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93話 その2

 それから一時間ほどアヴィさんとギュッとしながら過ごしていたのですけど、気付いた時にはなぜか私のお腹から太ももに掛けて水浸しになっているのです。


「……アヴィさん、たくさん濡れてます」

「えへへ、主様が可愛すぎたからです!!」

「どういうことですか?」

「我が主様でたくさん気持ち良くなったということです!」

「……? そうなんですね」


 私がそう答えると、アヴィさんも水を消して私のことを撫でてきます。


「こんなに愛しい主様を水浸しにするのがレンだと思うと、我は悲しいです!」

「……? どうしてレンさんが私のことを水浸しにするんですか?」


 そう聞いてみたのですけど、アヴィさんは「――最高です!!」と言ったままで答えてくれませんでした。私はそんなアヴィさんに首を横に振ったりしつつ、思い出したことがあるので聞いてみます。


「あの、アヴィさん。昨日の夜はナブーさんは来なかったんですね?」

「はい! 来ませんでした! まあ来るなら今日か明日でしょうね!」

「……そうですよね」


 ナブーさんの到来から今日で九日目ですし、アヴィさん予想では十日以内ということでした。なので、望んでいなくてもあちらから来るはずです。


「んと、もうそろそろごはんを食べましょう。いい感じにします」

「分かりました! 食べて備えるということですね!」


 そう言うアヴィさんに頷いてみると、アヴィさんも体を起こしてすやすやな三人のことを撫で始めました。すると、三人はすぐに目を覚ますのです。


「……おき……ました」

「……あさ……?」

「……?」


 ルアさんはまだ少し夢の中なのかもしれませんけど、オルさんと夜空さんは頑張って体を起こそうとして、横にぽふっと倒れてしまいます。でも、ふかふかがあるので大丈夫です。


「オルさん、夜空さん。無理しないで大丈夫です。朝ごはんはまだ掛かるので、ゆっくりしててください」

「……そう……します」


 オルさんはなんとかそう答えてくれるのですけど、夜空さんは少し不思議そうにしながら「……ふかふかする?」と言って布団を掴みました。なので私も、しっかり体を起こしてからお二人のことを撫でてみます。


「そうですね。布団はふかふかです」


 そんな言葉になんとなく納得してくれたお二人は、何度か目を擦ったりしてから体を起こして、私にムギュっと抱き付いてきました。そんなお二人のことをアヴィさんも撫でてくれるので、私も微笑んでみるのです。

 そしてそんなことをしていると、ルアさんも少しずつ目を覚ましてくれました。そして布団をキュッとしながら私たちのことを見つめてくるので、それに気付いたオルさんと夜空さんが早速ルアさんの元に近付いて撫で始めます。


「ルアさんはいい子です。すやすやでした」

「……そう。いい子で寝てた……」

「……われも……がんばりました」


 ルアさんもしっかりそう答えると、お二人にお手伝いしてもらいながら体を起こします。そして私のことをじっと見つめてくるので、私もオルさんと夜空さんと一緒にルアさんのことを撫でてみるのです。


「ルアさん、おはようございます。朝ごはんはまだなので、もう少しまったりしていましょうね」

「そうですよ! なら我は料理を始めてきますね! 主様たちは待っててください!」

「分かりました。待ってます」

「……私も」

「……たくさん食べます」

「ふふっ、楽しみですね」


 そうお話する私たちにアヴィさんはキスをしてくると、嬉しそうにキッチンのお部屋に入っていきました。私たちもそんなアヴィさんを見送ってみたのですけど、結局それから少しして料理のお手伝いをするということで、同じようにキッチンのお部屋に入ってみるのでした。







 アヴィさんの作ってくれたお菓子を食べていてあまりお手伝いをしなかった私たちですけど、それでも少しだけお手伝いをできたのでアヴィさんに褒めてもらえました。

 そうして美味しい朝ごはんを食べ終えたあとは、ベッドに座りながら本を読んでいました。オルさんたちはアヴィさんにお話を聞かせてもらっていて、とっても喜んでいます。

 ただそんな時、思いもよらない出来事が起こりました。

 ――? 今、誰か来ましたね……。

 突然空間収納魔法の外に、認識できない不思議ななにかが現れたのです。でも、アヴィさんは特に警戒することなく私に言ってきます。


「主様、外に出てみてください! 我はここで待ってますね!」

「……んと、分かりました」


 よく分からないながらにとりあえずそう答えると、私は少しだけ様子を窺いながらドアを開けて外に出てみました。すると、私の視界に一人の女性が映るのです。


「――ラピスさん!」


 思わずそう声を上げてしまうのですけど、車椅子に座った女性は、静かに私のことを見てきます。


「――あの、私……ラピスさんにはお話したいことがたくさんあるんです」


 そう言いつつ、私はラピスさんの元に近寄りました。こうして実際にお会いできたのは、もう四ヶ月以上も前のことです。


「ラピスさんが学院から退学したことはアムネシアさんから聞きました。なにか事情があったんですね?」


 そんなことを言ってみるのですけど、ラピスさんはそれには反応せずに、口を開きました。


「……ユノ、今はあまり時間がない。だから要件だけ伝えよう」

「……そう、ですか……」


 露骨に肩を落としてしまう私ですけど、ラピスさんはそんな私の瞳を真っ直ぐに見つめてきて、「そう落ち込むことはない」と励ましてくれます。

 そして突然、目の前に一つの魔剣を出しました。


「ユノ、今回のお前でなければ……、もはや達成など不可能だろう。……これは本来、お前に渡すことを許されていない魔剣だ。それをこうして、……私も初めてユノに渡すことができる」


 そう言うラピスさんは、優しく私の腕に手を添えて、藍色の美しい魔剣を握らせてくれます。


「……これは、ラピスさんが作ってくれたんですか?」

「そうだ。こうしてお前に渡すことを、どれほど――――――。……制約のようだ」

「……そうですか」


 変なところで言葉は終わってしまったのですけど、ラピスさんの想いはしっかり伝わってきました。それに、この美しい魔剣が帯びる透明の幻想的な光は、その一つ一つから……とてもとても優しい、数々の想いと輝きを感じさせてくれます。

 私はラピスさんの瞳をしっかり見つめると、魔剣を胸にお礼を言いました。


「……ラピスさん、とっても大切にしますね。ありがとうございます」

「……お前なら、その魔剣を正しく使えると信じている。……魔剣の名は、『想刻そうこく剣ナイトメア・ロータス』。……私の想いは、お前に託した――」

「……その、分かりました。……私もラピスさんの願いを果たせるように、頑張ります。これは約束です」


 そう言う私に、ラピスさんは静かに一度頷いてくれました。そして私は、そんなラピスさんを見つめつつ、一つ質問してみるのです。

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