアさんも、偉いですね。とっても優しい子です」
そんな風にお話していると、メアさんもこくっと頷いてくれました。
「わたし、みんなと一緒にいる」
そう嬉しそうに言うメアさんを見て、オルさんたち三人も微笑んでくれます。
「――えへへ! メア様も可愛すぎますね!! 主様、見てください! このアホ毛の大きさを! オル様と同じくらいの大きさです!!」
「えと、そうですね?」
「はい! 我の予想では、メア様はかなり……相当なポンコツな子です!」
アヴィさんがそんなひどいことを言ってしまうので私が首を横に振っていると、四人はよく分かっていなさそうな感じで首を傾げています。ただ、それを見て元気なアヴィさんが一人ずつたくさん抱き締め始めるのです。
「なんてもちもちなんですか! 全部我のです!! 最高すぎます!!」
そう言ってたくさんほっぺを擦り合わせるアヴィさんですけど、オルさんと夜空さんとルアさんはいつもされているので、特に驚いた感じではありません。ですが、メアさんはまだ初めてなのでいきなりは……そう思っていたのですけど、少しぼーっとしながらアヴィさんのことを眺めると、撫でられ始めてすぐに満足した感じになりました。




