Envy (嫉妬)
Envy 5
モートはあの首を狩っても生きている猿の頭の人間を疑問に思っていた。他は黒い魂の人間だった。最初は猿はグリモワールからの召喚だと思った。けれども、近くにはグリモワールの本がない。本を使う者もいない。そして、確実に自分だけを集中して狙っていた。
猿は殺傷力の強い大剣と、銀の大鎌でも壊せないほどの優れた盾。そして頑丈なフルプレートメイルにそれぞれ身を包んでいた。
黒い魂の人間は全てトンプソンマシンガンなどの銃を所持していた。
それに、猿は首を狩ることが困難だった。ほとんど中世の戦士級の強さなのだ。
残りのグリモワールは、後は怠惰、憤怒、傲慢、嫉妬の四つだが、何者かが、やはりあの猿の召喚に、その中のどれかを使ったのだとモートは考えることにした。
この自分を狙う猿の大軍の動機は?
何故か相手が切羽詰っている感じだった。
それは怒りからか?
襲ってくる黒い魂の人間の誰か一人に、しっかりと聞いてみないといけないのだろうか?
オーゼムはジョンの屋敷だ。
モートはアリスと一旦別れることにした。
真っ白な雪が敷き詰められたここホワイトシティの全ての道路を、真っ赤な絨毯に変えるほどの大量の狩りの時間。収穫祭のような祭りが迫ってきたかのようで、モートは上機嫌に微笑んだ。
レストラン「ビルド」からアイスバーンの大通りへとモートは向かった。アリスは裏口から「グレード・キャリオン」に向かっているはずだった。ここホワイト・シティでも珍しい血も凍結するかのような凍った日だった。
…………
今は午後の20時頃。
モートは身体中が血塗れになりながらも、大通りからヒルズタウンまで猿の軍勢の狩りをし続けていた。
あれから4時間が経過していた。
すでに黒い魂の人間は全て狩り終えた。
真っ白だった道路は今は見る影もない。
ホワイト・シティの道路が血の川になるまで鮮血が流れる頃には、天空の仄暗い空に白い満月が浮かんだ。
真夜中に死が舞い落ちる。
やっと最後の猿の軍勢の一匹を狩ると、モートはヒルズタウンへと急いだ。
モートがヒルズタウンにたどり着くまでには、残りのモートの狩り場以外の猿の軍勢はもはやヒルズタウン全体を襲うかのような勢いになっていた。
すでに街の人々は次々と斬り殺されていた。建物が蹂躙され、逃げ惑う人々の悲鳴や怒号が聞こえる只中。ヒルズタウンの一角にある猿の大軍の総司令部のような位置にモートは走った。逃げ惑う人々や建物を通り過ぎ。そのど真ん中に飛び込んだ。
すぐさま大勢の猿の剣戟がモートを襲う。幾重もの剣を寸でで躱しながら、モートは猿の首を狩り続けた。
盾や剣。そして銀の大鎌からの火花が飛び交う。
だが、モートの真の狙いは猿の胸部。
心臓だった。
猿の首を刈り取ると次は胸を狙い銀の大鎌で、胸部にでかい大穴を空けた。猿の軍勢は一匹、一匹と激しく血を吹いて、内臓を口から吐き出し倒れだす。しばらくして、モートが狩り続けていると猿の大軍が劣勢となりだした。
おびただしい鮮血と濁った血が真っ白な地面に飛び散る。
どれだけ時が経ったのか、モート自身は気にも留めなかった。
猿の軍勢が全滅すると、モートは次に隣のジョン・ムーアの屋敷へと向かった。
Envy 6
「あ、私はここで。出会うわけにはいきませんので……」
オーゼムはそう言うと、奥の部屋へと身を隠した。
「ちょっと……。オーゼムさん?」
ヘレンはロウソクの明かりで、姿が奥の部屋へと消えたオーゼムの方を照らした。仄かな明かりで見える奥の部屋の壁には、やはり絶滅種の剥製がズラリと並んであった。
なんだかひどく不気味に思えてしまい。またヘレンは心細くなって、オーゼムの名を呼んだ。シンと静まり返った部屋からオーゼムの感激の声が上がった。
「おお! これは高そうですね! 一体いくらになるのでしょう!?」
ヘレンはオーゼムのことを諦めてその場から離れた。
ヘレンは数十分前に勇気を出して、再度ジョンとの面会を大部屋へと入って来た女中頭に告げたのだった。ヘレンのための野菜や肉の盛られた食器を持った女中頭はまったく無表情だったが、あっさりと頷いてくれた。だが、ヘレンが元気を取り戻していることにも何も反応を示さなかった。
今は何時だろうか?
ヘレンは考えた。
ここへ来てからは、時間を知らなかった。
腕時計は持っていない。
腕時計を持つこと自体。のんびりとしたヒルズタウンでは珍しいのだ。
部屋の中央からの呼び声に応え、ヘレンは大部屋に足を踏み入れた。
数人の女中に連れられ再び現れたジョンの顔には、憂いが感じ取られたが……。
何かがズレている。
ジョンは薄ら笑いを浮かべていたのだ。
ヘレンはそのジョンの不気味な笑みに戦慄を覚えた。
Envy 7
モートはジョンの屋敷の外観を眺めていた。
白い月の明かりによって僅かに照らされる。薄暗い針葉樹の間に挟まる青煉瓦の屋敷は、部屋の数こそ多いが、全体的にこじんまりとした印象の屋敷だった。




