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Envy (嫉妬)

「絶滅した鳥は、どこに載っていましたか?」

「どこに?」

「ええ……。七冊あったんですよね。その中で……どこに?」

「……七冊……」

 

 ヘレンは革張りの椅子から身を乗り出し、青い炎の暖炉の傍で耳を疑って青ざめた。

 目の前には、以前会った時よりも更に痩せこけたジョンがいた。

 女中など使用人も全員が痩せこけていて、健康的なものは一人もいない。ここジョン・ムーアの屋敷にヘレンは結局一人で訪れた。

 嫌な奇妙な感覚をまたしても感じ。ヘレンは青い炎の暖炉に時々目をやりながら、必死に考えた。

 大きな窓の外はビュウビュウと風が唸る吹雪だった。

 ヘレンはノブレス・オブリージュ美術館からこの吹雪の中。エンストを十回も起こす路面バスで遥々来たのだ。

 居ても立っても居られなかった。

 オーゼムも一人でモートのいるウエストタウン行きのバスに乗り出し、自分はどうしようかと思った矢先の電話だった。


 それはアーネストからの電話だった。


「やあ。今、君にとっても嬉しい知らせが入ったんだ。ジョンの使いの者からの良い知らせだ。本を返すと言っている。本が図書館に戻って来るんだ。ただ、残念だが何冊か欠けているそうだ」


 Envy 2


 聖パッセンジャービジョン大学の広い講堂ではアリスもシンクレアも白い息を吐いていた。暖房は今は故障中だった。度々故障してしまうストーブは、年代もので、アリスにはこの大学の創立以来あるのではと思えてしまう。

 アリスはノートを書き込みながら昨日にオーゼムとの賭けで儲けた大金を、どうしようかと考えていた。

 隣のシンクレアが見かねてある提案をした。

 窓際から寒さが本格的に伝わる講堂には、同じ単位を受けるはずのモートの姿はなかった。

「ねえ、それならいいでしょう?」

 シンクレアは感極まってアリスの耳元で声を弾ませた。

「ええ。でも……」

 アリスはシンクレアの嬉しい提案にも少し考え込みだした。シンクレアの提案したアリスとモートの二度目のデートは、とても魅力的なのはわかるが、元はオーゼムという天使のお金だ。遊びに使っていいのかは、アリスにはわからなかった。

 教授がカリカリと難解な数式を書いているのをごまかすかのように見ながら、アリスはヘレンに相談してみようかと頭の片隅で考えた。

 次の日は祝日だった。

 奇跡的に晴れとなったホワイト・シティで、アリスは少し早めに起きて一人でノブレス・オブリージュ美術館へと路面バスで向かった。


 アリスの二度目のデートに使用人の老婆は大喜びだったが、まだデートの約束は決まっていない。本当にデートができるかわからない。と不安を言うと、老婆は先を見越しているかのように、満足そうに頷いていた。

 結局、アリスはモートと二度目のデートをすることにした。

 奇跡的にエンストを一回だけしかしなかった。8時35分着のノブレス・オブリージュ美術館行きのバスが停留所に着くと、アリスは除雪車の行き交う横断歩道を渡り、さっそく高価なチケットを一枚買った。

 様々な美術品を観ながら館内のモートを探し回ること一時間。モートは館内の広々としたサロンの一角にある質素な椅子に座っていた。まるで、いつもそこに座っているかのような妙に座り慣れた感があった。モートはデートの誘いに対して少し考えているようだったが、首を縦に振ってくれた。

「今は黒い魂も見当たらないし、何もないから、たまにはアリスの声を聞きたい」

 そう言って、アリスはモートと早速、クリフタウンのレストラン「ビルド」へ路面バスで向かうことにした。この前の昼食で、モートはここホワイト・シティで評判な羊肉のソテーを食べ損なったので、アリスは気を回したのだ。

アリスは「ビルド」前にあるバスの停留所まで、クリフタウン行きの10時15分発の路面バスを使った。

「ビルド」はアリスにとって、病弱だった頃に通い詰めていた病院で、大切な生きるための喜びを食べ物で与え続けてくれた。いわば恩のあるレストランだった。

 病院の昼食の時間になると、アリスはしばしば抜け出しては「ビルド」へと通っていた。


「あ! そういえばヘレンさんは?!」


 不意に気が付いたことが、そのまま声に出ていた。アリスはヘレンに一昨日にノブレス・オブリージュ美術館で出会ったきりだった。オーゼムと大金の賭けをし、それからヘレンはどこかへと一人でふらりと行ってしまったのだ。記憶を辿ると、電話が掛かってきて、確か古代図書館のアーネストからの電話で……。それから……。

 アリスはバス内で急に不安になりだし、隣に座っているモートに聞いてみた。

「あの。モート……。ヘレンさんは一昨日、一人でジョン・ムーアという人に会いに行ったのです。それからヘレンさんは帰って来たのでしょうか?」

 それを聞いて、モートは抑揚のない声を発した。鼻をポリポリと掻いているが、決して関心がないわけではく。ヘレンは安全だという感じだった。

「ああ。ヘレンのところには、正確にはジョン・ムーアの屋敷へはオーゼムが行ったから……安心していいよ。後、オーゼムがヘレンに聞いてくれるはずだ。何かがわかるだろう……ヘレンから頼まれたあの絵画を探すことは、ぼくは聞きそびれたし、何故、ヘレンがジョン・ムーアにこだわることとかも……とにかくヘレンは心配ないよ」

 路面バスは何度もエンストを起こしながら、クリフタウンへ向かった。急に灰空の空は厚い雲が覆い。粉雪が降り出した。


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